■ 旅行中の落書き

リン 「A380は快適ですね!」
ミク 「……」
「そうだな」
リン 「ミク姉さん、大丈夫ですか?」
ミク 「うん……」
リン 「マスターは大丈夫ですか?」
「ちょっとしんどくなってきたが、平気だ。俺飛行機のこの、泣いても喚いてもどうすることもできない感、好きやねん」
リン 「そうですね。どうすることもできません」
「なんで偉そうなの?」
リン 「ミク姉さんは割り切れましたか? 着くまで飛ぶしかないですよ?」
ミク 「うん……」
リン 「元気出してくださいね! A380はいいですね!」
ミク 「リン、ちょっと静かにしてて……」
リン 「嫌です」
ミク 「!」
リン 「ミク姉さん、もしかして……」
ミク 「なに?」
リン 「酔ってるんですか?」
ミク 「見てわからない?」
リン 「自分に酔ってるんですね! わかります!」
ミク 「早く着かないかなぁ」
リン 「まだ半分です」
ミク 「……え?」
リン 「だから、まだ6時間だから、やっと半分です」
ミク 「絶望した……」
「それでもいつか着くよ。俺飛行機のこの、いつかは着くっていう感じ、好きやねん」
ミク 「私、無理かもしれない……」
リン 「ミク姉さん、大丈夫です。いつか着きます!」
ミク 「……」

  *  *  *

リン 「ローテンブルクはとても綺麗な街でした。わたしはあの街をミク姉さんと歩けて幸せでした」
ミク 「マスターさんじゃないの?」
リン 「マスターは死にました」
「いや、生きてる。お前どんなテンションなんだ?」
リン 「わたしはあの街でメルヘンチックに暮らします」
ミク 「そう。さよなら、リン」
リン 「ミク姉さんも一緒にです」
ミク 「マスターさんと仲良くね」
リン 「次の街も、きっとわたしに素敵な思い出をもたらすことでしょう。さよなら、ローテンブルク」
「住むんじゃなかったのか?」
リン 「わたしが魂を分けた、このリンちゃんぬいぐるみを置いて行きます」
「いや、それ俺のだから勘弁して」

  *  *  *

リン 「マスターは押しっ放しのトランシーバーみたいですね」
「何がだ?」
リン 「マスターは相手に英語で意思を伝えられるけど、相手からの返答をまったく理解できない」
「まったくだ。日本人はヒヤリン……」
リン 「あーっ、マスター、牧草地に小さな集落を発見! 一つ一つがドラマですね!」
「よくわからんが、この旅行中はキミこそ一方通行のトランシーバーだ。全然こっちの話を聞いてくれない」
リン 「あっ、線路だ。電車見たいですね!」
「ミク、こいつ何とかしてくれ」
ミク 「可愛くていいじゃないですか」
「……ミク?」
ミク 「なんですか?」
「いや、キミがリンを可愛いとか言うのが珍しくて」
ミク 「そういえばそうですね。たぶん私、まだ昨日の飛行機の疲れがちょっと残ってるんです」
リン 「ミク姉さん、きっと昨日の飛行機の疲れが残ってるんですよ!」
「今、この子、自分でそう言った」

  *  *  *

リン 「ドイツビールうめー! ソーセージうめー!」
「ミク、こいつどうしよう」
ミク 「可愛い可愛い」
「今日のミクは柔らかいな」
ミク 「私はいつも柔らかいです。揉みますか?」
「いや。酔ってる?」
ミク 「平気。伝説の大丈夫!」
リン 「伝説の大丈夫! マスター、ここでミク姉さんの伝説の大丈夫が出ましたよ?」
「ソーセージ美味かったな」
リン 「アウフヴィーダーゼーエン!」
「こいつらまとめて酔ってるのか? もうほっとこう」
リン 「ミク姉さん、アウフヴィーダーゼーエン!」
ミク 「さよなら、リン。さよなら」

  *  *  *

リン 「ぐー……」
「やっと一人静かになったか。なあ、ミク」
ミク 「極まった……」
「ん? なんだ?」
ミク 「マスターさん、私、極まりました!」
「な、なんだ? 酔っ払いか?」
ミク 「私、テディベアに対抗して、テディミクというのを考えました!」
「勘弁して。やっとうるさいのが寝たのに。ミクさん、大人になろうぜ」
ミク 「私はもう大人です! マスターさんと378回もエッチしました!」
「してないから」
ミク 「しました! 私の日記によると……」
「変なもん書くなよ。キミも寝てくれ」
ミク 「リン、起きようよ! ねえねえ」
「起こすなて。せっかく静かになったんだから」

  *  *  *

リン 「フュッセンのホテルなう!」
ミク 「疲れた……寝る……」
「ミク、先にシャワー浴びる?」
ミク 「明日の朝にします」
「いや、大概汗臭いぞ?」
ミク 「うぅ……。じゃあ浴びます」
「俺もストレッチでもしていよう」
リン 「さて、一息ついたところで、まだ明るいし、ホーエス城を見に行きましょう!」
ミク 「……」
「リン、今の話聞いてた?」
リン 「?」
「いやだから、きょとんとされても……」

