『 シミトラの孤児 』 あらすじ



■書名 : シミトラの孤児(「少年少女新世界文学全集21」収録)
■著者 : ボンゾン
■訳者 : 那須辰造
■定価 : 420円
■出版社 : 講談社
■ISBN : -
■初版発行日 : S39.03.18
■購入版発行 : S39.03.18 ( 初版 )
 
■購入日 : 2007/12/24 (注)未購入、図書館利用






−序文「シミトラの孤児について」より抜粋−


シミトラというのは、ギリシアの国の、あるまずしい村です。

主人公のポルフィラスとその妹は、この村のひどくまずしい家の子です。

そして孤児になってオランダへおくられるのですが、

妹はかなしさのあまり家出をしてしまいます。

ポルフィラスは妹をさがして冒険旅行をし、フランスへいきます。

子どもながらも、じぶんの力で働き、世の中のきびしさとたたかいつづけます。

そして、ついに妹とめぐりあうのです。




1 少年のゆめ
ポルフィラスは12歳。ギリシア在住だが、ギリシアの大地はとてもやせており、ポルフィラスの一家もやせたヤギと一軒の小屋、もう実のならない古いオリーブの木があるだけの貧しい生活をしていた。ポルフィラスの父はクリストフォールといい、彼は貧しい生活を打破すべく、小屋をガソリンスタンドにすると言い出した。そして小屋に「大サービスステーション」と書いて2年前から車の修理屋を始めた。給油ポンプがなかったので、ガソリンは提供できなかった。

だいぶ前に、ポルフィラスはヤニーナの町(大きな町ではないが交通は激しい)のガソリンスタンドで、赤い服を着たサービスボーイが車にガソリンを入れる光景を見て、自分も赤いユニホームを着てガソリンスタンドで働く夢を持った。しかし、父親はせいぜいパンクの修理しかできず、その修理代ではどれだけ経ってもガソリンスタンドを開業するなど無理だった。さらに悪いことに大きなダンプカーが来て、とうとう道路の修繕(アスファルトで固める)が始まった。そうしたらパンクなどしなくなり、ますます赤いユニホームが遠ざかる。ポルフィラスはあふれる涙を拭った。

2 ひみつ
ポルフィラスにはマリーナという10歳になる妹がいた。みんなにはミーナと呼ばれていた。少女らしくなり始めた顔、髪は真っ黒で、頭の真ん中で二つに分けていた。ポルフィラスはミーナをとても愛していた。ミーナは優しくてとても可愛かった。二人の間にはなんの秘密もなく、一度もケンカなどしたこともない。ポルフィラスはどんなことでもミーナに話し、ミーナはそれを誰にも言わなかった。

ミーナの方でも、にいちゃん(ポルフィラス)をとても尊敬していた。年上だし、強いし、木登りが上手。にいちゃんから赤いユニホームの話を聞かされたときは、「にいちゃんは、なんてすばらしいのだろう」と感心した。赤いユニホーム姿で働くにいちゃんの前では、ゼウスの神様ですらみすぼらしく見えるのだった。ミーナ、カワユス♪

ある日、そんなにいちゃんがすごいことを言い出した。道にまく釘を買うから金をくれと言うのだ。えー。ミーナは乗り気ではなかったが、他ならぬにいちゃんの頼みなので、貯金箱を持ってきてわずかな貯金をすべてにいちゃんにあげてしまった。にいちゃんは市場へ行って400本の釘を仕入れてきた。これで400回のパンクが起き、とうさんのポケットにお金がしこたま転がり込んで来るに違いない!

夏の夜は暑いので、ポルフィラスとミーナは外で並んで藁布団を敷いて寝る。ハァハァ。ポルフィラスは釘をまいた話をしたが、ミーナは悲しそうなため息をつくばかりだった。その夜はちっとも眠れず、車の音がするたびに胸がざわめき、とうとうたまらなくなって起きて釘の回収に出かけた。そしてその最中に車がやってきて、ポルフィラスは(撥ねられたのだか避けた拍子かはよく読み取れないが)ばったり倒れ、砂利の上を転がって止まった。

3 一歩前進
ポルフィラスが事故に遭った車にはテッサリアの金持ちの商人が乗っており、ポルフィラスの一家はたっぷりと賠償金をもらった。ポルフィラスは丸ひと月ギブスをつけていたが、今ではけろりとしていた。「すぎてしまったことは、さっさとわすれてしまえばいい。いいことだけを、おぼえてればいい。ポルフィラスはそういう性質なのだ」(本文より)

