『ショート・プログラム』の私的見解


■このページについて

 これは、"One of the Stars"の管理人水原渉が、あだち充氏の『ショート・プログラム』についてあれこれ書いたファイルである。本編の解釈において断定表現を使っている箇所もあるが、タイトルに掲げたように、それらはあくまで水原個人の見解でしかないことを留意しておいていただきたい。楽しみ方は千差万別であるが、私の一解釈を書き連ねたこのファイルで、皆様方が少しでも『ショート・プログラム』に興味を持ってくだされば幸いである。

■『ショート・プログラム』とは

 小学館から出ている、あだち充氏の短編集である。表紙に「あだち充傑作短編作品集」とあるので、過去には傑作でない短編もあったのかも知れないが、なるほど確かに、ここに収録されているものは珠玉の作品ばかりだ。
 収録されている作品は1985年から1988年のもので、それは、ちょうど私の愛する『ラフ』が連載される少し前のこと。初版は1988年11月11日。これは『ラフ』が連載されている最中で、私にとっては「運が良かった」としか言いようがない。というのは、この作品集には、始めにあだち充氏本人と仕事場の写真が載っているのだが、その仕事場が『ラフ』一色に染まっているからだ。この作品集は、スタートから私を満足させてくれた。

■『近況』 1987年 少年ビッグコミック1号

 いきなりヘビーな話である。例えば本を手にしたとき、その本がどういうものであるかを、読者の大半は最初の方を見て判断する。そういう意味で、一番初めに力作を持ってきたのは理解できるが、この作品はこの短編集の中では「異色」だと断言して良いだろう。深い作品を欲している人はこれを見て購入して、他の作品が期待外れになりかねないし、ライトな恋愛マンガを読みたい人には、この短編集は実にふさわしいのに、最初のこの作品で敬遠してしまうかも知れない。というわけで、短編集の最初には、その本の特徴を強く表している作品を持ってくるべきだ。
 以上は私の持論であり、また少し極端なお話。で、この作品は、他の収録作品とどこが大きく違うか。それは、ギャグで落としている『ショート・プログラム』という作品を除き、他のすべての作品は主人公の男の子とヒロインの女の子がくっついているにも関わらず、この作品だけは遠い昔に儚く消えた淡い恋を描いている。
 物語の舞台は中学の同窓会。主人公、杉井和彦は、4年ぶりに懐かしい仲間たちと再会する。季節は冬、和彦は手編みのセーターを着ていったのだが、友達はそれを和彦が自分で作ったものだろうと笑う。彼は編み物が趣味だったのだ。和彦は高沢亜沙子と再会する。この子がこの作品のヒロイン的存在である。そしてもう一人、東年男。中学時代、和彦とよく一緒に遊び、多くの時間をともに過ごしてきた友人である。がしかし、彼はすっかり変わっていた。一流大学に入り、マンション暮らし、おまけにベンツに乗っている。もともとモテる男だったが、それにさらに磨きがかかった反面、和彦が見た彼は随分粗雑で皮肉な男になっていた。
 和彦は東とは違う高校に行っていたので、高校時代の彼を知らなかった。同じ町に住んでいたが、ほとんど会うこともなかったのだ。けれど、和彦は東と亜沙子は付き合っていたと思っていた。中学時代、東が亜沙子を好きだったのは知っていたし、二人はよく一緒にいたからだ。けれど、実際には二人は付き合っていなかった。東はビールを飲みながらそのことを持ち出し、亜沙子を罵倒しようとする。和彦はそんな東を思わず殴ったのだった。
 和彦の脳裏に、ある冬のことが思い出される。その時、亜沙子はクリスマスプレゼントにマフラーを編んでいた。和彦はそれを東にあげるものだと思い込み、彼女を手伝って完成させる。亜沙子はそのマフラーを首に巻いてこう言った。「ありがと…、大事にするわ」
 外で頭を冷やしてきた東が和彦の許へやってきて、彼が和彦を妬んでいたことと、本気で好きになった女は高沢亜沙子一人だと伝える。何故彼が和彦を妬んでいたのか、その理由が和彦にはわからなかった。けれど、一次会が終了して帰る際、二次会へと向かう亜沙子の首に巻かれているマフラーを見てわかった。それはあのときのマフラーだった。そう、亜沙子はそのマフラーを東にではなく、和彦に渡すつもりで編んでいたのだ。
 和彦は亜沙子の想いをようやく知り、しばらく彼女の背中を見つめて立ちつくす。けれど、やがて彼は二次会を断った「用」のために歩き去る。とある喫茶店で和彦を待つ少女。それは編み物が大好きな、今の和彦の彼女だった。少女は自分が和彦にプレゼントしたセーターがみんなに誉められたことを聞いて、嬉しそうに微笑むのだった。
 ざくっと書くとこんなような内容。深いというより、大人の話という解釈でいいのかも知れない。それにしても、こんな内容であるにも関わらず後味が良いのは、最後のシーンで和彦が今の彼女ととても幸せそうだからだろう。普通あんな話をされた後なら、多少心も揺れようものだが、和彦には全然そんなところがない。それは彼が亜沙子を何とも思っていなかったからではない。ただ、今の彼女を愛しているし、それに、同窓会で知ったすべてのことは、所詮はもう過ぎてしまった過去でしかないからだ。それが恐らく、4年という歳月。

