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−裏表紙より− ベルデングスビルの小さな町を「喜びの遊び」で明るくした少女パレアナは やがて成長し、美しい青春の日々を迎える。 いつでも喜ぶということは、決して単なるお人好しで出来ることではなく、 常に強い意志と努力が必要だということを、 ポーター女史のペンはパレアナを通して語りかける。 |
一 デラ嬢の心境 |
カリウ夫人は後家であり、暗い毎日を送っていた。人と会うのを避け、暗い部屋に閉じこもりっ切りでいる。けれどそれは、夫と死別したことよりも、行方不明の甥のジェミーのことが気になっていたからだった。8年前に父親に連れられて失踪して以来、カリウ夫人は懸命に探し続けているが、行方は分かっていない。カリウ夫人はジェミーのことしか考えておらず、ジェミーのいない今の生活に何の希望も持てないでいた。 デラ・ウェザビー嬢はカリウ夫人の妹であり、姉とは対照的に健康で活発な娘だった。パレアナが治療のために入院していた病院の看護婦であり、当然パレアナとも面識があった。デラは姉に、もっと外に出て人と会って欲しいと思っていたが、そう持ちかけても姉はまったく取り合おうとしなかった。デラはそんな姉に、「パレアナを一服あげたいわ」と言う。 デラはパレアナの『喜びの遊び』を知っており、姉にそれを話した。カリウ夫人は説教を垂れる子供など好きでなかったので、初めは取り合おうとしなかった。ところが、パレアナを本当にカリウ夫人のもとに置ける可能性が出てくると、デラの説得もあって、カリウ夫人は条件付きでパレアナを家に置くことを許した。その条件とは、少しでも説教を始めたら追い出すというものだったが、デラは「ちっとも心配してませんよ」と笑っただけだった。 |
二 古い友だち |
デラの姉、ルース・カリウがパレアナを家に置いておける可能性が出てきたのは、つまりこういうわけだった。パレーの夫であるチルトンが、この冬に研究のためにドイツに行くのだが、パレーはパレアナが心配でついて行かれない。そこで、パレアナを安心して預けられるところはないかと探していたのである。デラはその話を聞き、姉の了解を得るとすぐに、パレーにパレアナを貸して欲しい旨を書いた手紙を出した。 デラからの手紙は、パレーを不愉快にした。ルース・カリウは非常に不幸せな毎日を送っており、パレアナがきっとその役に立つから貸して欲しいというのだ。これではパレアナが何かの薬みたいではないかと思ったが、チルトンの話を聞いて気持ちを変える。実はチルトンにも手紙が来ており、それはパレアナの治療をしたエームス博士からのものだった。エームス博士はデラとルースを子供の頃から知っており、二人のために是非と言うのだ。 パレアナの恩人の頼みとあっては断ることはできず、パレーは翌日、パレアナに冬の間ボストンに行くことを言い渡した。もちろん、不幸なルース・カリウのためだとは言っていない。パレーは、もしもパレアナが、自分の『喜びの遊び』が人のためになると知ってしまったら、生意気な子供になってしまうのではないかと心配していたのだ。パレアナは初めはみんなとの別れを寂しがっていたが、パレーの助言で、新しい出会いに胸をときめかせるようになった。 |
三 パレアナを一服 |
九月八日、パレアナはボストンにやってきて、カリウ夫人と対面した。カリウ夫人はその時には子供を預かると言ったことを後悔しており、ひどく不機嫌になっていた。デラはそれを十分承知していたので、自分が余計なことを言うよりすべてパレアナに任せた方がいいと考え、二人を引き合わせると逃げるように人ごみの中に消えてしまった。 パレアナは早速いつもの調子で、カリウ夫人に会えたこと、カリウ夫人が車を持っていること、その車に乗れることを嬉しいと話し、人の多さに喜び、カリウ夫人の家がとても大きいことに驚いた。パレアナを預かってから5日が過ぎた日、デラのもとにカリウ夫人から初めての手紙が届いた。 手紙によると、カリウ夫人はパレアナにせがまれて、家中の部屋を開け、窓かけを上げ、綺麗な着物を着てありったけの宝石を着けさせられたと言う。パレアナは何度か説教じみたことを言いかけたが、それはいつも最後にはまったく違う話になっており、おかげでカリウ夫人はパレアナを追い出せないでいるらしい。カリウ夫人は今でも、もしも説教を始めたらすぐに追い出すと言っていたが、それを読んでデラは笑い転げた。たったの一週間で、あの姉がこれだけのことをしたのに、パレアナは説教一つしていないのだ! |
四 『遊び』とカリウ夫人 |
ある日曜日、パレアナは突然「日曜日が大好き」と言い出した。それは教会と日曜学校があるからで、パレアナはカリウ夫人に、どっちが好きかと尋ねた。教会へは滅多に行かず、日曜学校になど行ったことのないカリウ夫人がなんとも答えられずにいると、パレアナは牧師だった父親の話をまくし立てた後、さも当たり前のように、何時頃教会へ行くのかを尋ねた。カリウ夫人は乗り気ではなかったが、断りきれずに、実に久しぶりに教会を訪れた。 その帰り道、パレアナはカリウ夫人に、「あたしたち、一日ずつ生きていけばいいんですからうれしいですわね」と言った。カリウ夫人は、デラから、一日ずつ我慢していけば我慢できないものはないと言われていたので、とうとう説教が始まったのかと思ったが、パレアナは、楽しいことが多過ぎて一日ずつでないと困ってしまうと言い出したのだ。