10月。クリストフォールはその金で給油ポンプを買うと言った。ポルフィラスは赤いユニホームを欲しがり、クリストフォールは渋ったが、とうとう説得に成功した。ポルフィラスは母親とミーナとともに村の仕立屋へ行き、一週間後に赤いユニホームが完成した。

4 ふしぎな声
村の人たちとともに池(ガソリンを入れておくタンク)を掘り始めた。ポルフィラスはそれを手伝いながらおおはしゃぎで、ミーナはいつもそんなにいちゃんのそばにいた。萌え。ある夕方、ポルフィラスが村から帰る途中、声が聞こえた。「ポルフィラス、おまえは幸福だ。世界でいちばんうつくしい空の下でくらしているんだ。しかし、幸福はながくつづかないよ、ポルフィラス・・・ながくはつづかないよ・・・ながくは・・・ながくは・・・。」

それは男の声でも女の声でも動物の声でもなく、遠くからも近くからも聞こえた。帰ってミーナにその話をすると、ミーナもツバメがなかなか巣に戻らずに飛び回り、ようやく巣に戻るとすぐに飛び出してそのまま戻らなかった話をした。夜、二人は今では兄のコンスタンチンとともに物置部屋で寝ていたが(夏は外で寝ていた)、突然物音がして目を覚ました。壁にかけてあった額が落ちたのだった。

5 ?
とうとうポンプが送られてくることになり、クリストフォールとポルフィラスはセメントが固まったかを見るために、池にしてあった蓋の板を取りのけた。すると、池の一方の壁に長いひびが出来ていた。ポルフィラスはクリストフォールに言われてシミトラのセメント職人のもとへ行くことになった。

その帰り、突然大地が揺れた。とにかくすごい地震の描写の後、やがて地震は収まった。ミーナは? ミーナが心配しているに違いない! ポルフィラスは動悸や眩暈を堪えて我が家の方へ歩き出した。振り向くとシミトラの方で黒い煙が立ち上っており、周囲は静寂に包まれていた。ポルフィラスは駆け出した。高い場所に登って見ると、自分の家もパタゴス大サービスステーションも崩れて、白いほこりが煙のように立ち上っていた。ポルフィラスは叫び声を上げた後、気が狂ったようにその場から逃げ出した。

6 地震のあと
ポルフィラスはティミザ(シミトラから15キロほど離れたところにある町)のテントで目を覚ました。地震の被害は大きく、ティミザもフィラスもマリッサもひどくやられ、シミトラは特にひどく、残った家は十軒もなかった。ポルフィラスはしばらく憔悴と混乱の中にあったが、やがて自分がシミトラの村の人間であることを看護婦に伝え、救援のトラックで村まで送ってもらうことになった。

シミトラにも同じように灰色のテントが集まっていた。ポルフィラスはそこで妹の他に家族は全員死んでしまったことを告げられる。しかしミーナは無事であることを知り、ポルフィラスは喜んだ。ミーナは顔をすっかり包帯で包まれていて、声を聞かなければミーナとはわからない有様だった。テラカワイソス。ポルフィラスはすすり泣きながらミーナを抱きしめ、ミーナも泣いた。うわーん。

7 孤児になって
ポルフィラスとミーナはテッサリアのリッシラの孤児の収容所に保護されていた。男女の棟は別だったが、男の子の棟だけで、全部で300人も保護されており、彼らは自分たちを引き取ってくれる人が現れるのを待っていた。ポルフィラスはそこで13歳くらいのティミザの少年ザイミスと友達になり、彼を好きになった(別に性的な意味ではない)。

孤児になって、ポルフィラスはますますミーナを愛し、ミーナの方でもにいちゃんを愛していた。美しい。ようやく顔の包帯が取れた日、ミーナはポルフィラスに「出発」の話をする。ポルフィラスはその時初めて知ったのだが、4、5日後にこの兄妹は別々の場所に引き取られることになったのだ。ポルフィラスはミーナと離れることを嫌がり、ミーナもにいちゃんと一緒に居たがった。保母は二人を説得したが、ミーナは悲しさのために日に日に衰え、ポルフィラスはとうとう脱走を決意する。

