『 小公女 』 あらすじ



■書名 : 小公女
■著者 : バーネット
■訳者 : 伊藤整
■定価 : 438円
■出版社 : 新潮社
■ISBN : 4-10-221401-1
■初版発行日 : S28.12.25
■購入版発行 : H13.09.10 ( 三十刷 )
 
■購入日 : 2003/07/10






−裏表紙より−


女学校の寄宿舎に入った7歳の愛くるしいサアラは幸福だった。

それが、父のクルウ大尉の突然の死から悲しい出来事ばかり続いて起る。

だが彼女はどんなに辛く悲しい目にあっても勇気を失ったり、

友人達への愛情を忘れたりはしなかった。

逆境にもめげず明るく強く生きる夢みがちな少女サアラ・クルウの生活を、

深い愛情をもって描き、全世界の少女に贈る名著である。




一 サアラ
物語は、サアラが父親であるクルウ大尉とともに、ロンドンの町の中を馬車で移動しているところから始まる。サアラは7歳の少女だが、歳に不釣り合いなませたことを言ったり、おかしなことを言うので、クルウ大尉はいつもそれを面白がっていた。アニメではこの時10歳という設定だが、原作は7歳。もっとも、言動はむしろアニメのセーラよりも公女然とした印象を受ける。

二人が向かっているのは「ミンチン女史 神聖女子学校」。二人はインドに住んでいたのだが、インドの気候は子供には悪いので、子供が旅ができる歳になるとこうしてイギリスの学校に入れられるのが慣例だった。数ある学校の中で、何故大尉がこの学校を選んだかというと、メレデス夫人という人がかつて二人の娘をこの学校で学ばせ、とても良かったと言ったからである。大尉はメレデス夫人の意見をとても尊重していたのだ。アニメでミンチン先生を見て、「なんでこんな学校に?」と思われた人も多かろうが、原作ではこういう経緯がある。

ミンチン先生と対面したサアラは、まずその外見から冷たく堅苦しい印象を受け、あまり好感が持てなかった。さらに自分のことを「美しい」と言われ、ますますこの先生に対する不信感が募った。サアラは独特の美しさを持った少女だったが、自分で自分を美しいと思ったことはなかったのだ。むしろ、「自分がみにくい少女だとどこまでも信じ込んでいた」とさえ書いてある。

先生への紹介が終わると、二人はエミリイを探して町に出た。エミリイはサアラのまだ見ぬ人形だが、サアラはすでに名前まで決めており、絶対にこの町にいると信じていた。サアラの談では、エミリイは生きているような様子をしており、サアラが話しかけるのを聞いているような顔をしている人形らしい。クルウ大尉とともに何軒もの店を回った末、サアラはエミリイを見つけて購入した。

その後、サアラは学校に入り、クルウ大尉はインドへ帰っていく。その時サアラは他の小さな女の子とは違い、決して喚かず、静かに父親を見送った。ミンチン先生の妹のアメリア嬢はそんなサアラの様子に驚き、「あんなおませなへんな子は見たことがない」と姉に言う。もっともこれは単に驚きの言葉であって、悪意はない。反してそれを聞いた姉の方はあからさまにサアラを嫌っている言動をするが、それでも公女然としたサアラがいれば学校の印象アップになるだろうと考える。

ちなみに余談だが、古い訳本なので片仮名表記がセーラはサアラ、ベッキーはベッキイと、やや古めかしい感じになっている。中には慣れれない人もいるだろうが、セーラの英語表記はsaraであることを念頭に置くと、だんだんセーラよりサアラの方がしっくり来るような感じがしてくるのが不思議だ。管理人だけかも知れないが(汗)。

二 フランス語の授業
学校でサアラは、マリエットというフランス人の女中を付けられる。サアラはマリエットを気に入っていたし、マリエットも少し変わったサアラが好きだった。初めて授業を受けに行くとき、サアラは人形のエミリイに本を持たせ、「あたしが階下に行っているあいだ、この本を読んでいてね」と言う。サアラはこの人形が自分たちのいない時に、一人で本を読んだり話したり歩いたりしていると考えていたのだ。そういう発想が、またマリエットに好感を抱かせた。

さて、ミンチン先生は、クルウ大尉がサアラにフランス人の女中を付けたことで、クルウ大尉が娘にフランス語を教えたがっているのだと思っていた。サアラは父親がマリエットを付けたのは、単にクルウ大尉が、マリエットなら自分と上手くやっていけると考えたからだと言うが、先生はそれを、サアラがフランス語を勉強したくない言い訳のように解釈し、サアラをなだめた。もちろんそれはミンチン先生の勝手な思いこみで、実はサアラはフランス語が得意だった。

サアラの母親はフランス人で、サアラが生まれたときに死んだのでサアラは彼女を知らなかったが、クルウ大尉が亡き妻の言葉を愛し、よくサアラに話していたので、サアラはフランス語を上手に話すことができた。ちなみにアニメでは、サアラは母親のことを記憶していたし、母親に抱かれている写真もある。ここでも設定の差違があるようだ。

そんなわけで、サアラはそのことをなんとしてもミンチン先生に伝えようとするが、うまく言葉にできず、結局言い出すことができなかった。ミンチン先生が、自分がフランス語ができなかったので、そのことを知られたくないと、彼女に話す隙を与えなかったのだ。やがてサアラは先生に伝えることをあきらめ、フランス語のデュファルジュ先生が来ればわかることだと黙り込んだ。

