■ Novels


青空に続く道

■主な登場人物
セディー : 盗賊の少年。仲違いして、仲間に追われていたところをアリシアに助けられる。
アリシア : ハイデルの騎士ギルスの娘。父を殺され、現在は森でひっそりと暮らしている。
ハイルーク : 美しい楽器を持つ旅の吟遊詩人。リッシュに頼まれ、アリシアを訪ねる。
リッシュ : アリシアの母親。自分たちを付け狙う盗賊ベイマルを追って旅をしている。
タクト : ハイデルに住む少年。独学で魔法を学ぼうとしていたが、ミーフィに教わることに。
ミーフィ : 魔法使いの少女。魔法を学べないタクトを不憫に思い、規則を破って魔法を教える。
ベイマル : 盗賊団の頭領だったが、アリシアの父に壊滅させられる。アリシアを付け狙う。
ハイス : 魔法王国ヴェルクの第一王子。“ジェリスの再来”と評される天才魔法使い。

セディー・グランナ

 山間の森の中に、小屋と呼ぶには大きな木造の家が建っていた。周りの草木は刈られていたが、近くに道はなく、少し歩けば鬱蒼とした木々が立ち並び、迷い込んだ狩人の他に、この家に辿り着く者はなかった。もっとも、もしも狩人がこの家を発見したとしても、それを誰かに伝えることはなかった。二度と森を出られなかったからである。
 家には5人の男が暮らしていた。彼らは盗賊で、森を南に抜けた所にある街道を縄張りにしていた。
 その街道はハイデルとティーアハイムという、二つの大国を繋いでいるため、非常に往来が盛んだった。道は起伏なく平坦で、周囲には草原が広がっている場所が多かったが、ただ一箇所、彼らが縄張りにしている、木々に覆われたこの山だけが難所となっていた。
 ハイデルとティーアハイムの軍部は、度々盗賊退治に乗り出したが、盗賊は増える一方だった。今も、この山を縄張りにしているのはその5人だけでなく、時には盗賊同士の抗争で死者が出ることもあった。
 その日、16歳の少年セディー・グランナは、すでに30歳を越える盗賊仲間のザッギとともに、小屋の掃除をしていた。他の三人は街道へ行っており、今日は二人が留守を任されたのだ。
 セディー自身は散らかすのが好きではなかったが、所詮は男5人の家で、服は脱ぎ散らかし、皿は出しっ放しで、それらが堪えられない臭いを放ち始めるまでは、誰も洗おうとはしなかった。その日はセディーが積極的に片付けをし始め、暇をしていたザッギも気まぐれで付き合っていたのである。
「なんだか、こうして洗濯をしていると、盗賊も所詮人間って思うな」
 近くの小川で、もはや元の色がわからないくらいに汚れた服を洗いながら、セディーが言うと、ザッギは小さく鼻で笑った。
「金はあっても、偉くはないからな」
 洗濯や食事の用意をしなくても済むのは、下働きを雇っている金持ちだけだ。
 彼らは金はあったが、もちろん下働きなどいないし、食事は留守を務める者が作るのが決まりになっていた。もっとも、最年少のセディーがこき使われることが多かったが。
「こういうことは女にやらせるのが一番だ。誰か適当に引っ捕まえて、家に置いたらどうだ? 若い女なら、他に色々使い道もあるだろうし」
 セディーが歳相応の欲望に瞳をぎらつかせると、あまり女に興味のないザッギが笑い飛ばした。
「女にしろ男にしろ、信用できないヤツはここに置くべきじゃないな。万が一脱走されて通報されたらおしまいだ。危険はなるべく回避しなければならん」
「あんたは慎重だな。俺は金も好きだけど、女も好きだ。連れ込んで犯したくなる時だってある」
 セディーはつまらないと吐き捨てた。ザッギは目を鋭く細めてセディーを見た。
「女を犯したいと思うのは自然なことだと思うがな。俺だって、10年前はお前となんら変わりなかったさ。だが、盗賊だからって、なんでもかんでも好き勝手やると、いつか身を滅ぼす。わかるか? その匙加減だよ」
「わかってるつもりだよ。だからこうして、若いのに女も抱かずに我慢してるんじゃないか」
 セディーは目を閉じて片手をひらひらさせた。