収容所の子供たちは毎日午後に散歩に行くのだが、ポルフィラスはその隙に脱走を試みる。ところが、後に来るはずのミーナがいつまで経っても現れず、ポルフィラスはミーナを探し回った。夜になり、とうとうポルフィラスは疲れと寒さに耐えきれず、収容所の前で倒れたところを保護された。後で知ったのだが、ミーナは悲しさのあまり体調を崩し、無理矢理ベッドに寝させられていたのだった。この一件の後、ポルフィラスはますますミーナと離れないことを決意した。

8 とおい国へ
二人は揃ってオランダへ行くことになった。千キロも離れた場所だったが、ギリシアよりずっと金持ちで、自動車やガソリンスタンドもあることを聞き、ポルフィラスは期待に胸を弾ませた。二人は他の子供たちとともに長い列車の旅をしたが、ミーナは雪にも色々な国にも関心を示さず、ただ郷愁にかられて悲しそうにため息をつくばかりだった。

オランダで二人を待っていたのはでっぷり太ったおばさんで、言葉もわからないし、二人はひどく怖がった。おばさんの家は床がワックスでぴかぴか光っており、二人は滑ってころびそうになった。おばさんにはピートとヨハンナという二人の子供がいたが、ミーナにはオランダの子供は冷たそうに見えて悲しくなった。ミーナはギリシアに帰りたがったが、おばさんがベッドの中に湯たんぽを入れておいてくれたことでおばさんが優しい人だとわかり、安心した。

「あのう、ねえ、あのおばさんはやさしいのね。あたし、すきになれそうよ。・・・それに、おにいちゃんがいっしょにいてくれるし・・・。」

9 トラクター事件
3ヶ月が経ち、ポルフィラスはオランダの言葉も覚えて、ピートと話が出来るようになった。二人はピートとヨハンナと一緒に学校に通っていた。ポルフィラスはガソリンスタンドの夢を語り、よく落書きをしていた。学校の先生は彼を利口だが夢見がちなところがあると見抜いており、放っておけば落書きもやめるだろうと思っていた。しかし、ポルフィラスの夢は膨らむばかりだった。

学校が終わるとポルフィラスはピートと二人でクルイネンという村へ寄り道をした。そこには小さなガソリンサービスステーションがあり、頻繁に通う内にポルフィラスはタイヤに空気を入れたり、ボルトを締めたり、ガソリンを入れる仕事を手伝わせてもらえるようになった。ある時、壊れたトラクターが置いてあり、ポルフィラスはピートにいいところを見せようとした結果、トラクターが暴走し、結果周囲に被害を与えながらガソリンが無くなるまで走り続ける事態になった。(この事件は物語の大筋には関係しない)

10 こいしいギリシアの空
ギリシアのザイミスから手紙が届いた。彼は今リッシラではなく、ティミザにいた。ミーナは手紙を読んでますますギリシアへの郷愁にかられ、すっかりシミトラを忘れてガソリンスタンドとガレージがあれば満足に見えるにいちゃんに腹を立てた。ポルフィラスは「ぼく、自動車やガソリンポンプのことをわすれたほうが、きみはうれしいなら、いいよ、ぼく、わすれたって」と言ってミーナと仲直りするが、もちろん忘れられるはずがなかった。

夏(ギリシアの兄妹には寒くてちっとも夏には見えなかったが)に、フランスから夏休みを利用して学生たちがキャンピングカーでヴァン=ホーレンさん(二人が厄介になっている家の亭主)の牧場を訪れ、そこでキャンプをすることになった。ミーナはアンヌ=マリという同じ年くらいの女の子と仲良くなった。話を聞くとフランスにはギリシアに似ているところがたくさんあり、ミーナはフランスに憧れた。そしてアンヌ=マリがフランスに帰ってしまうとひどくしょんぼりした。

「あたしは、あの人たちといっしょにいきたかったわ、にいちゃん。フランスへいったら、ここでいるよりかよさそうだわ」とミーナが言うと、ポルフィラスは「だって、ミーナ、ぼくたちには家はないし、だれもいないんだもの、どこへいったっておんなじさ。幸福になれっこないさ」と答えた。ミーナは再び腹を立て、「いいえ、おんなじじゃないわよ。にいちゃんには、わからないの。男の子なんだもの。男の子って、そんなことわからないの。ガレージや機械のことばっかり考えてるんだもの。あたしがいなくなっても、きっと、にいちゃんはかなしくないのね」

