エリックとエルメス 第2話『兄弟』


◆ プレイヤーとGMの語らい ◆

 前回の冒険の経験点は1,250点でした。その内の50点は、倒した敵の最大レベル×10の値を経験点として加算するという、オリジナルルールです。まあ、微々たるものですが、何回かプレイを繰り返すうちに、それなりの量になることでしょう。
 さて今回、新たなシナリオを始める数日前に、エリックのプレイヤーである雪島琴美が、個人的にGMに相談をもちかけてきた。

雪島(エリック)「ちょっといい?」
水原(GM)「ん?」
雪島「シナリオのことなんだけどさぁ」
水原「おう」
雪島「ふと思ったんだけど、エリックもエルメスも、もうそこそこ冒険を重ねて、お金もそれなりに持ってるんだよね?」
水原「その予定。だから大雑把にさえ、お金の計算はしてない」
雪島「で、前回水原君が言い出した、ドレックノールの追っ手とかいうのも、それほど気にしなくてもいい存在なんだよね?」
水原「全然気にしてなくていいよ。またあそこに行く機会があったら使うかもしれないって程度」
雪島「うん。そこで考えたんだけどさ、私たち、冒険する理由がない」
水原「……はい?」
雪島「いや、だからさ。エリックは仲間を失って、元々冒険者をやめようと思ってたわけだし、エルメスも仕方なく冒険者になっただけで、それなりにお金が手に入ったなら、二人とももう冒険をする必要がないってこと」
水原「ああ、なるほどね」
雪島「キャンペーン2回目でなんだけど」
水原「そっか……」
雪島「次は私(エリック)の故郷、レイドだよ。GMには悪いけど、現実的に考えて、ここで腰を落ち着けようかと思ってる」
水原「なるほど。まあ、現実的に考えたら、それが無難だろうね」
雪島「うん。そんなけ。一応、ほずえちゃんには何も言わないから、後は水原君が適当にやってくださいませ」
水原「了解。素敵な結婚式を挙げさせてあげるよ(嘘)」
雪島「期待してるよ」

 ふむ。
 水原、その日の夜に、エルメスのプレイヤーである妹を呼び出して話をする。

ほずえ(エルメス)「なぁに?」
水原「みゅ」
ほずえ「話進めてよ」
水原「おう。TRPG、面白い?」
ほずえ「面白いよ。かなりはまっちゃった」
水原「勉強した?」
ほずえ「スチャラカ冒険隊のファンだよ!」

 注:スチャラカ冒険隊……ソード・ワールドRPGリプレイ第1部のパーティーのこと。

水原「そうか。俺はその本読んだの、もう4年も5年も前だから、内容まったく覚えてないよ」
ほずえ「ダメじゃん」
水原「エルメス、好き?」
ほずえ「自分の初めてのキャラだからね。もちろんだよ」
水原「そうか。俺の初めてのキャラは、エレンという男キャラだったんだが、すでに高レベルのパーティーのキャンペーンに途中から入ったために、ひたすらバトルソングを歌うだけの、個性のかけらもないキャラだった」

 注:本当はEXPLORERというコンベンションで使ったドワーフだけど、データ紛失。

ほずえ「そう。じゃあお兄ちゃんは、愛着のあるキャラはいないの?」
水原「……無知は罪なり……」
ほずえ「へ?」
水原「いやいや。雪島に言ったら、その台詞一笑のうちに付すよ」
ほずえ「いるんだ」
水原「多すぎてわからん。キャラクターシートの数だけ、思い出がある」
ほずえ「どれどれ」