それからもパレアナは、ことあるごとに「うれしい、うれしい」と言い続け、嬉しいことなどないカリウ夫人はそれが嫌でたまらなかった。そしてある時、とうとうかんしゃく玉が破裂した。 パレアナが『喜びの遊び』の話を始め、カリウ夫人がその話は知っているから話さなくてよいと言うと、パレアナはカリウ夫人には遊びは必要ないし、できないと言った。カリウ夫人はこれだけ満たされた、幸せな生活をしているのだから、嫌なことがなければできないこの遊びはできないと言うのだ。怒ったカリウ夫人は、とうとう自分が何にも喜びを感じないことと、甥のジェミーのことをパレアナに話した。パレアナは衝撃を受けたが、最後にはカリウ夫人にも遊びができると言ってから、「毎日、毎日、夜が明けたら、もう一日だけ、ジェミーちゃんの見つかる日が近くなったと思って、喜ぶの」と遊びの仕方を話した。もちろん、それがカリウ夫人の慰めになることはなかったけれども。 |
五 パレアナの散歩 |
ボストンに来てから二度目の土曜日、パレアナは一人でボストンの町を見物するべく散歩に出た。カリウ夫人は、まさかパレアナが一人で散歩に行くなどとは思っておらず、一人で出歩いてはいけないと言ってなかったのだ。パレアナはベルデングスヴィルでそうしたように、出会う人出会う人に笑顔で挨拶をし、話しかけたが、誰にも相手にされなかった。ボストンはそういう町なのである。パレアナはだんだん寂しくなってきた。 ボストン公園を歩いているとき、パレアナは話し相手を探していた。周囲で人々が楽しそうに談笑しているのを見て、自分にも話し相手がいたらどれだけ嬉しいだろうと思ったのだ。一度、ベンチでしょんぼりと腰かけている男に話しかけ、彼はパレアナの相手をした。その男は刑務所から出てきたばかりで、人生に絶望していたのだが、パレアナから『遊び』の話を聞かされ、再びやる気を出してどこかへ行ってしまった。次にパレアナは、一人きりで本を読んでいる車椅子の少年を見つけたが、あんまり夢中に読んでいたので話しかけるのをやめた。 それから、ふと一人の美少女がベンチに腰かけているのを見つけて、パレアナは嬉々として話しかけた。自分のように一人きりでいる人を探していたのである。少女は、もちろんパレアナを待っていたわけではなかったが、パレアナの話に付き合った。パレアナは世の中の人はみんな友達だと考えているような子供なので、初対面の少女に自分の身の上から『遊び』のことまで何もかもを話した。少女はその話を真剣に聞き入っていた。やがて、若い紳士が少女を迎えに現れると、少女はパレアナを楯にして「いきたくありません」と答えた。男は怒って帰っていった。少女はパレアナに礼を言い、「ほんとにあたしは助かったのよ」と言って帰っていった。パレアナには何のことだかわからなかった。 |
六 夕刊売りの少年 |
公園を抜けたパレアナは、陳列棚に目を奪われ、楽隊の音に心惹かれる内に、まったく見知らぬ場所に迷い込んでしまった。みすぼらしいイタリア街に迷い込むと、パレアナは言葉の通じない恐怖に駆られ、その上空腹と疲労に襲われて、とうとう泣き出してしまった。しばらく泣いていると、夕刊売りの少年が話しかけてきた。パレアナはようやく言葉の通じる相手に出会えたことを喜び、迷子になってしまったことを話す。 パレアナは自分の家の住所を知らなかったので、正確に家の場所を説明できなかったが、近くの並木通りの話などをする内に、少年の方で見当がついた。それから少年は、夕刊を売りさばいてから、パレアナを無事にカリウ夫人のもとへ送り届けたのだった。パレアナはカリウ夫人に厳しく怒られ、一人で歩き回ったり、知らない人に話しかけてはいけないと説教を受けた。 |
七 新しい友だち |
迷子の一件の後は、パレアナはメイドのメアリかカリウ夫人が一緒の時以外は外に出られなくなった。もちろん、パレアナは二人とも大好きだったのでそれを苦にはしなかった。十月になると、パレアナはとうとう公園に限り一人で行ってもよいという許可を得た。ただし、知らない人には話しかけていけないとか、教会堂の時計が四時半を打ったら帰られなければならないと言った条件付だったけれども。 パレアナは初めての散歩の時に出会った男や、紳士と一緒に行かなかった美少女に会いたいと思っていたが、再び会うことはなかった。車椅子に乗っている少年にはたびたび会い、少年はいつも公園のハトやリスにわずかな食べ物を与えていた。そうでないときは大抵本を読んでいた。ある日、パレアナは、いつかの夕刊売りの少年が、車椅子を押して現れたのを見て話しかけた。 夕刊売りの少年は、車椅子の少年にジェレーと呼ばれていた。ジェレーは車椅子の少年を『若君』ジェームスと呼んでいたが、少年は自分はそんな名前ではないと苦笑した。少年はたいそう本が好きで、また物語の登場人物を愛していた。リスにも彼らの名前を付け、その発想がパレアナを喜ばせる。その日パレアナは、『遊び』や婦人会のことを話すのも忘れ、少年の話す物語に心を打たれていた。そして、はっと時間に気が付くと、慌てて帰ったのだった。 |
八 ジェミー |