■『交差点前』 1986年 少年ビッグコミック4号

 『近況』の1年前に書かれた作品らしく、確かに絵柄は『近況』よりやや劣る。がしかし、この作品はネタが実に良い。ヒロインの女の子の性格がいまいちわからないし、後に述べる通り主人公との絡みも少ないので、どっぷりはまるということはなかったが、単にネタだけ見たら、この本の中で一番なのではないかとさえ考える。
 主人公は竹地春彦という男の子で、恐らく高校生だと思われるがはっきりとはしていない。ただ、竹地が女の子から、「中学の時、好きだった」と言われたことを回想しているので、やはり高校生だと考えられる。
 竹地の一番の楽しみは、毎日夕方、交差点前で一人の女の子とすれ違うこと。その女の子は山根美里と言う名前だが、竹地はそれを知らない。ただ家も名前も知らないこの女の子に一目惚れをして、毎日すれ違うただそれだけで幸せだったのだ。
 ある日、友人杉山克明がデートに使うために貸して欲しいと言って、竹地のバイト代を持って行ってしまう。竹地は使い道もないし、別にいいかと思うが、なんだか虚しくなり、美里に告白しようと決意する。けれど、今告白して、もしOKしてもらってもデートする金もない。ということで、少し延期と考えたのが運のツキ。
 克明とその彼女ユキちゃんがデートしているところに出くわして、そのまま三人でレストランに入ることになった。そして克明がトイレに行っている間に、ユキちゃんが「実は竹地くんが好きだった」と激白。明るい笑顔で妙に親しげに迫ってくるところを、運悪くレストランに入ってきた美里に見られてしまうのだった。
 もちろん、話したこともない状態で弁解などできるはずもなく、美里はしばらくお茶してから出て行ってしまう。そして、もう二度と交差点にも現れなくなってしまったのだ。ある時、竹地はそのことで克明を責め立てるが、その最中にふと気が付く。自分が美里に会うためにわざわざこの道を通っていたように、あの子も自分に会うためにこの道を通っていたのではないのだろうか?
 けれど後の祭り。竹地は彼女のことを何も知らなかったので、どうすることも出来なかった。竹地は呆然となったまま、克明に金を返すように言う。けれど、その金はすでになくなっていた。というのは、観光会社に勤めている彼の応援団のOBが、勝手に旅行に申し込んでしまったのである。もちろん、克明もその被害者だった。このOBは何とも怖い男で、克明に拒否権はなかった。
 竹地はふざけるなと勢い勇んで電話をするが、すっかり気圧されてバイト代をあきらめる。代わりに、どうかもう一度あの子に会わせて欲しいと願うのだった。
 ところで、克明のOBの名前は山根銀次郎と言った。すなわち、彼は美里の兄だったのだ。美里は竹地と克明が参加する温泉旅行に行くつもりでいた。銀次郎的には、この旅行はあまりオススメではなかったけれど、美里はここのところ元気もなかったし、まあいい気分転換になるだろうと思って反対しなかった。
 という感じでこの物語は終わるのだが、まあひねくれた解釈をしなければ、この後温泉旅行で再会した二人は初めてお話をし、誤解も解けて仲良くなるだろう。『近況』の見解の中で、「他のすべての作品は主人公の男の子とヒロインの女の子がくっついている」と書いたが、この作品に関してはそういう解釈の上での話。
 しかし、兄がああなので、竹地も美里を落とすのはなかなか大変そうだ。もっとも、美里は気の強い娘で、兄に対してもまるで臆さずに物を言っていることから察するに、きっと美里が竹地の肩を持てば、銀次郎とて何も言えまい。もっとも、その後の付き合いで、竹地が美里の尻に敷かれるのは容易に想像が付くが。
 それにしても、美里の出番が少なかったのが残念だ。まあ、こういうネタなのでしょうがないのだが、作品の評価に「萌え」を重視する私としては、こういう女の子の出番が少ない作品は評価が落ちてしまう。もちろん、『頭文字D』みたいに、元々『萌え』とは縁遠い次元のマンガはその限りではないが、あだち充作品に関しては「萌え」はかなり重要。

