『 南の虹 』 あらすじ



■書名 : 南の虹
■著者 : ピディングトン・フィリス
■訳者 : 一関春枝
■定価 : 880円
■出版社 : 講談社
■ISBN : 4-06-145080-8
■初版発行日 : S57.6.17
■購入版発行 : S57.6.17 ( 初版 )
 
■購入日 : 2004/05/25 (注)未購入、図書館利用






−管理人がテキトーに考えた紹介文−


イギリスのヨークシャーで農業を営んでいたポップル一家は、

3ヶ月もの船旅の末、ついに南オーストラリアに辿り着いた。

自由と広大な土地を求めて移民してきたのである。

ところが、そんな一家を待っていたのは、

広大な土地はおろか、

家や食べ物さえままならない、困難の日々だった。

夢を捨てず、力を合わせて困難に立ち向かう

ポップル一家の生活をリアルに描いた、ピディングトンの処女大作。




管理人の雑談
小説『南の虹』は、1982年に講談社セシール文庫より刊行された小説である。言わずと知れた、世界名作劇場『南の虹のルーシー』の原作の訳書であるが、現在では入手は極めて困難で、管理人も図書館で借りて読んだ。原作は『Southern rainbow』というタイトルで、Oxford University Pressから1982年に刊行されたが、訳書同様、現在は絶版になっている。メルボルンを旅行した際、大きな古本屋で問い合わせてみたが、やはり見つからなかった。訳書に関しては現在復刊の動きがあるが、2004年5月現在、実現には至っていない。こういう事情のため、他の入手可能な原作本より詳しく紹介してみたいと思う。

本編は以下に詳しく書いていくが、ここでざっとアニメとの違いという観点で見ていこう。本編は大きく3部に分かれており、第一部はポップル一家が南オーストラリアに到着してから、クララとケイト、ルーシー・メイの3人がアデレードの小屋のような我が家を見るところまで。第二部はその小さな家で生活をし、やがてアーサーが石造りの新しい家の購入を決め、その話を家族の前でするところまで。第三部は石造りの家に移り住んで3年が経過したところから始まり、ルーシー・メイが偶然知り合った紳士プリンストンによって、ポップル家が念願の土地を手に入れるところまでである。

第一部の内容は、大まかにはアニメと同様である。正確には、アニメが原作に沿って作られている。ただし、一家にはクララ、ベン、ケイト、ルーシー・メイ、トヴ(訳書ではトッブ)の下に、さらにアナベルという2歳の妹がいた。けれど、アナベルは船の上で熱病にかかり、死亡している。海岸からアデレードへ向かう途中で、ルーシー・メイが一度だけこの死んだ妹のことを思い出すシーンがある。(※アナベルの方がトヴより上かも知れない)

第二部も概ねアニメと同様であるが、一家とともに暮らしていたデイトンは出てこないし(ルーシー・メイがアナベルを思い出すシーンで、少しだけ酒飲みの船医について触れられている)、ペティウエル(訳書ではペティウェル)は名前のみの登場で、ポップル家との接点はほとんどなかった。また、ルーシー・メイが病気になるシーンはなく、従ってベンはラテン語の本をなくすことなく、3年経った後でも勉強を続けていた。アニメでは最後にペティウエルに邪魔をされて土地を手に入れそびれるが、原作では純粋に土地を手に入れられずに、アーサーが新しい仕事を見つけて第三部へ移行する。また、ルーシー・メイの動物好きはアニメ同様だが、ディンゴは登場しない。

第三部は、アニメではルーシー・メイが馬車とぶつかり、記憶喪失になったところをプリンストンが助け、やがては土地に結びついたが、これはアニメの完全なオリジナルであり、原作はまったく違う経緯を辿る。原作では、ルーシー・メイが馬に乗ったプリンストン氏とぶつかりそうになり、二人はそこで知り合う。また後日、重たいすきを運んでいるルーシー・メイを見つけ、それを手伝うことでポップル家との結びつきが深まっていく。個人的には、現実味という観点では原作だが、物語としてはアニメの方が面白いと思った。また、原作ではアーニー(原作ではアニー)はアダムという子供をもうけており、第三部では2歳半だった。ところがアダムは、ピクニックの最中に誤って鉱山のトンネルに落ちて、アナベル同様死亡している。

これは管理人の主観だが、全編を通して、ケイトが主人公で物語は進行している。時折ベンやルーシー・メイが主役となる章もあるが、基本的には『南の虹』という物語は、ポップル一家が土地を手に入れる物語であるとともに、ケイトという少女の成長の物語でもある。ケイトはアニメとは異なり、非常に活発な少女で、いつも男の子と遊びたがっており、大人になることを嫌がっていた。女物の服を着るのを嫌い、冒険心のうずきを堪え切れずに一人で平野を探検に行ったり、男の子たちと混ざって原住民の踊りを見たりする。アニメとは異なり、というよりも、アニメではこの役目をルーシー・メイが引き受け、ケイトは活発は活発だが、姉としての立場を強調された感がある。

対してルーシー・メイは、主体で書かれていることがほとんどない。動物好きで心優しいのは同じだが、父親や兄や姉に怒鳴られるとおどおどしたり、すぐに泣いてしまう、やや内向的で臆病な少女で描かれている。動物もアニメのようには出てこないこともあって、陰の薄さを感じずにはいられない。

アーニー、クララ、ベン、トヴはアニメとほとんど変わらない(繰り返すが、正確にはアニメが原作に沿って描かれているという表現が正しい)。アーサーは非常に信仰心の厚い男で、アニメよりもずっと厳しくて冷たい印象を受ける。しつけには厳しいし、アニメではクララが劇場へ行くことを認めたが、原作では頑なにこれを拒否した。ジョンとも何度も意見の相違で対立している。こういうわけだから、逆に決して自暴自棄になって酒に溺れたりはしない。個人的にはアニメのちょっと情けないところが人間くさくて好きだが、一家の大黒柱としては原作のアーサーの方が信頼がおける。

最後に、読み終わった後に特に感動がなかったことを付け加えたい。恐らくこれは、小説は当時の人々の暮らしの紹介に主眼を置いており、あまり登場人物に重きを置いていないからだと考えられる。ケイトやルーシー・メイも、「当時の子供たち」の代表として描かれている印象を受け、アニメでは体から何か魂みたいなものが噴き出しそうなほどルーシー・メイに萌えまくった管理人でも、まったく感情移入できなかった。『世界名作劇場大全』で、著者が「探して読むほどの価値があるとは思えないが」と書いているが、確かに一小説としてはあまり読む価値があるようには思えない。管理人のように、「『南の虹のルーシー』の原作に興味がある」という人にしかお勧めしない。


第一部 ホールドファースト湾 一八三七年

居留地
アーサー=ポップルは、イギリスのヨークシャーに農場を持っていたが、それよりもさらに大きな農場を持つことを夢見て、一家とともに南オーストラリアへ移住してきた。物語は、一家がアデレード近くのホールドファースト湾にテントを張ったところから始まる。

アーサー=ポップルは、12歳になる息子のベンとともに、アデレードへ土地を見に行っている。一家はイギリスから組み立て住宅を運んできており、それを建てる土地を探すとともに、人口わずか300人のアデレードの町がどのようなものかを見に行ったのだ。16歳になる長女のクララは、体調を崩して寝込んでいた。末っ子のトッブはまだ小さく、邪魔にはなっても役には立たない。三女のルーシー=メイはまだ7歳で、この時もまたどこかに遊びに行ってしまって、いなかった。

母親であるアニー=ポップルがジャガイモの皮をむいていると、10歳になる次女のケイトが、泥だらけになって帰ってきた。水を汲みに行く途中に沼地を通り、その時に汚したものらしい。アニーは呆れてため息をついた。ルーシー=メイがどこからともなく戻ってくると、アニーはルーシー=メイを連れて、砂丘へと歩き出した。そこに残してあるトランクに用があったのだ。

トランクは錠が錆び付いていて、やっとのことで錠を開けると、今度は蓋が開かなかった。そこへ、ケイトと同い年のビリー=ジャムリングがやってきて、アニーを手伝った。トランクを開けてテーブルクロスを取り出すと、それをルーシー=メイに手渡した。ルーシー=メイは突風に煽られてよろめき、顔から砂の中に倒れ込んだ。アニーはすぐに助けようとしたが足をねじってしまい、代わりにやってきたミスター=パーカーが少女を助けた。

アニーは、親しげに話しかけてきたミスター=パーカーに、今主人と息子がアデレードへ土地を見に行っていることや、自分たちが農家の人間であり、この土地に農場を求めてやってきたことを話した。ミスター=パーカーはいつかここは商業で賑わうと見越して、この海岸に留まることを話した。