パレアナは車椅子の少年の名前を聞きそびれたので、それを知りたがっていた。ところが、翌日は雨のため公園に行けず、雨が止んだ3日目は少年が姿を現さなかった。4日目にようやく会えると、少年は足がひどく痛んだから来られなかったと言う。少年は毎日の食べるものにさえ困る生活をしており、足は治る見込みがなく、あったとしても病院に行くような金はないのでどちらにせよ治らないと言った。 そんな少年が大切にしているのが、『喜びの本』だった。それは日常生活の中にある『喜び』を書き連ねているもので、その話を聞いてパレアナはひどく興奮した。それこそ『遊び』なのだ! 少年は名前をジェミーと言った。パレアナはひょっとしたら、この少年がジェミー・ケントなのではないかと思って尋ねたが、少年は自分の姓を知らなかった。 ジェミーの父親はたいそう変わり者で、誰とも話したがらなかった。そして、6年前に死別し、ジェミーは同じ下宿屋に住んでいたジェレーの母親に引き取られた。今はジェレーとジェレーの母親と3人で暮らしている言う。その話を聞いてパレアナは、ジェミーがジェミー・ケントである気がしてならなかったが、それは口に出さなかった。一度カリウ夫人に実際に見てもらい、確実になるまでは期待させてはいけないと思ったのだ。 |
九 はかりごと |
パレアナはジェミーと会わせるためにカリウ夫人を外に引っ張り出そうとしたが、カリウ夫人は面倒くさがってそれを拒んだ。数日の雨の後、ようやく天気が良くなると、パレアナは無理矢理カリウ夫人を連れて公園へ行く。ところがその日、ジェミーの姿はなく、パレアナはしょげ返って、すっかり機嫌を悪くしたカリウ夫人とともに帰路についた。 数日後、カリウ邸にジェレーが現れる。ジェレーは、ジェミーが病気だから、パレアナに来て欲しいというのだ。パレアナはすぐに行こうとしたが、それを見たカリウ夫人が「とんでもないことです」と言って、それを許さなかった。パレアナは確信が持てるまで言いたくなかったのだが、とうとう我慢できなくなって、病気になっている子はジェミーという名で、それがカリウ夫人の甥であるかも知れないと話す。カリウ夫人は顔色を変え、すぐに車で向かうと言った。 |
一〇 モルフェイ横町 |
ジェミーのアパートは、それはもうひどいところだった。壊れかかって登るのも危なっかしいはしご段に、部屋にはぼろや新聞紙を詰めた窓。カリウ夫人はまさかこんなところに甥のジェミーが、と真っ青になった。 ジェミーと対面したカリウ夫人は、それが甥であるかどうかわからなかった。いくつかの質問をし、ジェミーとジェレーの母親はわかる範囲で答えたが、大体ジェミーがパレアナに言ったこと以上の情報はなく、結局カリウ夫人は、その場ではジェミーは自分の甥ではないと決め、「ぼくの父さんを知ってらしったんですか?」というジェミーの質問に、「たぶん、知らなかったと思うね」と答えた。 帰り際、ジェミーはもうじきこの家を出て行かなければならなくなると言い、パレアナはカリウ夫人に何とかして欲しいと頼んだ。カリウ夫人は金を出すと言ったが、ジェレーの母親は、貧乏でも施しは受けたくないと言って断った。カリウ夫人は、せめてアパートの修繕を大家や管理人にお願いしろと言うと、ジェレーの母親は管理人はヘンリー・ドッジという男で、そんな要望はまったく聞き入れてもらえないと言った。それを聞いたカリウ夫人は顔色を変え、「わたしが──引き受けました」と呻くように言ってアパートを後にした。そのアパートの大家は自分だったのだ。 |
一一 カリウ夫人の驚き |
家に帰ってからもカリウ夫人は、ジェミーのことが忘れられなかった。本当のジェミーではないと思う傍らで、もしそうならと言う考えが離れないのだ。カリウ夫人はさらに2度見舞いに行き、ついには妹のデラも引き連れてジェミーの部屋を訪れた。しかし、デラにも確信が持てなかった。デラはカリウ夫人に、違っていたとしても養子にすればいいと言った。パレアナも同じことをカリウ夫人に言ったのだが、カリウ夫人は「わたしのジェミー坊やでなけりゃあ、子供なんか欲しくない」の一点張りだった。 一方のパレアナは、ジェミーの暮らしについて悩んでいた。何故カリウ夫人のように金持ちの人もあれば、ジェミーのようにその日の食べ物さえままならない暮らしをしている者もあるのだろう。パレアナは金持ちがもっと貧しい人々を助ければ良いとカリウ夫人に言ったが、カリウ夫人は「貧乏人に依頼心を起こさせることの不可」とか「無統制に与えることの害」とか「組織されない慈愛の悪影響」などと言った難しい話をし、余計にパレアナを悩ませた。 パレアナの言うことは到底無理な話だったが、少なくともカリウ夫人にジェミーのことをより悩ませるには十分だった。カリウ夫人はとうとう、ジェミーを引き取ることを決意する。ところが、そう申し出たカリウ夫人に、ジェミーは静かに首を振った。カリウ夫人は自分を愛しているわけではなく、自分は丈夫ではないので、引き取ってもらったところで邪魔にしかならないというのだ。カリウ夫人は自分の決意を無駄にされたことに腹を立て、パレアナを連れてさっさと出て行ってしまった。 |
一二 帳場のうしろから |