■『ショート・プログラム』 1987年 ヤングサンデー創刊号

 本のタイトルと同じタイトルのマンガだが、その内容は収録作品の中で最もくだらない。もちろん、「くだらない」=「つまらない」というわけではなく、直美ちゃんはなかなか可愛い女の子だし、ストーリーのバカっぽさも潔くて悪くない。
 内容は大体こんな感じ。
 名前の出てこない主人公の青年と、ヒロイン森村直美はアパートの向かい同士に住んでいる。物語はこの二人が遊園地でデートしているシーンから始まる。
 二人の出会いはちょうどひと月前、直美が中学の頃の知り合いに襲われていたところを、青年が向かいの自室からボールを投げ付けてガラスを割り、騒ぎを起こして助けたのだった。その男は昔直美からデートを申し込んだ男で、直美は自虐的にこう笑った。「わたしって昔から、男を見る目がないみたい」
 直美はまた、昨日のことも持ち出す。昨日、直美はどうしても見つからない写真を探していたのだが、それを青年が言い当てたのだ。机の上から風で飛ばされたのを偶然見ていたらしい。それから二人は互いの部屋の話をするのだが、青年は調子に乗って直美の部屋の風呂の色からキッチンの様子、トイレの場所まで言い当てる。それで、ようやく直美は気が付くのだった。
 その夜、青年がいつものように向かいの部屋からこっそり直美の部屋を除くと、壁に「さよなら」と書いた紙切れが一枚貼ってあった。
 まあ、そんな話。結局直美は「男を見る目がなかった」ということだ。
 それにしてもこの青年はまったくもったいないことをしたものだ。くだらないことをベラベラ話さなければ直美をゲットすることもできたろうに。もちろん、それでは物語になっていないのはわかっているが。

■『テイク・オフ』 1988年 ヤングサンデー7号

 収録作品中、最も新しい作品になる。確かに絵は一番上手に思えるが、ヒロインの里美ちゃんが少しきつい感じのタッチで、あまり私の好みではないのが残念。『ラフ』で言うところの小柳かおりみたいな感じ。まあ、もちろん相対的な話でしかないから、可愛いには違いないが、とりあえず私の好みが『ショート・プログラム』の中では『プラス1』の知里だと言えば、その差はわかるはずだ。ちなみに、知里が一番『ラフ』の二ノ宮亜美に近い顔をしている、というのは内緒の話。
 そういえば、考えてみるとあだち氏と言えば、よく「女の子の顔が全部同じ」と評価されるが、男の子の方はもう少しパターンが多いように思える。今回もそれを思わせる二人の男が登場する。
 一人はちょっと不良っぽい感じの男、西崎。こいつが部屋で煙草を吹かしながら女と遊んでいるところに訪ねてきたのが主人公、永島。大学3年。身長197cm、目が細くて、あまりこういうキャラは他のあだち作品では見たことがない。
 永島が悪気なく、部屋にいたのを西崎の他の女と間違えたために、女が飛び出して行った後、西崎がやれやれと行った様子で友人にビールを勧めた。けれど永島は「飲めないことはないけど、うまいと思わないんだ」と言って断る。そして、西崎の「うまいまずいの問題じゃねえよ。この年になりゃ、飲まずにはいられない時だってあるだろ?」との問いに、こう答えたのだった。
「やけ酒飲むほど悲しいことも、乾杯するほどのめでたいこともなかったからなァ」
