『 黒い兄弟 』 あらすじ



■書名 : 黒い兄弟(上) / 黒い兄弟(下)
■著者 : リザ・テツナー / リザ・テツナー
■訳者 : 酒寄進一 / 酒寄進一
■定価 : 700円 / 700円
■出版社 : 福武書店 / 福武書店
■ISBN : 4-8288-5708-7 / 4-8288-5709-5
■初版発行日 : 1995/01/17 / 1995/01/17
■購入版発行 : 1995/10/20 ( 7刷 ) / 1995/07/24 ( 5刷 )
 
■購入日 : 2003/09/20 / 2003/09/20






−裏表紙より−


150年前のスイス。

山奥の貧しい農家に生まれたジョルジョは、

優しい家族や友達に囲まれ、元気一杯。

ところが厳しい日照りの年、どこにもお金がなくなって、

ジョルジョが人買いに売られることに……

そして、その先にはもっとおそろしいことが待っていたのです。

スイスで昔実際にあった少年たちの売買を題材に、

愛と友情を描いた名作。




第一部 ほお傷の男

一 ジョルジョのふるさと
13歳の少年ジョルジョは、スイスにあるソノーニョ村という村に住んでいた。ジョルジョは祖母と両親、それから6歳になる双子の弟と一緒に暮らしており、一家は牧畜を営んで生計を立てていた。しかし、暮し向きはよい方ではなく、ジョルジョは毎日両親を手伝っていたし、教会の鐘を鳴らすのも仕事の一つだった。

村にはアニタという赤毛の女の子が住んでおり、アニタはジョルジョのことが好きだった。けれど、ジョルジョは忙しくてあまり一緒に遊ぶことができず、少女はよくエンベリーノという少年と遊んでいた。エンベリーノは乱暴者で、ジョルジョはこの少年のことを嫌っていた。

夏も終わりに近付いたある日、ソノーニョ村に一人の男がやっていた。男は頬に傷があり、「ほお傷の男」と呼ばれていた。その晩、ジョルジョの父であるロベルトは酒場の女性に呼ばれ、この男と会った。ほお傷の男はロベルトに、ジョルジョくらいの歳の子供を探していると言った後、「おれはそういう子を半年ミラノにつれていって仕事をさせている。そのかわり親には三十フラン支払う」と言った。

ロベルトは「おれは千フランつまれても、自分の息子を売ったりはしないぜ」と言って断ったが、ほお傷の男は、「みんな、はじめはそういうんだ。だがな、パンもぶどう酒も急にテーブルから消えてなくなるってこともあるんだぜ」と言って、目を細めた。そして、来年また来ると宣言した後、「まあ、見てるがいい。きっと来年は、子どもを喜んでおれにくれるぜ」と言った。

二 ワシとアナグマと冷害
ほお傷の男の話を聞いた夜、ジョルジョは男のことが気になってなかなか寝付けなかった。そして翌日、実際に男を茂みに隠れて見たことで、ますます忘れられなくなってしまった。一方、ロベルトもまたこの男と男の言った言葉が忘れられなかった。しかし、ロベルトには牧草地もあればヤギもいる、ニワトリやウサギもいるし、大きなトウモロコシ畑と小麦畑を持っていたので、食べ物に欠くことなど考えられなかった。

ところが、二、三週間が過ぎたある晴れた日、ロベルトのヤギが家畜を狙っていたイヌワシに襲われて、谷に転落してしまった。親ヤギは即死し、子ヤギの方もひどい傷を負って数日後に死んでしまった。さらに三週間が過ぎると、今度はトウモロコシ畑をアナグマに荒らされるという事件が起きた。アナグマは村人によって退治されたが、ロベルトは溜め息を禁じ得なかった。

その秋はいつになくぶとうがよく熟し、村人はみな、収穫前から美味しいぶどう酒を想像して舌つづみを打った。ところがある晩、急に冷え込んで霜が下り、翌日の夕方には雪になって、ぶどうはダメになってしまった。そればかりか、まだキビやトウモロコシや豆の収穫も済んでおらず、人々は途方に暮れた。

「悪態をつくんじゃないよ。災難というのはね、思ったより早くくるものなんだよ」とおばあさんが言い、ロベルトは「ほお傷の男も、そういっていたよ」と呟いた。

三 日照り、山火事、母さんのけが
その冬は寒さの厳しい冬になった。しかも、秋に早い雪のせいで家畜のエサにする草も刈ることができなかったせいで、人々も動物もひもじい思いをした。春になると、今度は一滴も雨が降らず、大地は日照りのために割れ、種を蒔くことができなかった。例年ならば激流となるベルザスカ川もすっかり干上がり、村人たちは恨めしそうに空を見上げた。

牧場の草がなくなると、村人たちは家畜を連れて二番目の牧場、三番目の牧場と、どんどん山に登って行った。ジョルジョもアニタと一緒に牧場へ行った。そんな折、野火が発生する。毎年ならばすぐに消えるような野火だったが、今年は雨が降らないせいで森に燃え移り、大変な山火事になった。しかもその火事のせいでロベルトの牛が死に、ロベルトはすっかり気落ちしてしまった。

草がなくなると、人々は木の葉を家畜のエサにした。ジョルジョの母親も籠をかついで木の葉を集めに出たが、その時、足を滑らせてくるぶしの骨を折る大怪我をしてしまった。医者を呼ぶにも金がなく、困っていたところに、酒場の主人がやってきた。ほお傷の男が現れたと言う。

ロベルトは頑として行くのを拒否したが、おばあさんに説得されて、ほお傷の男と会った。そして昨年よりも十フラン安い、二十フランでジョルジョを売ったのだった。ジョルジョは二日後にロカルノの町の“パン・ペルデュー”という酒場に来るよう言われ、医者もジョルジョがロカルノで呼ぶことになった。

四 つらい別れ
次の朝になると、ジョルジョはほお傷の男を恐れていたことを忘れ、むしろ世の中に出て行くことを誇らしくさえ感じていた。その日はアニタと会い、アニタに木いちごのある場所や、鳥の取り方、サンショウウオやヘビのいる場所を教えて回った。そして、アニタに自分の飼っている動物をすべてプレゼントする約束をする。