カリウ夫人は生まれて初めて自分の親切を断られて、ひどく腹を立てていた。けれど、よくよく考えると、確かに自分がジェミーを引き取ると言ったのは、彼を愛していたからではなく、単に自分の安心のためで、ジェミーが言ったことはまったく正しかったのだ。カリウ夫人はもう忘れてしまおうと何度も思ったが、考えれば考えるほどそれはできなかった。 また、パレアナがすっかり変わってしまったこともカリウ夫人の悩みの種だった。パレアナはひどく沈んでおり、綺麗な絵や敷物を見ては、これをジェミーに見せたら喜ぶだろうとか、豪華な食事を前にすれば、ジェミーは何も食べられないのにと泣くのだった。そんなパレアナを案じて、カリウ夫人は大きなツリーとともに盛大なクリスマスパーティーを開いたが、パレアナは感謝はしたものの、やはりジェミーが見たらと泣くのだった。ちょっとこの辺のパレアナはいまいち(--; そんなクリスマスの翌日、パレアナは公園で出会った美少女と再会した。少女はリボンを売っており、パレアナを見ると明るい顔になった。パレアナは少女との話の中でクリスマスの話題を出したが、少女はあかぎれと戦いながら、寝床で新聞と雑誌を読んだだけのクリスマスを過ごし、別に面白いことなど何もなかったと言った。少女にはそれが当たり前だったのだ。少女の話を聞いたパレアナは、カリウ夫人の意思など関係なく、少女を家に招いて、ツリーを見せてあげるのだとはしゃいだ。 |
一三 愛の勝利 |
パレアナの企画したパーティーには、リボンを売っていた美少女サディ・デーンの他に、ジェミーやジェレー、それにジェミーのアパートに住んでいる子供たちが呼ばれた。カリウ夫人はそれに反対だったが、カリウ夫人がきっとそうしたがっているだろうと信じ切っているパレアナの顔を見たら、どうしても言い出せなくなってしまった。パーティーは盛大に行われ、カリウ夫人ですらそれは成功したと言わざるを得なかった。 カリウ夫人はパーティーとともにサディの一件は終わったと考えていたが、パレアナがサディやジェミーを家に呼びたがり、断り切れなかった。それからサディとジェミーは、頻繁にカリウ邸を訪れるようになる。カリウ夫人はサディから町で一人で住んでいる若い女の子たちのことや、彼女たちを助けるべく寄宿舎や隣保館などが如何に機能していないかを教えられた。 また、ジェミーに関しては、彼の話す物語を好きになり、彼が不自由な体ながらも、その精神は毎日勇敢な行いと尊い冒険を描いているのだと知った。カリウ夫人は知らず知らずの内にジェミーを好きになり、いつの間にか彼を喜ばせるために何か新しいものを用意してやったりするようになった。そして、刻一刻とパレアナの帰る日が近付くにつれ、カリウ夫人はもはや以前のような、独り切りの暗い生活は考えられなくなっていた。そしてついにカリウ夫人は、ジェミーに一緒に住んで欲しいと頼み、ジェミーは明るくこう答えたのだった。「ええ! きます。ぼくを──かわいいと思っていてくださるから、いまなら、きます!」 |
一四 ジミーの嫉妬 |
ベルデングスヴィルに帰ったパレアナは、毎日あちらこちらを飛び回っては、ボストンであったことを話した。特にペンデルトンには多く話したが、パレアナはその中で、金持ちがもっと貧乏人と仲良くなり、助けてあげればいいのにと言う。それはボストンでカリウ夫人にも言ったことで、ペンデルトンもその時カリウ夫人が言ったような答えをした。『社会主義』だの『富の分配』だのは、やはりパレアナにはよくわからなかった。 パレアナはジェミーの話をするときは、とても明るい顔になった。ところが、その話はジミーもきっと喜んで聞くだろうと思い、嬉々として話すと、ジミーはジェミーに嫉妬して、空想好きのジェミーを「頭のおかしい男の子」だとなじった。パレアナは怒ったが、ジミーは『ジェミー』という名前は「女みたいでおかしいって言った人があるぞ」と言って取り合わない。パレアナが誰がそんなことを言ったのかと聞くと、ジミーは少し言いよどんでから、自分の父親だと言った。 それからジミーは、少しだけ過去の話をする。父親が死ぬ少し前、ジミーはある農場にいたのだが、そこのおばさんがジミーのことを『ジェミー』と呼び、それを聞いた父親が怒って、その日の内にジミーを連れて農場を出て行ってしまったと言う。それからすぐに父親は死んでしまい、ジミーは孤児院に行って、この町でパレアナと出会った。最後にジミーは、「ぼくは『ジェミー』じゃないよ」と言い放ち、パレアナを置いてさっさと帰っていった。 |
一五 パレー叔母さんの警戒 |
パレアナがベルデングスヴィルに戻ってから1週間ほどが過ぎると、パレーのもとにデラから手紙が届いた。その手紙によると、カリウ夫人はすっかり変わり、明るくなり、ジェミーの話をするときも、行方不明の甥ではなく、今いるジェミーの話を楽しそうにすると言う。ジェミーは非常に才能ある少年で、カリウ夫人は彼に新しいものを見せたり、教育をするのが楽しくて仕方ないのだ。また、エームス博士に見せ、足が治るかもしれないという話もあった。 手紙を読み終わると、チルトンは「治療は百パーセント成功らしいな」と笑った。ところが、パレーはパレアナが薬のように言われるのが嫌だったし、パレアナが自分の行いが人のためになっていると知ることをひどく恐れていた。そのため、チルトンの要望通り数年間ドイツへ行き、一度パレアナをベルデングスヴィルから遠ざけることを提案する。もちろん、チルトンに依存はなく、三人はベルデングスヴィルを発つことになった。 |
一六 パレアナを待つ |