11 ミーナはどこへ
9月、霧で何も見えなくなった朝をミーナはひどく怖がり、いつまで続くのか心細くなった。ミーナの頼みでポルフィラスがギリシアにこっそり出した手紙の返事を、ミーナはとても楽しみに待っていた。それはギリシアへ帰る許可を求めた手紙だった。ポルフィラスはギリシアへ帰るよりここにいた方が幸せだと言ったが、ミーナは信じなかった。手紙の返事は思いのほか早く届いたが、その内容はミーナを可哀想なくらいがっかりさせた。来年の夏までは無理だと書いてあったのだ。

翌日、ポルフィラスはミーナをガレージに誘ったが、ミーナは断った。他の場所でもいいと言ったが、ミーナはヨハンナと一緒に家にいると言い、ポルフィラスはピートと二人でガレージへ出かけた。その日、ガレージにはドイツの工場から届いた新しい車が置いてあったが、ポルフィラスはミーナのことが気になって早々に切り上げた。ポルフィラスが「もうかえろう」などと言い出したのは初めてで、ピートはとても驚いた。

家に戻るとミーナの姿がなかった。なんてことだ。ミーナはヨハンナと一緒にお菓子を作っていたが、その後のことは誰も知らないという。ミーナがグラベリネン(村の名前)の話をしていたというので行ってみると、埋め立て地の土手を歩いている姿を見たという情報を得た。しかし結局ミーナを発見することはできず、もう帰っているかも知れないと思って家に戻ったが、とうとうミーナは戻ってこなかった。ぐすん。

12 なくなった船
翌朝、ポルフィラスはおばさんに、ミーナがギリシアへ帰りたがっていたことと、それは決してこの家の人たちが嫌いで逃げだそうとしたわけではないことを語った。おばさんは自分がミーナから悲しみを忘れさせてやれなかったことを嘆いた。この家の人たち、本当にいい人。

ギリシア人の女の子(ミーナ)が迷子になったことは新聞に載せられた。その二日後、ゼーゲン(10キロほど離れた村か町)から一人の男がヴァン=ホーレンさんの農場を訪れ、ミーナがいなくなった日にはしけ(荷物や客を運ぶ小舟)がなくなったことを伝えた。その日は海が荒れており、わざわざはしけに乗ってどこかへ行く人などいないという。ミーナは海を怖がっていたが、急に気持ちが変わることがあり、どうやらミーナがはしけに乗ってどこかに行こうとしたのは間違いないようだった。

ポルフィラスはあの日ミーナを一人にしたことを悔やみ、自動車の写真や模型などを引き裂いてしまった。ミーナからの手紙を待ち続け、ギリシア語で「かわいい妹よ、早くかえってこい」とか「ミーナ、ゆるしておくれ」などと書いた紙を道々にばらまいた。けれどミーナは何週間経っても戻らず、とうとうポルフィラスは苦しみに堪えられず、ダメになってしまった。しかし、すっかりしょげていたところをモゼーテ(ヴァン=ホーレンさんの飼っている牛)に励まされ、「生きる力」を取り戻した。

(※モゼーテに「ミーナは死んじゃいないね?」と問いかけ、モゼーテが「死んじゃいないよ」と言っているように頭を左右へ動かしたことでポルフィラスは元気になった。うーん……)

13 トラックにしのびこむ
ポルフィラスは一見元通りになった。友達と遊ぶようになったし、自動車の広告が新聞に出るとそれを切り取った。しかし、ポルフィラスは妹を忘れたわけではなかった。どんなことをしてでもミーナを探し出そうと決心していた。いいことだ。12月のある日、フランスから巨大なトラックがやってきた。どうやらそのトラックはパリから来てパリに帰ると知り、ポルフィラスはそのトラックに忍び込むことを決意する。ミーナはフランスに憧れていたし、パリにいるに違いない!

