『 雪のたから 』 あらすじ



■書名 : 雪のたから
■著者 : パトリシア・M・セントジョン
■訳者 : 松代恵美
■定価 : 1,900円
■出版社 : いのちのことば社
■ISBN : 4-264-01582-0
■初版発行日 : 1996/09/20
■購入版発行 : 2001/10/10 ( 三刷 )
 
■購入日 : 2003/09/22






−ゴスペル・インフォメーション・データベースより−


アンネットの弟ダニーは、

級友ルシエンのいじわるが原因で谷底に落ち、足が不自由に…。

子どもたちの日常生活を通し、

罪とその救いをあたたかな視点で描いた児童文学。




1 天使たちと過ごしたクリスマス
舞台はスイスにある小さな村。クリスマス・イブの夜、7歳のアンネットは、6歳の男の子ルシエンと、その母親であるモレルおばさんの3人で歩いていた。教会からの帰り道である。毎年であれば、アンネットは両親と一緒だったのだが、今夜は母親が具合を悪くし、父も医者を呼ぶために町へ行ってしまったのでアンネットは一人だった。

アニメではアンネットとルシエンは仲良しだが、原作ではそうではなく、地の文にも、アンネットがルシエンやモレルおばさんにあまり好意的でない表現がある。そういうわけで、アンネットは別れ道で、「家まで送ろう」と言うモレルおばさんの申し出をやんわりと断って、一人で帰路に着いた。アンネットは一人で静かに、この雄大な星空の銀世界に身を委ねたかったのだ。

家に戻ったアンネットを出迎えたのは、蒼白な顔をした父親だった。彼はアンネットを、彼女の母親のところへ連れて行く。母親は寝台に横たわったまま、「あなたの弟ですよ」と弱々しい声で言い、産んだばかりの息子をアンネットに託して息を引き取った。アンネットはしばらく小さな弟を見つめながら色々なことを考えていたが、やがて眠りに落ちていった。

2 おばあさんをむかえて
こうしてダニエル・バルニエルは、7歳のアンネットの子供になった。アンネットはあらん限りの愛を込めて、幼いダニーを育てた。家にお金がなくなり、ついに飼っている牛を売らなければならなくなると、アンネットはもうダニーのために誰かを雇わなくてもよい、自分が一人で学校に行かずにダニーの世話をすると宣言する。

父親はダニーとアンネットのために、遠くの町に住むおばあさんを家に迎えることにした。手紙を受け取ったおばあさんはすぐさまアンネットの家にやってくる。おばあさんはとても歳を取っていたが、二人のために自分にできることはなんでもしてくれた。ちなみに、原作ではおばあさんは電気機関車でやってくる。文明レベルがアニメより高そう。

おばあさんはできることが極めて限られていたので、アンネットはやはり学校には行けなかった。この辺りもアニメとは異なる。アンネットは先生に懇願し、家で勉強する代わりに、毎週土曜日に先生の家に行き、勉強の進み具合をテストすることで承諾を得る。そしてこれは、ダニーが5つになるまで続けられたのだった。

3 赤いスリッパの中に何が?
5歳になったクリスマス・イブ、ダニーは初めてアンネットと一緒に教会へ行った。その日の夜、ダニーは姉に唐突に、窓の敷居のところにスリッパを置いておいたら、サンタクロースが来るだろうかと尋ねる。アンネットは一体ダニーがどこでそんな話を知ったのだろうと不思議に思いながら、サンタクロースはお金持ちの家にしか来ないのだと諭す。シュールだ。

ダニーは一応納得はしたものの、どうしてもあきらめきれなかった。だから、アンネットが寝付いてから、こっそりと起きて裏口から外に出て、雪の積もったそこにスリッパを片方置いておいたのだった。そして翌朝、起きてそこへ行ってみると、なんとそこには、飢えと寒さに死にかけた白い子ネコが入っていたのだ。

ダニーと、一緒に見ていたお父さんは急いで子ネコを家に入れると、温かくしてミルクを飲ませる。子ネコはお父さんの提案で、クラウスと名付けられた。やがて起きてきたアンネットは事の次第を聞き、子ネコは恐らくクリスマスの天使たちが贈ってくれたものだと思った。彼女はサンタクロースがいるとは思ってなかったが、天使たちは信じていたのだ。