デュファルジュ先生が来ると、ミンチン先生は彼に、サアラが学科を選り好みして、フランス語を学びたくないのだと説明する。サアラはこれに「はずかしめられたような気もちがして、構わないから言ってしまおう」と思い、デュファルジュ先生にフランス語で自分のことを話す。これによりミンチン先生は生徒たちの前で大恥をかき、この時からサアラを恨むようになった。

ただ一点、アニメでは心苦しいがやむを得ず言ったという印象で、後から「先生を侮辱するつもりなんてなかったのに」と言っているのに対して、原作ではカチンとなって、半ば当て付けのようにフランス語を話しているのに留意したい。この先たびたびそういう記述や行動が出てくるが、原作のサアラは公女らしいプライドを持っており、ミンチン先生を嫌っているし、言うべきことはしっかりと言っている。

三 アーメンガアド
アーメンガアド・セント・ジョンはひどく物覚えの悪い娘だった。特にフランス語はダメで、「ラ・メール」が母だとか、「ル・ペール」が父といったことを、何週間かけても覚えられなかった。だから新しく入ってきたサアラが、突然とても流暢なフランス語を喋った時にはひどく驚いた。アーメンガアドは事前にサアラについて、馬車を持っていたり、女中を付けていたりという話を聞いており、ますますこの少女を次元の違う人間のように感じた。

アーメンガアドの父親は学者だった。アーメンガアドは頭が悪かったのでこの父親があまり好きではなく、父親の方もあまりの娘のできなさに呆れ、とにかく無理矢理にでも詰め込んでもらうようミンチン先生にお願いして学校に放り込んだ。だからアーメンガアドは、いつも学校で恥をかいたり、バカにされたりしなければならなかった。

サアラはというと、とても正義感が強い子で、誰かが不幸な目に遭っているのを見ると飛び込まずにはいられない性格をしていた。だから、クラスメイトに笑われているアーメンガアドを見て、可哀想に思うと同時に、友達になりたいと思った。授業が終わってから、サアラはアーメンガアドに自分から話しかけた。

二人はサアラの部屋に行き、アーメンガアドはそこでエミリイを紹介された。エミリイが実は生きていて、自分たちのいない間に歩いたりしているという話を、アーメンガアドはとても楽しく思った。サアラは他に、何かのつもりになるのが好きであることも話した。アーメンガアドはサアラととても楽しい一時を過ごし、「仲よし」になる約束をする。

ところでサアラは自分の部屋を持っているのだが、その理由をアーメンガアドに、「なぜって、わたしね、遊ぶときにはお話を作って自分でそれをしゃべるの。そしてそれをひとに聞かれるのはいやなんだもの」と言っている。アニメでは特にお金持ちの娘は個室に入るのが通例のようだったが、サアラの場合は他の人、少なくともアニメのラビニアとはまったく違った理由で個室を持ったようだ。

四 ロッテイ
まず序盤に、ミンチン先生がサアラを嫌ってはいたが、彼女のために何でもしてやっていることが書いてある。それは何より学校のためになるからだ。サアラはそのように甘やかされて扱われたが、決して他の金持ちの娘のような我が儘にはならなかった。サアラには判断力があり、周りのものごとがよくわかっていたからだ。

また、サアラが来るまで学校で一番良く扱われていたラヴィニアのことにも触れている。ラヴィニアはサアラに自分の地位を奪われ、彼女をひどく妬んでいた。もっとも、原作ではアニメのような露骨な戦いはほとんどなく、登場頻度もかなり低いのだが。とにかくラヴィニアは意地悪で、小さな子供たちはよくいじめられていた。けれどサアラは小さな子供たちにも優しく、子供たちはサアラを崇拝していた。

学校で一番小さなロッテイ・レイもその一人だった。ロッテイはこの時4歳。留意したいのは、一見ロッテイの歳が原作とアニメとで一致しているように思えるが、サアラはこの時8歳で、サアラが財産をなくして下働の身に落ちたとき、ロッテイは7歳なのである。アニメの12話以降で、ロッティが7歳で描かれていたら、また少し作品の印象が変わったのではないかと思われる。

ロッテイには母親がいなかった。若い父親はロッテイの扱いに困り、投げ出すように学校に入れたのだが、ロッテイは学校で生徒たちに甘やかされ、すっかり手の付けられない子供になっていた。その日もロッテイは「お母さんがいないのよ!」と泣き喚いて、ミンチン先生とアメリア嬢を困らせていた。

偶然そこを通りかかったサアラが、二人からロッテイを任せてもらい、なだめることにする。サアラは他の人とは違い、何もせずにじっとロッテイを見つめていた。そして「お母さんがいない!」と喚くロッテイに、「わたしだっていないわ」と静かに言った。

それですっかり泣きやんでサアラに興味を持ったロッテイに、サアラは、自分たちの母親はとても美しい国にいて、今も自分たちを見守っているのだと言い聞かせる。そして自分もそこへ行きたいと言い出したロッテイに、サアラは代わりに自分が母親になってあげると約束したのだった。

五 ベッキイ
サアラがミンチン先生の学校に入ってから2年が過ぎたある冬の日。サアラは馬車から下りた時、一人の汚れた顔をした少女が、学校の地下室へ下りていくのを見た。サアラがにっこりと微笑みかけると、少女はまるで自分がいけないことをしたように、慌てて地下室へ引っ込んでしまった。