 さて、部屋にやってきた永島は、テレビをつけてある番組を見始める。それは、国体の走り高跳びだった。お目当ては去年のチャンピオン、朝倉北高校3年生の仲田里美。この子が今回のヒロインである。
 永島は里美と知り合いだった。里美は昔から、「毎年初雪が降るまでモチは食べない」などと、何かと自分の行動に条件を付けたがる、ちょっと変わった女の子だった。そして永島との関係においては、彼の身長を条件にしていた。少なくとも永島はそう思っていた。
 というのは、中1の時、彼女は当時高1だった永島の身長の高さを跳び、中2の時も高2の永島の背の分だけ跳んだ。けれど中3の時は、彼女は彼の身長を跳ぶことができなかった。県大会の日、永島は泣きながら帰ってくる里美を見た。彼はてっきり失敗したのだと思ったが、彼女はその大会を、大会記録で優勝していた。けれど、それは永島の身長より低いものだった。
 その後、永島は大学のために実家を出たので里美とは会っていない。話を聞いた西崎は、「結局くだらん偶然2回の関係か」と呆れたのだが、永島の談では、彼女が去年国体を優勝した後、上げたバーの高さが1m92。これは去年の永島の身長とまったく同じだったと言う。
 そして現在、永島の背はさらに伸びて197cm。ちょうどテレビから聞こえた声によると、日本記録は1m95だと言う。ちなみにこれは佐藤恵選手の1987年の記録で、その後この記録は2001年に今井美希選手が1m96跳ぶまで、14年間誰にも破られなかった。まあ、これはあくまで余談で、マンガの中では破ってもらわないと話が進まない。
 里美は1m92を跳び、国体を連覇した後、テレビに映し出された彼女の挑戦する高さは、なんと1m97だった。永島はそれを単なる偶然だと思って「奇跡だ」と呟いたが、西崎が静かに言った。「おまえの身長だよ」
 日本記録は1m95なので、里美が記録を狙うならば1m96でよい。にも関わらず彼女が余分な1cmを加えた1m97に挑戦するのは、まさに永島の身長のためだった。永島は唖然となって、彼女が今の自分の身長などするはずがないと言いかけるが、ふと前に電話で母親から身長を聞かれたことを思い出す。
 そして、永島があの日、3年前に泣きながら歩いていた里美を思い出す中、テレビの中の里美が駆けた。そして見事に1m97をクリアしたのだった。永島は食い入るようにテレビを見つめながら、呟いたのだ。「西崎、ビール、くれないか」
 2日後、永島のもとに里美からラブレターが届いた。それは3年前に書かれたものだった。
 個人的に私はこの話が好きである。女の子の「萌え」というファクターを抜きにしたら、これが一番好きなのではなかろうか。それが何故かを考えて、今これを書きながらふと思ったのは、スポーツという要素が絡んでいるからかも知れない。スポーツ、恋愛、青春。これを描かせたらあだち充氏の右に出る者はない。
 里美はきっと、ラブレターを書いてから、「このラブレターは次に彼の身長を跳ぶまでは出さない」と、自分に条件を付けていたのだ。そして中3の時失敗し、高2の時も1m92に挑戦したが失敗した。ようやく3年経った高3の国体で、日本記録より2cmも高いバーを跳んでラブレターを出すことができた。
 いかにもマンガっぽい印象は否めないが、私はあだち氏の、こういうちょっと古くさい青春のスポーツマンガが大好きだ。