パレアナがチルトン夫妻とともに町を発ってから6年、ベルデングスヴィルは期待に震えていた。パレアナが帰ってくるというのだ。事故で歩けなくなったパレアナが、ボストンの診療所から帰ってきたとき以来の賑やかさだった。パレアナは4年前に一度だけベルデングスヴィルに戻っていたが、その時は短い滞在だった。ところが今度は、永住するつもりで戻ってくるというのだ。 というのは、半年前にチルトンが死んだのである。さらに悪いことに、株の暴落で収入が減り、またチルトンの研究のために莫大な金を投資して、パレーとパレアナはすっかり貧乏になってしまったのだ。そんなパレーの邸宅を、今はティモシー・ダルギンのおかみさんになったメイドのナンシーが掃除をしていると、すっかり紳士になったジミーがやってきて、二人でパレーとパレアナの不憫を嘆いた。 ジミーは家に戻ると、ペンデルトンに難しい顔でパレアナが明日帰ってくることを告げる。ジミーはパレアナに会いたいと思う反面、会いたくないとも思っていたのだ。ジミーは大人になったパレアナを見るのが怖かった。今でも『遊び』をしているのか心配に思っていたし、美人になっているかも気懸かりの一つだったが、少なくとも後者に関してはペンデルトンが安心させた。ペンデルトンはローマでパレアナに会ったことがあったのだが、相変わらず元気で明るい瞳をしていたと言う。ジミーはペンデルトンと二人で、パレーとパレアナの頭上に降りかかった不幸をしばらく溜め息混じりに話してから、明日迎えに行くと告げた。 |
一七 パレアナあらわれる |
この6年の間に、パレーはすっかり変わり果て、元の気難しいパレー・ハリントンに戻っていた。迎えに来ていたジミーとティモシーには、「あなたもティモシーもあんまりご親切すぎて、かえって、こっちが痛みいります」と嫌味を言い、家の前で出迎えたナンシーには、「じつを言うと、わたしはありがた迷惑なんだよ、ナンシー」を言い放って、さっさと家の中に入っていった。 パレアナは落ち込むナンシーを慰めてから、しばらくナンシーの肩で泣いた。パレアナはパレーがつらい思いをするといけないと思って、ずっと泣くのを堪えていたのだ。給金はいらないから家を手伝いたいと言ったナンシーをどうにか家に帰してから、パレアナとパレーはこれからどうするか話し合った。けれど、パレーもパレアナも仕事になるようなことは何一つできず、とうとう亡き夫を思い出して泣き出したパレーに、パレアナは自分にどんな才能が発揮するかわからないし、先が見えないと言うのもそれはそれで面白いものだと笑った。 |
一八 切りつめた生活 |
パレーはすっかり閉じこもってしまったが、パレアナは近所の人や昔馴染みの友達が尋ねてくるのを、機嫌よくもてなしていた。ジミーもたびたび訪れ、パレアナは彼にだけは家の財政のことを話し、「なにかお金もうけがしたいわ」と言った。ジミーは、パレアナが他人の家の台所で働くことなど考えられず、「結婚すれば、よその家の台所の監督をするようになりますね。それはどうです?」と赤くなりながら尋ねる。パレアナは、自分は美人ではないから結婚はしないだろうと笑い飛ばした。 確かにパレアナは美人ではなかったが、笑顔は明るく、元気で快活だった。二人でそういう話をしていると、不意に『遊び』の話になり、ジミーはパレアナが今でも『遊び』をしていることを知る。パレアナは、チルトンが死んでからの半年は、『遊び』がなかったらとてもやっていられなかったと言ったが、今ではあまり他人には話さなくなったと言う。 「二十歳と十歳ではちがいますからね。いつまでも十歳のときと同じようにしゃべっていちゃおかしいわ」と笑ってから、ドイツで出会った、どうしても変わりたくない不平家の話や、不平を言うのを楽しみにしていた昔の婦人会の奥さんの話をした。世の中には『遊び』を必要としない人間もいることを、少女は確かに知ったのである。 |
一九 二通の手紙 |
六月末頃パレアナのもとに届いたデラからの手紙は、パレアナに希望をもたらした。と言うのは、手紙には、現在療養中のカリウ夫人が、夏の間気分転換のために過ごすことができる場所をベルデングスヴィルに探しているとあったのだ。パレアナはパレーに、カリウ夫人とその秘書、それから養子のジェミーを"ペイング・ゲスト"として家に招こうと言った。パレーは、パレアナの苦労を考え、あまり気乗りはしなかったが、パレアナは強引に押し通した。 ジミーに手紙の返事を出してもらいに行くと、ジミーはジェミーの名を聞いて再び不機嫌になり、手紙を破り捨てたいような気持ちになった。それでも破らなかったので、数日後にデラからの返事が届く。そこには一家の近況が書いてあったが、カリウ夫人は今、サディとともに勤労女性ホームを作って、働く女性のために働いているらしい。そのせいですっかり疲れてしまい、今回の療養もそのためだという。 ジェミーは相変わらず元気に暮らしているが、足の方は辛うじて杖を使って動けるようにはなったが、それ以上はもうダメだという。パレアナから手紙の内容を聞かされたジミーは、思わずジェミーに同情したが、パレアナが涙をためて同情しているのを見て、またむしゃくしゃした気持ちになった。 |
二〇 払うお客 |
パレアナはティモシーとともにカリウ夫人の一行を迎えに行ったが、急に怖くなってしまった。しかし、気を取り直して懐かしい人たちと再会し、改めて3人を見た。カリウ夫人はしみじみと美しく、ジェミーは松葉杖こそ痛々しかったが、立派な青年になっていた。サディは当時のままの美少女だったが、服装や言葉遣いはまったく変わっていた。 パレーは最後まで気乗りせず、準備をしている最中もパレアナを捕まえては文句ばかり言っていたが、一行を出迎えた時には実に普通に振る舞っていた。また、カリウ夫人のわけへだてない態度にすっかり征服されて、いつの間にか友達の訪問を迎えるような心持になっていた。けれど、パレアナの気苦労は並大抵のものではなかった。椅子にほこりがかかっているだけでも気に病み、逆にカリウ夫人やジェミーが心配するほどだった。 一週間ほど過ぎると、ジミーとジョン・ペンデルトンが新来の客人に敬意を表しにやってきた。カリウ夫人はジミーを見て、どこかで見たことがある気がすると言い出したが、ジミーはこんな美しいマダムに一度でも会ったら忘れるはずがないと言って皆を笑わせた。ジミーは橋をかけるのが夢で、今ボストンで建築学を学んでいるので、その時に会ったのではないかとパレアナは言ったのだが、ペンデルトン父子が帰った後も、カリウ夫人はジミーについて考えるのだった。 |