いよいよ別れが近付くと、アニタは首にかけていた絹の紐を取った。紐には小さなハートの形をした銀色のお守りがぶら下がっており、アニタはそれをジョルジョに差し出した。その晩、ジョルジョが夕食を食べていると、外からアニタの声がして外に出た。そして、アニタはジョルジョに泣きながら、行かないでほしいと訴えた。

アニタの話によると、ジョルジョはミラノで煙突掃除をするという。そして、ほお傷の男に連れて行かれた子供は、ほとんどが戻ってくることはなく、アニタはきっと死んだのだと言った。アニタはその話を父親と猟師のバレッタから聞き、バレッタは、もし子供がいたらミラノの煙突掃除夫にだけは渡さないと言ったと言う。

ジョルジョはすぐに父親に相談しようとしたが、家に戻るとおばあさんがそれを止めた。さらにおばあさんは、母親に別れを言いたいと頼んだジョルジョの願いすら聞き入れなかった。母親にはジョルジョはロカルノに医者を迎えに行くとしか言っておらず、本当のことは医者が来てから話すと言う。ジョルジョは最後には家の状況を理解して、再びミラノ行きを決意するが、俺はこの章をもってこのおばあさんを嫌いになった(爆)。

五 友との出会い
出発の朝は一年分の雨が一度に降ってきたような土砂降りになり、ロベルトが嬉しさのあまり、息子の出発日であることを忘れてしまったほどだった。ジョルジョは祖母と父に別れを告げると、家を後にした。一年前にジョルジョがほお傷の男を見たところにアニタが立っており、ジョルジョはアニタに半年後には必ず戻ると約束して、最後の別れをした。

昨日までとは打って変わったベルザスカ川の濁流を越え、サン・バルトロメオ村に着く頃には日が差してきた。そしてロカルノ平野が見え、しばらく歩くと、ジョルジョは昼飯を食べようとする。けれど、リュックの中にあった食べ物はもはや食べられる状態ではなかったので、ジョルジョは川でマスを取ることにした。そこでジョルジョは一人の少年と出会う。

少年はジョルジョより少し背が高く、痩せていた。また、上品な感じがしたが、身なりはジョルジョのそれよりもひどかった。ジョルジョと同じようにずっと歩いてきたようで、足は土ぼこりで汚れていた。少年はアルフレドという名で、ジョルジョのマスを取るのを手伝い、二人で一緒に食べた。アルフレドもミラノへ行く途中だったが、行かなければならない理由を含め、過去はすべて「秘密なんだ」と言って話さなかった。

不意にアルフレドが、「ぼくたち、友だちにならないかい?」と言った。ジョルジョはすでに友達のつもりでいたが、アルフレドの言う「友だち」とは、手を握って誓いを立てるものだった。アルフレドはそれを本を読んで知ったと言い、字の読み書きができないジョルジョはひどく驚いた。なぜ読み書きできるような子供が煙突掃除をしなければならないのか、ジョルジョは不思議がったが、アルフレドは秘密だと言って語らなかった。

町に着くと、まずジョルジョはバリッフィ先生を訪ねて、村に行って母親を見てもらえるよう頼んだ。それからアルフレドと二人で市場を見て回った。夕方、時が経つのも忘れて歌を聴いていると、ほお傷の男に見つかり、“パン・ペルデュー”に連れて来られた。二人は食事すら与えられず、納屋に叩き込まれた。そこにはすでに二十人ほどの少年が入れられており、二人は彼らと同じように横になって眠った。

六 船の転ぷく
子供たちは、まだ日が昇る前に叩き起こされ、小さなボートに詰め込まれた。ボートには二十人の子供とほお傷の男、そしてカルロという名の大男が乗り、岸を離れた。中には怖がって泣いている子供もいた。アルフレドともう一人の少年がオールを取って、カルロとともに船を漕いだ。

途中で体の大きな少年が「ぼくは貧しい家の子」で始まる悲しい歌詞の歌を歌って、やがて子供たちも一緒に歌った。ジョルジョが昇ってくる朝陽の綺麗さに感動すると、不意に猟師の子供だという少年が、「嵐になるぞ」と言った。実際、その通りになり、しばらくは船も押し寄せる波に持ち応えていたが、やがては転覆し、子供たちは湖に落ちてしまった。

ジョルジョは泳ぐことができたので、雹交じりの雨の中を泳ぎながらアルフレドの姿を探した。そして、ボートの底に渡してあった板を見つけてその上に体を乗せると、向こうにへとへとになって泳いでいるアルフレドを見つけた。ジョルジョはアルフレドを助け、岸に向かって泳ぎ始めた。すると今度は、溺れかかっているほお傷の男がやってきた。二人は四苦八苦しながらこれも救出し、ついには陸まで泳ぎ切ったのだった。


第二部 売られた子どもたち

一 地下室までの長い旅
ほお傷の男は、溺れて意識を失う直前に、もしも助かったら二度と子供の売り買いなどしないと誓ったが、助かったらそんな考えはすぐに消えてなくなった。しかし、命の恩人であるジョルジョに、一つだけ頼みごとを聞いてやると約束する。

三人はカノビオという村のそばにいた。ほお傷の男は村の外で待つと言い、二人にミラノへの道を聞いてくるよう言った。二人は村で税関吏に会い、船が転覆した話をした。二人はほお傷の男のことは言うなと言われていたので、彼が助かった話はしなかった。そして、村が大騒ぎになったので、どさくさに紛れてさっさと逃げ出した。

パランツァ村を過ぎると、二人はもう歩けなくなり、そこで野宿した。翌日ストレーザ村に入ると、村は転覆した船の話で持ちきりで、教会では死んだ子供たちのためにミサをあげていた。ジョルジョは、ほお傷の男が助かったことを言った方がいいのかどうか迷ったが、アルフレドに、「わからないな。でも、それをいうのは、ミラノについてからだって遅くないさ」と言われて、言うのをやめた。