ケイトは、事前に母親から、ジョーンズさんがアシの小屋を作っているのを聞いていたので、ルーシー=メイが帰ってくると、それを見たかと尋ねた。他に、テトソンさんの家の人たちは何をしていたのかも尋ねたが、ルーシー=メイは原住民の女の子たちがひも輪を指にからませて綺麗な形を作っていた話や、小さな棒きれのような虫を見つけた話をしただけだった。ケイトが「もう、いいわよ」と言うと、ようやくルーシー=メイは、テトソンのおばさんは朝からずっとテントの棒を支えていたと言った。アニーはアーサーが道具を使うのが器用で良かったと言い、都会の人たちがここで暮らすのは、自分たちよりずっと大変だろうと言った。

夜になると、一家はちっとも帰ってこないアーサーとベンを心配し始めた。ケイトは、自分たちのたき火は少しくぼんたところにあるから、父親も兄も見つけられないかも知れないと思い、ペチコートで旗を作ることを提案する。ケイトはまだ着なくてはならない5枚のペチコートを処分したくてたまらなかったのだ。ルーシー=メイと一緒に、旗にはベンの汚れたシャツで月を作ろうと話していると、遠くの方から口笛が聞こえて来た。二人が帰ってきたのだ。

キャンピング
ミスター=ポップルはとても信仰深く、夕食のときも皿の横に大きな黒い聖書を置いていた。しかし、子供たちは神様に感謝する気持ちなど持ち合わせておらず、食卓の前を通り過ぎる人や、父親がたき火のそばの箱の上に置いたマトンの脚に興味を持っていた。食事を終えて、アニーがリンゴで作ったフルーツパイを出すと、どこからともなくやってきた大きな黒イヌが、マトンの脚をくわえ取った。ベンとケイトがようやくの思いで取り戻したが、脚はすっかりダメになってしまった。

ベンが肉を洗って戻ってくると、アーサーが昼の話を始める。そこでアーサーは建ちかけの家を買ったと言い、家族を驚かせた。一家は組み立て式の家に住むと信じていたのだが、アーサーはそれは売ってしまうと言った。オーストラリアにはそれを運ぶものもなければ動物もおらず、運ぶのにたくさんの時間と金がかかるからだった。アニーはショックを受けたが、気を取り直して、「『建ちかけの』って、どういう意味ですの?」と尋ねる。アーサーは、自分の購入した家が粗末であることを告白した。

翌朝、アーサーは食事の席で、家族全員に常に品行を正しくすることを改めて言った。また、原住民には近付いてはならないと言い、彼らと遊びたいと言い出したルーシー=メイを叱りつける。また、ケイトには、昨日悪い言葉を使ったことを叱り、全員に母親を助け、トッブの世話をするよう言いつけた。地の文には「父親は、めったにわらわない」とあり、アーサーの厳格さがうかがえる。

この日、ケイトとルーシー=メイは母親から遊んできても良いという許可をもらった。また、誰かがついていくなら浜辺に沿って少し遠くまで行ってもいいと言われ、ただちにビリー=ジャムリングを誘いに行く。もちろん、ビリーはこれに加わった。ようやく回復してきたクララが妹たちの弁当を作った。クララはまだ16歳だったが、とてもよく働く、生真面目な娘だった。アニーは二人に、海岸に着くまでは靴を履くことと、日よけ帽子をかぶること、それからビリーの言うことをよく聞くよう言いつけた。

砂と草
海岸を歩く最中、ルーシー=メイは度々足を止めては、貝がらやイカの骨、海草や小石をポケットに詰め込んだ。ケイトは途中で靴が鬱陶しくなり、それを脱いで焼けた丸太の後ろの茂みの中に放り投げた。アニーはヘビやトカゲを恐れるあまり、娘たちに常に靴を履くよう言っていたが、ケイトは靴が嫌いだったのだ。ビリーも同じように靴を脱いだが、ビリーはそれを持って歩いた。しばらく歩くとルーシー=メイも靴を脱いだ。

3人は平らな岩の上で食事をした後、浜辺で水遊びをした。ビリーが将来は探検家になって、フリンダー船長やライト大佐でも見つけられなかったところを探すんだと言うと、ケイトも自分も探検家になりたいと言った。ビリーは「女の子は探検しないさ」と笑ったが、ケイトは「わたしはするわ」と言い張った。

帰りに背の高い草の生い茂るところを見つけたので、ケイトは嬉々としてその中に飛び込んだ。倒れこむと体がすっぽり隠れてしまい、3人はそれが楽しくて何度もそうした。ルーシー=メイは草の中にうずくまっていると、気持ち良さのあまりつい眠ってしまった。不意に気が付いて起き上がると、ケイトもビリーもいなくなっており、ルーシー=メイは置いていかれて迷子になってしまったのかと、泣きそうになった。少し探すと、二人は小さなゴムの木の陰に立っており、怯えた表情のルーシー=メイを見て不思議そうな顔をした。

帰りは突然の雷雨になった。ケイトは雨の中、靴を探しに行ったが、それはなかなか見つからず、ようやく両方の靴を発見した時にはびしょびしょになっていた。テントに戻るとケイトは服を脱がされ、毛布に包み込まれて、濡れていないアニーのベッドに押し込まれた。ルーシー=メイはトッブと一緒にクララのベッドに入れられて、その上に毛布やタオル、洋服が積み上げられ、さらにニワトリのいる鳥小屋まで置かれた。ミスター=ポップルとベンは、隅の方で濡れた体を寄せ合っていた。ケイトだけが一晩中温かい毛布にくるまって、すやすやと眠ることができた。

ラム酒と家具
翌朝、ベンから乗ってきた船が座礁したという話を聞いて、アーサーはベンを連れて急いで海岸へ行った。まだ船に残してある家具を捨てられたら、大変である。その間、アニーと娘たちは洗濯に勤しんでいた。クララが洗濯をしていると、水夫のジョンがやってくる。ジョンは船の上で一家と特に親しくしており、クララと恋仲であった。ジョンはクララに、一度イギリスに帰ったら、弟を連れて再びこの南オーストラリアに戻ってくることを約束した。

海岸で、ミスター=ポップルは船に戻ろうとしていたボートを捕まえ、彼の言うところの「法外な値段」を払って船まで乗せてもらった。ベンが一人で残っていると、二人の酔った水夫に声をかけられ、彼らは樽を浜まで上げるのを手伝ってくれるよう頼んだ。ベンは手伝いながら、沖の方へ流されていく樽を見つける。けれど水夫は、「あいつはほっといていいんだ。ただの小麦粉さ」と言って取り合わなかった。ベンは泳げないしボートも漕げないので、もったいないと思いながらもその樽を見送るしかなかった。

樽を運び終わると、水夫たちは酒盛りを始めた。ベンは今度は、やってきた牛車がちっとも進まないのを見て、それを手伝った。御者はあまり善い男とは言えず、ののしり声を上げながら何度も牛を鞭で打った。ベンの協力もあってようやく牛車を砂丘まで運ぶと、御者は先ほどの水夫たちに交ざって酒を飲み始めた。

ミスター=ポップルが一度陸地に戻ると、彼を陸まで運んだボートはまた船の方へ戻っていってしまった。アーサーは酔った水夫にボートを出すよう頼んだが断られ、仕方なくベンと二人でボートを漕いだ。船に戻って箱や椅子やソファーを用意すると、今度は陸へ行くためのボートがなかった。半時間ほど待ってようやくボートを見つけ、二人は陸に戻る。荷物を確かめている間中、水夫と御者は酔って笑って歌っていた。アーサーは「酒なんぞくらって! 酒は国をほろぼすもとだ!」と吐き捨て、荷物は一時的にこの場に残していくことにした。

ステッキー
翌朝、いよいよ父親から、翌日の朝アデレードに引っ越すという話があった。アデレードまでは6、7マイルあり、クララとケイトとルーシー=メイは先に歩いて行く。家はどうやってわかるのかというケイトの質問に、父親は、家には目印としてネクタイを結んでおいたし、クララに地図を描くと説明した。アーサーは妻とトッブと荷物を載せて、後から牛車で向かう。ベンはここに残って、荷車に積めない荷物の見張りをするよう言われた。

この日、クララはイギリスへ出す手紙を書いた。ケイトとルーシー=メイは、父親から許しが出たので、海岸に今日到着した船を見に行った。海岸では、新しく到着した人たちが集まり、船長とともに礼拝式を行っていた。ベンは海岸を歩いていたが、ふと草やぶの方から妹たちの声が聞こえてきたので、そこへ行ってみた。すると妹たちは、木の根に足をはさんだヤギを助けようとしていた。ヤギの足は痛々しく血に塗れていた。

ベンがナイフを取り出して木の根を切るのを、ケイトは羨ましそうに見つめていた。ケイトは兄のようにナイフを持ちたかったのである。ようやくヤギの足を解放すると、ベンは手際よくその手当てをした。感心する妹たちに、ベンは「いつか、医者になるんだ」と呟く。二人は、ベンは農夫になるとばかり思っていたので驚き、ベンは言ったことを後悔して、二人に父親には言わないよう約束させた。