4 アンネットのちこく
その朝、ルシエンは母親に怒られて不機嫌だった。ルシエンはそりに乗って学校への道を急いでいたが、あまり周囲に気を配っていなかった。そのため、前を走っていたアンネットのそりとぶつかり、彼女を溝の中に落としてしまう。ルシエンはすぐに助けに行ったが、アンネットはひどく怒っており、その上元々ルシエンが好きではなかったので大声で怒鳴りつける。

この口論がすさまじい。アンネットが「大ばか者! あんたはいったい前を向いて走っているの?」と口火を切ると、ルシエンは「わざとしたわけじゃないんだ。もし、ぼくがわざとしたんだったら、君のぼろ本を引きさいたりなんかしないで、君を殺してしまっているよ」と反論。もはやアニメのような痴話ゲンカのレベルじゃない。

結局ルシエンはアンネットを助けずに学校へ行く。遅れてきたアンネットは泣きながら先生に事の次第を激白。クラスの生徒はみんなアンネットに味方した挙げ句、先生はルシエンを鞭で打ったのだ。むごい。

帰り道でルシエンは雪だるまを作っていたダニーと遭遇する。ダニーは優しい子だったが、ルシエンにアンネットがしたことを許せず、嫌みを言う。ルシエンは怒って雪だるまを蹴り壊し、それを見つけたアンネットがルシエンを平手打ち。すぐにやり返そうとしたルシエンだったが、彼女の父親の姿を遠くに見つけて言語の暴力。アンネットも負けじと言い返す。痛快な小説だ。

夕方、アンネットはおばあさんの、「怒っても、罪を犯してはなりません。日が暮れるまで憤ったままでいてはいけません」という聖書の言葉を思い出し、ルシエンに謝ろうと思う。けれど、悪いのはルシエンなのだからと、謝るのをやめてしまう。ルシエンもまた、雄大な自然の中でアンネットに謝ろうと思ったが、やはりアンネットを許すことができずに謝らないのだった。

5 ルシエンのおそろしい秘密
3月に来るアンネットの誕生日。贈り物をするのが大好きなダニーは、アンネットのためにたくさんの贈り物を用意していた。そして待ちに待った誕生日の前日、ダニーはアンネットにクロッカスの花を摘んでこようと、クラウスを連れて山へ行った。

ダニーが花を摘んでいるところに、ルシエンが現れる。ルシエンはアンネットにぶたれたことを未だに根に持っており、仕返しをしてやろうとダニーの後をつけていたのだ。なんて根暗なんだ。ルシエンはダニーの摘んだ花を取り上げ、靴で踏みにじった。ダニーは怒って、「おとうさんに言いつけてやるんだ」と言い放つ。それに青ざめたルシエンは、なんとしてもダニーを止めなければならないと、ついに脅迫に出る。

ルシエンはクラウスを取り上げると、それを谷の上に掲げて告げ口をしないと約束させる。けれど、ダニーが何かを言うより早く、クラウスが暴れてルシエンを引っ掻いたのだ。驚いたルシエンは思わず手を放してしまい、クラウスは真っ逆さま。ダニーは後先も考えずに谷に飛び出し、痛烈な叫び声を上げながら落ちていった。

ルシエンはダニーが死んだと思い込み、絶望に打ち震える。けれど、結局どうすることもできず、ついには今ならまだばれないだろうと、大急ぎで逃げ出したのだった。素敵すぎる。

6 暗い谷底で
あまりにも帰りの遅いダニーを心配して、おばあさんは買い物から帰ってきたアンネットに、すぐに探しに行くよう言う。アンネットは初めは大したことではないと思っていたが、やがて帰ってきた父親までがダニーの行方を知らないと言い出したので、二人でダニーを探しに家を飛び出した。

しばらく森を探したがダニーは見つからず、二人はルシエンの家に行くことにした。そして、モレルおばさんと3人で、牛小屋で泣いているルシエンを発見する。アンネットが問いつめると、ルシエンは「ダニーは死んでしまった」と激白。事の次第を聞いたアンネットはこう言った。「ルシエンに行ってもらって、場所を教えさせなければ。そうすれば、おとうさんがダニーの死体を家に運んで帰ることができるわ。そして、その後で……ルシエンを殺してやる」怖ぇ!