 おもむろに昔のキャラクターシートを持ち出す。ほずえを呼んだ理由はどこへやら……。

水原「まず、水原渉を語る上で絶対に必須なのが、この1995年12月23日のプレイで使ったエイル・ハイラート」
ほずえ「どんな子?」
水原「強い戦士。テティスという義姉がいて、いつも一緒にいる。無感情。子供好き。酒は呑まない。いつも義姉にいびられてるけど、エイルはテティスが好きで、テティスはエイルが誰よりも大事」
ほずえ「ふ〜ん」
水原「それから、日付はないけど、同時期に作ったフローディ・ファヴニル」
ほずえ「少年だ」
水原「その頃、二次ショタだったから。弓を打つ坊や。モニカというお姉さんキャラを他の人が担当していて、子供ながらベタベタつっくいて楽しんでた」
ほずえ「お兄ちゃんは、今も昔もお兄ちゃんなんだね」
水原「おう。このときのシナリオで、他のキャラが木から落ちて受け身に失敗。生命力が0を割って、生死判定で1ゾロ。転落死するというすごいことが起きた」
ほずえ「面白い……」
水原「他にも、貧乏兄妹の妹やって、こう、食費が尽きていくのを見ながら、『あと3日だね、お兄ちゃん』、『いよいよ明日だね、お兄ちゃん』と、餓死するのを待ち続ける兄妹を演じたことがある。兄は違うプレイヤー。この兄妹の家に他のPCが盗みに入るところからシナリオが始まって、兄が放ったフォースが2回回ってこいつが死亡。一瞬でシナリオが破綻した、曰く付きの一品だ」
ほずえ「…………」
水原「あと、エスラスというキャラは忘れられない。妹が好きで好きで、身体も重ねて、妹は子供を宿して、でも死んじゃって、俺がTRPGをやって本気で泣いた、初めてのシナリオだった……」
ほずえ「ほぇ〜」
水原「他にもシスコン・ファーマとか、まだまだいるけど……別に俺がお前を呼んだのは、そういう話がしたかったわけじゃなくてだなぁ」
ほずえ「はいはい」
水原「あのキャンペーン、この先どうなってって欲しい?」
ほずえ「ん? よくわからないけど、エリックとのんびり冒険しつつ、旅しつつ……じゃないの?」
水原「それは、ほずえがそうしたいんだよね?」
ほずえ「うん」
水原「エルメスは?」
ほずえ「エルメス?」
水原「エルメスの立場に立って、じっくり考えてね。今、エルメスが何をしたいか。どうして冒険者になって、彼女が一番望んでいることは何か」
ほずえ「エルメスの……望んでいること、か……」
水原「そうそう」
ほずえ「う〜ん」
水原「ああ、答えなくていいよ。自分なりに解釈して、かみ砕いて、プレイ本番にぶつけてくれればいいから」
ほずえ「にゅ」
水原「雪島はTRPGの玄人だから、ほずえはエルメスの気持ちになって、じゃんじゃん無茶していいよ。GMのことも気にしなくていいし。自分がしたいと思うことをしてね。俺も雪島も、軌道修正も逸れた軌道に適応するのも、どっちもいつでも可能」
ほずえ「わかった。頑張るよ」
水原「うぃ。じゃ、お休み」
ほずえ「うん。お休み、お兄ちゃん」

 さて。それじゃあ、そういうこともふまえて、シナリオを作るとしますか。
 第1回は二人のキャラ紹介的な、突発ノンプロットのシナリオだったから、この回から、そろそろキャンペーンらしくしよう。