ポルフィラスはオランダの一家を愛していたし、学校の友達と別れるのもつらかったが、真性のシスコンなので妹を優先し、一家に心配をかけないようピートに手紙を残して家を抜け出した。そしてパリへ帰る途中のトラックの前に飛び出してトラックを止め、一旦運転席に乗せてもらう。その後、適当な場所で下ろしてもらってから、荷台に忍び込んだ。

ジャガイモの袋に埋もれて眠り、国境もなんとか無事に通過し、やがてパリに着いた。トラックがガソリンスタンドに停まり、ポルフィラスは外を見てみたくなってカバーから顔を出した。すると、ずらりと並んだぴかぴかの自動給油機、そして青いスマートなユニホームを着た少年たち。ポルフィラスは思わず見とれ、運転手に見つかってしまった。

14 パリのギリシア人
ポルフィラスはパリでブリュノーおばさんの家で厄介になっていた。トラックの運転手はポルフィラスを警察に突き出すと言ったが、自分の家に連れて行って住まわせたのだ。しかしブリュノーおばさんの家はすでに子供が5人もいる上、決して裕福ではなく、ポルフィラスは仕事を見つけて働こうと決意する。

商店を歩いている最中に、写真屋のショーウインドウに飾ってある一枚の写真に惹き付けられた。石段の上で少女が子猫を撫でている写真なのだが、その少女がミーナにそっくりだったのだ。(ちなみにこれはただそっくりというだけで、ミーナ本人ではなく、何かの伏線でもない)

ポルフィラスは、「レストラン アクロポリス ―クサロパウロス―」と書かれたレストランを見つけた。クサロパウロスとはギリシア人の名前である。店の前にいると乞食と間違えられ、反論した際にポルフィラスがギリシア人だとわかると、彼は中に通された。ポルフィラスはそこで食事をご馳走になり、その後、店の主人に働かせてくれるよう頼んだ。主人は金は出せないが食事を条件にポルフィラスを雇うと言い、ポルフィラスはそれをブリュノーおばさんに報告した。

15 いじわるな主人
ひと月が過ぎた。クサロパウロスはポルフィラスが思ったような人間ではなく、ケチで意地悪だった。アルキス(店のボーイ)が事前に忠告したが、実際その通りだった。ポルフィラスは屋根裏部屋で生活し、朝から晩まで働かされた。とても世界名作劇場的な生活である。客はギリシア人が多かったが、金持ちばかりで、ギリシアを好きな人はいなかった。

休憩時間に、ポルフィラスは町のサービスステーションで見習いの少年と知り合いになった。ポルフィラスは少年と話をし、手伝う内に、やはり自分は綺麗なレストランで働くよりも、ガレージで働く方が合っていると確信する。

ある時、ポルフィラスはミーナに似た写真を眺めた後、ガレージの少年に会いたくなった。しかし少年は不在で、待つ内に約束の時間に遅れてクサロパウロスに怒られて殴られた。これが引き金になり、ポルフィラスは店を出ていくことを決心し、その夜の内にブリュノーおばさんの家に戻った。

16 もういちど夜の旅
トワーヌとミエットの視点で始まる章だが、ポルフィラス視点で書く。

ポルフィラスはパリのブリュノーおばさんの家を出ることにした。というのは、マルセイユの港にはギリシアの汽船が幾隻も来ているという話を聞いたからである。さらに、いつかオランダに来たキャンプの人たち(10章参照)はマルセイユに住んでいる。ミーナはその人たちが好きだったし、そこでならミーナを探せると思ったのだ。

ポルフィラスは再びトラックに忍び込んだが、そのトラックが国道七号線(太陽街道と呼ばれ、フランス一の交通量を誇る)で事故を起こす。ポルフィラスは荷台にいたので一命は取り留めたが怪我をし、ヘナヘナになっているところをトワーヌとミエットの夫婦に助けられた。

気が付いたポルフィラスはギリシアでよく飲んでいたヤギの乳をご馳走になった。外にはアーモンドの木やオリーブの木があり、生まれた国にそっくりだった。その安心感から、ポルフィラスはミエットにこれまでのことをすべて話した。ポルフィラスはすぐに出発したがったが、怪我が治るまではダメだと止められた。

やがて外に出られるようになると、ポルフィラスはその交通量と大きなサービスステーションの存在に驚いた。そのサービスステーションは「帝王サービスステーション」と言って、トワーヌが経営しているのだった。(トワーヌがSSを、ミエットが近く、もしくは同じ場所で喫茶店を経営している模様)

17 うれしいニュース
結局ポルフィラスはそのままバルビドゥーさん(トワーヌとミエットの姓)の家で暮らしていた。二人には娘がいたが結婚して植民地に行ってしまい、今は二人で暮らしていた。ポルフィラスは青いユニホームを着て帝王サービスステーションで働いていた。トワーヌはポルフィラスを認めていたし、実際彼は役に立った。ギリシア語とオランダ語を読み書きできることで客も増えた。ちなみに帝王サービスステーションとは、二年前にエチオピアの皇帝が車のパンクの際に店を訪れたことに由来していた。