■『チェンジ』 1985年 少年サンデー10月増刊号

 この本の中では、唯一少年サンデーに掲載された短編マンガ。そのせいかどうかはわからないが、他の作品と最も違う点と言えば、ヒロイン的存在である女の子がめちゃめちゃ若いということだ。若干14歳。果たして女の子と言っていいものか、結論から言うと、ヒロインの圭ちゃんは、髪も短く、男の子の格好で、どう見ても小学校低学年の少年のように見える。
 この圭ちゃんが4人の高校生に追いかけられている。どうやら何か生意気なことをしたらしい。とあるストアの店先に積んであったメロンをひっくり返して足止めまがいなことをしてみたりしたが、残念ながら空き地だか工場の敷地だかに追いつめられてしまった。
 圭ちゃん健闘するもピンチを迎える。そこで登場したのがスクーターに乗った一人の青年。この青年、男たちをスクーターのままぶっ倒した後、怒った顔で圭に迫り寄る。彼は先ほどのストアの店長の息子で、台無しにされたメロン代を徴収に上がったのだ。青年、赤月皆人、高3。
 皆人はこの子供にはとても払えそうにないので、もういいやとあきらめるのだが、圭ちゃんは弁償すると言い張った。それから皆人は圭を乗せて「タイム」という喫茶店へやってくる。そこには悦子という綺麗なお姉さんが働いていて、皆人はこの女性目当てに喫茶店に通っていたのだ。ところが店の前まで来ると、圭は店に入ろうとせずに、「校則違反だから」などと真面目なことを言い出して帰ってしまった。
 さて翌日、皆人は恐らく同じ学校だと思われる女子生徒から、道端でラブレターを受け取る。ところが皆人は、それを読まずに突き返してしまった。皆人の帰りを待っていて、それを見た圭が「考えさせての一言くらい言って、夢を持たせてあげるべきだ」と主張するが、皆人は、「考えさせてくれという時は、本当に考えるときだ」と突っぱねた。なるほどそれも男らしいと、圭は納得する。
 この日から、圭ちゃんは赤月ストアで働き始める。お金は要らないから、しばらく働かせて欲しいと言ってきたらしい。皆人は「邪魔になるだけだろが、あんなガキ」と反対するが、母親は「よく働くし、それに可愛いじゃない」と言って取り合わない。ここの解釈は分かれるだろうが、私は母親は圭が女の子だとわかっていたのではないかと考えている。もちろん、まだ皆人は男の子だと思っている。
 ある日、皆人はどれだけデートに誘ってもちっとも相手をしてくれない悦子のことが気になって、圭を使って何をしているか知ろうとする。そして圭に尾行させたのだが、その夜圭が皆人に伝えた内容は、悦子は働いている喫茶店のマスターと婚約していて、皆人にはまったく脈がないからあきらめろというものだった。喫茶店のマスターと言えば、人はいいが気が弱くていつも他人にペコペコしている、そんな印象を持っていた。だから皆人は圭の話を信じず、最後には喧嘩になってつい圭を殴ってしまう。圭は頭を打ち付け、額から血を流したままキッと皆人を睨みつけると、そのまま帰っていってしまった。
 翌日、皆人が喫茶店へ行くと、悦子がガラの悪い2人組に絡まれていた。皆人はすぐに止めようとしたが、あっさり捕まって表に連れ出されそうになる。それを助けたのがマスターだった。マスターは飄々としたまま、彼らの前でいきなり氷の塊を殴りつけ、それを叩き割ったのだ。2人が逃げ帰っていくと、大家さんから電話があって、またペコペコと頭を下げるマスター。そんな彼を優しい眼差しで見つめる悦子の指に婚約指輪が光るのを、皆人は無言で見つめていた。
 店にも来なくなってしまった圭。皆人はそんな圭を心配するが、ある日ふと圭が喫茶店にやってくる。悦子が驚いたように「あれ? 圭ちゃん」と言って、振り向いた皆人の目に映ったのは、スカートを穿いて女らしい格好をした圭だった。圭は悦子の妹で、始めに店に入ろうとしなかったのもそのせいだった。吃驚仰天の皆人の隣に座って、圭は一枚の写真を差し出した。そこに写っていたのは、髪こそ長かったものの、圭にそっくりな子供っぽい顔をした女の子。5年前の悦子だった。「5年後にああなるとは約束できないけど、可能性はあるわけよね。努力するから……つき合って」
 悦子の方を見ながら真剣な瞳でそう言った圭に、皆人はほんの少しの間を置いてから答えた。「考えさせてくれ」
 以上、あらすじ。私は個人的にこの話の終わり方は秀逸だと思う。「考えさせてくれという時は、本当に考える時だ」という台詞を物語の前半に置いて、最後にそれで締めている。しかし、それにしたって相手は14歳。皆人もなかなかのロリコンだ。まあ、『テイク・オフ』も永島が高3の時、里美は中学生だったが。別に高校生と中学生なら問題ないか。今の私と中学生ではまずいが……。
 しかし、圭は皆人の何に惹かれたのか。確かに、上には書かなかったが、皆人は時々圭に優しい言葉をかけているし、思いやるシーンもある。がしかし、圭自身が言うようにちょっと女々しいところもあるし、圭のことはちっとも気付かない。半分八つ当たりでぶん殴られて、それでも付き合いたくなるような男だろうか。
 まあ、それに関しては、今のところ「一目惚れ」、あるいは「圭の趣味」という辺りで考えている。
 ところで、上の説明で圭ちゃんを時々単に「圭」と書いたが、ひょっとすると本名は「圭子」などである可能性を付記しておく。もし彼女の名前が「亜沙子」とか「美里」だったら、名前で女の子ってわかっちゃうから物語にならんよな。