◆ レイド ◆

GM(水原)「眠い……」
エリック(雪島)「寝ないで」
エルメス(ほずえ)「シナリオ開始早々、この人は……」
GM「ということで、前回の冒険を終え、翌日ベルダインを出た君たちは、一路レイドに向けて歩いています」
エリック「おう」
GM「レイドです、レイド……。レイドは……」
エリック「西部諸国のワールドガイド見て、何してるの?」
エルメス「??」
GM「おう。レイドを探してるんだけど」
エルメス「……レイドは中原の国だよ」
GM「何っ!? じゃあ、一応、分類上、東方!?」
エリック「GM、タイデルの盟約の10ヶ国、ちゃんと言える?」
GM「お、おう。まずタイデルだろ? タラント、プロミジー、ガルガライス、リファール、ドレックノール、ザーン、ゴーバ。あと……ベルダインと……」
エリック「と?」
GM「……と……」
エリック「ダメだこりゃ」
エルメス「ラバンだよ、お兄ちゃん(GMのこと)」
GM「げふっ!」
エリック「やれやれ」
エルメス「まあいいや。とりあえず、レイドに向かってるのね?」
GM「そうそう。レイドはエリックの故郷です」
エルメス「へぇ〜。どんなところなのですか? レイドは」
エリック「そうだなぁ。街の中自体は、それほど他都市と変わったところはない。ただ、世間的には一応、“傭兵の街”と言われていて、実際に傭兵が街をウロウロしていた」
エルメス「傭兵というのは、どんなことをする人たちなのですか?」
エリック「もちろん、戦いをする人間のことだ。ただし、冒険者じゃない。国や一部の権力者ども、金持ち連中に雇われる」
エルメス「エリックは傭兵経験はないのですか?」
エリック「俺は冒険者になりたかっただけだからなぁ。家を出て、偶然気の合うヤツが見つかったから、そいつと二人でパーティーを組んで……」
エルメス「そうなんですか……」
GM「時間は夜です。夜の少し前くらいというか、日が沈んだけど、もうじきレイドだから、君たちは一気にレイドまで行こうと考えている」
エリック「もうすぐレイドが見えて来るぞ」
エルメス「本当?」
エリック「ほら、あれだ!」
GM「どれだどれだ?」
エルメス「どれどれ?」
エリック「見えたの!(泣)」
エルメス「わぁ! あれがレイドですか〜」
GM「どれなんだ?」
エリック「そうして二人はレイドの街に着きました」
GM「おひ……」
エルメス「ようやく着きましたね、エリックさん」
エリック「ああ」
GM「当然だけど門は閉まってます」
エリック「看守は?」
GM「呼べば出てくる」
エリック「お〜い」
GM「出てきた。『何者だ!?』」
エリック「この街の住民だ」
GM「『嘘付け。じゃあな』」
エリック「こらこら」
GM「じゃあ、しばらくしてから、大きな門の横についてる、通用門みたいなところから兵士が3人ほど出てくる」
エリック「はいこれ、居住証」
GM「そんなのがあるのか?」
エリック「あることにしよう」
GM「じゃあまあ、『わかった、通れ』と言おう」
エリック「助かる」
エルメス「ありがとう」
GM「『今度からは、ちゃんと日暮れまでには戻って来いよ!』」
エリック「わかったよ」
GM「街です。もう夜なので、静まり返ってます」
エリック「歩こう」
エルメス「ねえ、エリックさん」
エリック「おう」
エルメス「エリックさんは、これからどうするつもりですか?」
エリック「そうだなぁ。とりあえず実家に戻る」
エルメス「実家ですか? 大丈夫なんですか?」
エリック「??」
エルメス「あっ、いえ。ほら、冒険者になるような人は、その……。ちょっと困った感じ」
エリック「じゃあ、俺はエルメスが戻る家がないことを知ってるから、優しく声をかけよう。エルメス」
エルメス「はい」
エリック「俺は冒険者になりたくて家を出ただけだから、別に戻っても問題ない。俺にはログラムという兄がいて、稼業も兄が継いでくれる」
エルメス「そうんなですか。ちょっとほっとした感じ。ご両親は?」
エリック「いないよ」
エルメス「……えっ?」
エリック「そんな顔をすることはない。それこそ、冒険者になるような人間なら、不思議じゃないだろう。現に君も父親を亡くしている」
エルメス「それはそうですが……」
エリック「気にしなくていい。俺も兄も、気にしてない」
エルメス「わかりました。ありがとう」
エリック「いやいや(笑)」
エルメス「稼業は何をしてるのですか?」
エリック「細工だ。工芸細工とでもいうのか? ほら、仏壇仏具……じゃないけど、王冠の細工とか、まあ、そういう系統の品物の細かい細工をする家」
エルメス「素敵ですね! エリックさんもそういうこと、できるんですか?」
エリック「生憎。俺は本を読んでる方が好きだった」
エルメス「そうですか」
エリック「なあ、GM……」
GM「気持ち悪い。その語りかけはやめれ」
エリック「俺よ……」
GM「はいはい」
エリック「“生まれ”が魔法使い(爆)」
エルメス「(爆笑)」
GM「見なかったことにしよう(笑)」
エリック「了解」