 言う通り、セディーが最後に女を抱いたのは、盗賊になる前のことだった。まだハイデルで母親と二人で真っ当に暮らしていた時のことである。
 その母親も今は亡く、恋人だった娘とも疎遠になった。そして2年前、金が尽きたセディーは盗賊になり、この住処に辿り着いた。
 セディーはしばらく、そんな懐かしい出来事を思い出していた。もっとも、特別感慨は沸かなかったが。それくらいで郷愁に駆られるような人間は、見知らぬ者から金を奪ったりできない。セディーが思い出すのは、もっぱらその女の裸だった。
 セディーの思考がかなり深いところまで及ぶと、それが顔に出ていたのか、ザッギが呆れたように首を振った。
「やれやれ。俺も人並みだったが、お前は若い時の俺以上だな」
 セディーは聞いていなかった。

 その夜、ワーラムが帰ってくるなり金貨の混ざった金袋を引っ繰り返して、セディーとザッギは目を輝かせた。こうして金を持ち帰るのは、実に久しぶりである。
「これだけじゃねぇ。外には酒も肉もあるぜ」
 髭面のワーラムが得意げにそう言うと、ザッギが机の上の金貨を手に取り、それを見つめながら言った。
「商人だったのか? 護衛もなしの」
「いや、護衛はいたけど、罠を張ってね。もちろん戦いにはなったけど、二人も殺したら大人しくなったよ」
 その二人を殺したと思われる剣を丁寧に拭きながら、セディーより4つ上の青年パラクスが言った。パラクスは盗賊と言うには金に固執はしておらず、もっぱら剣を振っているのが好きだった。もちろん、人殺しが好きという性癖こそなかったが、敵には一切躊躇しなかったし、そのせいか、腕前は5人の中でも群を抜いていた。
「俺はちょっと外の戦利品を見てこようかな」
 セディーが立ち上がると、黙って壁にもたれて立っていたオグレイドが先に外に出た。5人のリーダーであり、歳はザッギと同じくらい。盗賊歴は誰よりも長いが、無口で他の盗賊のような荒々しさがなかった。髪はぼさぼさだが髭は綺麗に剃っており、服装にも清潔感が漂っている。もちろん、所詮盗賊にしては、であるが。
「おお! これはすごいな!」
 牛一頭とは行かないが、それに近い肉の塊を見て、セディーは舌鼓を打った。金も女も好きだが、もちろん食欲も人一倍である。
「お前はがつがつしているな」
 オグレイドが小さく苦笑したとき、セディーは不意に人の気配を感じて顔をしかめた。もっとも、決してそれは表には出さなかったが。
「オグレイド、森に誰かいる」
 セディーが小声で言うと、オグレイドも鋭い目つきになった。そして、何気なくそちらの方に目を遣ってみる。気付いていない振りをするのはいいが、矢でも撃たれて射殺されてはたまらない。
 鬱蒼とした木の陰に誰かが立っているようだった。森は完全な闇に包まれていたが、夜目が利くオグレイドは木の幹からわずかに覗かせる衣服を見逃さなかった。
「さて、どうしようかな。距離があるから、いきなり行って逃げられるのは困る」
 さも普通に話しているかのように、少し笑顔になって空を仰ぎながらオグレイドが言った。
 セディーはしばらく肉を触っていたが、やがてそれに飽きたように家の戸を開けた。
「中で作戦会議だな。どうせ、俺たちが寝付くまでは動かないだろう。他のところのお仲間さんだろうな、きっと」
 二人で中に戻り、外に人がいたことを話すと、後手を踏む前に攻撃しようということで決着が着いた。敵の数がわからないから、こちらから攻撃をかけるのは危険だったが、ぼやぼやして逃げられるわけには行かないし、仲間を呼ばれたら厄介だ。
 パラクスは剣の腕は立ったが、泥棒のようにこそこそと何かをするのは苦手だった。ワーラムもどちらかと言うと豪快な性格をしており、結局セディーとザッギが行くことになった。
 裏手の窓から外に出ると、森まで駆けて闇に紛れる。そして、かなりの遠回りをして先ほど人がいた場所の裏側に移動した。明かりはないが、庭のような森だ。それこそ文字通り目を瞑っても歩くことができる。
 セディーが目を凝らすと、だいぶ離れた太い木の陰に人影があった。背は低く、髪は長いようだ。
(女か?)