ベンは父親の用事を思い出したので、ヤギの足の手当てを終えると、後のことは任せて海岸へ戻っていった。ケイトとルーシー=メイは四苦八苦しながら、なかなか動こうとしないヤギを家まで連れて行った。途中でビリーを始めとした子供たちと遭遇し、ヤギは大人数に囲まれてポップル家のテントに連れて来られた。

船乗りと人夫
ベンはヤギの世話に時間を使いすぎたので、ようやく父親のもとへ行くと、「いったい、いつまで遊べば気がすむんだ」と怒られた。荷車にはすでに荷物が積み終わっており、二人の人夫が立っていた。御者のブロッキー=バートは昨日の酒が抜けないようで、まだぐっすり眠っていた。

アーサーが残りの荷物を取りにボートを漕いで行ってしまうと、ベンは荷車に自分たちのものではない荷物が積まれているのに気が付いた。ところが、それを人夫に言うと、彼らはいきなりベンに金を要求し、荷物を直そうとはしなかった。ベンが拒否すると、ビルという名の人夫がベンを殴り付けた。ベンは殴り返したが、すぐにまたやられてしまい、やがてぼっこぼこになると、向こうから二人の水夫がやってきて人夫を叩きのめした。彼らは、昨日酒を飲んでいた水夫で、「よくやった。おれは根性のある子が好きでね」と大きな声で言った。

それから水夫は食事を作り、ベンもそれに加わった。彼らはカンガルー島の話やアデレード港の話をしてから、ベンのために御者を起こし、荷物を積むのを手伝ってくれた。ベンは彼らにどれが自分の荷物かを説明してからテントに戻った。アーサーはその晩遅くに、残りの荷物を持って戻ってきた。

アデレードへ
アーサーは家族とともに、ブロッキー=バートの牛車に荷物を積んだ。積めなかった分はベンが見張りのために残り、ミスター=パーカーが引き受けた。ポップル夫人はトッブを膝に抱いて荷車に座った。3人の娘たちは、しばらくは牛車と一緒に歩いていたが、やがて予定通り先行し始めた。

しばらく歩くと、やはり今日引っ越しをしているジャムリング一家に追いついた。クララは二言三言言葉を交わして立ち去ろうとしたが、ルーシー=メイが暑くて死にそうになっているウサギを見つけて、「ウサギには日かげが必要だわ。でないと、死んでしまうわ」と訴えた。ミスター=ジャムリングはイライラしていたが、ルーシー=メイがあんまり熱心に頼むので、とうとうウサギのために立ち止まり、陰を作ってやった。

それから3人は、何やら揉め事を起こしているペティウェル一家に追いついた。ペティウェルは大変金持ちで、また意地悪な男だった。近付いて見ると、牛車の牛の一頭が死んでおり、もう一頭も死にそうになっていた。ペティウェルは顔色を変えて御者にげんこつを食らわせ、御者も日頃牛に浴びせるような品のない罵言を吐きながらやり返した。ケイトは、地の文を引用すると、「すっかり魅せられて、後々のために一語一句をおぼえたいと思った」らしい。変な方向にアクティブな少女だ。

もう少し歩くと、ケイトとルーシー=メイは喉の渇きを訴えた。クララは「森のはしにたどりつくまで待つのよ。そしたら、どこか日かげでお昼を食べましょうね」と言ったが、ケイトは「ここに、日かげはあるわ」と言って譲らなかった。不意にルーシー=メイが、「アナベルだったら、この南オーストラリアをどう思ったかしら?」と言った。アナベルとは彼女たちの妹だったが、船の上で熱病にかかって死んでしまったのだ。三人は小さな妹を思い出して涙ぐんだ。クララは、その時母親に親切にしてくれたジョンを思い出し、それから感情に流されてはいけないという祖母の言葉を思い出した。そして、妹たちを見て言った。「さあ、森へいきましょう。森の中はすずしそうだし、木かげが多いわ」

ついにアデレード
森に入ると、クララとケイトは花や鳥や新しい家のことをおしゃべりした。ところが、ルーシー=メイは一言も話さずに、心配そうに辺りを見回していた。ルーシー=メイは、魔法使いや邪悪な妖精が、森の大きな木の幹の陰に隠れていると信じていて、今にも飛び出してきて自分を連れ去るのではないかと怯えていたのだ。可愛い♪

不意にケイトが、アリの群がっている、砂糖の入った大きな袋を見つけた。三人はしばらくアリを払い除けながら砂糖を食べていたが、やがてクララがはしたないことをしていることに気が付いて、妹たちに先を促がした。ケイトがさらに他に落ちていた荷物をあさっていると、不意に荷物の下からヘビが現れた。幸いにも事なきを得たが、ケイトはクララにこっぴどく叱られた。

ケイトとルーシー=メイはひどく疲れていた。クララからようやく水を飲む許可をもらったが、二人とも塞ぎ込んでふらふらと歩いていた。さらに悪いことに、どうやら道から逸れてしまったようで、クララはだんだん心配になってきた。不意に、ケイトが何かに躓いて足を痛めてしまった。けれど、その躓いたものは測量士の打った杭で、それがクララに希望を抱かせる。ルーシー=メイが向こう側にひつじ飼いの姿を発見し、3人は喜んで彼のところまで歩いた。

ひつじ飼いはクララの見せた地図を見て、「そいつはポリーズレーンだろう」と言い当てた。それはそこからさらに1、2マイルも離れたところだったが、3人は必死に歩いた。ようやく、何度か話に聞いた、町を見下ろせるなだらかな坂道まで来ると、あまりにも何もない風景にケイトはがっかりした。そしてようやく自分たちの家に辿り着くと、3人は思わず呆然と立ち尽くした。地の文は引用すると、それは、「壁をどろでかため、ゆがんだ若木で組み立てられ、アシで屋根をふいた、あらけずりの小さな小屋」だった。あまりにもみすぼらしい小屋を前に、クララは思わず涙ぐみ、二人の妹は地面にがっくりと膝をついて激しく泣き出した。


第二部 アデレード 一八三七年

水と塗料
「ひどいわ! これはどうなっているの?」と、ケイトとルーシー=メイは泣きながら叫んだ。呆然としている3人の前に、緑色のドレスを着た優しそうな婦人が現れ、「ポップルさんのお子さんたち?」と尋ねた。婦人はこの先の丘をもっと下ったところに住んでいるマックだと名乗り、彼女たちの父親に世話になった時に、先に到着する娘たちのことを見る約束をしたと言った。マック夫人は簡単に家を案内してから、パンと水を用意して帰って行った。ケイトはひどく傷心し、先に草の中に入って目を閉じた。クララとルーシー=メイはしばらく家を眺めていたが、やがてケイトの隣で横になって休んだ。

牛車が到着すると、アニーも娘たちと同じように家を見てショックを受け、トッブの毛布に顔をうずめて泣いた。アーサーは今さらになって組み立て住宅を売ってしまったことを後悔し、少し憂鬱な顔をした。元気付けるために、家に荷物を入れるより先にお茶にすると、娘たちはこれまでの冒険談を話し、一家は少しずつ楽観的になってきた。

不意に雨が降り始め、一家は急いで中に入れられるだけの荷物を小屋の中に入れた。表の玄関から裏まで通れるように荷物を積み、寝床を作ったり、小さな荷物を整理していると夜になった。寝ようとするとトッブの姿がなく、一家は大騒ぎになったが、トッブは外でステッキーに寄りかかって眠っていた。

ようやく寝静まると、不意にガチャガチャと音が鳴り響き、子供たちが悲鳴を上げた。ミスター=ポップルは家族に安心させるように声をかけると、近くにあった洗濯棒を持った。ところが、音を立てていたのはベンだった。ベンは、ちょうど荷物を乗せてくれる人を見つけたので、テントを持ってやって来たと言う。一家は安堵の息をつき、アニーがベンにパンとお茶を用意した。パンにはアリがついていたので、ベンはお茶だけ飲むと、外に腰を置く穴を掘って眠った。

探検
朝、ルーシー=メイは目を覚ますと、ケイトを起こして探検に誘った。この狭い小屋の中にうんざりしていたのだ。二人はすぐに外に出ると、丘を下って川へ行った。しばらく川の向こうの北アデレードを眺めてから、川で水遊びしていると、不意にルーシー=メイが、馬と馬の引いている樽の中に水を入れている男の人を見つけた。

声をかけると、彼はチャーリーと名乗り、姉妹と同じヨークシャーから来たと言う。彼はこうして樽に水を入れて売っているのだ。姉妹は彼に故郷の農場の話をし、チャーリーは姉妹に自分の働いていた鉱山の話をした。彼は鉱山で背骨を折ってしまい、軽い仕事を探しにこの南オーストラリアに移住してきたと言う。

チャーリーと別れると、ルーシー=メイは子供たちの声がすると言って向こうへ行ってしまった。ケイトは昨日怪我をした足が痛んだので、その場に残った。足を水につけて冷やしていると、向こうからビリー=ジャムリングがバケツを持ってやって来た。二人は再会を喜び、少し話をしてから別れた。ルーシー=メイは、戻ってくると原住民の子供たちの遊びを嬉々として話したが、ケイトは「いけない子ね。そこにいってはいけないっていわれてるでしょ」とルーシー=メイを叱った。