二人はカスタノ・プリモ村を通り、ロー村を出て、ついにミラノに入った。ジョルジョは見るものすべてが珍しくて、度々足を止めたが、やがて“黄金の壺”という殺風景な酒場に連れて来られた。酒場ではほお傷の男の冥福を祈って飲んでいたが、すぐに無事の祝いに変わった。二人は命の恩人ということでぶどう酒を一杯ずつもらったが、すぐに主人に真っ暗な地下室に叩き込まれたのだった。

二 子どもの売り買い
自分の手すら見えない闇の中で、アルフレドと寄り添い合うようにして眠った翌朝、二人は酒場で朝食を摂った。運んでいた女性は、「明日からは、なにがもらえるか、わかったもんじゃないからね」と言い、実際それはその通りになる。

酒場には次々と煙突掃除の親方が集まり、二人を品定めした。ところが、酒場の主人が80リラという高額を突きつけたため、なかなか買い手が現れなかった。結局、ジョルジョはロッシというだんごっ鼻の親方に買われ、アルフレドはシトロンと呼ばれている、すぐにナイフを取り出すようなろくでもない男に買われた。

ジョルジョは、ロッシはそれほど悪い親方でもないという印象を持ったが、ロッシの妻と息子はそうではなかった。ロッシのおかみは、心底意地汚く、性格は歪んでいるし、善意のかけらもない人間だった。しかも息子のアンゼルモを溺愛していた。このアンゼルモも母親譲りの立派な性格をしており、いきなりジョルジョを目の仇にするわ、わざと足は踏みつけるわ、もう最低。死ね、クズ。

しかし、ロッシには娘もおり、この娘は病気で寝たきりだったが、とても心優しく、ジョルジョのことも好きになった。名前はアンジェレッタといい、少女のおかげで、ジョルジョはクズ人間どもの嫌がらせも忘れて、ようやく明るい気分になれた。

三 「スパッツァカミーノ! スパッツァカミーノ!」
親方と二人で町に出て、客を求めて歩いていると、あばた顔の少年をはじめとした子供たちがジョルジョのことをからかってきた。ジョルジョは殴ってやりたかったが、親方がそれを止めた。煙突掃除夫が子供に悪口を言われるのはザラにあることらしい。

初めの客は女性だったが、ジョルジョは親方に言われた通りに煙突を掃除し、帰りに女性からオレンジをもらった。次は教授で、彼はジョルジョに本をくれた。ジョルジョはこの仕事もそれほど悪くないと思ったが、3軒目はパン屋に入り、今の今まで火がついていたこともあって、煙突は焼けるように熱かった。ジョルジョは濡れた布を手に煙突を登ったが、途中で落っこちて気を失ってしまった。

水を浴びせられて意識を取り戻すと、ジョルジョは真っ青になっており、もう歩く元気すらなかった。親方が酒場に入り、ジョルジョは酒を一杯もらって横になった。親方はぐでんぐでんに酔っ払い、その日はそれ以上仕事にならずに家に帰った。

ジョルジョはひどい空腹だったが、おかみはジョルジョに何も与えなかった。アンゼルモはジョルジョをバカにし、ジョルジョは腹を立てたがどうすることもできず、格子のついた部屋に叩き込まれた。ジョルジョが横になって故郷のことを思い出していると、不意にアンジェレッタがやってきて、ジョルジョを自分の部屋に連れて行く。アンジェレッタは自分の夕食をジョルジョのために取っておいてくれ、ジョルジョはアンジェレッタに本とオレンジを渡してから、せがまれるまま故郷の話をした。

四 ぼくは泥棒じゃない
ジョルジョは煙突掃除だけでなく、家の手伝いもさせられた。しかし、それ自体はそれほど苦にならず、また煙突掃除も次第に慣れてきた。ジョルジョが一番我慢できなかったのは、毎日からんでくるあばたに率いられた少年たちと、アンゼルモのバカだけだった。

ある日、ジョルジョはアンゼルモがあばたと一緒にいるのを見て、それを親方に言いつけてやると言った。その翌日、アンゼルモは親方の財布を盗み、それをジョルジョのせいにする。ジョルジョはおかみに何度も叩かれ、終いには木靴で殴られた。親方は最初はジョルジョを信じていたが、最後には泥棒扱いし、憮然となった。

夜、小部屋に押し込まれたジョルジョは、このままでは警察に突き出されてしまうと思い、壁を剥がして逃げ出した。アルフレドに相談すれば、きっと解決すると考えたのだが、その途中でアウグストという本物の泥棒に捕まり、彼ら率いる一味の手伝いをさせられる。ジョルジョは何がなんだかわからないまま彼らの手伝いをしたが、突然夜警に捕まり、牢屋に叩き込まれてしまった。

一方、ロッシの家では、アンジェレッタがジョルジョのことで胸を痛めていた。そして、不意に鏡でアンゼルモが父親の財布を手にしているところを見たのを思い出し、翌日それを両親に打ち明けた。親方は烈火のごとく怒り、アンゼルモを殴ってやると言ったが、おかみはひたすらアンゼルモをかばい、息子のことを心配するのだった。ジョルジョは親方によって牢屋から連れ出され、無実が証明されたのである。

五 「黒い兄弟」の仲間たち
ジョルジョは格子の錠を外され、アンジェレッタともいつでも会えるようになった。アンゼルモはジョルジョに謝ったが、それは戦争が終わったのではなく、これから始まるのだという合図だった。実際、それから町の子供たちはジョルジョに石を投げたり、集団で殴りかかったりするようになった。

ある時、とうとう我慢ならなくなったジョルジョは、アルフレドに会いに行ったが、その姿を見て驚く。アルフレドはすっかり痩せ衰え、顔色も悪く、しかも病気にかかっていた。アルフレドはジョルジョとは比べ物にならないほどひどい扱いを受けていたのだ。アルフレドはジョルジョを待っていたと言い、それから『黒い兄弟』の話をした。