二人はルシエンを連れてすぐにダニーの落ちた谷へ行った。アンネットの父親は一度家に帰ってロープを持ってくると、谷を下りていく。そしてそこでダニーを発見したのだった。ダニーは足を折っていたが、一命は取り留めていた。

7 救い主のみ手に抱かれて
部屋でみんなに甘やかされるダニー。ダニーがおとうさんに「ルシエンが、クラウスを石垣の向こうに落としたんだよ。ルシエンはとっても意地悪だね」と言うと、おとうさんは「そうだとも。あの子はきっと罰を食うよ」と答える。アニメの、あの天使のようなダニーも、物わかりのいい父親も、ここには存在しない。

ダニーが寝付いてから、ルシエンの姉のマリーが家にやってくる。アンネットは何が起きたのかを聞きたがるマリーに、ルシエンのしたことを話してやった。するとマリーは、「ルシエンをきつくこらしめてやらなくちゃ。わたし、弟をひどい目に会わせるわ」と立腹。地の文には「マリーは、前から弟のルシエンがきらいでした」とあり、やはりアニメの、あの弟を心配して暗い顔で帰りを待つ優しい姉の姿はない。原作ではこのように、誰も彼もがルシエンを恨む。

ただ一人、おばあさんだけが、ルシエンを許しダニーのために祈りを捧げるよう、優しくアンネットを諭す。けれどアンネットはルシエンを許すことができず、どうやってルシエンに復讐してやろうか、そればかり考えていた。ルシエンへの復讐のことを考えながら、ダニーのために祈ることはできない。もしもダニーのために祈ったら、ルシエンへの憎しみが消えてしまうかも知れないからだ。そこで仕方なく、アンネットは祈りはおばあさんに任せ、自分は復讐を企てることにした。どこまでも過激だ。

8 かもしかを作ったルシエン
その日の晩、ルシエンはほとんど眠れなかった。眠っても、夢にうなされて目を覚ましてしまうのだ。またルシエンは、翌日のことを考えると嫌で嫌でたまらなかった。明日になれば学校に行かなくてはならない。しかしアンネットはみんなにダニーのことを話すだろうし、そうなればルシエンがみんなに憎まれるのは必至だ。

翌朝、ルシエンは不幸のどん底にあったが、彼の母親はそういうことのわかる人ではなかったので、優しくしてやることもできず、ただルシエンを叱るのだった。ルシエンはろくに食事も取らずに家を飛び出した。そして学校には行かずに、森にやってくる。そこでルシエンは、持っていたナイフで何気なく木切れを削り始めた。木切れはカモシカになり、ルシエンは興奮する。そして、大して取り柄もなく何も出来ない自分にも、こうして彫刻が出来るのだと、勇気を取り戻した。

さて、家に帰ったルシエンは、母親にさも学校へ行ったかのように嘘をつく。ところが、帰ってきたマリーが、ルシエンが学校へ行かなかったことを罵倒する。マリーは先生からルシエンのことを聞いたのだ。嘘をつかれたことを知った母親も投げ出してしまい、ルシエンはついにありとあらゆる逃げ道を失ってしまう。

9 病院
いよいよダニーが病院へ連れて行かれる。遠くの町まで、父親の荷車に乗せられて行く最中、村の人たちがダニーとアンネットに話しかけた。小さな村なので、ルシエンのことはすでに知れ渡っており、誰もがアンネットの話を聞いてルシエンを罵った。

病院に着くと、大きな黒いあごひげを生やした、無愛想な先生がダニーを看た。ダニーはやはりひどい骨折をしており、先生は入院が必要だと言う。けれど、父親もアンネットも、ダニーをこの先生に預けたくなかったので、ギプスをしてもらうや否や、そのギプスをいつ外してよいのかすら聞きもしないで、さっさと病院から帰ってきてしまう。

それからは、約3ページに渡って、ダニーがいかに幸せで、甘やかされた子供であるかが書いてある。ダニーは村中の人に愛されていて、彼らはみんな、可哀想なダニーのためにプレゼントをした。ダニーは人に可愛がられるのを当たり前に思っていたが、わがままなところはなく、いつもたくさんの人が見舞いに来てくれることを大喜びしていた。