その日の夕方、サアラは教室で友達を集めてお話をしていた。サアラは話を作るのが上手で、それは意地悪なラヴィニアですら感心せずにはいられないほどだった。アニメではシンデレラの話をしていたが、原作では人魚の物語をしている。その時、先ほどの少女が重たい石炭箱を抱えて入ってきた。少女は仕事をしながら、サアラの話を聞いているようだった。サアラはそれに気が付いたので、できるだけ大きな声で少女にも聞こえるようにしてやったが、ラヴィニアが少女を咎めたために少女はすごすごと戻っていってしまった。

この少女はベッキイと言って、背が低くて12歳くらいにしか見えないが、14歳になる少女だった。勝手働きに雇われた子で、どんな仕事でもさせられていると、サアラは女中のマリエットから聞かされる。その話を聞いたサアラは例のごとくベッキイに興味を持ち、ちゃんと会って話をしたいと思う。ベッキイはいつもそそくさと歩き去るためなかなかその機会に恵まれなかったが、何週間が経ってとうとうその機会がやってきた。

サアラがダンスの授業から戻ると、サアラの部屋でベッキイが椅子に座って眠っていたのだ。ベッキイはとても疲れた様子だった。サアラは起こしたくないと思って声をかけずに見ていたが、やがてベッキイは目を覚ましてサアラを見る。これは大変なことをしてしまったとすっかり青ざめて謝るベッキイに、サアラは「怒っていない」と笑ってからこう言った。自分もベッキイも同じ女の子で、違う境遇に生まれたのは単なる偶然でしかないのだと。

それからサアラはベッキイを部屋に呼び止め、お菓子を振る舞い、お話をした。そしてこれから先、お話の続きをするから、仕事が終わったら部屋に遊びに来るよう言う。ベッキイはとても喜んで、サアラの部屋を後にした。贈り物をもらったように喜んだベッキイを見て、サアラは、人を喜ばせるのは贈り物をするのと同じなのだと思った。

六 ダイヤモンド鉱山
サアラもその友達たちも、大抵の事件では驚かないのだが、サアラの父親からダイヤモンド鉱山の話が書かれた手紙が届いた時には、学校中が騒然となった。それによると、クルウ大尉の学校時代の友達──ここでは語られないが、つまりカリスフォド氏が、自分の持つ広大な土地にダイヤモンドが出たので、一緒にその鉱山を大きくしようという事業を持ちかけたのだ。サアラはその話を面白く思い、鉱山の絵を描いたり物語を考えたりしてアーメンガアドたちに話した。友達はみんなそれを楽しんだ。

ある時サアラが本を読んでいると、突然ロッテイが泣き出した。ラヴィニアにいじめられたのだが、サアラは読書を邪魔されて不機嫌になった。不機嫌な顔をしたセーラなどアニメでは考えられないが、原作では度々ある。サアラはラヴィニアと喧嘩になり、はっきり口に出して「打ってやりたい」、つまり殴ってやりたいと言っている。また地の文には「好きでもないラヴィニア」という記述もあり、アニメの「お友達になりたいと思っていた」ような雰囲気はかけらもない。

ラヴィニアがサアラを「公女さま」呼ばわりしたことで、サアラはとうとう、本当にラヴィニアの耳を殴りつけそうになるが、本物の公女様はこんなことでは腹を立てないと、自らを鎮めた。サアラは「つもり遊び」を心から楽しんでいたので、それを揶揄されたことで辱められたような気分になったのだ。サアラは自分が公女様のつもりになっていたのは本当で、公女様にふさわしい行いをしたいと思っているとラヴィニアに反論した。このことがあってから、サアラを嫌いな者は皮肉を込めて彼女を「公女さま」と呼ぶようになり、仲の良い者は、同じ言葉を尊敬を込めて使うようになった。そしてミンチン先生までも、「なんとなく貴族の学校のような感じがする」という理由で、外部の人間に対してサアラを公女様呼ばわりするようになった。

サアラが11歳になる誕生日の2、3週間前に父親から手紙が届く。それによると、クルウ大尉はあまり体調が優れないらしい。この手紙を出した時すでに随分身体を悪くしていたのだ。父親の「人形をもらうのが嬉しいか」という問いに、サアラは、もう歳だから次もらう人形が『最後の人形』になる。エミリイは好きだけれど、その人形も大切にしようと思うという内容の手紙を返した。

誕生日当日の朝、サアラが居間に入っていくと、テーブルの上にあまり綺麗でない針刺しが置いてあった。ベッキイが置いたサアラへの誕生日プレゼントで、サアラはすぐにそうとわかった。この時にはサアラとベッキイはとても仲良しになっており、ベッキイは例え短い時間でも毎日のようにサアラの部屋に寄っては、お話をしたり、笑い合ったりしていたのだ。ベッキイからの贈り物にサアラは胸がいっぱいになり、不安げに顔を覗かせたベッキイを抱きしめて、「わたしはあなたが好きだわ──ほんとうよ、ほんとうよ!」と嬉しそうに言った。

七 続ダイヤモンド鉱山
前章に引き続き、サアラの誕生日である。サアラはミンチン先生が贈った上等な服を身につけ、他の生徒たちと一緒に飾り付けられた教室に入った。ベッキイは誕生日プレゼントの箱を運び、それを下ろすと先生に出て行くように言われる。サアラは、ベッキイがプレゼントを見たがっていることに気が付いたので、先生にベッキイも残らせてくれるよう頼んだ。先生は下働きをまるで仕事をする機械のようにしか考えていなかったので、サアラの提案に気を悪くしたが、サアラの機嫌を損ねることを恐れて承諾した。

サアラの誕生日会の開催を祝して、ミンチン先生が得意げに長い長い演説を行った。サアラはそのように自分のことを喋る先生を見て、ひどく腹が立つと同時に、自分がものすごくこの人を嫌っていることを再認識した。この辺がアニメのセーラと決定的に違うところだ。演説が終わると、いよいよプレゼントの箱が開けられた。前章で書いた『最後の人形』は、ロッテイほどもあったらしい。でかい!