帰り道で、二人は自分たちの家と同じような、泥と木とアシでできた小屋を見かけた。その内の一つに「商店」とあったので、ルーシー=メイはそれがマックさんの家だと言って駆け込もうとする。ルーシー=メイはひどくお腹が空いていたのだ。けれど、ケイトは足が痛くて仕方なかったので、「今いかないで」と妹を止めた。ルーシー=メイはイモムシを見つけて、それを拾い上げた。ケイトは店からペティウェル夫人が出てきたのを見て、興奮して妹の肘をつついた。その拍子にイモムシが落ち、ケイトは誤ってそれを踏みつけてしまった。「かわいそうなイモムシちゃん。ころされちゃったわ」とルーシー=メイが言い、ケイトは泣きじゃくる妹を連れて家に帰った。

訪問客
二人は家に戻ると、母親から「いく先をいわないで、かってに出かけてはいけません」と厳しく怒られた。また、毎朝手伝いをしなければならないと言いつけられる。アニーはまた、今ちょうどステッキーが子供を産んでいるところだと教え、二人は急いでステッキーのところに駆けつけた。ステッキーは3匹の子ヤギを産んだが、到着した時はその最後の一匹を産んでいるところだった。

朝食の席に父親の姿がなかったので、ケイトが疑問に思って尋ねると、マックさんのご主人の具合が悪いので、様子を見に行っていると言う。アーサーは一度戻ってきたが、オートミールを飲み込むとすぐにまた行ってしまった。父親がいなくなると、ケイトは水売りのチャーリーの話を始めたが、アニーはそれを遮ってケイトにディップ(ろうそくの一種)作りを命令した。ケイトはふてくされながらクララに作り方を教わった。

一家がお茶を楽しんでいると、不意に原住民の女性が現れた。ベンは一家を守らなければならない使命感に駆られ、げんこつを握って立ち上がったが、母親がベンを止め、その女性にお茶とパンを与えた。アニーは子供たちに、「おぼえておくのよ。この人たちには、いつもなにかをあげてね」と優しく言って聞かせた。

女性が帰っていくと、入れ替わりにビリーがやってきた。子供たちはビリーに、ジャムリング一家がいつ着たのかや、どこに住んでいるのかを尋ね、それからケイトとルーシー=メイの3人でステッキーの子ヤギを見に行った。

旧友あらわれる
小屋のような家に引っ越してきてから、2、3週間の間に、アーサー=ポップルは小屋を比較的ましなものに改築した。けれどケイトとルーシー=メイは、壁の中で握手したり、通路でかくれんぼができなくなったと不満顔だった。小屋の中で遊んではいけないと父親に約束させられ、それを破ったケイトはおしおきを受けて、さらにジャムを1週間おあずけにされた。

ある日、ミスター=パーカーが牛車に乗って、海岸に残してきた一家のソファーを運んできた。ケイトは、「これ、おじさんの牛車なの?」と尋ねた。ケイトは牛車に乗ってみたくてたまらなかったのだ。ミスター=パーカーは、牛車は今は借りているものだと答えた。ケイトとルーシー=メイは乗せてほしいと頼んだが、ポップル夫人がお茶に誘ったので、それは後回しになった。

ミスター=パーカーは勧められたお茶を一気に飲み干し、ホットケーキをふた口で平らげた。それから、港で聞いた様々なニュースを話し、ここには動物が少ないから、荷物の運搬は金になると言った。夫人には「店を開いたらいかがですか? いろんなものをすこしずつ売る雑貨屋だって、あっというまに金になりますよ」と誘ったが、夫人は「じきに測量がすんだら、すぐにうつりますの。そうなれば、自分たちの農場だけで手いっぱいになると思いますわ」と説明した。

ルーシー=メイは、ステッキーの子ヤギの話をした。3匹の子ヤギの内、2匹はアーサーが4ポンドで売り、1匹はバターを作るために残して、パンジーという名前を付けた。お茶が済むと、ケイトとルーシー=メイは牛車に乗せてもらった。チャーリーと出会った浅瀬までの短い旅だったが、素晴らしい時を過ごすことができた。

秘密
夏も終わりに近付くと、一家はようやく、忙しいながらも、生活にゆとりが出てきた。ステッキーとパンジーは丸々太って、ここでの生活に慣れてきた。ルーシー=メイはミスター=ジャムリングからもらったウサギを、トゥイッチと名付け、大事に育てて、一緒に遊んだ。たまにそれにビリーが加わり、父親がウサギをあげてしまったことを悔しそうにした。

ある日、ルーシー=メイは、ケイトがビリーとビリーの友達と一緒に少し荒っぽい遊びを始めたので、一人で川のほとりを散歩していた。すると、一団の原住民の子供たちが遊んでいる光景に出くわした。男の子は槍を的に向かって投げ、小さな少女が器用に木に登っていった。ルーシー=メイはしばらくそれを感心して眺めていたが、不意にいけないことをしていることに気が付いてその場を離れた。そして、このことは今まで一度も秘密を持ったことがなかったケイトにも黙っていようと思った。

アーサーは家の中で夫人に愚痴を言っていた。家の畑を動物に掘り返されたり、ニワトリを殺されたりすることに対して怒っていたが、話はもっと深刻なものになっていく。というのは、今南オーストラリアには移民者が増え、土地は狭くなり、値段がどんどん上がっていた。食糧は底を突いてきている。それでも土地はまだ広大にあったが、それらはきちんとした測量が行われるまでは売られることがなく、その測量はまったく進んでいないのだった。

アーサーがドアを開けると、ケイトがルーシー=メイの髪を鷲づかみにし、代わりに蹴飛ばされている光景に出くわした。すごい光景だ。俺もちょっと見てみたい。二人はれんが積みの仕事を言いつけられ、それが終わったと言うと、ディップを作るよう言われた。ケイトは不満そうにルーシー=メイに当り散らし、ルーシー=メイはすすりあげて泣きじゃくった。可愛い(^^)

クララはそんな姉妹は無視して、パンジーとニワトリを見張りながら、叔母のメアリーに手紙を書いていた。オーストラリアが自由な場所であること、空気が綺麗で健康であること、人々は皆いい気質であること、それからパンはとても高くて自分たちで焼き、カンガルーを食べたり、未だに塩づけ肉を食べていることを書いた。

ケイトとルーシー=メイは、定期的に縫い物やかがり物をし、聖書の暗唱をさせられた。また、日曜日は朝の礼拝に参加し、日曜学校にも行った上で、一日中大人しくしていなければならなかった。ある日曜の午後、ケイトはパークランドへ行くのを嫌がり、家でトッブの面倒を見ていた。しかし、何をやっても面白くなく、何度も新聞を手にしては放り投げるのを繰り返していると、不意にいつかの原住民の女性がやってきた。ケイトは女性からオランダガラシをもらい、代わりにパンを与えた。

夫人が帰ってくると、ケイトは一連の話をした。ケイトは父親は原住民とは何もしてはいけないと言っていたので、怒るのではないかと心配したが、アニーは「いいえ、だいじょうぶよ。パパの気もちをかえることができるかもしれないわ」と優しく諭した。それからオランダガラシを浸し、このことはみんなには内緒にして、お茶のときにびっくりさせようという話になった。ケイトは自分がいっぱしの大人になったような気がした。

子どもたちは役にたつ
秋になると、子供たちの仕事が増えた。アーサーは雨季が始まる前に、家の裏に泥のれんがの家を作りたがり、ケイトとルーシー=メイはれんが作りの手伝いをしなければならなかった。けれど二人はそれを面白がって、滑ったり転んだり、誰も見ていないときは泥のボールを投げ合ったり像を作ったりして遊んだ。ベンは井戸掘りを手伝っていたが、れんが作りの監督にも任命され、度々遊んでいる二人を叱らなければならなかった。

ベンはイライラしていた。井戸掘りは進まない、ケイトとルーシー=メイは遊んでばかりで、仕事をしない、ニワトリは追い払っても追い払っても畑を荒らす、トッブは邪魔をする、シャベルは折れる。ベンは、父親がもう後2年遅くこの地にやって来ればと思わずにいられなかった。そうすれば、もっとこの町の開発は進んでおり、こんな仕事をせずに済んだはずだ。

ベンは将来医者になるという夢を持ち続けており、もっと本を読みたかった。が、現状は仕事が忙しくて、本を読む時間もなければ、誰も何も教えてくれない。川へ行った妹たちの跡を見ると、れんが作りはどうもやり直さなければならないようだった。パンを冷ましに行くと、今度はステッキーが杭を引っこ抜いて逃げ出した。ベンはイライラするあまり、「動物も子どもたちもくそくらえ!」と吐き捨てた。