 セディーは怪訝な顔をして、もう一度じっと目を凝らしたが、性別まではわからなかった。
 ザッギと手の合図で相談し、直接相手が見えているセディーが攻撃することになった。音を立てずにナイフを取り出すと、手を振り上げる。
 足もそれほど速くなく、剣の腕も大したことのないセディーが、唯一他の4人より秀でているのが、このナイフ投げの技術だった。
 ビュッと空気を裂く音を立て、ナイフは真っ直ぐ木々を擦り抜け、隠れていた者の腕に突き刺さった。
 声は聞こえなかったが、突然の攻撃に一度背中を反り返らせてから、その場にがくりと膝をつく。
 セディーとザッギは剣を閃かせて走った。家を監視していた者は、左手でナイフを握り、それを抜こうとしている。ナイフを握る手は血でぎらぎらと光っており、力が入らないのか、なかなか抜けないようだ。
 それでも何とか引き抜くと、監視者は苦痛の呻き声を漏らした。
「う、くぁ……」
 二人ともすでに射程圏内に入っており、声で相手が女だとわかった。しかもセディーとそれほど変わらないくらいの少女だ。
 少女は左手で傷口を押さえたまま背後を振り返った。その顔は青ざめ、唇は震え、涙の滲んだ瞳は、二人の剣を映すと大きく見開かれた。
 セディーは、すっかり怯えて、もはや無抵抗と言っても過言ではない少女を斬ることに抵抗を覚えた。そこで、振り上げた剣の切っ先を少女の喉元に突きつけると、低い声で言い放った。
「お前は誰だ? ここで何をしていた?」
 ザッギが無言でセディーの隣に立ち、油断なく構えたまま少女を見据える。ただ、こちらの目にはセディーのような同情の色はなく、聞くべきことを聞いたら殺すつもりなのが目でわかった。
 少女は震えたまま口を開こうとしなかった。時々気丈にセディーを睨み付けようとするが、上手くいかないらしい。喋らないのも、抵抗しているというよりは、恐怖に声が出ないと言うのが正しそうだった。
「中に連れて行こう。そこで吐かせる。ひょっとしたら仲間がいたかも知れん」
 ザッギはそう言うと、剣を収めて少女の右腕を掴んだ。少女はそちらに怪我をしていたので、再び苦痛に声を漏らすと、目を固く閉じて眉間に皺を寄せた。額には汗が浮かび、まなじりからは涙が零れ落ちる。
 セディーはだんだん少女が可哀想になってきた。いや、完全な同情ではなく、昼に話していた、「その他の使い道もある雑用係」にしたいという思いが芽生えてきたのだ。それでも、生かしておくことには違いない。
 少女を部屋の中に放り投げると、オグレイドたちは少し警戒するように立ち上がったが、すぐにワーラムが酒に赤らんだ顔で大声を上げた。
「こいつ、昼の女じゃねーか」
 どうやら、昼に襲った商人の一行の内の一人らしい。オグレイドも無言で頷く。
「とにかく、このままじゃ何も喋れないみたいだから、傷の手当てをして、落ち着かせよう」
 セディーがそう言って薬を取りに行くと、ザッギが声をかけた。
「生かすつもりか? 薬だってタダじゃないんだ。無駄には使いたくない」
 セディーが振り返ると、ザッギは非難の目で、他の3人は探るような眼差しでセディーを見つめていた。
 セディーは少し考えてから、昼の話をし、少女を置いてみてはどうかと言った。
「殺そうと思えばいつでも殺せるんだ」
「俺は反対だ。自ら危険を作ることはない」
 ザッギがすぐに声を上げ、リーダーの顔を見る。パラクスは大して興味がないようで、つまらなさそうに壁に背をもたれさせて目を瞑っていたが、ワーラムはセディーに賛成のようで、品のない笑みを浮かべながら大きく頷いた。