 キャラクターシート参照。

エルメス「ではエリックさん」
エリック「おう」
エルメス「その、家に戻られてからは……どうされるんですか?」
エリック「…………」
エルメス「エリックさん?」
エリック「立ち止まって、真っ直ぐエルメスの顔を見下ろす。エルメスは?」
エルメス「えっ……?」
エリック「エルメスは、その……どうしたいんだ?」
エルメス「わ、私は……。頬を赤らめ、少し俯く」
GM「にゃ〜ん」
エリック「なんだ?」
GM「猫」
エリック「猫か……」
GM「ワンワン」
エルメス「な、何?」
GM「トナカイ」
エルメス「トナカイか……」
エリック「エルメス」
エルメス「私は、その……。言いあぐむ」
エリック「そのさ、エルメス。い、家に着いたら、俺、君に話したいことがあるんだ。いいかい?」
エルメス「えっ……? あっ、は、はい!」
エリック「エルメス……。あっ、ダメだ」
GM「何が?」
エリック「感情のコントロール。ふわりとエルメスを抱きしめよう」
エルメス「エリック……さん……」
GM「させない(笑)」
エリック「ひどい……」
エルメス「意地悪」
GM「二人とも、シーフで“危険感知”して」
エリック「しかも、よりによって、“危険感知”かよ(笑)」
エルメス「街中で(笑)。レンジャーで振るんだっけ?」
GM「えっ? (マスタースクリーンを見る)あ、うん。レンジャーだよ」
エリック「テープ巻き戻していい? さっき、シーフとか聞こえたんだけど」
GM「気のせい気のせい(笑)」
エルメス「人の恋路を!!(笑) 9(泣)」
エリック「やばい値だな。(ころころ)11」
GM「じゃあ、気付かなかった」
エリック「じゃあ、抱きしめる(笑)」
GM「(苦笑)」
エリック「エルメス……ひしっ」
エルメス「エリックさん……ぎゅっ」
エリック「キスする」
エルメス「あっ……」
GM「だから、させないって! 精神力抵抗して」
エリック「げふぅ」
エルメス「人の恋路を!!(怒) また9。出目が悪い」
エリック「14♪」
GM「じゃあ、エルメスは寝た。スリープ・クラウドだね」
エルメス「パタッ」
エリック「何者だ!?」
GM「遠くに二つの人影が見えた。けれど、君が寝なかったことを知って、慌てて逃げていく」
エリック「待て! 追いかける」
GM「一度だけ聞くが、追いかけるんだな?」
エリック「えっ……? あっ、エルメスが寝てるか……」
エルメス「すやすや」
エリック「くそっ。エルメスをこんなところに寝かせておくわけにはいかない。諦める」
GM「了解♪」
エリック「寝た振りしやよかった」
GM「そうだね。残念。でも、敵の力がわかんないのに、それは危険でしょう」
エリック「そうかもな。とりあえずムード台無しだから、エルメスを担いで家に帰る」
GM「はいよ」
エリック「ちなみに、人影に特徴とかは?」
GM「特になし。黒ずくめで、男か女かすら判別できなかった」
エリック「了解」
エルメス「くー……エリック……むにゃむにゃ」

◆ そうして事件に巻き込まれる ◆

GM「いきなりあれだけどさ、エリック」
エリック「おう」
GM「君の装備してるソフト・レザー、必要筋力が11だな」
エリック「うん」
GM「ソフト・レザーは、必要筋力7までしかないから、後で直しておいてね」
エリック「げふっ。初歩的なミスを……」

 くどいけど、今回と前回のキャラクターシート参照(笑)。

GM「じゃあ、家に着いた。エルメスは起きたことにしよう」
エルメス「あの、エリックさん。もう降ろしてください」
エリック「ヤだ」
エルメス「重たいでしょう」
エリック「重い」
エルメス「しくしく」
エリック「い、いや、ほら、鎧とかあるし」
エルメス「しくしく」
エリック「剣もあるし」
エルメス「くすんくすん」
エリック「やれやれ。とりあえず降ろそう」
エルメス「ほっ」
GM「家に着いたよ。昔も今も、変わらぬおいしさ」
エリック「ドンドン。俺だー、エリックだー」
GM「もう夜だ。反応なし」
エルメス「エリックさん。ご近所の迷惑になりますよ」
エリック「そうだな。ドアノブを回す」
GM「そういうドアかどうかは知らないけど、開く。ガチャ」
エリック「おや? 訝しがりながら入る」
エルメス「お邪魔しま〜す」
エリック「中の様子は?」
GM「少し模様替えしたくらいで、大して変わりない。不審なところもない」
エリック「声をあげる。ログラム兄さん!」
GM「そうすると、奥からものすごい勢いで兄が出てくる。『ミンフか!?』」
エルメス「違う。はずれ〜」
エリック「エリックだ」
GM「『エ、エリック……』」
エリック「兄さん」
GM「ログラムは、ものすごくがっかりしたような顔をする。『エリック……』」
エリック「兄さん……ミンフって誰?(爆)」
GM「ごめんごめん。君は知っている」
エルメス「誰?」
GM「兄の婚約者にして、エリックの古くからの友人でもある女性だ。21歳。君より3歳下。兄の5歳下」
エリック「じゃあ、エルメスにはそう伝えて、兄に言う。ミンフがどうしたんだ?」
GM「『あ、ああ……』ようやく我に返った様子。『慌てて話しても事態は好転しやしない。とにかくあがれ。お帰り、エリック』」
エリック「ああ」