子供たちがはしゃいでいると、アメリア嬢がやってきて、クルウ大尉の代理人のバロウ氏が来て、院長先生と二人で話をしたがっている旨を伝える。二人のために教室を空けることになり、生徒たちは御馳走を食べるために客間へ行く。ところがベッキイは、プレゼントの衣装に見とれていたために部屋を出て行きそびれ、先生の足音が近付いてくるのを聞いて慌ててテーブルかけのかかったテーブルの下に隠れた。

ベッキイの聞いた二人の会話はこういうものだった。ダイヤモンド鉱山などどこにもなく、クルウ大尉の友人は、自分の金も大尉の金もすべて注ぎ込んで、大尉を破産させてしまった。大尉はその時すでに悪い熱病にかかっており、その報告を聞いてショックのあまり死んでしまったというのだ。ミンチン先生は無一文になったサアラを追い出そうとするが、身寄りのない少女を追い出すのは体裁が悪いと考え、置いてやることにする。そして、看板生徒からただの厄介者に変わった瞬間、自分は一度としてサアラを好きになったことがないことに気付くと同時に、徹底的に彼女を働かせることを決意する。

サアラは、アメリア嬢から自分の境遇が一変したことを聞かされても泣かなかった。そして古くてすっかり身体に合わなくなった小さい黒の服を着せられ、先生の前に連れてこられる。そこで先生は、お前を置いてやるがその分働かせると宣言した。サアラが何も言わずに立ち去ろうとすると、先生は置いてやろうという親切に対する礼はないのかと言う。サアラは答えた。「先生はしんせつでなんかありません。しんせつでもありませんし、ここは家でもありません」アニメでは42話で言った台詞だが、原作では最初にそう宣言している。

サアラはもう元の部屋に戻ることは許されず、ボロボロの屋根裏部屋をあてがわれた。そこにあった傷んだ踏み台に腰かけ、エミリイを膝の上に乗せてじっとしていた。サアラはやはり泣かなかったが、ベッキイが泣きながら現れた時には、サアラはまったく子供らしい顔になってとうとう泣き出した。そして、ついにこうして自分もベッキイと同じ立場の女の子になったのだと言った。

八 やねうら室
アニメで言うところの12話以降の前半の大半が、この章の地の文で網羅されている。サアラはミンチン先生にも、女中にも、料理番にもこき使われた。黙って働けばいつか優しくされるかも知れないと思い、一生懸命働いた結果、優しい人間などいないことがわかった。生徒たちからも女中扱いされるようになった。格好はどんどんみすぼらしくなり、誰からもいたわられないようになった。サアラは自負の念が強くなるとともに、心が傷みやすくなった。

アニメではこの一つ一つが事細かに描かれ、視聴者の涙を誘ったが、原作ではただ淡々と描かれている。また、アニメでは最もセーラに意地悪く当たっていたラビニアだが、原作ではほとんどサアラに対して何もしていない。これはアニメを見た感想でも度々書いてきたが、セーラが下働きになった時点で、ラビニアにはセーラをいじめる理由がないので、普通に考えれば原作が自然だと思われる。普通に考えれば、だが。

マリエットはサアラが下働きになった翌日に暇を出され、サアラに優しくする者は3人になった。一人はベッキイである。サアラは自分と同じ境遇の者がすぐ隣の部屋にいることをとても心強く思い、また二人はよく励まし合った。ベッキイはサアラが落ちぶれても「お嬢様」と呼んで慕っていたし、サアラの着替えの手伝いもした。

もう一人はアーメンガアドである。サアラはようやく父親の死からある程度回復したとき、アーメンガアドのことをすっかり忘れていた。アーメンガアドはサアラと対等の立場にあった友人ではなく、サアラは彼女を年下のように見ていた。要するに、「ほんとうに苦しいめにあったときに思いだすというような友だちではなかった」のだ。一度だけ話す機会があったが、アーメンガアドはサアラに対して上手く言葉が出てこず、軽率に言った言葉がサアラの心を傷付けた。だからサアラは、アーメンガアドも本当は自分などと話したくないのだと思い込み、アーメンガアドを無視するようになった。

アーメンガアドはそれをひどく悲しみ、ある晩、部屋を抜け出してサアラのところにやってきた。見つかれば叱られるのを覚悟でやってきたアーメンガアドは、サアラに、自分はサアラがいないと生きているような気がしない。もう一度友達になって欲しいと言う。サアラは瞳に涙を浮かべながらそう訴えるアーメンガアドを見て、彼女がいかに「いいひと」であるかを知った。そしてもう一度「仲良し」になる約束をするのだった。

九 メルチセデック
前章で「3人」と書いた内の最後の一人はロッテイである。ロッテイはまだ7歳と小さく、サアラの身に何が起こったのかよく理解できなかった。どうしてあのような古い服を着て、授業の時にしか教室に来なくなったのか。サアラに聞いても答えてはもらえず、ロッテイはとうとう、みんなの断片的な話を統合して、サアラがいると思われる屋根裏部屋に行ってみることにした。