帝王サービスステーションで働いていると、ある日店にキャンプの人(アンドレ=マギョルという)が訪れ、それに気が付いたポルフィラスは気付かずに店を出たアンドレの車を必死に止めた。そしてミーナの話をしたのだが、生憎何も情報はなかった。ポルフィラスはひょっとしたら彼らの家にミーナがいるのではないかとさえ思っていたのでひどくがっかりした。アンドレはポルフィラスに住所を教えて帰って行った。

オランダのピートから手紙が来たが、そこにはミーナのことは何も書いていなかった。ポルフィラスのためを思ってのことだったが、余計にポルフィラスをつらくした。しかしポルフィラスはそういう悲しみは閉じこめて陽気に仕事をした。その陽気さは周囲を明るくし、帝王サービスステーションを訪れる人たちの中で話題になるほどだった。

ピートから手紙が来た2日後、再びオランダから手紙が来た。今度はピートではなく、ヴァン=ホーレンおばさんからのものだった。手紙には、ミーナがノルウェーで無事にいるとノルウェー領事館から知らせがあったことと、ミーナはオランダへ送り返されるが、ポルフィラスはすでに仕事を持っているし、ポルフィラスのもとへ送った方が二人にとってもいいだろうという内容が書かれていた。ポルフィラスは何度も手紙を読み返し、喜びの涙を流した。

18 ミーナがかえる
かくして、ポルフィラスはノルウェーから来航したミーナと再会した。少し前まで重い病気をしていたとのことで、顔は青白く、痩せていたが、(文章から読み取るに)それほどひどくもないようだった。二人はトワーヌの運転でバルビドゥー家に戻り、ミーナはバルビドゥー夫婦の歓迎を受けた。ミーナはポルフィラスがそうであったように、故郷に似た雰囲気も食事もとても好きになった。

その夜、ミーナはポルフィラスにあの晩から今日までのことを話した。ギリシアからの手紙(11章参照)に絶望したミーナは悲しさを追い払おうと歩いていた。すると海の方に山が見えた。それは結局雲か何かだったのだが、ミーナはその山に行こうと、はしけに乗って海に入った。その晩海はしけており、ミーナははしけの中で転んで怪我をした。やがて夜が明け、ミーナは絶望しながら助けを求めた。何時間かして、やがてミーナの前に船が現れ、ミーナを助けようと水夫がボートでやってきた。ところが救助の際に誤ってミーナを落としてしまい、ミーナは錨に頭を打ち付ける。

気が付くとベンゲン(ノルウェーの都市)の病院にいた。その病院で手術をしてくれたらしいが、気が付いたミーナは自分の名前も何もかもをすっかり忘れてしまっていた。その状態が何ヶ月も続いたが、やがてアテネに行っている領事の奥さんの協力で、記憶を取り戻した。ほんの二週間前のことだった。そして今に至る。

翌朝、ミーナは青色のユニホーム姿で現れたにいちゃんの姿に驚いた。「赤みたいにはめだたないけど、でも、シミトラでつくった服より、ずっとかっこうがいいわ」とにっこりした。可愛い。食事は美味しいし、空は青いし、にいちゃんの好きなガレージはあるし、ミーナはここに住みたがった。問題はなかった。ポルフィラスは働いていたし、ミーナもフランス語を覚えてミエットの炊事場の手伝いをするよう、にいちゃんが勧めた。

ミーナは喜んだ。にいちゃんはもう一人前だし、アンヌ=マリにも会える。ここにいればいつかヴァン=ホーレンさん一家も通るだろうし(オランダの人たちは南の海へバス旅行をするらしい)、パリで世話になったブリュノーさんもトラックに乗ってやってくるだろう。話しているとガソリンスタンドに客が来た。落ち着いた様子で対応するにいちゃんを、ミーナはたのもしく思い、嬉しくなった。「じぶんのすすんでいく道に、どんなにじゃまな石があっても、ポルフィラスはがっかりしなかった。そして、前へ前へとすすんで、いま、おとなになろうとしているのだった」(本文より)


おまけ。
ミーナ「ノルウェーから船にのってくるあいだ、あたしは、どんなところへいくのかしらと、しんぱいだったわ。あたしたちふたりきりの、うつくしい国だといいなあって考えてたのよ」←なんて萌える台詞なんだ! ミーナ万歳! 大好きだ!



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