『 虹色の未来 』
その夜、部屋の中で冬弥と理奈は、背中合わせになって座っていた。
二人とも、ぼんやりと壁や天井を見つめている。
もう随分長い間、二人はそうして座っていた。
やがて、静かに理奈が口を開いた。
「ねえ、冬弥君」
「うん……」
「私、間違ってないよね?」
冬弥は数秒考えてから、
「うん」
と、小さく頷いた。
「大丈夫。間違ってないよ」
「そう。良かった……」
理奈の安堵の溜め息が背中から伝わってきた。
また少しして、やはり理奈が口を開いた。
「ねえ、冬弥君」
「うん……」
「由綺、なんて言ってた?」
由綺は……。
冬弥はあの後のことをぼんやりと思い出した。
由綺は泣いていた。泣いていたけど、とても強い瞳をしていた。
「由綺、頑張るって」
「…………」
「理奈ちゃんに負けないくらい頑張って、それで理奈ちゃんとは違う答えを見つけて見せるって」
「……そう」
そして、もう一度理奈が聞く。
「冬弥君。私、間違ってないよね?」
「うん」
今度はすぐに、冬弥が答えた。
「良かった……」
また、わずかな沈黙。
それから理奈が、かすれる声でそっと歌を口ずさんだ。
「すれ違う 毎日が 増えてゆくけれど
お互いの 気持ちはいつも 側にいるよ……」
由綺のデビュー曲。
WHITE ALBUM。
しんとした部屋に、理奈の悲しいほど澄んだ綺麗な声が、由綺の歌を紡いだ。
「ふたり会えなくても 平気だなんて
強がり言うけど 溜め息まじりね……」
理奈も由綺も歌い続ける。
それぞれが違う道を選んで。
同じ「歌」というものを。
違う形で。
「過ぎてゆく季節に 置いてきた宝物
大切なピースの 欠けた パズルだね……」
ずっと歌って行くんだ。
今までも、今も、そしてこれからも。
この、悲しみと喜びの交差する街で。
長い長い道のりを。
ずっと歩いて行くんだ。
「白い雪が街に 優しく積もるように
アルバムの空白を 全部 埋めてしまおう……」
完