ルーシー=メイは川から戻ってくると、ベンに母親と姉が呼んでいると言った。そして、ベンが川に行ってしまうと、「特別の練習」を始めた。実はルーシー=メイは、時々ケイトから逃れて原住民たちの遊びを見ており、彼らのする遊びを練習していたのだ。何度も失敗と練習を重ねて、ルーシー=メイは、ようやく足の指で棒を拾い、それを空に弾き飛ばして、口でくわえるアビリティーを習得した。

川では女性たちが経験談を交換したり、噂話をしながら洗濯をしていた。ベンがやってくると、アニーとクララは、半分乾いた洗濯物をたたんでかごに入れた。帰り道、憂鬱そうに歩いているベンに、アニーは散歩にでも行ってきたらどうかと言う。アニーはベンの気持ちをわかっていたのだった。

たこ
土曜日の午後、ケイトはつくろい物をしていた。ルーシー=メイはかがり物をしていたが、ちっともできないので、ケイトが呆れたように、「見こみなしね。全部ほどいて、はじめからやりなおしよ」と言うと、ルーシー=メイは泣き出した。聖書の暗唱は、ルーシー=メイはまだ読めないので、何度もクララに教わりながら覚えた。不意に、ケイトは外に行きたくなってクララに頼んだ。クララも、「そうね、いきましょう!」と同意した。

ケイトとルーシー=メイは凧を持って外に出た。クララは途中まで一緒に行ったが、「ルースもこられるかきいてくるわ」と言って、新しい友達の家に行ってしまった。二人は夢中で凧を飛ばしていたが、ふとルーシー=メイが滑って転び、凧は糸を泳がせながら飛んでいってしまった。

めそめそ泣く妹の手を取ってケイトが凧を探していると、アシの草むらから少年が現れた。ビリーと、その友達のバーニーとデイブだった。ビリーは事情を聞いて、「だれが先にたこを見つけられるか、やってみようよ」と言った。二人は川を越えてはいけないと言われていたので躊躇したが、少年たちに乗せられる形でそれに応じた。そして、とうとう川を越えてしまったのだ。

おまつり
川を渡り、浅瀬伝いに歩いていると、細いゴムの木の高い枝に、凧が引っかかっているのを見つけた。けれど、子供たちは原住民のように木登りが上手ではなかったので、凧をあきらめるしかなかった。しんみりとしてしまったので、デイブが「しばらく追跡ごっこをしようよ」と提案する。ケイトは男の子と遊べると思って、胸がわくわくした。

クララが呼んでいるのが聞こえたが、ケイトは構わずに男の子たちと遊んでいた。そして、やがてデイブがコロッボリーを見に行こうと言い出した。コロッボリーとは、原住民たちの儀式のようなもので、歌ったり踊ったりすると言う。ルーシー=メイはじきに暗くなるからと、行くのに反対したが、バーニーが自分の意見を押し通した。

辺りが暗くなってくると、ケイトも不安になって、「帰ったほうがいいと思うけど」と言ったが、反対されて萎縮した。もう男の子たちと遊べなくなるのは嫌だった。ビリーは、どうせ怒られるのだから、今さら帰りが30分遅くなったところで変わらないと言った。やがて一行は、原住民の集まっているところに到達した。彼らは火の周りに集まり、リズムを刻み、踊っていた。五人はしばらく茂みに隠れてその光景を眺めていたが、やがてバーニーが「もういく時間だ」と言って引き返した。

川の近くに戻り、浅瀬への道を探していると、向こうに明かりが見えた。五人が大きな声で叫ぶと、二人の男がやってきた。一人はミスター=ポップルだった。子供たちは怒られるとわかっていたが、帰って来られたことに安心して、気にしなかった。けれどバーニーは、これから怒られるであろう仲間たちを羨ましそうに見ながら帰っていった。バーニーの父親は飲んだくれで、母親はまったく子供に無関心だったのである。

ケイトとルーシー=メイは、父親から革ひもでたたかれ、さんざん怒られた。ピシッ! ピシッ! ケイトは泣き声を堪えていたが、ルーシー=メイは激しく泣いた。二人は許可なしで家を離れることを禁止され、日曜の散歩とケーキはなしになり、毎週の暗唱量を増やされた。二人の折檻が済むと、妹を放り出して友達と話し込んでいたクララも怒られた。

冬の雨は降り続いた。ヒンドマーシュ知事が通りの木はどれも切り倒して薪にしてよいと言ったので、道には木を引っこ抜いた穴が残り、それが深い水たまりになった。農場を買う予定は一向に立たず、アーサーとベンは大工の見習をしたり、石を運んだりと、あらゆる仕事をした。あるときベンは、父親に「こんな仕事が、ほんとにいやになったよ」と訴えた。ベンは商売を学びたいと言ったが、アーサーは怒って、「おまえは正真正銘のばか者にちがいない。百姓の息子が学問などとんでもない。余分の時間があれば家族をたすければいいんだ。もう、うんざりだ」と言った。

クララが水夫のジョンと叔母に手紙を書いていると、外から泣き声と話し声と叱る声がした。見ると、ルーシー=メイが泥だらけで泣いている。ケイトの話だと、父親が売った組み立て式の家を見ていて、水たまりにはまって転んだらしい。家に戻ってルーシー=メイの手伝いをしていると、外からミスター=パーカーがやってきた。ケイトはすぐに家を飛び出していったが、ルーシー=メイはみじめな気持ちでうずくまっていた。可愛い♪

ミスター=パーカーはお茶の匂いをかぎつけて来たらしい。家具を運んできた時のように、またお茶をごちそうになりながら、いくつかのニュースを一家に伝えた。それから、ケイトたちを馬に乗せてやると言ったが、アニーはそれを不安がった。結局はミスター=パーカーの厚意に甘え、ケイトはトッブと二人でミスター=パーカーについていった。アニーはルーシー=メイを見ると、「お洋服がきれいになったんだから、しばらくお人形さんと遊んでなさい」と言った。

平野
ベンは、ひつじ飼いのロングのところに行くと言った。いなくなったヒツジを探す手伝いをして欲しいと言われたらしい。ケイトは自分も行きたいと言ったが、ベンに「だめだよ、ぜったいに」と言われて、歯ぎしりをして羨ましそうにベンを見送った。ケイトは、一度でいいからしたいことを自分で決めたかった。ルーシー=メイはホールドファースト湾のキャンプ辺りを探検していたし、原住民たちの遊びを見たと言っていた。自分だって、グレネルグ平野まで行って、原住民のキャンプの火の煙を見つけてみたい。

その日、ケイトは母親に遣いを頼まれ、とうとう決意した。ポケットにパンとチーズを詰め込むと、さっさと遣いを済ませて、原住民を求めて探検を始めた。干上がった小川で、わずかな水を飲み、太陽の位置を確認して先に進んだ。沈黙と静寂の中で不安になったりもしたが、勇気を振り絞った。色鮮やかな鳥たちを見て、ルーシー=メイの飼っている動物たちのことを考えた。

やがて、ケイトは丘を登り始めた。なんとしても頂上まで上ろうと頑張ると、やがて遠くに一条の煙が見えた。右側には、ずっと向こうにホールドファースト湾に停泊している船が見えた。ケイトは喜び勇んで丘を駆け下りると、煙の方に歩いていった。その途中で、ケイトは最近すっかり聞かなくなった農場のことを考えた。ケイトは、父親がどんなに苛立っているか、そして母親にとって小屋での生活がどれだけつらいか、わかり始めていた。ケイトは気が沈んできたので、気分転換に弁当にした。

しばらく休憩してから、ケイトは再び歩き始めたが、やがて自分が迷子になっているような気がしてきた。そして、もし暗くなってしまえば、誰も自分を見つけられないと思うと、怖くなった。ふと前方に男の姿を発見して、ケイトは慌てて駆け寄った。男はひつじ飼いのロングで、ケイトを見て、「まさか、測量隊のくぎで、くるぶしをくじいたってわけじゃないだろうね?」と笑った。

ロングは、ベンに一番上等な犬をつけて、一人でヒツジを探しに行ってもらっていると話した。それから、アデレードにどんどん人が移住していることを話しながら、1時間ほど歩いて煙の場所まで行った。原住民たちはすでにいなくなっていた。ケイトはもうヘトヘトになっていたが、気力を振り絞って家に帰った。ロングが口添えをしてくれたので、あまり怒られずに済んだが、ベンにはしばらくの間、「勇敢な探検家」とからかわれた。

ヒツジ
ベンはロングの犬のローバーとともに、ブラウンヒル小川の方に向かって歩いていた。ベンはヒツジも犬も大好きだった上、久しぶりに自分の自由な時間が持てて上機嫌だった。ところが、道を聞くために前方に見えた荷車に近付くと、ベンは顔色を変えた。それは、いつか港で殴り合いになったビルという名の大男だったのだ。ビルはベンへの恨みを忘れておらず、今度は犬をよこせと言ってきた。ベンは歯向かおうとしたが、ビルが銃を取り出したので、大急ぎで逃げた。