10 ノアのはこぶね
事件以来、ルシエンはいじめぬかれ、ひとりぼっちだった。先生にはさらされる、子供には泥を投げられる、教室での席は孤立させられ、近所の母親たちは子供にルシエンのことを悪く言い、村の人たちは冷たい態度。けれどそれは、ルシエンにも非があった。ルシエンは常に後ろめたさを感じており、飛び込んでいく勇気がなかったのだ。

そんなルシエンが唯一幸せになれるのが、森の中だった。そこで木彫りを作っているときが、一番安らぐのだ。ある日、ルシエンが木彫りを作っていると、森に住むおじいさんに声をかけられた。彼は村の人たちから恐れられていたが、ルシエンは声をかけてもらえたのが嬉しくて、彼について行く。

おじいさんは木彫りの名人だった。彼はルシエンの木彫りを誉め、やがてはそれで生活できるようになるだろうと言う。おじいさんの家にはたくさんの木彫りがあり、ルシエンはそれに惹かれた。そして、小さな動物たちの詰まったノアの方舟を見たとき、ルシエンはそれをダニーのために作ろうと決意する。

ルシエンはおじいさんと友達になり、彼の家に通うようになった。ノアの方舟はやがて完成し、ルシエンはそれをダニーにあげることをおじいさんに打ち明け、自分がしてしまったことも話した。ルシエンは方舟を持ってダニーの家に行き、ベランダにいたアンネットに渡す。ところがアンネットは、「よくもまあずうずうしくここへ来れたものね!」と怒り、その方舟を丸太の山に投げつけたのだった。

11 山の上で
ダニーが怪我をしてから、医者が時々山を登ってダニーの様子を見に来ていたが、ギプスを取った時、彼はバルニエル氏に、ダニーの足はもう治らないと宣告する。ダニーの悪い方の足は、良い方より短くなっていたのだ。そこでバルニエル氏は、息子のためにクマの付いた松葉杖と底の厚さの違う長靴を作る。それは大工と靴屋の心遣いで、ダニーにとって素晴らしい贈り物になった。

夏になり、牛を山に連れて行く時期になると、ダニーが自分が足を怪我したために行けなくなったことに泣き出した。父親はダニーの願いは何でも叶えてやる人だったから、荷車に乗せて連れて行くことにする。山でもダニーは、「てっぺんに連れて行ってほしい」と無理を言い、やはり父親もアンネットもそれを叶えてやるのだった。我が儘極まりない。

12 アンネットの悪だくみ
もうじき学校で展覧会が開かれ、男の子は木彫りを作り、女の子は編み物を出すことになっていた。ルシエンはしばらく前からこの展覧会のために、木彫りの馬を作っていた。それは他の子供たちのより遥かに上手で、ルシエンはこの作品で一番になり、みんなを見返してやろうと思っていた。

この頃、バルニエルさんはルシエンの家の草刈りを手伝っていた。地の文に、「バルニエルさんもルシエンと話したくありませんでした。近所の人の草をかるのと、自分の子どもの足を悪くした少年と話をするのとは、全く別のことだったのです」とあり、やはりアニメに比べて父親も刺々しい。

そんな父親のために弁当を持ってきたアンネットが、ふとベランダにルシエンの木彫りが置いてあるのを見つける。それはアンネットの目にも一番間違いなしの出来映えで、アンネットはルシエンがそれを出品して褒美をもらう姿を想像し、とても嫌な気持ちになった。そこでアンネットは、その木彫りをそこから投げ落とし、さらに下へ行ってそれを踏みつけて壊してしまう。

アニメとは違い、アンネットは「ゆっくり歩いて」家に帰る。堂々としたものだ。家に帰ったアンネットを出迎えたのは、アンネットが捨てたルシエンのノアの方舟で遊んでいるダニーだった。素晴らしい木彫りの動物たちを見つけて喜ぶダニーに、アンネットはそっけない対応をしてダニーを悲しませる。部屋に戻ったアンネットは、自分がダニーに取った態度や、ルシエンにしてしまったことを思い、ワッと泣き伏した。