『黒い兄弟』とは、アルフレドが煙突掃除の仲間たちと作った結社で、仲間たちと力を合わせて、『狼団』と呼ばれる町の子供たちに対抗していると言う。アルフレドに連れられて結社の隠れ家に行くと、そこには少年たちが集まっていた。ボートで一緒だった体の大きな少年アントニオもいたし、猟師の子のダンテも助かったという。ジョルジョは宣誓して『黒い兄弟』の仲間になった。

そして次の日曜日、公園で『黒い兄弟』と『狼団』は戦争を始めた。アンゼルモはアルフレドが相手をし、ジョルジョは一番強そうな、猫のように身軽な少年の相手をした。抗争は『黒い兄弟』が勝ち、『狼団』は捨て台詞を吐いて逃げていった。

その後、ジョルジョはアルフレドをアンジェレッタに会わせた。アンジェレッタが、ジョルジョの話を聞いて会いたがったのだ。話を終え、アルフレドが帰ると、アンジェレッタは「アルフレドは病気よ。それもとっても重い病気よ」と言った。アンジェレッタは「アルフレドの目をはじめて見たとき、わたしすぐに感じたの。アルフレドは、わたしより長生きはできないだろうって」と続け、ジョルジョは悲しみの底に落ちた。






−裏表紙より−


ミラノで貧しい煙突掃除夫として働くジョルジョ。

秘密結社「黒い兄弟」の仲間に入り、強い友情で結ばれます。

そんな時、「黒い兄弟」のリーダーで親友のアルフレドが病気に……

「ジョルジョ、君に秘密を話すときがきた…」。

辛い境遇にくじけず、勇気をもって生きるジョルジョの

波瀾万丈の物語、感動の後編。




第三部 黒い兄弟

一 アルフレドの秘密
アンジェレッタの予想は的中し、アルフレドの病状は悪化の一途を辿った。そしてある時、『黒い兄弟』の仲間がジョルジョを呼びに来て、アルフレドはジョルジョと二人きりになり、『秘密』を語り始めた。アルフレドの話はちょっと時間系列に従って箇条書きにしよう。以後、「父親」とか「祖父」と言うのは、すべて「アルフレドの父親」や「アルフレドの祖父」という意味。

・「曾祖母」は財産家だったが、ものすごいケチだった。
・「祖父」は結婚してから独立を考え、「曾祖母」に金を借りようとしたが、「曾祖母」はそれを断った。
・「祖父」は家族に嫌気が差して、「祖母」と「父親」を置いて出て行った。

・「曾祖母」が莫大な財産を残したまま死亡する。
・「祖母」と「父親」は金持ちになり、「祖母」は「祖父」を探した。
・やがて「祖父」の死を知り、「祖母」は「義理の祖父」となる酒場の主人と結婚した。

・「義理の祖父」には息子がおり、「父親」の弟となった。アルフレドの「叔父」である。
・「義理の祖父」は金にだらしなく、「祖母」の財産は一気になくなって借金だけが残った。
・「祖父」が残した財産が発見され、相続人の「父親」は再び金持ちになった。

・「父親」は村娘と結婚して、アルフレドと妹のビアンカをもうけた。
・「祖母」がなくなり、ちょうどその日に「叔父」が結婚する。
・「叔父」の結婚相手は性悪で、「義理の祖父」を酒場から追い出し、「義理の祖父」は数日後に死亡した。

・「叔父」にも子供ができ、「父親」と「叔父」に交友があったことから、その子とアルフレド兄妹は仲良くなった。
・「曾祖母」の家が火事になり、「母親」が死亡する。
・「父親」はひどい鬱病になって、やがて死亡した。

アルフレドと妹のビアンカは叔父に引き取られたが、そこでひどい扱いを受けた。四六時中働かされたし、ボロボロの服を着せられた。仲の良かった叔父の息子は二人を笑い、ビアンカをいじめるようになり、アルフレドが殴ると、今度はおばに死ぬほど殴られた。

おばはアルフレドとビアンカを殺したがっていた。そうすれば、アルフレドの父親が残した財産を手に入れられるからだ。そのためにあまり食べさせなかったし、アルフレドには頻繁にぶどう酒を飲ませた。アルフレドが酒が体に悪いことを知り、飲まなくなると、とうとうおばは二人に、ビアンカが知らずに採ってきた毒キノコを食べさせようとする。

アルフレドがそこまで話すと、シトロンが戻ってきて、喧嘩になってジョルジョは部屋を飛び出した。



二 アルフレドの遺言
翌日、ジョルジョがアルフレドのもとへ行くと、アルフレドは話の続きを語り始めた。

おばが毒キノコを食べさせようとしていることを知ったアルフレドは、その日の内にビアンカを連れて逃げ出した。その晩は荒れ果てた曾祖母の屋敷で眠ったが、ビアンカは蛇を見て立ちすくみ、ネズミを見て泣き出した。可愛い♪ そして夜に山猫が現れると、ビアンカは悲鳴を上げた。アルフレドの談によると、とても切ない悲鳴だったらしい。萌え♪

二人は、昔ビアンカの身の回りの世話をしていたベロニカという女性を思い出し、彼女を訪ねることにした。そして彼女の故郷であるメゾッコ谷へやってきたのだが、ベロニカはすでに死んでおり、その兄が三人の子供とともに暮らしていた。アルフレドが自分たちが孤児になってしまったことを話すと、農夫は一日だけ泊めてやると言った。

翌日、再び頼むと、農夫はビアンカだけ置いてやろうと言い、アルフレドはその時村にやってきた人買いの男と会った。アルフレドはビアンカに、春には戻ると約束して村を出た。そして、ジョルジョと出会ったのである。

アルフレドは話を終えると、ジョルジョに言った。「ビアンカはぼくに残された、たったひとつの宝なんだ。ビアンカはぼくだけがたよりだし、ぼくもビアンカなしではいられない。そのビアンカが、どこでぼくの帰りを待っているか知っているのは、この世でたったひとり、きみだけになるんだ」そしてジョルジョに、自分が死んだらビアンカを訪ね、彼女を保護してやってほしいと頼んだ。ジョルジョは友情にかけて、そうすると誓った。