しばらく走ってから、ベンは小川で水を飲み、木陰で休息を取った。すると、ローバーがやってきて、ベンは嬉しさのあまり犬を抱きしめ、犬はベンを舐めた。ビルから逃げてきたのだ。再び二人で歩いていると、前方から原住民の男が現れた。ベンは警戒したが、「いつも、なにかをあげなさい」という母親の言葉を思い出して、パンと一片の肉を取り出した。ところが男はそれを受け取ろうとせず、手振りで自分についてくるよう促がした。

ベンがついていくと、15分ほどでひつじ飼いの移動小屋に辿り着いた。痩せたヒツジが囲いの中に押し込められていて、立派なコリー犬が吠えていた。ベンは今にも死にそうなヒツジを見て憤ったが、その理由はすぐにわかった。小屋の中で、一人の老人が弱り切った姿で、床に横たわっていたのだ。ベンはすぐに原住民に水を汲むよう身振りで示すと、老人にその水を飲ませた。ひつじ飼いはダンと言い、彼は原住民をジョーと呼んでいた。

ベンは原住民と二人で、四苦八苦しながらヒツジたちに水を飲ませた。そしてダンにパンとお茶を与えたが、ダンはパンは食べなかった。「食べれば気分もよくなりますよ」と言ったベンに、ダンは「いいや。くるべき時がきたのさ」とささやいた。

木が見たいと言ったダンを外に連れ出すと、ダンはジョーの話をした。それからベンが家族の話や農場の話、医者になりたい話をすると、それを静かに聞いていたダンが、「わしのせがれのもんだったんだ」と言って、ラテン語の文法書を手渡した。ダンが「宣教師にたのんで、すこし教えてもらうといい」と言い、ベンは「ほんとうにありがとう。最高の贈り物です」と感謝した。そこへジョーがやってきて、子ヒツジをベンに渡した。ダンはそのヒツジをベンにあげると言った。

夜になると、ベンはまた料理をし、ひつじ飼いを見守った。ラテン語の文法の本を開いては、これがちゃんと読めればどれだけいいだろうと願った。ダンは咳が止まらず、独り言を呟き続けた。やがて、「寝なさい、坊や、わしはだいじょうぶだ」と声をかけ、ベンは寝ずの番を続けたが、その内眠りに落ちた。次に目を覚ましたとき、ひつじ飼いの老人はすでに亡くなった後だった。

遺失物取扱所
ベンが草原で頑張っている頃、ケイトとルーシー=メイは、いつものように家の手伝いをしていた。また、その合間に、当てっこ遊びをしたり、歌を歌った。二人で、母親の作るチーズが人気のある話や、近頃まるでバーニーに会っていない話をしていると、不意に二人はトッブの姿がないことに気が付き、大慌てで探し始めた。ルーシー=メイはすすり泣きながら、「かわいそうに。きっと妖精がさらっていったんだわ」と言った。可愛い(^^)

井戸に落ちたのかも知れないと思ったがおらず、ケイトはパブへ行って、誰かトッブを見なかったか聞いてみようと提案する。けれど、そこには近付いてはいけないと言われていたので、ルーシー=メイは反対し、ケイトはいらいらして、思わず「あなたは、まったく役たたずだわ」と言い放った。地の文によると、「ルーシー=メイは、青くなり、くちびるはふるえ、そして、すすりなきをはじめた」らしい。可愛い♪

パブには泥酔している男がだらしなく寝ており、ケイトは結局そこには近付かずに戻った。今度は川の方へ探しに行くと、トッブがお茶の木の生い茂った向こう側から、白いカモと6羽の子ガモを連れて現れた。二人が安堵の息をついてトッブを抱き上げ、家に戻ると、ベンが口笛を吹きながら帰ってきた。手には子ヒツジを抱えており、ルーシー=メイがスノーフレイクと名前を付けた。ベンがそのヒツジは母親が毛を刈り、大きくなったら父親が焼いてごちそうを作るんだと言うと、ルーシー=メイは恐ろしさのあまり震え上がった。

ケイトは一体この2、3日の間に何があったのか興味を持った。楽しい話を期待していたのだが、ベンの話が思いの他深刻なものだったので、何も言えなくなってしまった。ひつじ飼いからもらったと言う小さな鈴を鳴らすと、ベンがそれをトッブにつけた。アニーが「ぶじにもどってきてくれてうれしいわ、ベン」と言って話に入ると、アーサーがもっと楽しそうに仲間に加わった。アーサーはとうとう石造りの家を買うつもりだと言い、いつかは農場も買うのだと力強く言った。「さあ、農場にかんぱい!」と、ベンがお茶の入った大きなコップを持ち上げた。


第三部 アデレード 一八四〇年

競売
一家が南オーストラリアにやってきてから、4年が経った。アデレードはすっかり大きな町になり、道は整備され、店々はれんが造りや石造りだった。役所、教会はもちろん、裁判所、病院、留置場からホテルまであった。ポップル家は石造りの家に住み、家の前には草花の庭園、裏には果樹と菜園があった。住み心地のよい家だったが、生活は相変わらず苦しかった。

ミスター=ポップルは未だに農場を買うことができず、失望し、いつもいらいらしていた。ベンは二年近くひつじ飼いの仕事をしていたが、今はポートアデレードの港湾局長のもとで働いていた。勉強は続けており、ストーン牧師が教師になってくれた。クララはマック夫人の経営するパン屋で働いていた。ジョンは約束通り弟を連れてアデレードに戻ってきて、クララと婚約した。今は大工の仕事をしていた。ケイトはクララのように働きたかったが、弟や妹の面倒を見なければならなかった。

第三部は、ルーシー=メイが遣いで郵便局を訪れるシーンから始まる。郵便局は5ヶ月ぶりに船が着いたため、手紙を求める人々でごった返していた。ルーシー=メイは人に押され、誰かの足を踏んで恥ずかしそうに謝った。ようやくの思いで局長の前までやってきたが、受け取るには金がいると言われて、しょんぼりして郵便局を後にした。

郵便局を出ると、トッブが手を振っているのを見つけて、そちらの方へ飛び出した。すると、馬に乗った青年と激突しそうになり、ルーシー=メイは青年に怒られた。青年は人々の集まりに気が付いて、「いったい、なんのさわぎだ?」と尋ねた。ルーシー=メイが「競売です」と答えると、青年は「大衆にはかっこうのうさ晴らしだな。演劇やショーよりもいいっていうのかね?」と言った。ルーシー=メイは気を悪くし、おどおどしながら、物を売らなければ生活できない人や、働きたくても仕事ができない人の多さを伝えた。青年は納得してから、ルーシー=メイにデュークオブヨークの場所を聞き、そちらの方へ駆けていった。

トッブは6歳になっていた。二人で競売に行くと、ミスター=パーカーが箱の上に立ってズボンとチョッキを売った。そして次に取り出した婦人服を見て、ルーシー=メイは驚いた。それは、母親の持っている一番いいドレスに見えたのだ。慌ててケイトを探し出すと、今度はヒツジが競売にかけられた。それはスノーフレイクだった。ルーシー=メイはむせび泣き、二人の男の間を押しのけて走り出した。ケイトはそんな妹の腕をつかむと、トッブと三人でその場を後にした。

ルーシー=メイは父親に対して恨みの言葉を吐いたが、姉やちょどやってきジョンに、今如何に家に金がないかを諭されて納得した。ジョンはケイトに、「一時から一時半の間に例の店の外で会いたい」というクララへの伝言を頼み、ロングのとこへ行くと言って去っていった。パン屋はとても繁盛しており、マック夫人はクララが行くことを渋ったが、一時半になる前の10分間なら行ってもよいと行った。

店を出ると、ケイトは父親の靴を思い出し、生地屋に行った。その間にルーシー=メイには買い物をお願いし、鍛冶屋を見に行きたいと駄々をこね始めたトッブには、ルーシー=メイが買い物をしている間だけという条件付きで許可してやった。

ふさわしい家
ミス=シンプリングの生地屋で、ケイトは父親の靴を問い合わせた。アーサーは1年も前に、イギリスに靴を注文していたのだった。店の扉のところで、実に久しぶりにビリー=ジャムリングと再会した。ビリーは生地屋で黒い糸を買い、それをおばさんのところへ届けに行くと言った。ケイトはすぐに帰らなければならなかったが、ビリーにどうしてもと言われて付き合った。ビリーのおばさんの家は昔ポップル一家が住んでいた小屋の隣だったが、今はもう小屋はなく、新しい石造りの家が建っていた。ケイトは悲しくなった。

家に戻ると、アニーは2歳半になる息子のアダムをあやしていた。ケイトがアダムの世話をしている間に、アニーはお茶の用意をし、やがてルーシー=メイとトッブが帰ってくると一家でお茶にした。アニーはスノーフレイクのことは、「お母さんもがんばったのよ」と溜め息をついた。アニーはルーシー=メイに説明すべきだと言ったのだが、父親がどうしても嫌だと言って売ってしまったらしい。話をしていると、ベンが口笛を吹きながら戻ってきた。今は港の税関で働いているので、たまにしか帰ってこないのである。