13 おじいさんの物語
ルシエンは、アニメとは違い、木彫りはネコに壊されたのだと思い込む。それでもショックなことに代わりはなく、ルシエンは森のおじいさんのところへ行き、そこで絶望的な心境を吐露した。おじいさんは、「もうだめです。みんなに好かれる方法はありません」と消沈するルシエンに、「みんなから好かれたいと思うんだったら、まず、君自身がみんなから好かれるような人にならなければだめなんだ」と説く。

それからおじいさんは、自分がこの森に一人で住む経緯を語った。おじいさんは昔銀行員をしており、妻子もあったが、酒とばくちに溺れ、職を失ってしまった。妻が彼の代わりに働いたが、金は減るばかりで、とうとうおじいさんは銀行に盗みに入る。けれど捕まってしまい、おじいさんは長い間牢に入れられることになった。彼の妻は、彼が牢に入れられている最中に死んでしまった。

牢から出たおじいさんは、息子たちに会ってはいけないと考え、一人で人生をやり直そうとする。彼はなかなか雇ってもらえなかったが、ようやくこの村である男に雇ってもらえた。おじいさんはその人のために一生懸命働いた。やがてその人も亡くなり、おじいさんはこの小屋をもらった。そして、自分が盗んだ分の金を、いつか本当にお金を必要としている人に与えるために木彫りを作り続けているのだった。

話を聞いたルシエンは、もうもらえなくなった褒美のことなどどうでもよくなり、ただダニーの役に立とうと考える。そして、まず今は、息子の木彫りが壊れて悲しんでいる母親に元気な顔を見せてやろうと、足取り軽く帰路についた。

14 ノアのはこぶねはだれが作った
展覧会の日、ダニーはどうしてもアンネットのセーターが一番になって欲しかった。だから、作品を審査する人が一つ一つ作品を手に取り、やがてアンネットのセーターを手にしたとき、「それ、ぼくのおねえちゃんが作ったんだよ」と突然大声を出す。そして、自分はそれが一番気に入っていることを訴え、結局丸め込まれる形で審査の人もアンネットのセーターを一番にした。

男の子の方はピエールという少年が褒美をもらった。みじめな気持ちでルシエンが歩いていると、ふとダニーが遊んでいるのを目にして立ち止まる。ダニーはルシエンのノアの方舟で遊んでいたのだ。ルシエンが近付くと、ダニーは「あっちへ行け、いやなやつ」と叫んだ。アニメのダニーとは雲泥の差だ。ルシエンはその方舟は自分が作ったのだと言ったが、ダニーは妖精が置いていったのだと主張する。

やがてそれを見たアンネットが、割って入ってダニーを連れて帰る。夕食の席で、ダニーはアンネットに、ノアの方舟は本当にルシエンが作ったのかと尋ねた。アンネットは嘘をつくのは嫌いだったが、ダニーがルシエンと仲直りするのはもっと嫌だったので、そんなはずはないと嘘をついた。アンネットはとても嫌な気分になり、せっかく褒美のもらえためでたい日も、こうしてダメになってしまった。

15 閉ざされた戸
この話から一気に宗教色が強くなる。時はクリスマス。毎年のごとく、アンネットとダニーは教会にやってきていた。前半は数ページに渡り、ダニーが如何にクリスマスが好きであるかが書いてある。ダニーにとってこの日は、自分の誕生日であり、クラウスと出会った日であり、そしてイエス様の誕生日でもある。ダニーはそれが何より嬉しかった。

教会で牧師さんが話をしている最中、アンネットは牧師さんの口を通して語られたイエス様の言葉について考えていた。「見よ。わたしは、戸の外に立ってたたく。だれでも、わたしの声を聞いて戸をあけるなら、わたしは、彼のところにはいる」アンネットはそれを聞いて、イエス様を心の中に迎え入れたいと思った。けれど、それにはルシエンを許さなければならないし、自分がルシエンの木彫りを壊したことを咎められるだろう。アンネットはそれが嫌だった。やがてダニーに呼ばれるまで、アンネットはずっとそのことを考え続けていた。