 二人、家に入る。
 もう夜だけど、とりあえず話を聞くことにする。

GM「『昨日のことだ……』」
エリック「昨日のことだ……_〆(。。 )」
エルメス「こらこら」
GM「『夕方頃、俺の家に来ようとしていたミンフが、その消息を絶った』」
エリック「ミンフのおじさんやおばさんたちは?」
GM「『わからないって言っている。とにかく、ログラムのところに行くとだけ言って家を出たらしい』」
エルメス「たまたま、何か用事が入って、お友達の家にでも行ったんじゃ」
GM「『俺もそうだと願いたい。だが……』」
エリック「何かあるのか?」
GM「『最近、レイドで女性の誘拐事件が起きている』」
エルメス「誘拐……」
エリック「さっきのか……。今のは、心の呟き」
GM「『これで3件目だ』」
エリック「詳しく聞きたい」
GM「初めは、メラードという女の子だ。ママルという大工の娘で、4日前の夕方、買い物の途中にいなくなったらしい』」
エルメス「詳しいことは?」
GM「『わからない。特別興味がなかった』」
エリック「もう1件は?」
GM「『これはお前も知っているだろうか、革職人のリザンザさんのところの娘さんだ』ちなみに、ユルという名前」
エリック「ユルがか……」
エルメス「知ってる人が被害に遭うというのは辛いですね」
GM「『まったくだ。まさかミンフやユルが……』」
エリック「ユルがいなくなったのは?」
GM「『メラードがいなくなった翌日、つまり3日前の明朝だ。散歩に出たきり、帰って来ないらしい』」
エルメス「連続ですね」
エリック「しかも、3件ともまだつい最近」
GM「ログラムが泣きすがってきます。『頼むエリック。ミンフを助け出してくれ! この時期に、このタイミングでお前が帰ってきたのは、チャ・ザ神のお導きとしか考えられん。俺は一般人で、そういう力がない。お前が生きて戻ったことを祝福してやることもしないまま、こんなことを言ってはなんだが、頼む!』」
エルメス「ログラムさん……」
エリック「当然だ、兄さん」
GM「『エリック……』嬉しそう」
エリック「ミンフは、兄さんにとっても、そして俺にとっても大事な人だ。昨日のことなら、まだ間に合うかも知れない。希望を持て」
GM「『あ、ありがとう……ありがとう……』ログラム、泣き伏す」
エルメス「…………」
エリック「エルメスに言う。君は先に寝ていてくれ」
エルメス「はい。どこで寝ればいいんですか?」
エリック「母の使っていた部屋がある。そこを使ってくれ」
エルメス「わかりました? エリックさんは? 不安げに尋ねる」
エリック「穏やかに微笑む。大丈夫だ。少し兄についててやるだけだ。話もあるしな。心配するな。エルメスを置いて、勝手な行動はしない」
エルメス「エリックさん……。一瞬、何か聞きたそうにするけど、小さく首を振って思いとどまる。お休みなさい、エリックさん」
エリック「こっちもそれはわかったけれど、何も言わない。お休み、エルメス」
GM「じゃあ、そういうことで、時間を翌朝にします」

◆ 情報収集 ◆

エルメス「おはようございます、エリックさん、ログラムさん」
エリック「ああ、おはようエルメス。よく眠れたか?」
エルメス「はい。久しぶりのお布団でしたから」
GM「『久しぶりの布団か……。君みたいな可愛い子が、大変だなぁ』」
エルメス「は、恥ずかしいです、ログラムさん。ありがとうございます」
エリック「おいおい。浮気か?」
GM「『バ、バカ言え。俺はいつだってミンフのことを……ことを……』」
エリック「わかってる! 飯を食ったら、すぐにでも街に出るよ」
GM「『頼む』」
エリック「やれやれ」
GM「じゃあ、時間飛ばしていい?」
エリック「了解」
エルメス「どうぞ」

 二人、街に繰り出す。
 現段階の手がかりは、1.メラードが買い物の途中でいなくなった。2.ユルが明け方の散歩の途中でいなくなった。3.ミンフが一昨日の夕方、ログラムの家に行く途中にいなくなった。それだけである。
 二人はまず、街の警備隊の許へ行くことにした。