  *  *  *

リン 「3日目! 現地2日目! エブリワン、体調はどうですか?」
ミク 「だいぶ本来の私に戻ってきた。今なら使える」
「何を使うんだ? リンは今日も元気だな」
リン 「無理してるんです。本当は今にも倒れそう」
ミク 「見たことないくらい顔色がいいんだけど」
リン 「そういえば昨日思ったんですけど、異国に来るとわたしも目立ちませんね」
ミク 「言動は目立つけどね」
「金髪はいるが、黄色はいない」
リン 「金髪! わたしのことを黄色とか言うのはマスターくらいです!」
「今日もたくさんの金髪に会えるといいな」
リン 「それはものすごくどうでもいいです」

  *  *  *

リン 「異国の地では、川の一つで興奮できますね!」
「そうだな」
リン 「今なら長良川でオッキできます!」
「何がオッキするんだ?」
リン 「オッキする場所なんて、心の奥深くに一つだけです」
「帰ったら長良川でオッキするところを見せてね」
リン 「どうでしょう。今ならオッキできる自信があるんだけど……」

  *  *  *

リン 「メーアスブルク! 海!」
ミク 「海だね。ビール飲みたいね」
リン 「海に来ると気持ちが弾むのはなぜ? きっとボーカロイドは海から来たの」
ミク 「来てないから。陸の幸です」
リン 「フェリーですよ、フェリー! マスターは乗ったことありますか?」
「何度もあるが」
リン 「島に渡ります! わたしは今、渡りリン!」
「わけわからんな」
ミク 「ビール飲みたいね」
「ミク、どうした?」
リン 「無数のヨットですね。マスターはヨットは……」
「ねーよ」
リン 「わたしもないです! 仲間ですね!」
ミク 「ビール飲みたい」
「ミク?」

  *  *  *

リン 「今の人、ブラジャーしてませんでしたね! 服の上からはっきりそうとわかりましたね!」
「そうだな。こっちは規格外のサイズの女性が多いし、そういうのもたくさんあるんじゃない?」
リン 「萌えました?」
「いや、まったく。俺は小さな少女の小さなおっぱいが好きなんだ」
リン 「知ってます」
ミク 「ショックです。じゃあ、私は結構おっぱいが大きいからダメですね」
リン 「傑作です。今年聞いた冗談の中では最高傑作でした。大変面白かったです。あはははは」
ミク 「ねえマスターさん、この子ちょっと感じ悪くないですか?」
「いや、少なくともうちではいつもこんな感じで、極めて普通のリンだ」
ミク 「そうですか」
「それに、今の冗談は俺もウケた」
ミク 「……」

  *  *  *

ミク 「黒ビール、えへへ」
「えっと、ビール好きなの?」
ミク 「よくわかんないです。飲みやすいでしゅね」
「そうだな。リンは……」
リン 「白ワインウマーです。このあれはあれですかね?」
「いや、わからん」
ミク 「あるえぃあうるっふ?」
「はぁ?」
ミク 「この餃子みたいなの、なかなかやりますね。偉い偉い。なでなで」
リン 「えへへ。ナデラレータ」
「もうほっとこう」
ミク 「放棄ですか? また私を捨てるんですか!? あの時みたいに!」
「どの時だよ」
ミク 「マシュターさん、別のビーウも頼んでいいでふか?」
「もうやめとけ」
リン 「やめておいた方がええどす。ミク姉ちゃまは今、とても酔っちょる」
「お前もやめとけ」

  *  *  *

リン 「郊外のホテルで、向かいには大きな工場があります」
「説明口調だな。やることないし、寝るぞ」
リン 「もっと暗くなったら、工場の夜景が綺麗かもしれません」
「いや、どう考えても人のいる気配がない。夜だし日曜日だし夏休みだし」
リン 「そうですか。何しましょう」
「いや、寝ようぜ。ミクさん、シャワー浴びるや否や爆睡だぞ?」
リン 「ドイツビールが気に入ったんですね。可愛いです。チューしておこう」
「それさっき、リンがシャワー浴びてる時にしておいた。だが起きなかった」
リン 「許さない」
「許せ。ほら、寝るぞ。おいで」
リン 「うん」

  *  *  *

リン 「グッモーニン! ウェイカップコーゥ! 起きてください、二人とも!」
ミク 「すやすや」
「ミク……ぎゅっ」
リン 「マスター、もんでー!」
「どこを?」
リン 「月曜日です! 今日はライン川を鮭のように遡上します! トラウト・リン・サーモンとはわたしのことです!」
「今日、そんなプランだっけ?」
ミク 「いえ、私たちは下ります。リンは一人別行動です」
「もう少し寝よう。ミク……」
ミク 「んっ……」
リン 「もうっ! そんなの、夜にしてください! 大体ミク姉さん、その人はわたしのマスターですからね!」
ミク 「リンのものはわたしのもの。これ常識」
リン 「は、初めて聞いた……」