姉妹が庭でベンと話をしていると、家の中からアーサーとジョンの言い争う声がした。ベンが見に行くと、劇場へ行きたいと言うジョンとクララの頼みを、アーサーが怒って反対しているところだった。「劇場は、若い娘のいくところではないんだ。みだらなじょうだんをいい、下品な話をするところだ」と言って、まるで取り合おうとしない。終いには「もうこれ以上、いうことはない」と言い切り、クララは泣き出して飛び出していき、ジョンは「あなたの態度は、とても寛大とはいえませんね」と言ってクララを追いかけていった。

荷車に乗る
ベンがマックラーレン埠頭の開港日に、みんなで港へ行こうと言い出した。本来、招待状はポップル家のような家には来ないのだが、ベンが港で働いているため、席の都合がつくという。アーサーは埠頭の建設者を快く思っていなかったので、文句を並べた上で自分は絶対に行かないと言い張ったが、他の人間は大賛成だった。

当日のアデレードは賑わっており、道々には乗り物に乗った婦人や、馬に乗った紳士で溢れていた。一家はベンの操る荷車に乗り込んだが、道にはあちらこちらに穴があった上、ほこりっぽかったので、あまり快適な旅とは言えなかった。その上、やってきたミスター=パーカーの馬が暴れ出したせいで、それを避けた拍子にベンの荷車は壊れ、子供たちは外に投げ出されてしまった。

ちょうどすぐ後ろで馬車を走らせていた二人の男が一家を助け、自分たちの馬車に乗っていくことを勧める。アニーはもう戻ろうと考えたが、最後には男たちの厚意に甘え、ベンを残して彼らの馬車に乗り込んだ。そこへ、他の馬車がやってきて、中に乗っていた紳士が声をかけてきた。それは、ルーシー=メイが郵便局の前でぶつかりそうになった男で、紳士はルーシー=メイに気が付くと、「おじょうさんは、先日わたしに、とても重要なことをいくつか正してくださったんですよ」と説明した。

アデレード港に着くと、すでに知事は埠頭開きを終えて、お茶を荷あげしていた。一行はジャムリング一家と合流し、帰りは彼らの荷車に便乗していくことになった。ケイトは船に目を奪われたが、女の人の会話はつまらなかったし、ビリーはデイブと釣りの話に夢中だったので、退屈だった。ルーシー=メイとトッブはボートを漕いでもらった。帰り際にベンがやってきて、どうやら荷車の修理代を支払わなければならず、職も失ってしまうかもしれないと話した。

ミスター=ジャムリングの荷車に乗り込むと、突然の雨が彼らに降り注いだ。一行はイトスギやカシの木の群生している下で雨宿りをし、その前を泥まみれの行列が通り過ぎていった。雨が上がって、ジャムリングの家に近付いてくると、遠くで火事の煙が上がっていた。トッブとビリーは見たがったが、ミスター=ジャムリングが座っているよう厳しく言った。家が近付くにつれ、火事の現場は近くなり、とうとうミスター=ジャムリングは気が付いて声を張り上げた。「ああ、なんということだ! 気絶するなよ、お母さん。燃えているのは……そう……わが家らしい」

困難なとき
家をなくしたジャムリング一家は、しばらくの間ポップル家のテントで生活した。ジャムリング夫人は泣き続け、イギリスに帰りたいと言ったが、ミスター=ジャムリングが「あのいまわしい火事くらいのことであきらめちゃいけないと」と励ました。また、ミスター=ジャムリングは、もう二度と木造の家にはすまないと言った。

ジャムリング一家が去っていくと、再びポップル家には憂鬱な空気が流れた。アーサーは「もううんざりだよ、アニー。新しい生活をもとめて、やってきたのに、悪くなるばかりで、ちっともよくならない」とぼやいた。自分はイギリスではいっぱしの百姓だったのに、建設工事の仕事をしたり、植物園付近の塀を作っているのは屈辱的だと言った。土地を買うのに、もう千ポンド以上もかかるようになっていたが、一家にはわずかの金すら集まらなかった。

「なにもかもがうまくいかないわね」と、ケイトも妹と弟の前でぼやいた。洋服はひどい、父親は好きでもない仕事をしている、ベンは事故の修理代がまだ払えない、アダムは具合が悪い。ケイトはみんなで協力して少しでもお金を集め、両親の役に立とうと決意した。けれど、ポップル夫人はケイトの案に反対だった。「わたしたち、いったい、農場をもてるのかしら、ママ?」とケイトが尋ねると、アニーはこう言いながら微笑んだ。「ほんとうのことをいうとね、ケイト。ときどき、ぜったいにむりじゃないかと思うときがあるの。でも希望だけはすてないでいましょう。いつかは、虹のたもとにたどりつくでしょう」

ケイトとルーシー=メイが豚の囲いに寄りかかって話をしていると、トッブが嬉しそうにやってきて、6ペンスを差し出した。パブの前で馬車に乗っていた男に、馬を見ていて欲しいと頼まれたらしい。そして、その男がパブから出たとき、トッブがくしゃみをしてハンカチを取り出すと、男は三ヶ月間くしを見ていなかったので、婦人がくしをくれたと話してから、そういえばハンカチも長い間見ていないと言った。そこでトッブがハンカチを差し出すと、その男が6ペンス渡してくれたという。

ケイトは母親の頼みで、アダムに読むことを教えることになった。ケイトは無理だと言ったし、もっと金になることをするべきだと主張したが、アニーは「アダムにはあなたたちよりも、もっとよいチャンスをあたえたいの」と言った。しかし、どれだけケイトが必死に教えても、アダムはまったく覚わらなかった。ケイトは「望みなしだわ。あなたはばかで、これはひどい本だわ」と言って、投げ出してしまった。

ルーシー=メイは家を出て、トカゲを捜して、ウェイクフィールド通りの低い木の林をぶらぶらしていた。すると、草むらの中にお金を見つける。それはたったの1シリングだったが、ルーシー=メイはそれで、父親のために何か農園に必要なものを買おうと思った。そしてせり売りの広場で、壊れた重たいすきを買い、それを引きずって歩いた。

偶然やってきたビリーがルーシー=メイを手伝ったが、遅々として進まなかった。すると、ルーシー=メイはふと郵便局でぶつかりそうになった紳士の姿を発見して声をかけた。彼はプリンストンと名乗り、馬車でそのすきを家まで運んでくれた。

アーサーはルーシー=メイが壊れたすきを持ってきたことに腹を立て、「いったい、なんのためにそんなものをはこんでいるんだ?」と怒鳴った。「こんなこわれたものを、どうやってつかえばいいんだ?」と言うと、ルーシー=メイは泣き出して、「わ、わたし、農場に必要なものが、すこしでもあれば、早く農場がもてるようになると思ったの」と言った。見ていたプリンストンがルーシー=メイの援護をして、ミスター=ポップルは考え直してルーシー=メイに礼を言ってから、プリンストンをお茶に誘った。

一家は突然の来客に大慌てになった。プリンストンとアーサーは農業のことを話し続けた。そして、ミスター=プリンストンは、「あなたがたにお会いできて、とてもよかったと思います。あなたは、この国の農業について健全なお考えをおもちです」と言って帰っていった。

タイアーズ
アーサーが黄色い車輪のついた鮮やかな緑の荷車を走らせてくると、子供たちははしゃぎ回った。ミスター=ポップルは、それはプリンストン氏のものだと言った上で、荷車についての説明を始めた。アーサーはこれから、ミスター=プリンストンの所有地であるパーカー山へ、この荷車を運ぶ。それから、土地を調べて、農作について話し合い、翌日には戻ってくると言った。また、プリンストン氏は材木業も経営しており、帰りはアデレード行きの馬車に、助手が欲しいと言う。それで、今晩帰ってくるベンを同行させることになった。また、この旅行には子供たちも同行することになり、子供たちは喜んだ。

パーカー山への道は途中から険しくなったが、子供たちは楽しい時を過ごすことができた。一度雨が降って、大丈夫だろうかと不安にもなったが、荷車は無事に目的地に到着した。帰りはベンがアデレード行きの馬車を手伝い、子供たちもそれに乗っていくことになっていたが、その馬車の御者が大男のビルだと言われて、ベンはげんなりした。父親は、「休戦を申しこむことだね」と言って、荷車をまとめてプリンストン氏の待っている方へ行ってしまった。

帰りは雨が降り続けていた。途中でドイツ人女性が重たい荷物を背負って歩いてきた。彼女たちは時々百ポンドを越えるハムやバターやチーズをアデレードまで運んで戻ってくるのだと、ベンがケイトに説明した。ベンが女性に声をかけ、女性はしばらくビルの牛車に乗っていくことになった。途中で下がぬかるんで危険な場所を通ったが、女性の手伝いもあって無事に切り抜けられた。女性は歩いた方が牛より速いからと言って行ってしまった。子供たちはすっかり疲れ切ってしまい、一言も喋らなかったが、ようやく丘まで来るとケイトが言った。「大きくなったら、牛車を運転したいわ!」