三 たいへんな一日
数日後、ジョルジョのもとにアントニオがやってきて、アルフレドが死んだことを告げた。ジョルジョがアントニオとともにシトロンの家に行くと、そこにはダンテをはじめとした煙突掃除の仲間たちが集まっていた。ジョルジョはアルフレドから、ビアンカのブローチとビアンカへの手紙の入った袋をもらう約束をしていたが、それをシトロンがアルフレドから奪い取った。子供たちはどうにかしてこれを奪い返し、ジョルジョは無事に袋を手に入れた。

ジョルジョはアルフレドを埋葬したかった。そしてその手筈を整えるために、一度集まろうと約束し、仲間と別れる。ところがその帰り道で、ジョルジョは以前出会った泥棒のアウグストに捕まり、ボートの上に連れて来られた。ジョルジョが仲間を警察に売ったと言うのだ。ジョルジョは必死に弁解し、男たちもどうやら嘘ではないらしいと感じ取った。そして、「おぼれるなら、それでおだぶつ。泳いで助かるなら、命びろい」と言って、ジョルジョを運河に放り投げた。ジョルジョは手紙を濡らさないようにしながら、岸まで泳ぎ着いて家に帰った。

四 ほお傷の男の約束とジョルジョの約束
一番安い墓は20リラしたが、アンジェレッタも出してくれたおかげで、金は22リラ集まった。ところが、もう一つ現実的な問題が煙突掃除の子供たちにのしかかった。どこの親方も、子供を葬式に行かせないと言ったのだ。話を聞いたジョルジョは、ほお傷の男に頼んでみることを提案する。ほお傷の男ならば、煙突掃除の親方にも顔がきくし、無下には断れまいと考えたのだ。

翌日、ジョルジョはダンテと赤毛の二人を伴ってほお傷の男を訪ねた。というのは、そこへ行くには、『狼団』の縄張りを通ることになるからだった。ほお傷の男は、ジョルジョの願いなどまったく聞くつもりがなかった。しかしジョルジョは、溺れていたのを助けた時に、一つだけ願いをかなえてやると言った話を持ち出し、ほお傷の男はジョルジョの強い圧しに負けて、親方の説得を承諾した。

外に出ると、ダンテと赤毛の二人が『狼団』の少年たちに囲まれていた。ジョルジョは二人を逃がすと、一人で彼らのアジトヘ行く。そして、決闘は受けるが、葬式が終わるまで待ってくれと頼んだ。子供たちはそれを了解しなかったが、そこに『黒い兄弟』の仲間たちが駆けつけ、ジョルジョを助け出す。ジョルジョは相手のリーダーのあばたに、明日必ず戻ってくることを約束して帰っていった。

五 狼団との和解
ほお傷の男は約束を守り、ジョルジョが教会へ行くと、仲間たちはすでに揃っていた。ダンテは親方も連れてきていたし、アルフレドを知っている大人たちも参列した。また、あばたをはじめとした『狼団』の数人も葬儀に加わり、子供たちの歌う歌に送られてアルフレドの棺は墓の中に納まった。

その夜、ジョルジョは約束通り『狼団』のアジトを訪れた。アントニオがジョルジョを助けるためにやってきたが、ジョルジョはアントニオには来ないよう言った。ジョルジョはすぐに喧嘩になるとばかり思っていたのだが、意外なことに、あばたはもうジョルジョと戦う気がなくなっていた。猫も同じだった。彼らは今日、アルフレドの葬儀に参列し、『黒い兄弟』の子供たちを見て、自分たちのしていることが良くないことだと悟ったのだ。

ところが、アンゼルモだけは納得できず、いきなりジョルジョに襲いかかった。不意打ちを食らったジョルジョは額に怪我を負ったが、アンゼルモのあまりの卑怯さに、『狼団』の子供たちですら腹を立て、アンゼルモは『狼団』を追放された上、彼らの制裁を受けた。

ところが、ジョルジョはすぐにアンゼルモの反撃を受けることになる。家に帰るや否や、おかみがジョルジョを殺す勢いで殴ったのだ。おかみはアンゼルモを痛め付けたのはジョルジョだと言い張り、親方もそれを否定はしなかった。ジョルジョは『狼団』の仲間たちを売るようなことをしたくなかったので、ひたすら殴られ続け、悲惨な姿で小部屋に転がされた。マジ可哀想……。アンゼルモとその母親、逝ってよし。

六 ジョルジョ、九死に一生をえる
冬になった。ジョルジョの傷はまだ治っておらず、額からは時々血が出たし、肋骨はズキズキ痛んだ。アンゼルモはもうとっくに治っていたが、おかみは相変わらずジョルジョを殴ったり蹴ったりした。死ね、クズ女! 『狼団』の少年たちは、もうジョルジョをからかわなくなり、会うと挨拶さえするようになった。

ある日のこと、古い綺麗な邸宅で早急の仕事が入り、ジョルジョは煙突に登った。ところが、その途中で体が挟まってしまい、ジョルジョは息ができなくなって、窒息死してしまった。そこへ、その邸宅で食事をしていたカセラという名の医師が呼ばれ、彼の治療によってジョルジョは息を吹き返した。カセラはジョルジョと同じティチーノから来たと言い、ジョルジョに食事を与えて休ませる。そして、親方に、明日もう一度診察に行くと言ってジョルジョを帰した。

家に帰ると、またおかみがぎゃーぎゃー喚き散らす。心底鬱陶しいから割愛。

七 馬車がボルゴ横丁にやってきた
翌日、約束通りカセラはロッシの家にやってきた。立派な馬車が横付けされ、辺りは大騒ぎになる。診断の結果、ジョルジョは体は弱っている、肺は傷んでいる、栄養不良で餓死寸前、しかも殴られた跡があり、肋骨が2本折れていた。カセラが安静が必要と言うと、またおかみがぎゃーぎゃー言い始める。うぜー。