二一 夏の日々 |
ジミーは、初めは嫌がっていたのだが、紹介の後は頻繁にチルトン家を訪れるようになった。特にカリウ夫人とは仲良くなり、散歩をしたり話をしたり、冬に新築に取りかかる『勤労女性の家』の設計についても話した。もちろん、ジェミーやサディもその相談に加わった。ペンデルトンもジミーに連れられて何度も訪れ、その度に乗馬、遠乗り、遠足を楽しんだ。ただ一人、パレアナだけが四六時中働いており、カリウ夫人の一行もペンデルトン父子もそれを気に病んでいた。 やがて、そんなパレアナを引っ張り出す意もあって、ペンデルトンがベルデングスヴィルから60キロ先の山へキャンプをしに行こうと言い出した。パレーは40過ぎの男が若者に混ざってキャンプなぞをすることに反対したが、当の本人もカリウ夫人の一行もすっかりその気になって準備に勤しんだ。 キャンプは天幕を張り、キャンプファイアーを焚く本格的なもので、準備の最中、パレアナはジェミーのことが気にかかって仕方なかった。ジェミーが何かものを運ぼうとしているたびにそれをやめさせたり、休んでいるよう言ったりしたが、やがてサディがそんなパレアナを見て咎めた。ジェミーは他の人と同じように働きたかったのである。言われてみればジェミーは嬉しそうに準備をしていたが、パレアナはどうしてもサディのように物事を考えられず、終いには、ジェミーのことを考えたらキャンプになど来るべきではなかったとさえ考えた。この辺のパレアナもいまいち(--; |
二二 友情 |
キャンプの間に、6人は実に仲良くなった。ジェミーは「町で一年じゅういっしょに暮らすよりも、森の一週間のほうが仲よくなるねえ」と言った。パレアナはサディから、『勤労女性の家』のことと、カリウ夫人の活躍を聞かされた。カリウ夫人からは、如何にジェミーを愛しているかを聞かされた。しかし、今のジェミーを心から本当の甥だと思っているわけではなく、本当の甥のジェミーの話となると、カリウ夫人の顔は悲しそうになるのだった。 ジェミーは自分が本当の甥であると信じていた。と言うよりも、もしそうでなかったら、いくら愛されているとはいえ、何もできない自分が家に置いてもらうのはひどく気が引けるのだ。話が『喜びの本』からジェレーのことになり、お金の話になると、パレアナはジェミーに小説を書こうと考えていることを話した。小説ならば自分にでも書けるのではないかと思っていたのだが、ジェミーは複雑な顔をしただけだった。 ペンデルトンからは母親のジェニーの話を聞かされた。ペンデルトンが昔誰とも付き合わない気難しい人間になってしまったのは、ジェニーに結婚を断られたせいであり、その頃からペンデルトンはジェニーの話をしたがらなかったのだが、今では遠い昔をなつかしむようにそれを話した。そんな中で、パレアナが一番話していて楽しいのは、やはりジミーだった。ジミーはいつも健康で、行方不明の甥もいないし、昔失った愛人もいないし、松葉杖に頼ってもいない。まったく同情する必要がないので、パレアナは彼といるときが一番楽な気持ちになった。う〜む……。 |
二三 『棒にくくりつけられて』 |
キャンプの最後の日に、パレアナはジミーの提案で釣りに行くことにした。その途中、ふとパレアナは牧場にきりん草が咲いているのを見て、「ちょっと待ってちょうだい。あたし、あの花をとってくるから」と言うが早いか、石垣を越えてさっさと行ってしまった。 そんなパレアナ目掛けて、突然丘の方から怒り狂った牛が走ってきて、ジェミーが悲痛な叫び声を上げた。パレアナはようやく牛に気が付くと、花を投げ捨てて懸命に逃げた。やがて、ジェミーの悲鳴に混ざって、ジミーの声がした。パレアナはジミーに助けられ、一命を取り留めた。 パレアナが思わずジミーを誉めると、道でジェミーが地面に顔をすり付けて泣いていた。そして、「おい、どうした? けがをしたのかい?」と尋ねたジミーを睨み上げると、「二本の棒にこうやって、くくりつけられているこのからだで、みすみす人の危険をどうすることもできずに、ただ眺めていなけりゃならないぼくのなさけなさは、けがや痛みどころの話じゃないんだ」と叫び、ようやく立ち上がるとキャンプの方へ帰ってしまった。 |
二四 ふたたびジミーの嫉妬 |