■『プラス1』 1986年 ちゃお6月号

 この本の中で、私が最も気に入っている作品。気に入っている理由は大きく二つあって、一つはヒロインの知里が『ラフ』の亜美に似ていて、とても可愛いということ。それからもう一つは、これがこの作品の、これまでに紹介した作品との大きな違いなのだが、物語がヒロインである知里の視点で描かれているということだ。
 この作品と、次の『むらさき』の2作品だけ、女の子の視点で描かれている。理由はとても単純で、この2つだけ『ちゃお』で掲載された少女マンガだからだ。これらに限らず、あだち氏は一部の例外を除き、少年誌では男の子の視点で、少女マンガでは女の子の視点で描いている。で、先に書いた通り「萌え」を重視する私としては、女の子の視点のマンガの方がその内面がよくわかって、より感情移入できるというわけだ。
 内容を見ていこう。主人公は一ノ瀬知里、高校生。知里が買い物から帰ると、部屋で電気屋さんがステレオを直していた。知里は明るく声をかけるが、彼は背を向けたまま無愛想に修理をし続け、修理が終わると振り向かずに保証書を出すよう知里に言う。知里は慌てて探すがちっとも見つからず、やがて電気屋が「次行かなきゃならねえんだけどな」と、機嫌を悪くして振り向いた。
 知里は思わず「すみません」と口走るが、彼の顔を見て驚く。それは彼女のクラスメイトだったのだ。今井一郎。勉強もスポーツもできるのに、無口で無愛想。女子からの人気も低く、みんなから名前を文字って「イマイチ」と呼ばれている男子である。ところが、知里は密かに彼が好きだった。保証書が見つからないのでお金を払うと言った知里に、一郎は「クラスメイトのよしみでサービスにしてやら」と、さっさと出て行ってしまう。知里は彼が出て行ってから、はっとなって机を見る。そこにはいつも一郎の写真が置いてあるのだが、幸いにも今は見えないところに置かれていた。
 翌日、杉本が家に遊びに来る。この杉本という男は、やはり頭が良くスポーツ万能。バンドをやっていてギターを弾いており、明るい性格で女子にも人気があった。彼は知里が好きで、知里がなかなかはっきりとした答えを出さないことに苛立っていた。杉本は知里の部屋で、約束していた自分のコンサートのテープを大音量でかけ、彼女に答えを迫る。そしてキスをしようとするのだが、知里に思い切り抵抗されてしまう。強く身体を押された杉本は、直ったばかりのステレオを壊してしまうのだった。
 ちなみに余談だが、果たして知里はキスをされたのだろうか。絵を見る限りされたように思えるし、その方が知里の悲壮感もたっぷりで、Sな私としては面白いのだが、まあその後の知里のことを考えるとされていない方が平穏でよかろう。
 翌日、一郎は屋上で泣いている知里を見た。そしてその後教室で、杉本から知里の部屋のステレオを直して欲しいと頼まれる。知里は怯えたような目で一郎を見て、一郎は少し固い表情で知里を見た。この間直したばかりなのに、というところだろうか。一郎はすぐに知里の家にステレオを直しに行くが、ステレオは部品ごといかれていて少し日がかかりそうだった。帰るとき、いきなり一郎が「杉本、よく来るの?」と聞いた。知里が驚いたように「ううん、どうして?」と答えると、一郎は床に落ちていた杉本の定期入れを拾い上げ、「じゃ、俺から返しておこうか」と言って部屋を出て行ってしまう。知里はショックを受けて立ちつくした。
 またまた余談だが、この知里の立ちつくすコマは最高だ。私はあだち充氏の、「女の子が立ちつくすシーン」をこよなく愛している。例えば『陽あたり良好!』で、真利亜が勇作とコンサートに行くのだと言って喜ぶ声を聞いたかすみが、部屋の外で立ちつくすシーン。あれ、最高。この『プラス1』が好きなのも、実はこの1コマの強烈な印象のせいかも知れない。
 けれど誤解は知里から動かずして解けた。定期入れを返された杉本が、一郎にベラベラと知里の部屋であったことを喋ったのだ。一郎は借りていた金を返すと、思い切り杉本を殴りつけた。そして、「ステレオの部品代あとで請求するから、よろしく」と、軽く手を上げて立ち去った。
 さて、その日か翌日かもっと先か、知里が友達を連れて家に帰ると、母親が一郎がステレオを直していったことを伝える。部屋に戻っても元気のない知里。もちろん一郎のことを考えていたからだ。友達の前で少ししんみりした空気になってしまったので、知里は何かかけようかと言って、ステレオの上に乗っていた、見覚えのないテープをかけた。それは一郎が置いていったものだった。
 ステレオからの声は、ステレオが直ったことと、代金は壊した犯人が払うことを告げた後、知里にこう伝えた。「あ〜、それから、これは偶然ですが、おれの机の上にも一ノ瀬の写真があります。あ! 家捜ししたわけじゃないぞ! 出しっぱなしにしとくのがいけないんだぞ!」
 慌てて机を見ると、一郎の写真が置きっぱなしになっていた。小さく微笑む知里。後日、ステレオを直しに来たのか、電気屋の格好の一郎が部屋にいて、知里は判子の代わりに、彼にそっとキスをした。手にした保証書には、「永久保証書 イマイチ電器 一ノ瀬知里のみ有効」と書かれてあった。
 う〜む。最後が上手くまとめられなかったのは、自分の中でラスト1ページの解釈を迷っているからである。吹き出しの数は4つ。A「はい、直ったよ」B「保証書見せて」C「はい」D「じゃ、ここに判コ押して」
 普通に考えると、A、B、Dは一郎の台詞で、Cが知里。となると、保証書は知里が持っていたことになるが、知里が作ったものとは思えない。知里が彼のことを「イマイチ」と書くとは思いにくいし、この保証書はもっと前に一郎が作り、それを告白代わりに知里に渡していた。このラストのシーンはその返事なのではないかと推測する。最後の1つ前のコマで保証書は知里が持っているので、一郎は「OKならここに判子を押して」というつもりで言って、知里が一度渡したその保証書をすっと取ってキスをした。
 以上は今考えた推測である。まあ、あまり深く考えずに、「うむ、良い話だった」と一度頷いて終わるのが正しい楽しみ方。