ようやくの思いで辿り着いたその部屋はあまりにも遠く、そして汚かったので、ロッテイは泣き出しそうになった。突然のロッテイの来訪に驚いたサアラは、ここでロッテイに泣き出されてはたまらないと、すぐにロッテイをなだめた。そしてこの部屋が如何に魅力的であるか、そして飾り付けたらどれだけ綺麗になるかを話してやった。ロッテイはサアラの話を聞いて、この部屋がなんだかとても面白く思えてきた。サアラに促されて部屋に戻るときには、もうすっかり気に入って、「くらしたい」とまで言う。

ロッテイが帰ると、サアラは自分の部屋をいっそう寂しく感じるのだった。「ちょうど囚人が、面会人が帰ってしまったあとでいっそうさびしくなるように」とある。そんな時、急に壁からねずみが顔を出した。普通の女の子ならひどく怖がったろうが、サアラは面白がった。そしてその後数週間かけて、そのねずみを手なずけてしまう。サアラはねずみにメルチセデックという名前を付けた。

アーメンガアドが遊びに来たとき、サアラはメルチセデックを紹介した。アーメンガアドは初めひどく怯えたが、次第に慣れてサアラと同じように面白く感じるようになる。サアラは自分の部屋をバスチーユの牢獄のつもりになっており、隣の囚人と壁を打ってこちらの様子を伝える規則を作っていた。ベッキイが壁を二つ叩いてきたとき、サアラはそれをアーメンガアドに説明し、彼女はそれをとても面白く思った。

ところで余談だが、今回ロッテイに対して、サアラはこんなことを言っている。「ミンチン先生がこちらを見ています。あなたがお話をすると、わたしが叱られますからね」「ねえ、泣いたりさわいだりしてはだめよ。あなたが泣けば、わたしまたしかられるのよ。わたしは一日じゅう叱られていたの」アニメのセーラはこういうことは言わなかったなぁと思う今日この頃。

一〇 インドの紳士
気になっているのだが、原作では頻繁にサアラが独りぼっちであるという類の記述がある。アニメのセーラはベッキーに依存していた部分も多く、互いに良い友達で、セーラは決して一人ではなかった。しかし原作のサアラはよく「独りぼっち」になっている。このことから、サアラは初めからベッキイを「良い侍女」としてしか見ておらず、従って物語の最後でも、彼女を侍女として自分の側に置いたのだろうと思われる。以上は水原の持論。

そういうわけで、独りぼっちのサアラは色々と他のもので気を紛らわしていた。学校が面している街に住む「大家族」もその一つで、サアラは「大家族」が好きだった。「大家族」には八人の子供がいて、サアラは勝手に彼らの名前を決め、彼らが楽しそうにしている姿を見て自分も楽しんだ。

ある日、「大家族」の子供の一人であるドナルド少年が、サアラに6ペンス恵んだ。サアラはまさか自分が乞食に見られているとは思ってもなかったので、それをひどく驚き、悲しんだが、彼の厚意を断るのも悪いと思って、丁寧にお礼を言ってその金を受け取った。そんなサアラの様子を見ていたドナルドの姉たちは、とても立派な言動をするみすぼらしい少女に興味を持ち、それ以後彼女を「乞食でない女の子」と呼んで度々話題にするのだった。

サアラはまた、隣の空き家に人が入る日を楽しみにしていた。人が入れば、自分の部屋から見える向かい窓から顔を出す誰かと友達になれると考えていたからだ。そしてついにその空き家に人が入った。数週間の後、サアラはその家主がインドの紳士で、家族がおらず、病気で、心も傷付いている人だとわかった。「大家族」のお父様が紳士の弁護士らしく、度々彼がその家に入っていくのを見かけた。

ところでサアラは、この章で一度だけエミリイに疑問を抱く。自分がひどくつらい思いをしたときですら、何も言わずじっと座っているだけのエミリイに腹を立て、乱暴に振り上げると椅子から叩き落とした。そして「あんたなんかただの人形よ」と言って泣くのだった。最後にはそれは仕方のないことだと納得し、「鋸屑のお人形としては、あなた以上にすることはむりなんだわ」と言って、彼女に接吻して元に戻した。

一一 ラム・ダス
サアラは自分の住む屋根裏部屋の天窓から外を眺めるのが好きだった。地面よりもずっと高いそこから外の景色を見ていると、空も世界も、すべてが自分のものになったような気分になるのだ。サアラは時間があるとよく部屋に戻って外を眺めていた。

ある時、サアラがいつものように窓から顔を覗かせていると、隣の、インドの紳士の住む家の天窓から人が現れた。それは頭に白い布を巻き付けたインドの水夫だった。水夫は手に猿を抱えていた。サアラが微笑みかけると、水夫はとても喜んだ顔をした。その時、猿が突然水夫の手を離れて、サアラの部屋に飛び込んできた。サアラは「あのさるはわたしにつかまるでしょうか?」と、インドの言葉で水夫に尋ねた。

サアラがインド語を使ったときの水夫の喜びようは、まるで目の前に神様でも現れたかのようで、水夫はサアラに多大なる感謝の気持ちを述べた。そしてサアラからの許しを得たので、水夫は楽々と屋根を渡ってサアラの部屋に入り、猿を抱えて帰っていった。水夫はラム・ダスという名前で、インドの紳士に仕えていた。

自分にうやうやしく頭を下げるラム・ダスを見ながら、サアラは昔を思い出し、そしてこの先のことを考えた。これから先は、とても変わったことが起こりそうな見込みはなかった。ミンチン先生はサアラを、小さい内は女中として働かせ、大きくなれば教師にしようとしている。それでもサアラはみっともない服を着せられて、女中のように見えるのだ。けれどサアラは、どんなときでもせめて心だけは公女様のようであろうと思っていたし、そのようにしていた。