キャンプの後、皆は妙にぎくしゃくしてしまった。もちろんそれは最後の日の釣りせいなのだが、誰もそれを口に出しては言わなかった。ジェミーは暗く沈みこむことが多くなり、自分から一人になりたがった。パレアナはそんなジェミーに同情し、なるべく一緒にいるようにしたが、弱音を吐くジェミーとあまり口をききたくないと思うことさえあった。 ジミーは、猛牛にパレアナを奪われそうになったとき、初めて自分が如何にパレアナを愛しているかを知った。パレアナがいなくなってしまっては、どれだけ橋を架けても、堤防を築いても満足できないだろう。けれど、ジェミーもパレアナを愛しており、ジミーは障害を負っているジェミーと争うのは公平ではないと考え、幾度となくパレアナのことはあきらめようと考えた。 そんなジミーの慰めとなったのがカリウ夫人だった。ジミーはカリウ夫人と話していると、まるで母親といるように心が落ち着いたし、ついには『書類』のことさえも話してしまいそうになった。その『書類』とは、ジミーが父親から託されたもので、状袋には、「わが子ジミーに、三十歳の誕生日の当日に開封すること」とあった。この書類は今はペンデルトンが大切に金庫に保管している。結局、ペンデルトンの登場にその話をすることはできなかったのだが、ジミーは後から、話さなくてよかったのかも知れないと思った。カリウ夫人に、ジミーの父親に暗い秘密があったと思われるのは嫌だった。 |
二五 『遊び』とパレアナ |
一行が帰ると、パレアナはしばらくお客さんなしで、ジミーと一緒にのんびり静かに暮らしたいと思った。けれど、静かには暮らせたが、ジミーと一緒には暮らせなかった。当のジミーがほとんど遊びに来なくなってしまったのである。また、来てもどこか様子がおかしく、そうこうしている内に、ジミーは研究のためにボストンに帰って行ってしまった。 ジミーがいなくなると、パレアナは寂しくてたまらなくなった。そして、自分がジミーを好きであることを思い知り、このままではいけないと自分に鞭打って仕事に励んだ。パレーは相変わらず愚痴を言っていた。ある日、パレアナは雑誌の懸賞広告を見つけ、小説を送ってみようと考えた。小説は思いの外難しく、ちっともはかどらなかったが、苦心の末ようやく一つの小説が書き上がった。 パレアナはそれを持って、タイプに打ってもらうためにスノー夫人の娘のミリーを訪ねた。スノー夫人の家で、パレアナは自分の『遊び』のおかげでどれだけの人が助かり、また今どれだけの多く人が『遊び』をしているかを知った。帰り道でパレアナは、最近すっかり『遊び』をやめてしまったパレーを思うと同時に、自分もさぼりがちになっていたことに気が付いて、もう一度頑張ってみようと心に決めた。 |
二六 ジョン・ペンデルトン |
クリスマスの一週間前に、パレアナは小説を雑誌社に送った。発表は4月だったが、パレアナは早くも、一等を取ったらどうしようとか、一等でなかったら、下の方の賞でも我慢しようなどと考えていた。パレアナの頭の中には、落選の文字はなかったのだ。 クリスマスは寂しい一日になった。パレーは飾りつけなどするはずがないし、贈り物など受け付けない。ジョン・ペンデルトンがやってきたが、それがかえってパレアナをいらいらさせた。というのは、ペンデルトンの話だと、ジミーは今ボストンで、カリウ夫人と一緒に『勤労女性の家』の50人の娘たちと一緒にクリスマスを祝っていると言う。すっかり気落ちしてしまったパレアナに、ふとペンデルトンが、「あの婦人を愛している人は、ほかにもおおぜいあるだろうね」と言い出した。その言葉にパレアナは、ある恐ろしい考えに至る。ひょっとしたら、ジミーはカリウ夫人を愛しているのでは? パレアナは自分をまったく美人だとは思ってなかったし、カリウ夫人は溜め息が出るほどの美人である。その晩パレアナは泣きながら眠りについた。 それからも、ペンデルトンは何度となくパレアナのもとに訪れたが、そのたびにカリウ夫人とジミーの話をした。サディやジェミーから来る手紙にも必ずジミーの話があった。カリウ夫人からの手紙にも、ジミーがたびたび訪れて仲良くなっていくことが書かれていた。ただ一人、ジミーからは手紙が来なかったが、パレアナは「あの人もカリウおばさまとホームの娘たちのことしか書くことがないんなら、そんな手紙はほしくないわ」と言って溜め息をついた。 |
二七 『遊び』をやめたパレアナ |
一月と二月は雪とみぞれの中に過ぎ、三月は雨が続いた。パレーは本当に具合が悪くなり、ますます不機嫌になって愚痴も多くなった。そんな状況なので、パレアナも『遊び』をするのが難しくなっていたが、それでもなるべく努力するようにしていた。 冬の間に、パレアナは何本か小説を書いては雑誌社に送ったが、いずれも採用されずに返ってきた。パレアナは返ってくる原稿を見ては、「叔母さんはご存じないから、心配もなさらないし……まあ、それがうれしいわ」と妙な慰め方をした。懸賞小説は、一等は無理でも、どれでも小さな賞に当たればいいというところで落ち着いていた。 ある雨の日、「うれしいうれしい」と言い続けるパレアナに、とうとうパレーが癇癪を起こした。そして、「うれしいうれしいがわたしの神経にさわって困るんだから、たまにはうれしいをやめておくれ」と言う。翌日、パレアナは言われた通り「うれしい」と言うのをやめ、一日中不機嫌でいた。何もかもが気に入らない、不満ばかりで文句を言い続ける、しかもとうとう懸賞の結果が来てそれを見て泣き、そんなパレアナにパレーは降参して、最近さぼっていたから、自分もまた『遊び』をやってみることを約束した。 |
二八 ジミーとジェミー |