■『むらさき』 1985年 ちゃお6月号

 絵柄的な問題で、この本の中では一番読み返す回数の少ないマンガ。内容も悪くはないが、作者本人が作中で「話につまると転校生というパターンはさけたいものですネ」と書いている通り、急に転校生がやってきたり、あまりよく練られた作品とは思えない。でもやはり絵柄が、妙に劇画調なのが一番はまれない理由か。もっとも、ヒロインの女の子だけは、如何にもあだち氏の描くぽわっとした感じで、とても可愛い。
 名前は小宮榛名。美人の生徒会長、美奈子といつも一緒に引っ付いている。どう考えても、普通のマンガなら脇役という位置付けにあるこの子をヒロインにしたのは、なかなか良い構成だ。実際、物語も榛名は脇役のように進行していく。
 話は、あだち氏が「サービスページ」と描いているが、榛名の朝の着替えのシーンから始まる。カラーなのだが、この榛名の萌えることと言ったら、この本の中でもピカ一だ。作品は読み返さないが、このカラーページだけは何度も見たし、何度見ても見飽きない。
 学校に行く前、榛名が歯を磨いていると、父親が新聞がないと言い出す。榛名がはたと気が付いて取りに行った先は、飼っている「ロクイチ」という名の犬の犬小屋。このロクイチ、ポストに入っているものを自分の住処に持ち込む習慣があるらしい。
 さて、舞台は変わって学校のシーン。木の上で本を読んでいるのが主人公の男の子、村崎純一。この純一のところに、不良っぽい女が自分らのグループに入れと誘いに来る。彼女の名は明石。学校に2つある不良グループの内の一つのボスだ。純一は女に人気があるので、明石は彼を勢力拡大の道具に使おうと考えていた。もちろん、明石自身も彼に気があるというのも理由の一つだが、純一はあっさりと断るのだった。
 もう一つのグループのボスは青田。明石と合わせて「赤鬼」「青鬼」と呼ばれている。この青田がガムを噛みながら土足で廊下を歩いているところを、美奈子と榛名が通りがかった。美奈子は声を上げて注意するが、青田はまったく気にすることなく美奈子をバカにして通り過ぎていくのだった。
 少し美奈子が明石と青田のグループにからかわれるシーンがあってから、美奈子と榛名がテニスをしている場面になる。榛名がボールを取りに行くと、フェンスの向こうで二人を見ていた純一と目が合った。榛名は思い切って純一に手を振る。純一が手を振り返してくれたから、今度は三つ編みにした髪を小さく振ってみる。そんな榛名に、純一は爽やかに微笑むのだった。
 さて、転校生登場。名は巻原道雄。実はかなりのワルなのだが、表にはそれを出さず、美奈子と仲良く話をする。美奈子はと言うと、とうとう明石と青田の悪さに堪忍袋の緒が切れて、純一に何とかしてくれと頼みに行く。二人が純一を好いているのを知っていたから、純一が言えば彼女たちももう少し何とかなるのではないかと思ったのだ。ところが純一は飄々として受け付けず、美奈子は榛名に「大っきらい! あんな弱虫」と宣言して去っていくのだった。この後、「わ、よかった。最大のライバルが消えた」と、にこっとしている榛名はキュート。
 明日は榛名の誕生日。榛名はクラスの男子に「プレゼントよろしく〜」と言って回っていた。けれど、純一にだけは言うことが出来ない。「他の男子にはまったく平気なんだけどなァ」と、心の中で首を傾げていると、純一がそんな榛名を見て、可笑しそうに笑って通り過ぎていった。
 榛名の誕生日の翌日、美奈子のところに血相を変えた榛名が飛んでくる。という表現を使う辺り、榛名が脇役的に描かれているのをわかってもらえよう。榛名の話では、転校生が校舎の裏に赤鬼青鬼を呼び出したという。実は美奈子は、二人を何とかしてくれたら付き合っていいと転校生に言ったのだった。
 二人が到着すると、いよいよ本性を現した転校生が、鬼退治を終えて勝ち誇った形相で美奈子に迫ってくる。焦る美奈子と、突っ立つ榛名。そこに現れたのが主人公、村崎純一である。純一はあっという間に転校生をやっつけてしまう。「わたし、村崎くんって大っきらいだったのよね」と呟く美奈子。その後、眩しげな瞳で言った。「でも、それは昨日までの話よ」
 けれど、風向きは榛名にあった。美奈子が純一に頼まれて保健室へ駆けていくと、純一は榛名の耳元でこう囁いたのだ。「誕生日の誕の字、間違えたの内緒だぜ」
 榛名は何のことだかわからなかったが、家に帰って犬小屋を通り過ぎたとき、ふと思い付く。そしてまさかと思いながらロクイチをどけて、彼の住処に手を伸ばすと、そこには一枚のバースデイカード。開いて見ると、「残念ながらプレゼントを贈るほど親しくないのでカードだけです。来年の誕生日には堂々とプレゼントを贈りたいので、その辺よろしく!」と書かれていた。
 まあ、最初と最後は繋がっていたが、恐らく最初と最後しか初期構想になかったのだろう。短編でここまで場面や展開がコロコロ変わるのは珍しい。3〜5ページで場面が展開していくので、あらすじを書くのも一苦労だ。
 それにしても、どう見てもこれは美奈子がヒロインの物語である。実際、榛名はただ美奈子と一緒にいるだけで何もしていない。少女マンガではよくあるのかも知れないが、少年誌しか見たことがない私にはとても斬新に思えるマンガであった。その点は秀逸。