カセラはジョルジョが働けない分の金を出し、その分ジョルジョを大切に看病するよう約束させる。ジョルジョは少しの間、アンジェレッタの部屋で寝ることになり、アンジェレッタは大喜びだった。おかみを遣いに出した間に、カセラはジョルジョから煙突掃除の子供たちの話を聞いた。彼はジョルジョみたいな境遇の子供たちがたくさんいることを初めて知り、ジョルジョは今度カセラを『黒い兄弟』の隠れ家へ連れて行くことを約束した。

ジョルジョもアンジェレッタも、優しいカセラを好きになり、帰った後で、きっとアルフレドがよこしてくれたんだと話した。


第四部 丘の上の屋敷

一 おかみの仕打ち
それから4日間、ジョルジョは美味しいスープや肉料理を食べることができ、またカセラも料理を届けてくれた。それ以上に、ジョルジョは一日中アンジェレッタといられるのが嬉しかった。4日が過ぎると、カセラがやってきてジョルジョの診察をした。ジョルジョはもうすっかり元気になっていた。

それからカセラはジョルジョを外に連れ出し、そこで靴や服や帽子を買ってやる。カセラは『黒い兄弟』の仲間たちに会いたがったが、集まるのは夜だったので、二人は一度別れた。ジョルジョは家に帰って、カセラに買ってもらったものを部屋に置くと、再び家を後にした。

隠れ家に突然やってきた大人に、子供たちは驚いたが、ジョルジョの説明を聞いて落ち着いた。そしてカセラに尋ねられるまま自分たちの境遇を答え、カセラは子供たちの話をすべて書き取った。カセラは子供たちを助けたかったが、そうすることはできないと言った後、こう付け足した。「ルガーノでなら、そうスイスでなら、きみたちの味方になれるんだが」カセラは子供たちに30リラ渡してから、帰り際にもう一度こう言った。「ルガーノで会おう。ジョルジョが、わたしの名前と住所を知っている」

子供たちは、カセラが逃亡して自分のところへ来いと言っていることを察した。赤毛は春が来て自由の身になってから行くと言ったが、アントニオとアウグストという名の少年は、すぐにでも行くと言った。ジョルジョは一晩考えたいと言って、隠れ家を後にした。

ところが、家に戻るとジョルジョの行動は決定された。アンゼルモが、カセラがジョルジョのために購入した品々を盗み、あたかも自分のもののように振る舞っていたのだ。しかもおかみは、それらは自分が買ってやったといい、ジョルジョがたまらず泥棒呼ばわりすると、親方まで怒ってジョルジョを殴り付けた。ジョルジョはこうなっては出て行くしかないと思い、そのことをアンジェレッタに告げる。ジョルジョはアンジェレッタを置いていくのが忍びなかったが、アンジェレッタはこう言ってジョルジョを慰めた。「わたしのことは気にしないで。どうせもうすぐ死ぬんだから。あなたがぶじに家に帰れれば、そのほうがなぐさめになるわ」

二 危険な逃亡
ジョルジョが一緒に逃げることを告げると、アントニオもアウグストも喜んだ、結局、これにダンテを加えた4人で逃げることになり、『黒い兄弟』の新しいリーダーには赤毛が選ばれた。4人は準備を進め、いよいよ出発する夜、ジョルジョは約束だったのでアンジェレッタに最後の別れを告げに行く。ところが、そこでアンゼルモに見つかり、ジョルジョは危機一髪のところで逃げ延びることができた。ジョルジョや仲間たちは、最後にアンゼルモを殴ることができて満足だった。

ところが、どれだけ経ってもダンテが現れず、代わりに『狼団』の猫が隠れ家にやってきた。猫によると、ダンテは逃げ出すときに犬に噛まれて、足に怪我を負ったという。ダンテは今、『狼団』にアジトでかくまわれており、知っているのは猫とあばたの二人だけだった。ダンテは熱にうなされ、噛まれたふくらはぎは膿んでいたため、出発を遅らせずにはいられなくなった。

ところが2日後、ダンテがアンゼルモに見つかったという報を受け、三人は青ざめる。すでに町では逃げ出した子供たちに賞金がかけられ大騒ぎになっていた。三人はダンテを『狼団』に任せると、ミラノへ来る時にも通ったロー村で落ち合う約束をした。三人は先に到着し、後からあばたと猫が、ダンテを荷車に載せてやってきた。二人は警察に疑われ、猫は何度か殴られる羽目になったが、二人のおかげで四人は無事にロー村に辿り着くことができたのだった。

三 ほお傷の男の追跡
猫とあばたは、帰り道で警察に捕まり、あばたがうっかりと四人の行き先がルガーノであることを言ってしまった。警察とほお傷の男は、犬を連れて四人を追跡した。

一方、四人はようやくの思いでカロンノ村に辿り着いた。ダンテの足の状態が思わしくなく、しかも熱が出て寒気までしたため、ほとんど進めなかったのだ。アントニオが村に食べ物を調達に行くと、すぐに血相を変えて戻ってきた。警察とほお傷の男、それにアンゼルモがいたという。四人は困り果てたが、ちょうど通りがかった荷車のわらに隠してもらえないかと考えた。

荷車の持ち主の農夫は、警察に追われている子供たちをかくまう気などなかったが、子供たちの熱心な様子に打たれて彼らをかくまい、そのまま家まで連れて帰った。さらに食事をとらせ、おばあさんがダンテの怪我の手当てをした。四人はトレーザ橋を渡って北進しようと考えていたが、農夫が酒場で、警察たちがトレーザ橋を見張る相談をしていたことを聞きつけ、チェレジオ港からルガーノ湖を渡ることにした。

翌朝、四人は農夫の息子にチェレジオ港の近くまで案内される。そしてとうとう到着したのだが、そこで盗めるボートはないかと探しにいったジョルジョが、ほお傷の男に見つかってしまった。ジョルジョは急いで仲間のもとに戻ると、四人でボートに乗り込み、つないであったロープを切った。ボートにはオールがついてなかったが、底にあった薄い板を折ってオールの代わりにした。警察とほお傷の男は、すぐにボートに乗って追ってきたが、少年たちは霧の中に隠れることに成功し、追跡を逃れたのだった。