16 雨戸を開けると
教会から帰ったアンネットは、おばあさんに「イエス様がわたしたちの心の戸を叩いている」というのがどういうことか尋ねる。おばあさんは、イエス様は愛をもって、心の中の憎しみや我が儘と言った暗闇を取り払ってくれる。イエス様はいつでも誰にでも、「わたしを家の中に入れてくれたら、暗闇を追い出して、美しい、明るい家にしてあげます」と、戸を叩いているのだと言う。

けれど、この話を聞いてなお、アンネットは「ルシエンとお友だちになるのなんか、絶対にいやだわ」と思い、結局「イエスさまが戸をたたいていらっしゃるということなんか、忘れてしまおう」と、心の戸に鍵をかけてしまった。この辺りの発想の過激っぷりが良い。

さて翌朝、クラウスがいなくなったとダニーが朝から騒ぎ立てる。クラウスは結局夜まで戻らず、ダニーは一日泣いた挙げ句、アンネットに「帰って来たら、ぼくを起こしてね」と言って寝てしまった。アンネットはしばらく所在なげに歩いていたが、ふと小川の方へ行ってみたくなった。そうしたらクラウスに出会うかも知れない。アンネットは雪深い野原に躍り出た。

17 助け出されたアンネット
小川の近くまで来ると、アンネットは不意に足を滑らせ、足首をひねってしまった。とても歩くことが出来ず、這って進むのでさえ激しい痛みを伴った。アンネットは恐怖に駆られた。こんな夜に、一体誰がこんなところを通るだろうか。アンネットはこのままでは凍死してしまうと思った。

アンネットはふと、森の中に木こりの家があるのを思い出し、そこへ向かった。アンネットはようやくの思いで辿り着き、家の戸を叩いた。けれど、木こりの夫婦は留守だった。アンネットは戸を叩きながら、ふとおばあさんの話を思い出す。実は木こりの夫婦は小屋の中にいて、アンネットを無視しているのではないか。もしそうだとしたら、それはなんという悲しいことだろう。自分はすぐにあきらめてしまったが、それでもずっと戸を叩き続けるイエス様は、なんと立派なのだろうと。

その時、森の方からスキーの滑る音が聞こえてきた。アンネットが気付いてもらおうと必死に声を上げると、果たしてアンネットの許に来たのはルシエンだった。ルシエンは森のおじいさんの家から帰るところだったのだ。ルシエンは自分のマントをアンネットに着せ、ジャケットを頭にかぶせてやった。そしてすぐに助けを呼んで戻ってくると、自分はシャツだけで帰っていった。

待っている間に、アンネットはとうとう改心し、イエス様を心の中に向かい入れることを誓う。そして、ルシエンを愛することができるよう祈り、彼に馬の木彫りを壊したことを話す勇気をくださいと願うのだった。

18 答えられた二つのいのり
大きなソリを引いて戻ってきたルシエンに、アンネットは勇気を出して木彫りを壊したことを告白した。ルシエンはそれを聞いても、不思議と怒りは湧かず、むしろ嬉しい気持ちになった。家に帰ると、アンネットはルシエンを家の中に招き入れ、おばあさんはそれを見て嬉しそうにルシエンをもてなした。

ルシエンが帰ると、クラウスが家に戻ってきた。クラウスは子ネコを連れており、外と中を数回往復して、計3匹もの子ネコを連れてきた。ダニーはすでに寝ていたが、アンネットは約束だからとそっとダニーを起こし、クラウスが帰ってきたことを教える。ダニーは、「ぼくは、クラウスがきっと帰って来ると思ってたんだ。神さまにお願いしたんだもの」と嬉しそうに呟き、再び眠りに落ちていった。

19 やみが消えて光が
イエス様を心の中に迎え入れ、ルシエンと仲直りしたアンネットだったが、ルシエンが自分のせいで展覧会の褒美がもらえなかったことが気になっていた。もしもルシエンの作ったノアの方舟を先生のところに持っていけば、先生はルシエンの木彫りの素晴らしさをわかってくれるだろうが、アンネットはそれを言うのが怖くてたまらなかった。一体先生や他の子供たちは自分をどう言うだろうか。

そんな話をおばあさんに打ち明けると、おばあさんは、「全き愛」について語る。曰く、イエス様が心に入って来られると、全き愛が不親切や我が儘だけでなく、恐れも閉め出すらしい。それを聞いたアンネットは勇気が湧いてきて、すぐにでも先生のところへ行くと言い、父親に送ってもらうことにした。