「退屈な夜の慰みになるし、俺は別に反対しねーぜ。ここには常に誰かいるんだし、ロープで縛っておけば逃げられることもないだろう」
「だが、仲間が探しに来るかも知れん」
「そう言った類の話は、これから聞くんだろ? まあ、まず話を聞いてみてからでいいんじゃねーか? おい、セディー。早く薬を持ってこい。こいつ、このままじゃ、失血で死んじまうぞ?」
 言われて見ると、少女は荒々しく肩で息をし、目を開けているのも辛そうだった。
 セディーは薬を持ってくると、少女の上半身を裸にした。少女は少し抵抗したが、もちろん叶うはずがない。
「ほぅ!」
 思いの他白くて美しい裸体に、ワーラムが口笛を吹いた。剣で戦ったことがあるような者ならば、傷の一つや二つはあるものだが、どうやら少女にはそういう経験がないらしい。
 セディーは傷口を水で洗うと、そこに薬を塗りこんで包帯を巻いた。ナイフは深く刺さったようだが、筋は外れていたし、二週間もすれば治るだろう。
 手当てを終えると、少女は少し落ち着いたようだったが、青ざめたままで、顔を上げようとはしなかった。震えはなくなっているが、怯えているのは間違いない。
 縛っておかなくても抵抗できる状態にないのは明白だったので、男たちは少女をそのままにして取り囲むように座った。少女はちらりと顔を上げ、正面にいたオグレイドの顔を見ると、すぐに視線を落として、痛みのない左手で露にされた胸を隠した。
「それで、お前は何をしていたんだ? 自決する覚悟がないなら、喋らない分、痛い思いをするだけだぞ?」
 少女は顔を上げ、何か言おうとしたが、声は出さなかった。オグレイドはしばらく答えを待ったが、やがてあきらめたように溜め息をつくと、木の棒を持って立ち上がった。
「声が出ないわけじゃないんだろ?」
 少女の横に立ち棒を振り下ろすと、ビシィッと大きな音がして、少女の背中に赤い筋が走った。
「痛いっ!」
 少女が悲鳴を上げて、前のめりに崩れ落ちる。セディーは何か言いかけて、口を噤んだ。今回、たまたま女だったと言うだけで、オグレイドが吐かせるために相手に棒を使うのは、今に始まったことではない。
「い、言うから、お願いだから叩かないで!」
 少女はそう懇願すると、左手で顔を押さえて泣きじゃくった。オグレイドは棒を下ろすと、元の位置に座る。一度声を出せばもう大丈夫だと判断したのだ。
 実際、少女はひとしきり泣くと、気丈な目でオグレイドを睨み付けて甲高い声を上げた。
「お前たちが、私のお父さんを殺したから! だから、だから私は……」
「敵討ちか? お前一人でか? 仲間は?」
 オグレイドは冷静だった。少女は逆にひるみ、また怯えたような顔に戻ったが、声は途切れさせなかった。
「みんなは、盗賊と戦うのなんか嫌だって……」
「じゃあお前一人か。それは、勇敢ではなく、無謀と言うんだ。その区別がつかないと、長くは生きられない」
「だ、黙れ、人殺し! お前たち、絶対に許さないから! 絶対に殺してやる!」
 少女の叫び声を聞いて、男たちは顔を見合わせた。ワーラムは気丈な女の方が相手にしたとき楽しいと言わんばかりに、にやにやした笑いを浮かべて少女を見ている。オグレイドは腕を組んで考え込んでいた。
「やっぱり、殺した方がいいだろう」
 ザッギがそう言って、ロープを取る。そしてゆっくり少女に近付くと、そのロープを素早く首にかけて軽く引いた。
「うっ……」
 少女の顔が苦痛にゆがみ、立ち上がり加減になって左手でロープを掴んだ。セディーはすぐに止めようと思ったが、今のところザッギが殺す気がないことがわかっていたから、別のことを言った。