ある時、サアラは自分をひどく扱うミンチン先生を思い出し、もしも自分が公女様だったらと考えていた。先生はそんな時のサアラの眼が嫌いで、それをやめさせようとサアラを打った。サアラは耳を腫らし、瞳に涙を浮かべながら、それでもはっきりと言った。「もしわたしくが公女さまで、そのわたくしの耳を先生が打ったとしたらどうなるか──」アニメではこのサアラの台詞は、26話でデュファルジュ先生が言っているが、原作ではもちろんサアラ自身が言っている。

一二 壁のむこうがわ
学校の教室の、壁をはさんだ向こう側がインドの紳士の書斎になっていることを、サアラは知っていた。だからよく、彼が何をしているのだろうと考えては、病気の紳士を心配するのだった。サアラはインドの紳士が、鉱山事業でひどい目に遭い、破産しかけたが、なんとかまた財産が戻ってきたことを女中たちの話で知った。病気は破産しかけた時にかかったものらしい。サアラは自分の父親と同じような境遇だった紳士を心から心配していた。

一方の紳士、つまりクルウ大尉の友達のカリスフォド氏は、亡くなったクルウ大尉の行方不明の娘を探していた。彼は破産しかけた時に逃げ出してしまい、そのためにクルウ大尉が死んだと考えており、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。もっとも、その時カリスフォド氏は重い病にかかっていたのでそれはしょうがないことだと、「大家族」の父親にしてカリスフォド氏の弁護士であるカアマイクル氏は言うのだが、カリスフォド氏はどうしてもクルウ大尉の娘を探し出さなければならないと必死だった。

カリスフォド氏は「大家族」の子供たちから「乞食でない女の子」、つまりサアラのことを聞いて、サアラに興味を持っていた。またラム・ダスから少女の部屋の様子を聞かされ、とても可哀想に思っていた。そして、行方不明のクルウ大尉の娘も、そんなひどい境遇にさらされているのではないかと心を傷めていた。

カリスフォド氏は、クルウ大尉の娘はフランスの学校にいると考えていた。大尉の妻がフランス人だと聞いていたからだ。そして、パリのパスカル夫人の学校にクルウ大尉の娘によく似た境遇の子がいたことと、その子が今モスクワにいることを知る。どうかその子がクルウ大尉の娘であるようにと願って、カアマイクル氏はロシアに旅立つことにする。

一三 ひとりの人間
どんな雪の日も雨の日も、サアラは遣いに出された。そしてずぶ濡れになって帰ってきては、何かと先生に怒られ、食事を抜かれた。そんな毎日を耐え抜くために、サアラはいつも何かの「つもり」になっていた。自分は公女様だ。公女様は苦しい思いをしたりしない。自分は濡れていない。乾いた着物を着ているのだ、というようにである。

ある雨の日、サアラは、自分がパン屋の前を通ったとき、ちょうどそこにお金が落ちていて、そして温かいパンを買って食べる想像をしながら歩いていた。すると、本当に道の上に4ペンス銀貨を見つけ、そこはパン屋の前だったのだ。サアラはパン屋のおかみさんにお金を落としていないか尋ね、もしこれがおかみさんのものでなければパンを買って食べようと思った。

その時、サアラの目に一人の女の子が飛び込んできた。その子はサアラよりももっと哀れな格好をしており、髪はぼさぼさで顔も汚れ、とてもひもじそうにしていた。サアラは自分もひどくお腹が空いていたが、もしも自分が公女様なら、たとえどんなに貧乏になったとしても、きっと貧しい人に物を分け与えるのだと思った。

サアラはパン屋でパンを4つ買い、2つおまけしてもらって6つになったその内の5つを、その女の子に与えてしまった。後でそれを知ったおかみさんは、サアラの気持ちに感動し、貧しい子供に親切にしてやったサアラのために、その子を家に招いてパン屋で働かせてやることにするのだった。

サアラが学校に帰ると、ちょうど「大家族」の父親がロシアへ出発するところだった。「もし、その女の子が見つかったらよろしく言ってね!」というドナルド少年の声を聞いて、サアラは「その女の子って、だれのことだろう」と思う。君のことだよ。

一四 メルチセデックが見たり聞いたりしたこと
次章「魔法」の伏線である。

ラム・ダスはサアラのことを大変好きで、度々サアラの部屋を覗いているのだった。かなり危ない男だ。そしてある時、サアラが綺麗に飾り付けたらこの部屋がどんなに素敵になるか話しているのを聞いた。ラム・ダスがその話を主人にすると、カリスフォド氏もそれを面白く思い、実現させてやりたくなる。

そこで、サアラが遣いに出されている最中に、ラム・ダスはカリスフォド氏の若い秘書とともにサアラの部屋を訪れ、こっそりサアラの話を実現させる計画を練るのだった。

一五 魔法
その日、サアラはいつになく空腹だった。昼も夜も食べさせてもらえなかった。疲れ切った身体で、何度も休みながらようやく階段を登り切ると、部屋にはアーメンガアドがいて、サアラを待っていた。サアラはそれをとても喜んだ。アーメンガアドは父親が送ってきた本を持ってきていた。アーメンガアドは本が嫌いだったので、これをサアラにあげると言うのだ。サアラはそれを喜び、自分が読んで内容を話す約束をする。