  *  *  *

リン 「今日はまずハイデルベルクに行きます。体調はどうですか?」
ミク 「戻った。もう平気」
リン 「そうですか。良かったです」
「俺はちょっと下降気味。バファリンを投入した」
リン 「そうですか。頑張ってください。ハイデルベルクでは是非お城に行きたいですが、時間がありません」
「ねえ、もっと優しくしてよ」
リン 「マスターは大人だから、自分でなんとかしてください」
「なんてことだ」
リン 「わたしは子供だから構ってくださいね」
「ミクに任せよう」
ミク 「私も子供だから……」

  *  *  *

「ハイデルベルク終了!」
リン 「……」
ミク 「くすん」
「時間が全然無かったな! ちょっとミクのねんどろいどが石畳に落下して、傷だらけになった意外は楽しかったな!」
リン 「一撃でこんな無残な姿に……」
「リンが急かすから!」
リン 「人のせいにしないでください」
ミク 「リンが急かすから……」
リン 「えーっ!」
「帰ったら久々に補修しよう。いくらなんでも悲惨だ」
ミク 「私もねんどろいども、マスターさんにボロボロに……」
「いや、ミクには何もしてない!」
ミク 「身も心もボロボロに……」

  *  *  *

リン 「さあ、ミク姉さんのねんどろいどは無残な死を遂げましたが、気を取り直してリューデスハイムです」
ミク 「生きてるから!」
リン 「はいはい。この街ではワインを飲みましょう」
ミク 「私はドイツビールが飲みたいけど」
リン 「ダメです。リューデスハイムでワインを飲まないなんて、香川でうどんを食べないようなものです。うどんしか無いのに!」
「相変わらず失礼なヤツだ」
リン 「ゴンドラに乗りたいけど、ライン観光船の時間が決まってるから難しいところですね。短い時間をいかに有効に使えるか。マスターの采配に期待が高まります」
「そこまで仕切って、最後は丸投げかよ」

  *  *  *

「ライン川のクルージングは中止になりました。この先でトラブルが発生して、全運航取りやめです」
リン 「そんな……」
ミク 「リン、気を落とさないで。あなたの日頃の行いが悪いせいで、私たちまでとばっちりを受けたの」
「リン、それでも俺たちは決してキミを責めない」
リン 「飲みましょう! しばらくリューデスハイムで足止めです! ワインを飲みましょう!」
ミク 「そうね。前向きに代替案を考えましょう」
「ワインだな。ミクを酔わせよう」
リン 「それはやめましょう。昨夜の過ちを繰り返すんですか?」
ミク 「わ、私、昨日何かしたっけ?」

  *  *  *

リン 「今日は期待度の割には不完全燃焼でした」
「ライン川クルーズ中止が痛かったな」
リン 「結局ハイデルベルク城に行けなかったのも無念です」
「まあその辺りはまた今後考えるとして、ひとまず最終日のフランクフルトで何をするかを考えよう」
ミク 「ビール! 私、ビール飲みたい!」
リン 「観光しましょうよ。ドイツの教会には鐘楼とかないんですかねぇ」
ミク 「ないない。それより、ソーセージ食べながらビール飲もう」
リン 「ソーセージもビールも案外もう満足しちゃいました。それよりこの、圧倒的な観光してない感」
「ミラノの二の舞になりそうな気がする」
ミク 「まあ、あれはあれで楽しかったじゃないです?」
リン 「むう。またわたしのわからない会話してる」
「ノープランでブラブラしてたら、結局大して何もせずに終わった感じ」
リン 「まあ、まったりぼーっとするのもいいですけどね」

  *  *  *

リン 「ようやくもうじきインチョンニダ!」
「……何今の」
リン 「大韓航空の機内食が美味しかったから、敬意を表して韓国語を使うニダ!」
「いや、どう聞いてもバカにしてる」
リン 「そんなことないニダ。それより、ミク姉さん、大丈夫ですか?」
ミク 「大丈夫、問題ない」
リン 「顔が青くないです?」
ミク 「髪が青いからね」
リン 「?」
「ソウルの乗り継ぎが6時間もあるから、ラウンジで休みたいな」
ミク 「ラウンジって、コーヒーが出てくるアレですね。私はコーヒーとは過去の因縁によって結ばれています」
「?」
ミク 「到着まで残り49分。いよいよね。ふん、この私をここまで追い詰めたのは、あなたが初めてよ」
「なあ、リン」
リン 「そっとしておいてあげましょう。それもまた優しさニダ」

(※)主にツアーのバス移動中に書いていたので、終日自由行動だったフランクフルトなどの落書きは無い感じです。