「助けて欲しければ、『助けてください』っていいな。そして、もう二度と生意気な口は叩かないことだ」
 ザッギがさらに力を込めると、少女は顔を真っ赤にして涙を流した。本当に息ができないらしく、しばらくじたばたと暴れたが、やがて手足を小刻みに痙攣させて、か細い声を漏らした。
「た、助けて……」
 ザッギはロープを取った。少女は何度か大きく息を吸い込み、また大きな声で泣き出した。
「で、どうするんだ? 本当に殺すなら俺がやるぞ?」
 ザッギは呆れたように少女を見ながら、隣にいるオグレイドに尋ねた。先ほど本気で殺さなかったのも、まだリーダーの決定を聞いてないからだった。ザッギがリーダーの意思を尊重していることを、セディーは知っていた。
 オグレイドはさらに数分沈黙を保ったが、やがてセディーを見て言った。
「セディー。お前はこいつを飼って、情が移ったりしないか? いざと言うとき、殺すことができるか?」
 セディーは一度少女を見た。少女はまだ泣き続けており、顔を上げない。
 セディーはそんな少女を見て、少し可哀想には思ったが、目に入ってくる情報の大半は、その白い裸体だった。所詮は肉でしかない。少なくとも、今のところは。
「大丈夫。今まで斬った中には、女だっていただろう?」
 オグレイドはわずかな沈黙の後頷き、ザッギに言った。
「性欲の捌け口としてはともかく、そもそもの使い道の方は俺も欲しい。その代わり、ザッギの言うことももっともだから、条件をつけよう。そして、その条件を破ったら、ザッギ、こいつはお前が殺して構わない」
 ザッギは一度深く頷いてから、「その条件は?」と尋ねた。
 オグレイドはもう一度木の棒を取ると、もう片方の手で少女の顔を上げさせて、棒の先を頬に押し付けた。少女はまだ涙を流していたが、オグレイドの顔を見ると泣き声を上げるのをやめた。
 オグレイドは低い声で言った。
「いいか? お前はこれからここで働くんだ。ここで働いて生きるか、死ぬかの二つしかない。逃げ出そうとしたら即座に殺す。俺たちの命令に逆らっても殺す」
 少女は頷かなかったが、反論もしなかった。
 オグレイドは少女に棒を押し付けたまま、セディーの方に目を向けた。
「お前もいいな? セディー。こいつを殺されたくなかったら、よく調教することだ。お前の意思に関係なく、こいつが俺たちに逆らったら、ザッギでなくても殺す。いいな?」
 セディーは神妙に頷いた。話がまとまったところで、ワーラムが下卑な笑みを浮かべて言った。
「それで、リーダー。こいつを犯すのは自由なんだろうな。飼い主の許可もいらねーな?」
 セディーが何か言うより先に、オグレイドが答えた。
「もちろんだ。俺だって犯りたくないわけじゃない。ただ、立場的な会話をしていただけだ」
 セディーは、大きく頷いた。別に独り占めする気など元々ないし、要するに食事と掃除、洗濯の手間が省け、自分の性欲も満たされればそれでいいのだ。
「そういうわけだ。まず名前を聞こうか」
 少女の前に座り、セディーはそう尋ねてみたが、少女は悲しそうに項垂れたまま何も言わなかった。
 セディーは大げさに溜め息をついてから、そっとナイフを手に取った。そしてそれを少女の首に当てると、少女は小さな悲鳴を上げてセディーを見上げた。
「名前は?」
「ロ、ローレ……です……」
 少女は哀れなほど震え、ようやくそれだけ答えると、とうとう気を失ってセディーの胸の中に崩れ落ちた。

  次のページへ→