先生は話を聞いても、アンネットを叱ったりはしなかった。けれど、アンネットが他の男の子に与えた褒美をルシエンに与えて欲しいと頼むと、それはできないと断った。そこでアンネットは、先生のアドバイスに従い、自分の褒美をルシエンにあげることにする。それは美しい本だったが、アンネットから渡されたルシエンは、それを二人で共有しようと言い、それからその本は、二人の間を行き来するようになった。

20 遠くの町へ
ルシエンがアンネットから本をもらった日、たきぎの上で二人でその本を読んでいると、ダニーがアンネットを呼びに来た。ダニーは松葉杖をついて長い距離を歩いてきたのでとても疲れ、そんなダニーを見て、アンネットはまたルシエンを許せない気持ちになるのだった。ルシエンもまた心を傷め、イエス様が人々の病気を治したように、ダニーの足も治してくれればと思った。

その夜は吹雪になった。雪まみれで家に帰ってきたマリーが、嬉しそうに母親にお金を渡した。聞くと、働いているホテルにとても有名な医者が来ていて、その人がくれたという。その人は折れた骨ならどんなものでも治すと評判らしく、それを聞いたルシエンは是非ダニーを看て欲しいと思う。けれどマリーの話では、その医者は明日の朝早くに汽車で帰ってしまうと言う。最終列車はとうになくなっているし、峠はこの雪では越えられない。マリーと母親は、あきらめろとルシエンをなだめた。

ルシエンは黙り込んだが、心の中ではなんとかその医者に会おうと考えていた。ルシエンは3つの問題を考える。1つはお金の問題。これは森のおじいさんにお願いしてみようと思った。峠を越えられるかはわからないが、やってみる価値はある。そして、そんな有名は医者が、こんな遠くの農村まで来てくれるか。けれどマリーはとてもいい人だと言っていたし、信じてみよう。ルシエンはすぐに部屋に戻って出発の準備を始めた。

21 吹雪の中を
ルシエンは部屋に戻ると、完全防備で外に飛び出した。そしてまず森のおじいさんのところへ行く。おじいさんはルシエンの話を聞き、果たしてその医者が本当に信用できるのかと怪しんだ。けれど、ルシエンがその医者はギベットという名前だと言うと、おじいさんは突然青ざめた顔をし、これまでこしらえてきた金を取り出して、「借りた金を返すんだと言ってほしい」と言ってルシエンに渡した。ルシエンはなんのことかよくわからなかったが、深くは追求しなかった。

一度家に戻ってスキーを履くと、ルシエンは再び吹雪の中に飛び出した。大雪、見慣れぬ道、その上孤独。ルシエンは何度も挫折しそうになった。けれどルシエンは、アンネットのおばあさんの言っていた、「全き愛は、おそれをしめ出す」という言葉を思い出す。自分は独りぼっちではない、いつも近くにイエス様がいるんだ。そう思うと、ルシエンは勇気付けられて再び立ち上がった。そしてやがて峠を越え、町を目指して一心に滑り続けた。

22 愛はあらしより強い
吹雪の翌日、ギベット先生は家に帰るのをとても楽しみにしていた。ところが、朝早く玄関番がやってきて、ルシエンのことを伝える。ギベット先生は、あの吹雪の中、少年が一人で峠を越えてきたなどという話はとても信じられなかったが、実際にホールで横に寝かされていたルシエンを見てその話を信じることにた。

毛布にくるまれたルシエンはダニーのことを話し、どうか看てはもらえまいかと頼む。ギベット先生は家には帰りたかったが、まさか少年を放ってはおけず、命懸けでやってきたルシエンのためにダニーを看てやることを約束した。ギベット先生はまた、ルシエンの持っていたお金のことをが気になり、ルシエンに尋ねたが、彼は約束通り、「あるおじいさんが、借りた金を返すと言っていた」としか言わなかった。

その後ルシエンは、ギベット先生にダニーの怪我の原因を尋ねられ、自分がしてしまったことを正直に話した。ギベット先生はその話を聞き、またルシエンが無事に辿り着いたことで、きっと神様がダニーを助けようとしているのだと考える。ルシエンもまたイエス様が守ってくださったのだと感謝し、アンネットと同じように心の戸を開いたのだった。