ピクニック
11月のある日、アーサーが興奮した様子で家族に良い知らせを持ってきた。明日からグレンオズモンドで鉱脈を調べるために試掘を始めるのだが、その仕事をすることになったという。給料はいいし、休みの日はプリンストン氏を手伝って、パーカー山の地所を検査すると言った。また、プリンストン氏は新年にはポップル家に土地を分けてくれるらしく、一家は喜びに沸いた。アーサーは特別なお祝いとして、翌日グレンオズモンドへピクニックに行こうと言い、子供たちを喜ばせた。

翌日は快晴だが、暑すぎないいい日和だった。ベンは来られなかったが、代わりにジョンが参加し、一家はしばらく楽しんでから食事にした。ケイトとルーシー=メイは、父親のおこした火を見ながら、ホールドファースト湾の最初の夜を思い出を語った。あの、旗を作ろうとしていた夜のことである。皆は植民地での経験や友人やイギリスの話をし、食事が終わるとゲームをして楽しんだ。

しばらくすると、アーサーはジョンとアニーを連れて丘の頂上の方を見に行った。ルーシー=メイとトッブは先に走っていき、ケイトがアダムを連れてそれを追いかけた。ケイトはようやく二人に追いつくと、自分は少し木陰で休むからといって、アダムを二人に預けた。二人はしばらくアダムと一緒に行動していたが、急に銃声を聞いて、アダムにケイトのところへ戻るよう言うと、音のした方へ駆け出した。

丘の上の方で男と少年がカンガルーを銃で打っていた。ルーシー=メイとトッブは怒ったが、男たちは動じずにどこかへ行ってしまった。その時だった。突然アダムの泣き声がして、すぐに静かになった。異変に気が付いたケイトが、ルーシー=メイに両親を呼びに行かせ、自分はトッブとともにアダムを探した。やがて、ケイトは鉱山のトンネルを見つけ、やってきたアーサーがその中に入っていった。アダムは確かに穴の中に落ちていたが、頭を石に打ちつけたらしく、すでに死んでいた。

子供たちはクララに連れられて家に戻ると、泣き続けた。クララは必死に慰めたが、子供たちは一度泣き止み、またすぐに泣き出した。アーサーがアニーを連れて戻ってきたが、二人だけにしてほしいと言って奥へ消えていった。マック夫人が手伝いに来てくれ、子供たちに手際よく必要なものを準備させた。ドアをノックする音にクララがドアを開けると、ミスター=パーカーが立っていて、ベンの罰金を支払ったことを告げた。そもそも彼の馬が暴れたために起きた事故だったのだ。ミスター=パーカーはすぐに一家の様子がおかしいことに気が付き、クララが事情を説明した。ミスター=パーカーはベンへの言伝を頼まれ、港へ戻っていった。

収穫
ミスター=プリンストンの所有する麦畑で、全住民がその取り入れを手伝っていた。ケイトとルーシー=メイとトッブも手伝いに出されたが、トッブは遊んでばかりでまったく役に立たなかった。二人はコートやショールや帽子や袋が何本かの木の枝にかけられているのを見て、ホールドファースト湾で見た、洗濯の光景を思い出して笑った。

ミスター=パーカーがやってくると、ケイトはからざおの仕事をしたいと頼んだ。パーカーはからざおを渡すと、少年たちを観察して使い方を見るといいと言った。ケイトはしばらく眺めていたが、自分にはあまり向いていないとわかり、他の仕事を探すためにその場を離れた。

しばらくジャムリング夫人と一緒に麦を束にする仕事をしていたが、その内その場を離れて、今度は刈り込みをしてみようと考えた。ナイフを取り出すとルーシー=メイがひどく怖がったが、ケイトは楽しそうに仕事を始めた。けれど、ナイフは錆びており、なかなか麦の茎を切ることができず、それを見た少年がケイトのナイフを研いだ。それは懐かしいバーニーだった。

ケイトは再び刈り込みを始めたが、使い方を誤って手を切ってしまった。血が迸り、近くにいた青年がすぐにハンカチを取り出してきつく縛った。それはペティウェルの息子だった。ケイトはルーシー=メイにジャムリング夫人を呼んできてもらい、駆けつけたジャムリング夫人がケイトの手当てをした。

トッブは相変わらず遊んでおり、怒った労働者に追いかけられているところをルーシー=メイが助けた。「いいかげんにしてよ。ママがなんていうか」と怒ったが、トッブはあまり聞いてなかった。二人とも疲れていたので隠れようとしたが、そこにミスター=プリンストンがやってきて、ルーシー=メイに声をかけた。ルーシー=メイは、今父がグレンオズモンドではなく、タイアーズで働いていることを告げ、ミスター=プリンストンは、「きみたちのお父さんを見つけて、ぴったりする仕事をおせわさせてもらうよ」と言って去っていった。

さよなら、アデレード
アーサー=ポップルからの報告に、一家は驚き、喜んだ。ミスター=プリンストンが、家付きの土地を提供してくれるという。今すぐには農園を買う金はないので、しばらくはミスター=プリンストンのためにもいくらか働き、数年もすれば自分たちの農場が手に入るだろうとアーサーは語った。さらに、パーカー山に引っ越したらすぐにクララとジョンの結婚式を行おうと言った。長い困難の末にようやう手にした幸せを、一家は静かに噛みしめた。

引っ越しは準備に2、3週間を見て、クリスマスの3日後に行うことになった。その間にトッブは鍛冶屋にお別れを告げに言った。ケイトとルーシー=メイは、お気に入りの店に行ったが、店主は忙しくて二人に気付かなかった。ルーシー=メイは悲しそうに項垂れた。

ジョンが酒場の外でベンと会った時、ベンは顔に怪我をしていた。ストーン牧師の教会の手伝いをしたら、人夫と喧嘩になったという。ジョンはビールを飲みながら、ベンにパーカー山に移るのが待ち遠しいか尋ねた。ベンは農夫になりたくなかったので、「そうでもないです」と答えた。ベンは今でも勉強を続けていたが、父親は相変わらずベンが勉強するのに反対していた。ジョンが、ストーン牧師がベンを買っており、イギリスに戻って勉強すべきだと言っていた話をすると、ベンは喜んで、「はげみがつきます」とジョンに礼を言った。

クララはミス=シンプリングの店に、長い間お金を払い続けてようやく購入した水色の絹を取りに行った。ミス=シンプリングは、「美しいですわね。これが出ていくのを見るのが、ざんねんなほどです」と言い、クララの絹を愛でるようにさすった。「あなたはきっと美しい花嫁さんになりますわ、ポップルさん」と、ミス=シンプリングは最後の勘定書きを作りながら、悲しそうに微笑んだ。

新年
ポップル一家はホテルに寄って食事をした。子供たちはホテルで食事をしたのは初めてだったので、絵や暖炉の犬に心を躍らせた。ところが、ホテルを出て、いよいよパーカー山の小さな町を通り過ぎると、家族はどことなく元気のない顔をしていた。ケイトが、「わたしたちの農場の入り口につくのはすばらしいことよ。でも、なんとなくさびしいわ。わたしたち、だれも知った人いないのよ」と行った。父親は、「すぐに新しい友だちができるさ」と言って励ました。

ようやく家に辿り着くと、興味がよみがえり、一家は熱心に周りを見渡した。四角い石造りの家の煙突からは煙が上がっていて、中からビリー=ジャムリングが姿を現した。ケイトは思わず馬車を飛び降りて、ビリーに駆け寄ると抱き合った。ビリーは、今はプリンストン氏のところで働いているのだと言った。

ケイトとルーシー=メイは、ビリーに連れられて家中を探検した。クララもアニーも新しい家を気に入り、しばらくは大騒ぎになった。アーサーとアニーは、二人きりのときに、静かに神に感謝を捧げた。

結婚式の朝、ミスター=ポップルは家族を小川のそばに連れて行った。トッブはそこでセンニンソウを取り、「アダムからだよ」と言ってクララに渡した。「きっと、ぼくたちと今日をいわいたかっただろうからね」と付け加えると、クララはトッブにキスをした。娘たちは花を持ち帰り、それでベランダを飾った。

結婚式は周りの農場や町から人々が訪れ、盛大に行われた。人々は「これはすばらしい新年の結婚式だ」と口を揃えた。「わたしたちみんなのパーティーなんだわ」と、ケイトは嬉しそうに言った。「新年おめでとう」と周りの人々が祝う中で、クララとジョンがさよならを言うと、ケイトは一家の中で大人になったのを実感した。アーサーとアニーは、クララとジョンが手を取り合って新家庭に向かって歩いて行くのを見て言った。「だれにとっても新生活がはじまるのだ。われわれすべてに神のお恵みを」



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