アーメンガアドはこの屋根裏部屋を気に入っていた。というのは、そこにはいつもサアラがいて、サアラが面白い話をしてくれるからである。アーメンガアドはこの部屋のつらさを知らなかったし、サアラもどんなにつらいことがあっても、愚痴を言ったりはしなかった。ところがその日、階下でベッキイがミンチン先生から理不尽な罪で怒られ、叩かれる音を聞いて、サアラは憤った。そしてアーメンガアドの前で激しく泣き出したのだ。

サアラが泣いているところなど一度も見たことがなかったアーメンガアドは、そんなサアラを見て、何か変わったことが起こり始めた気がした。そしてとうとう、サアラがとてもお腹を空かせていることに気が付いた。彼女は一度としてそれに気付かなかったのだ。サアラはアーメンガアドに、お腹が空いているのかと尋ねられ、とうとうそれを認めた。サアラはまるで自分が乞食のような気がするから、アーメンガアドには知られたくなかったのだ。

サアラの話を聞いて、アーメンガアドは自分の部屋に今、叔母からもらったたくさんの食べ物があることを思い出す。そしてそれを持ってこようとサアラに提案した。サアラは喜んで、ベッキイを部屋に呼びつけ、なけなしのもので部屋を飾り付けた。三人で過ごすこれからの時間を、宴会のつもりで過ごそうと考えたのだ。ベッキイはそれを喜び、戻ってきたアーメンガアドもとても驚いて、そのアイデアを楽しんだ。

ところが、楽しいこの宴会は、始まる前にミンチン先生に見つかって壊されてしまう。ラビニアが先生に告げ口したのだ。皆がひどく怒られ、ベッキイは部屋に帰らされ、アーメンガアドは本も食べ物も全部持って帰るよう言われた。そしてサアラは翌日の食事は一切抜きだと言われる。一人ぽつんと残された部屋で、サアラはベッドに入って眠る以外に何もできなかった。

ところが夜中、サアラはふと目を覚ました。部屋の中がとても暖かかいのだ。サアラは幸せな夢の中にいるような気分になった。カリスフォド氏の魔法が炸裂したのだが、サアラがそんなことを知る由もない。部屋には絨毯が敷かれ、椅子の上にはクッションがあり、寝台の上には新しい掛け布団、絹の着物もスリッパもあり、そしてテーブルには豪華な食事が乗せられていた。サアラはそれが夢でないとわかると、すぐにベッキイを呼びに行き、二人でその幸せを噛みしめたのだった。

ところで長くなったが1つ余談。アニメではセーラはしょっちゅう泣いているが、原作ではこの時サアラは初めてアーメンガアドの前で涙を流す。原作ではこのように、サアラは決してへこたれなかったのでミンチン先生はそれをひどく不愉快に思っていたが、アニメのセーラは度々凹んでいたので、先生もそんなにセーラを嫌わなくていいのになぁと思う今日この頃。

一六 訪問者
翌朝になっても魔法は消えていなかった。サアラもベッキイも元気に仕事場に向かった。昨日に引き続き、今日もまた食事を抜かれるのだから、今度ばかりはしょげているに違いない。そう思っていたミンチン先生だったが、元気な顔で教室に入ってきたサアラを見たときには驚きを隠せなかった。それは生徒たちも同じだった。

魔法はその日も起こり、それどころが日増しにその効果を増していって、数日後にはサアラはもう欲しいものがなくなってしまった。そして自分がとても不思議な、おとぎ話の世界にいるような気持ちになった。そう思うと、たとえ先生にいじめられようと、料理番にこき使われようと、ラビニアに笑われようと気にならなかった。

やせ細っていたサアラの身体は少女らしい丸みを帯び始め、血色も良くなっていった。そして今度はサアラ宛てに荷物が届いた。その中には服や帽子や靴が入っており、いずれも高価な品物ばかりだった。ミンチン先生は、サアラには実は今までわからなかった親戚がいて、その者が突然現れてこんな贈り物をしてきたのではないかと思った。そして、急に態度を改めて、それらの服を身に付けることを許し、買い物にも行かなくてよいと言うのだった。

サアラは魔法使いに感謝の気持ちを述べようと、丁寧な手紙を書いてそれをテーブルに置いておいた。そして夜にそれがなくなっているのを見てほっとする。その晩、サアラがベッキイに本を読んでやっていると、ふと天窓の辺りで音がした。見るとラム・ダスの連れていた猿がいて、寒さに震えていた。どうやら逃げ出してきたらしい。サアラは猿を部屋の中に入れてやって、明日隣のインドの紳士のところへ連れて行くことにした。

一七 「この子だ」
その日は、モスクワからカアマイクル氏が帰ってくることになっていた。カリスフォド氏はもちろん、「大家族」の子供たちも、父親が連れてくる女の子を楽しみに待っていた。ところが、戻ってきたカアマイクル氏は一人で、女の子を連れてはいなかった。モスクワにいた、クルウ大尉の娘と境遇の似た女の子は、探していた子ではなかったのだ。がっくりと肩を落とすカリスフォド氏。そこに真打ち登場! サアラが猿を届けに来たのだ。

カリスフォド氏は「乞食でない女の子」に会ってみたいと思っていたから、サアラを奥に通す。サアラは挨拶をしてから、猿をインドの水夫に渡してよいかと尋ねた。何故彼女が、ラム・ダスをインドの水夫だとわかったのか不思議に思ったカリスフォド氏はサアラに尋ねる。サアラは笑って答えた。「わたくし、インドで生まれたんですもの」