■『なにがなんだか』 1985年 少年ビッグコミック1〜2号

 最後は前編後編に分かれているちょっと長めの物語。と言っても、内容はいたって愉快痛快で、深いことを考えずに気楽に読むのが良いだろう。好き嫌いは分かれそうだが、私はこういうのも「悪くない」と思う。もっとも、「愉快」止まりなのは否めず、何度も読み返す作品かと聞かれるとノーだろう。
 話の設定は好きだ。主人公片岡圭一は高校3年生。季節は冬。今受験で一番大変な時だが、彼には勉強が手に付かないほど気になっていることがあった。それは、顔も声も知らない女の子のこと。名前は西島さとみ。3年前から文通を始めた彼女を、圭一は本気で好きになりかけていた。
 このままではいけないと、圭一は冬休みに単身スキー旅行に出かける。というのは、さとみの手紙に、彼女が1月の3〜5日まで朝倉平にスキーに行き、『夢風車』というロッジに泊まるということが書いてあったからだ。自分の正体は明かさずにこっそりさとみを見に行き、ブスなら終了、可愛ければ継続、という算段。なかなかズル賢い。
 ところが、話は圭一の思わぬ方向へ傾いていく。ロッジに泊まっている一同集結して、さて自己紹介をしようという話になったときに、頭のおかしい眼鏡の男が、「自分はリプトン星からやってきたマキシムAGFだ」などと言い出したものだから、どうせならつまらない日常など忘れ、みんないつもの名前を捨てて思い思い楽しもうじゃないか、ということになったのだ。そんなわけで、「ボクサー」だの「DJ」だの「コメディアン」だのが登場して、どの子がさとみちゃんかわからず終い。圭一は途方に暮れるのだった。
 今ロッジに泊まっている女の子の数は6人。その内、圭一が気になったすんごい可愛い女の子が一人、どうにもならないのが二人。前者は「少女マンガ家」、後者は「ファッションモデル」と「スチュワーデス」。ちなみにこの「少女マンガ家」さん、あだち氏の描く女の子の中ではなかなか類を見ないタイプである。どう、というのを説明するのは苦手なので、まあ絵柄は実際に本を取って確認されたし。
 ここから少しコミカルになるのだが、この「少女マンガ家」さんは、数字に関することは100%、なんでもわかるという、超能力があるらしい。けれど、それを人に教えたり、自分で宝くじを買ったりすると決して当たらなくなってしまう役に立たないものだという。圭一はそれを、トランプでボロ負けしたあと、彼女から教えられた。
 さて、場面は変わって、圭一は自らが名乗った「探偵」よろしく、筆跡鑑定でさとみちゃんを探すことにする。美味しいものは後に取っておく性格だったので、まずどうにもならない「スチュワーデス」に“締め切り厳守”と書いてもらうことにした。彼女に紙とペンを渡すと、圭一は「マンガ原作者」に呼ばれて窓から外を見る。そこには頭のおかしい宇宙人が雪の上に大きな絵を描いていた。それから圭一は「スチュワーデス」に紙を返してもらうのだが、その字はなんと、手紙の文字とまったく同じだった。
 夜、騒ぐ一同と、打ちひしがれる圭一。「少女マンガ家」が、これまでに何度も自殺しようとしていた、人生をあきらめた男にビールを注いでやると、彼は思わず涙を零す。彼女の温もりと、ロッジの明るい雰囲気に心を打たれたのだ。ハンカチを取り出したときにポケットから一枚の宝くじが落ちる。それは、彼が最後に夢を見ようと思って買ったものだった。圭一は、彼女がそれを見てにっこり笑ってから返したのを見た。思わず立ち上がりかけた圭一に、彼女は笑う。「あ、わたし何もいいませんヨ」
 誰かに言ってしまうと外れる超能力。圭一がぼぅっと彼女を見つめていると、ふと彼女は圭一がビールを持っているのを見て、こう言いながら慌ててそれを取り上げた。「あーっ、何してるの圭一さん。あなた受験生でしょ!?」
 突如鳴り響く救急車のサイレン。それは、頭のおかしい眼鏡の男を迎えに来たものだった。みんなが笑いながら、男を乗せて去っていく救急車に手を振っている間に、さとみは「探偵のクセに変装がヘタですネ」と、彼のかぶっていた帽子を取った。それは、彼女が去年、圭一の誕生日プレゼントに編んだものだったのだ。「編んだ本人にはすぐわかるんですよォー」
 圭一が「スチュワーデス」に頼んだ字は、さとみが書いたものだった。「スチュワーデス」は“締め切り厳守”と書けなかったのだ。こうして仲良しになった二人。迷わず受験に望めると喜ぶ圭一に、さとみが受験番号を聞く。「二四〇七番」と気楽に答えた圭一に、思わずさとみは明るい顔で言うのだった。「大丈夫、受かります!」
 おしまい♪


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