23 お医者さんをむかえて
ギベット先生はルシエンと一緒に、バルニエルさんのそりに乗ってダニーの家にやってきた。それからしばらくダニーを歩かせたり話を聞いたりして、ダニーの様子を窺う。そして、巧みにダニーを部屋の外に行かせると、お父さんやおばあさんに、ダニーを治すには入院と手術が必要だと言った。

お父さんは手術が嫌いだったが、おばあさんが賛成したので入院に同意した。やがて部屋に戻ってきたダニーにそのことを伝えると、ダニーは手に負えないほど泣き出した。仕方なくギベット先生はアンネットに同行を頼み、アンネットも一緒について行くことになった。

それからギベット先生はルシエンを家に送り届け、マリーにこっそりと森のおじいさんのことを尋ねる。マリーは隠す必要がなかったのでおじいさんの家を教え、ギベット先生は実の父親と再会した。彼は長い間、父親に帰ってきて欲しかったのだった。

24 アンネットとダニーと子ネコの出発
出発の前夜、アンネットはルシエンのところに行き、吹雪の晩の話をせがんだ。ルシエンはひどく疲れており、上手く話せなかったが、やがてアンネットがイエス様のおかげで憎しみを捨てられたように、自分もイエス様のおかげで恐れを捨てられたのだと語る。二人は改めてイエス様に感謝を捧げた。

家に戻ったアンネットは、おばあさんから聖書の一節を教わった。それは、「愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません」というものである。これからアンネットは、町で子供たちの世話をしなくてはならない。その中には辛いことや腹の立つこともあるだろうが、そんな時はこの言葉を思い出して頑張るのだとアンネットを励ました。翌朝、二人はギベット先生に連れられて町へと旅立っていった。

25 鳥の歌
病院では、アンネットは忙しく立ち回らなければならなかった。おばあさんの言った通り、子供たちは手に負えず、アンネットは何度も不機嫌になったが、そのたびにおばあさんから教わった言葉を思い出して我慢する。そうしてアンネットは、少しずつ我慢強くて親切な子になっていった。

一方のダニーは、手術をしてからはあまりの足の痛みに、毎日のように泣いたり怒ったりして周りに当たった。そんなダニーを慰めたのは、壁にかかっていた一枚の絵だった。それは、色々な人種の子供たちがイエス様を見上げている絵であった。アンネットはその絵の説明をするが、ダニーにはよく理解できなかった。

ある早春の日、ダニーはついに良くなった。足は痛まず、病室から見える雄大な自然がダニーの心を洗い流した。ダニーはやってきたアンネットに、自分の宝物でもあるクマの松葉杖を、あれを欲しがっている男の子にあげてほしいと頼む。そう、もうダニーにはそれは必要なかったのだ。

26 罪ゆるされた喜びの日
アンネットたちがいない間、山でも同じように時間が流れていた。改心したルシエンは、もうすっかり学校でいじめらることもなくなり、仕事にも精を出した。そして頻繁にバルニエルさんの家に行っては、彼らを手伝った。中でもルシエンはアンネットからの手紙を読むのが好きで、よくおばあさんに読んで聞かせる。おばあさんはダニーの描いた絵を聖書の表紙に挟み、日に何度もそれを並べて眺めた。

三月になると、ルシエンにとって悲しいことが起きる。おじいさんが山を下りて、ギベット先生と一緒に暮らすというのだ。それは二人が再会した日に決まったことだった。おじいさんはルシエンに素晴らしい十字架の木彫りをプレゼントし、これからも山に遊びに来ることを約束する。それからおじいさんは、ルシエンに見送られて山を去っていった。

そしていよいよ春が訪れると、アンネットから帰って来るという手紙が届く。二人が乗ってくる汽車を多くの人が出迎え、二人は人でいっぱいのホームに降り立った。ダニーは真っ直ぐにルシエンの許に走ると、歩けるようになった報告をする。ダニーは本当に歩けるようになったのだろうかと心配していたルシエンは、思わず嬉しさのあまり涙を零した。ルシエンの罪はこうして永遠に許され、忘れ去られたのだった。



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