ボストンにいる間、ジミーはパレアナを忘れようと思っていたが、どうしても忘れられなかった。いっそ早くジェミーと婚約を発表してくれればいいのにと思っていた矢先、ジェミーから自分がとんでもない勘違いをしていたことを知らされる。 ある日、ジェミーは嬉しくてたまらないことがあり、ジミーを捕まえて話し始めた。それによると、ジェミーの書いた短編が懸賞で一等を取ったらしい。ジェミーは自分の生活も自分で立てられないことを嘆いていたが、ようやくそれが叶い、喜ぶと同時に、自分の好きな娘に告白できると言った。それはサディ・デーンだった。 ジミーが驚いて、パレアナではなかったのかと聞くと、ジェミーは笑いながら、パレアナにはジョン・ペンデルトンがいると言って笑った。ジェミーはペンデルトンがパレアナを好きでいると思っていたのだ。それにはジミーだけでなく、カリウ夫人も異を唱えたが、ジェミーは自分のことでいっぱいで、あまり気にしなかった。 |
二九 ジミーとジョン |
ジミーの突然の訪問に、パレアナは驚いた。ジミーはジェミーの話を聞いて居ても立ってもいられなくなり、パレアナの家にやってきたのである。ジミーは自分がパレアナを好きであることと、ジェミーもパレアナを好きだと思い込んでいて、それで譲ろうとしていたことを話した。パレアナはジェミーの好きなのがサディであることを知っていたから、ジミーの話に驚いた。 それからジミーは、ジェミーが話したことを話し、相手が五体満足なジョン・ペンデルトンならば、自分は戦うと言う。けれど、パレアナは自分もジミーが好きであることを言った上で、もしもペンデルトンが自分を求めるならば、自分はペンデルトンと結婚するだろうと言った。パレアナは、自分の母親がペンデルトンを傷付けたことに責任を感じていたのだ。 パレアナは、ペンデルトンがどう思っているか確かめるまでは、待たなければならないと言い、ジミーはそれに納得してボストンへ戻っていった。 |
三〇 ジョン・ペンデルトンが鍵をまわして |
ジョン・ペンデルトンがやってきたとき、パレアナは思わず逃げたい衝動に駆られたが、そうもできずに話を聞かなければならなかった。ペンデルトンはなつかしそうにパレアナとの出会いを語り出し、パレアナはどんどんその表情を不安げにゆがめていった。そしてとうとうペンデルトンは言う。「ぼくは決心したんだ。自分の家庭に婦人の手と心を入れることにきめたんだ」 パレアナはその相手が自分だと信じて疑わなかったので、ペンデルトンの決意をくじくようなことばかり言って、ペンデルトンを失望させた。けれど、最後にはとうとう、その相手が自分ではないとわかって喜ぶ。ペンデルトンの愛する婦人は、カリウ夫人だったのだ。ペンデルトンが帰った後、パレアナはすぐにジミーに手紙を書いた。ペンデルトンの愛しているのは、自分ではなかったと。 |
三一 長年の後に |
パレアナは、ボストンからジミーが戻る前にパレーに報告しようと思い、喜び勇んでパレーの部屋を訪れた。ところが、パレーはパレアナの期待に反して、ジミーとの結婚を反対したのである。パレーはジミーを一青年としては認めていたが、姪の夫としては不服だった。それは、ジミーの家柄がまったくわからないからである。 そのことを聞かされたジミーは、家に帰ると、すぐに養父に『書類』を開封したいと言った。それを見れば、自分の出生が明らかになるのではないかと思ったからだ。ペンデルトンはジミーの意思を尊重し、三十までは開けてはいけないとあったその『書類』を開封する。中には、ジミーがウィリアム・ウェザビーの娘ドリスとジェミー・ケントの息子であることが書かれた手紙と、それを証明する法律上の書類が入っていた。 真相を知ったジミーは、ペンデルトンと相談して、まずこのことをカリウ夫人に話さなければならないと考える。しかし、そうすればジェミーは悲しむことになると考えたジミーは、このことをカリウ夫人とペンデルトン、そしてパレアナとパレー以外には内緒にしようと提案する。それによってジミーは財産相続の問題でかなりの損をすることになるのだが、ジミーは天秤の片方にジェミーを乗せたら、それよりも重たいものはないと笑い飛ばした。 |
三二 魔法のランプ |
ペンデルトンは、出立の前に、ジミーには内緒でパレアナとパレーに手紙を出していた。そしてジミーと二人でボストンを訪れると、まず自分一人で行き、それからジミーには四時頃に来て欲しいと言う。ジミーはどう切り出してよいかわからなかったので、その方が助かると言って承諾した。 叔母と甥の再会は涙に包まれた。カリウ夫人はジェミーのことを思いやるジミーの心意気に打たれ、これからも「ジミー」と呼ぶことを約束する。けれど、もちろん本当はジミーを自分の甥として皆に紹介したいのである。思わずジミーが「ルース叔母さん」と言うと、偶然そこにジェミーとサディが立っており、ジェミーが怯えた目をした。「ルース叔母さんだって! まさかきみが──」 ジミーは血の気が失せたが、そこでジョン・ペンデルトンが意外な告白をする。実はペンデルトンは、先に来てカリウ夫人に告白し、二人は結婚することになったのである。だから、ジミーは「ルース叔母さん」と呼び初めをしたのだとペンデルトンは語った。これにはジミーも驚いたが、ジェミーもサディも疑うことなく二人を祝福した。そして、そこにパレアナが登場する。ジョンが手紙で呼んでいたのである。ジミーは思わずパレアナに駆け寄り、パレアナは「みなさんの前じゃありませんか」と抗議したが、ジェミーとサディも、カリウ夫人とペンデルトンも、皆それぞれ自分たちの世界に浸っていて、誰も二人を気にしてはいなかった。パレアナはパレーが安心していたことを報告してから言った。「あたしもうれしいですわ。うれしくて、うれしくて──なにもかも、うれしいことばっかりの世の中ですわ!」 |