四 丘の上の屋敷
ボートの上でダンテが目を覚ますと、目の前で税関吏か警官と思しき人が覗き込んでいた。ダンテはすぐに仲間を起こして、湖に飛び込もうとしたが、それより早く税関吏がダンテを止めた。税関吏はここがモルコーテだと言い、四人はスイスに来たんだと笑顔を咲かせた。四人は親切な税関吏に盗んできたボートを返してくれるよう頼むと、すぐにルガーノへ向かった。

ようやくの思いでルガーノへ到着すると、四人は真っ直ぐカセラの屋敷に行く。初めは、老婆が「先生はいないよ」と言って子供たちを門前払いしてしまったが、カセラの息子のロレンツォがやってきて、彼らを家の中に入れた。ロレンツォはカセラの話を聞いて、ジョルジョのことを知っていたのだ。

四人は体を洗い、新しい服を着せられるとすぐに食事を用意された。ジョルジョは生まれて初めての満腹感を味わい、ロレンツォと二人で部屋に行く。ジョルジョはロレンツォの部屋で寝泊りすることになったのだ。ベッドに横になると、ジョルジョはすぐに眠りに落ち、そのまま6時間ほど眠った。次に起きるとすでに夕食の時間で、カセラも帰ってきていた。カセラは四人が思いの他早くやってきたことに驚き、ジョルジョはカセラに買ってもらったものをおかみに盗まれ、そうせざるを得なくなったことを語った。

その夜、ロレンツォはジョルジョと友達になった。いつかアルフレドがしたように、今度はジョルジョがロレンツォに誓いを教えた。ロレンツォはジョルジョに本をプレゼントし、ジョルジョは代わりにアルフレドの秘密を話した。ロレンツォは話を聞いた後、「ロベレド村のビアンカをたずねるときは、ぼくもいっしょにいくよ」と言った。

五 ほお傷の男、ふたたびあらわる
翌日、ダンテはもう一日寝ているよう言われ、アントニオとアウグストは庭師の手伝いをした。ジョルジョはカセラの往診に付き合ったが、外で待っている時、ほお傷の男がやってくるのを見て青ざめた。とうとうルガーノまで追ってきたのである。

ところが、それを聞いたカセラは平然としたもので、酒場に入っていったほお傷の男を眺めて戻ってきた。その後すぐに警察へ行き、3人の警官が酒場に踏み込んだ。ほお傷の男は漁船が転覆して煙突掃除の子供が16人溺死した事件で手配されていたのだ。ジョルジョの証言もあって、ほお傷の男はついに逮捕された。ジョルジョがカセラの屋敷に戻ってその報告をすると、アントニオもアウグストも喜びに手を叩いた。

昼になり、カセラは皆に、家に戻りたいかと尋ねた。アントニオとアウグストは戻りたくないと言い、ダンテは連絡だけ入れると言った。ジョルジョもここに残り、家には手に職を持ってから連絡すると言った。祖母とそう約束したのだ。それから、ダンテは船大工に、アントニオは庭師になりたいと言った。アウグストは煙突掃除夫になりたいと言い、仲間に猛反発された。結局はまず石工の仕事をしてみることになった。ジョルジョは彼らのようになりたいものがなく、ロレンツォに言われて教師を目差すことにした。

カセラは、文字も読めないジョルジョが教師になるのは難しいと考えたが、少年の熱意を尊重し、明日から学校へ行くよう言った。ジョルジョも意欲を見せたが、ふと思い出して言った。「あっ。明日は、学校にいけないんですけど」ジョルジョはビアンカを訪ねようと思っていたのだ。カセラに頼まれ、ジョルジョはアルフレドの秘密を話した。カセラはビアンカを家に連れてくるよう言い、ロベレド村の司祭に手紙を書いた。

六 ビアンカをたずねて
遅咲きのヒロイン登場っ! というか、遅すぎ。オークス当日にデビューする3歳牝馬みたいな感じ。さあ、小説『黒い兄弟』の本編を、他より詳しく紹介しよう!

初めの土曜日が雨だったため、出発は一週間延ばされた。その間にアウグストはすっかり石工の世界に魅了され、もう煙突掃除夫になりたいとは言わなくなった。ダンテも得意そうに仕事の話をした。アントニオは無口だったが、満足していた。ジョルジョとロレンツォは次の土曜日にロベレド村へ出発した。村まではたっぷり1日かかるので、向こうで一泊する予定になっていた。

村に到着すると、すでに夜になろうとしていた。ロレンツォは司祭のもとへカセラの手紙を届けに行き、ジョルジョはビアンカの暮らしている家に行った。家の庭で二人の男の子と一人の女の子が遊んでおり、ジョルジョはビアンカを知らないかと尋ねた。子供たちは露骨に警戒して何も答えなかったが、やがて向こうから一人の少女がやってくる。

以下、ビアンカに関する地の文。「背の高いほっそりとした少女で、背丈はジョルジョと同じくらいです。粗末な青い服を着て、裸足で、手にくわとかごを持っています。少女はすぐに近くへやってきました。ジョルジョは少女の顔を見ました。アルフレドと同じように細面で青白く、鼻の形や髪の毛の色までそっくりです。ただ、ほおに丸みがあり、あごもアルフレドのように角張ってはいません」

ジョルジョはそれまでに、少女にどう伝えようか考えていなかったので、ただ「ぼく、アルフレドの使いできたんだ」と言って、ビアンカに袋と手紙を手渡した。アルフレドの名を聞いてビアンカはぱっと明るい顔をしたが、手紙を少し読むとそれを取り落とし、目を見開いてジョルジョに尋ねた。「兄さんは、死んだの?」

ジョルジョが頷くと、ビアンカは「ああ、神さま!」と悲鳴を上げて、持っていたものを投げ出して家の中に駆け込んで行ってしまった。ジョルジョはすぐに追いかけようとしたが、ビアンカを養っている農夫がやってきて、ジョルジョを追い返してしまう。農夫はビアンカを手放したくなかったのだ。