カリスフォド氏は血相を変えて座り直した、そして、感情の高ぶっている自分には到底質問できそうにないから、カアマイクル氏に、少女に色々と質問してくれるよう頼む。カアマイクル氏は少女に今の境遇に至る過程を尋ねてから、最後にサアラに父親の名前を聞いた。サアラは答えた。「お父様はラルフ・クルウと申しました」

「この子だ!──この子だ!」突然叫んだカリスフォド氏に驚くサアラ。「わたくしがどうかしたとおっしゃったの?」カアマイクル氏がサアラに答える。「このかたがあなたのお父さまのお友だちだったのですよ。びっくりしなくてもいいのです。わたしたちはこの二年間、あなたをさがしまわっていたのですよ」

一八 「わたくしはほかのものにはなるまいと思っていました」
カリスフォド氏の興奮を鎮めるために、サアラは別室に連れて行かれた。皆の喜びに反して、サアラは浮かない顔をしていた。それもそのはず、サアラはカリスフォド氏を、クルウ大尉から金を持ち出して父を殺した人だと思い込んでいたからだ。

別室でサアラは、カアマイクル夫人からその誤解を解かれる。また、何故すぐ隣にいたのに気付かなかったのかという疑問にも、カアマイクル夫人は、サアラがフランスにいるものとばかり思っていたからだと説明した。そしてカリスフォド氏がサアラのために「魔法」を使っていた張本人だと話す。アニメではセーラは自分でそのことに気付いていたが、原作ではそれはまったく意外だったように驚き、ようやくサアラはカリスフォド氏に笑顔を見せるのだった。

彼らが邂逅の喜びに浸っていると、ミンチン先生が現れた。ちっとも帰ってこないサアラを連れ戻しに来たのだ。カリスフォド氏はこちらから行く手間が省けたと、カアマイクル氏にすべてを説明させる。ミンチン先生はあまりのことに驚き、うろたえた。そしてサアラはクルウ大尉が自分に預けたのだから、成人になるまでは自分の学校にいるべきだと主張する。けれどカアマイクル氏は、サアラ自身が望まない限り、法律上そんな主張は認められないと言った。そこでミンチン先生は、サアラに喜んで来てくれるよう言う。「わたしはいつもあなたを愛していました」サアラは静かに答えた。「わたくしを愛していらしたのですか、ミンチン先生? わたくしは気がつきませんでした」

ぺしゃんこに凹まされて学校に戻ったミンチン先生を待っていたのは、アメリア嬢の罵声だった。アメリア嬢は気弱で、決して姉に逆らえないから何も言ってこなかったが、本当はいつも姉はサアラに対してひどすぎると思っていた。そして、サアラは親切にしてやれば、ちゃんと感謝しただろうと言い、サアラは姉には賢すぎた、だからあなたはサアラを嫌っていたのだと怒鳴る。突然の妹の変貌に、ミンチン先生は怒るどころか、妹を鎮めるのに精一杯だった。

学校中がサアラの噂で持ち切りになっている中、ベッキイは最後にあの魔法の部屋を見ておこうと思った。そうして階段を上がっていると、不意に涙があふれてきた。もうあの部屋にはサアラはいないのだ。しかし、ベッキイの悲しみはたちどころに取り払われた。部屋はベッキイのための「魔法」がかけられており、ラム・ダスが笑顔で立っていた。そして、サアラがベッキイに侍女になって欲しいと願っていることを告げるのだった。

これがアニメのラスト3話の原作だが、ミンチン先生を嫌っているサアラは、もちろんアニメのように彼女に優しくすることもないし、学校に戻りたいなどとは言わない。まあ、どう考えたってそれが現実的なのだが、アニメのような少女の方が日本人受けするのは確かだろう。

一九 アンヌ
サアラと「大家族」の子供たちはすぐに仲良くなった。「大家族」の子供たちは、サアラの話を本当に面白がり、また彼女が苦しい目にあった時の話は、とても尊く感じた。

サアラはまたカリスフォド氏とも大変仲良くなった。カリスフォド氏はもうすっかり身体も良くなっていた。以前は自分の持つ財産を重荷に感じていたが、今はサアラのために何でもしてやれることを幸せに感じていた。彼女がびっくりするような思いがけないプレゼントを贈ることが、彼の何よりの楽しみだったのだ。

ある時サアラは、いつかパン屋であったことを思い出していた。そして、カリスフォド氏にこんな提案をする。もしもお腹を空かせた子供がいたら、パン屋のおかみさんにパンを与えるようにしてもらい、その代金はサアラが支払うというものだ。アニメではカリスフォド氏が提案しているが、原作ではサアラ自身が考える。カリスフォド氏はもちろん快く承諾した。

パン屋のおかみはサアラのことを覚えていた。そしてサアラは、あの日パンを与えた少女が、今このパン屋で働かせてもらっていることを知る。少女はアンヌと言った。サアラは自分の提案をおかみに伝え、おかみはそれを大変喜んだ。彼女はいつも哀れな子供たちのために何かしてやりたいと思っていたのだ。

サアラは、おかみさんはきっとその役目をあなたにするよう言うだろうと、アンヌに言った。「あなたもひもじいってのは、どんなにかよく知っているから、喜んでそのしごとをしてくれるでしょうね」そう言ったサアラに、アンヌは「はい、お嬢さま」と答えた。アンヌはあまり喋らなかったが、サアラは自分の気持ちはよく通じたように思った。

そしてサアラは、カリスフォド氏とともに馬車に乗って帰っていく。その後ろ姿をアンヌがじっと見つめているシーンで、この『小公女』という物語は幕を閉じる。



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