ロレンツォが司祭を連れて戻ってくると、ジョルジョは彼らと一緒に家の中に入った。ビアンカはテーブルに顔を伏せて体をふるわせながらすすり泣いていた。萌え。ビアンカは司祭が来たことを知ると、兄が死んだことを伝えた。司祭がすでに知っていると頷くと、ビアンカは、「この世には、もうだれもたよれる人がいないんだわ」とむせび泣いた。萌え。司祭はビアンカに、新しい父や兄ができることを告げた。農夫はビアンカの家はここだと主張したが、司祭は行かせた方がいいと言った。カセラはビアンカの財産を取り戻し、ビアンカを幸せにするつもりだった。

ビアンカはようやく落ち着きを取り戻し、もう一度司祭の話を聞いた。それから、「でもわたし、ここで満足しているわ」と言う。ジョルジョは「でも、アルフレドがのぞんでいるんだ」と言い、アルフレドの最後の希望を話した。そして司祭がアルフレドの書いた手紙を読み、ビアンカは「明日、返事をします」と言った。ジョルジョとロレンツォは仕方なく司祭とともに家を後にした。

しかし翌朝、ビアンカは姿を現さなかった。でら残念。ジョルジョとロレンツォはがっかりして、郵便馬車の来るベリンツォナへ向かって歩き始めたが、村を出るとそこにビアンカが待っていた。「わたしよ。いっしょにいくわ」以下、ビアンカに関する地の文。「ビアンカは昨日と同じすり切れた服を着て、頭にずきんをかぶっていましたが、それ以外はなにひとつ持っていませんでした。夜通し泣いたのか、昨日よりずっと青白い顔をして、悲しそうでした。ビアンカは裸足でしたが、すぐにしっかりとした足どりで、歩きだし、おくれないよう、けんめいについてきました」

ベリンツォナで郵便馬車に乗り込むと、若い陽気な御者は子供たちを御者台に上げた。二人は歓声を上げ、ビアンカも黙ってついてきた。御者は道々楽しい話をし、二人はつられて笑った。ビアンカも、初めはじっとうつむいていたが、やがては御者の冗談にも笑みを浮かべるようになった。ようやくビアンカが口を開くと、ジョルジョは聞かれるまま、アルフレドとの思い出を語った。

ベツィア村を過ぎると、ダンテとアウグストとアントニオが現れた。ダンテは自分とアントニオはアルフレドと一緒の船に乗ったんだと言い、アウグストはミラノで毎日アルフレドと一緒だったと胸を張ってビアンカに挨拶した。子供たちは歌を歌い、やがて馬車はカセラの屋敷へやってきた。

食事の席で、カセラはアルフレドの叔父とおばの話をした。二人はアルフレド兄妹が逃げ出した後すぐに、家財道具を売り払って姿をくらましたという。子供たちが自分たちを訴えに行ったとでも思ったのだろう。しかし、牧草地や森や曾祖母の屋敷や庭は、まだすべてアルフレドの両親の名義になって残っていた。ビアンカは「兄さんがいまでも生きていたら、どんなにすてきかしら」と落ち込んだが、カセラと子供たちがそれを励ました。

食事が終わると、カセラはミラノから来た手紙を取り出す。それは、『黒い兄弟』の赤毛からのものだった。アントニオは、残っている者たちもここへ来てよいか尋ね、カセラは頷いたが、もう少し待った方がいいだろうと言った。ほお傷の男の裁判の時に、自分たちのことを詳しく話せば、すぐにでも帰って来られるかも知れないからである。

カセラと子供たちがそういう話をしていると、いつの間にかビアンカは眠ってしまっていた。以下、地の文。「ビアンカは、大きな革ばりのひじかけいすにすわったまま、目をとじて眠っていました。静かな寝息をたてています。みんなはそのときはじめて、ビアンカがとても美しいことに気がつきました」とても美しいらしい。あー、もう、萌え!

「さて、わたしたちは快適な生活ができるようにしなければいけない。一番いいのは仕事をすることだ。この一週間というもの、お祭り気分ですっかりさぼってしまった。明日から、きみたちは、新たな生活と仕事をはじめる。いいね?」とカセラが言い、子供たちは頷き、かたく手を握り合った。

七 「この子は骨があると思っていたよ」
ジョルジョがソニョーノ村を出てから9年の歳月が流れた。そして今、ジョルジョは妻となったビアンカを伴って、懐かしい故郷への帰路を進んでいた。ジョルジョは道々で当時の思い出を話し、ビアンカは静かにそれに耳を傾けた。

あの後、ほお傷の男は裁判で5年の刑を受け、その後国外追放となった。そして子供の売買は禁止され、ミラノにいた『黒い兄弟』の仲間たちもスイスに帰って来られたのである。

ソニョーノ村に着くと、ジョルジョはまずスカラおじさんの酒場へ行った。そこでは自分は新しい教師だとしか言わなかったが、スカラの息子であるエンベリーノと結婚したアニタは、ジョルジョにすぐに気が付き、スカラとアニタは再会を祝った。

そして、いよいよ自分の家に帰ると、祖母もまだ健在で、両親と、幼い姉妹と弟がいた。ジョルジョの知っている双子の弟たちは、すでに自立して家にはいなかった。両親はジョルジョのことがわからなかった。二人は今でもジョルジョを売ってしまったことを後悔しており、ジョルジョの話になると表情に陰がよぎった。二人とも、煙突掃除の子供たちを乗せた船が転覆した事件を耳にしていたのだ。

しかし、ジョルジョがその事件では4人は助かったと言い、息子が生きていると告げると、とうとう母親はジョルジョに気が付き、ジョルジョを抱きしめた。こうしてジョルジョは家族と再会し、ビアンカも両親に歓迎された。再会を喜ぶ家族を見ながら、祖母が微笑みながら言った。「わたしにはわかっていたよ。この子はきっともどってくるってね。この子は骨のある子だったからね」



 ▲ Back