エルメス「ごめんください」
GM「警備隊の男が出てくる。まあ、今君たちは、警察の交番みたいなところに来たと考えよう。『冒険者がなんの用だね?』」
エルメス「はい。街で今、女性をターゲットにした誘拐事件が起きているそうで、私たちはその依頼を受けた者です。何か教えてはいただけないかと思って来ました」
GM「警備の人は少しだけ疑惑の眼差しを向ける。『依頼を受けた? 誰から』」
エリック「それは本来、あなたに教えることはできませんが、あなたはすでに被害者のことも知っているでしょうし、教えます。一昨日誘拐されたミンフの婚約者である、ログラムという男です」
GM「『なるほど』まあ、一応被害者の名前などが一致したことから、疑惑は解くね。『どんなことが聞きたいんだ?』」
エルメス「では、まず5日前にさらわれたメラードさんのことを教えてくれませんか?」
エリック「さらわれた状況や、目撃証言などです」
GM「『メラードは、ママルという大工の娘で、両親と弟との4人暮らし。5日前の夕方、買い物に出たきり行方がわからなくなっている。いつも買い物をする店の者によると、その店までは来て、商品を買って帰ったそうだ』」
エルメス「さらわれたと思われる場所とかは?」
GM「『30番地だ』まあ、そういう場所があるとしてね。『あそこは人通りが少なくて、生憎目撃者はいない。それから、現場検証もしたが、何一つ手がかりとなりそうなものは残っていなかった。彼女が抵抗した跡もない』」
エリック「まあ、眠らされたと考えるのが無難だな」
GM「『相手はソーサラーだと?』」
エリック「ニュータイプのカンだ。気にしないでくれ」
エルメス「では、ユルさんは?」
GM「『詳しいな、お前たち』」
エリック「当然だ。ログラムは自分の婚約者がさらわれたことで、自分なりに必死に情報を集めようとした。俺たちはそれを聞いている」
GM「『そうか。ユルはリザンザという革職人の一人娘で、19になる。メラードがいなくなった翌朝にいなくなっている。こっちは目撃者がいて、アルバリという老人だ』」
エリック「老人?」
GM「『そうだ。同じように散歩をしていたら、ユルの悲鳴が聞こえたという。現場に行ってみると、男が二人、彼女を担いで去っていくところだったらしい。この誘拐事件が本格的に捜査され始めたのは、アルバリが通報してからだ。ほとんど同じ時期に、ママルから娘が誘拐されたと連絡があった』」
エルメス「アルバリ、目撃者の老人っと。メモメモ」
エリック「じゃあ、最後だ。ミンフに関しては?」
GM「『メラードとほとんど変わらない。目撃者はおらんよ』」
エルメス「そうですか。他に何か変わったことはありませんでしたか?」
GM「『変わったことと言えば、お前たちみたいなのが来るのが。これで3件目だということだ。恐らく、ママルやリザンザが個人的に冒険者を雇って調査させているのだろう』」
エリック「わかった。ありがとう」
エルメス「ありがとうございました」
GM「君たちが礼を言うと、警備の男は憮然としたまま奥に引っ込む」
エリック「外に出よう」
エルメス「とりあえず、アルバリという老人のところに行きますか?」
エリック「そうだな」
エルメス「エリックさん。別行動しません?」
エリック「別行動?」
エルメス「はい。二人で一緒に回るのは時間の無駄です。聞く内容は決まってるのですし」
エリック「しかし、君を一人にしたくない」
エルメス「ありがとう。でも、少なくとも昼過ぎまでなら大丈夫でしょう」
エリック「そうだな……。わかった。じゃあ、エルメスはアルバリという老人の方を頼む。俺はシーフギルドへ行ってみるよ」
エルメス「わかりました。それでは、お腹が空いてくる頃に、ここで落ち合いましょう」
エリック「…………」
エルメス「あの、冗談です」
エリック「各自、自分の役目が終わったら、俺の家に戻るということでどうだ?」
エルメス「それは素晴らしい考えです!」
エリック「やれやれ。じゃあそういうことで一応別れるが、絶対に無理はするなよ」
エルメス「はい」
エリック「あと、ゲマを連れていけ」
エルメス「わかりました。行こう、ゲマ」
エリック「『ゲマ〜〜』」
GM「じゃあ、君たちは分裂するのね?」
エルメス「はい」
GM「それじゃあ、エルメスからやります。時刻は……日本時間でいいのかな? 午前9時。アルバリの家は警備の人から聞いていたことにしよう」
エルメス「コンコン。ごめんください」
GM「割としっかりした老人が出てくる。『何かね?』」
エルメス「あの、冒険者です」
GM「『見ればわかるよ。ユルという、少女のことかね?』」
エルメス「そうです。お教え願えませんか?」
GM「『構わんよ。あんな若い娘が誘拐されるなど、我がことのように辛い思いじゃよ』」
エルメス「はい……」
GM「『とりあえず現場へ行こう。ついてきなされ』そう言って、老人は歩き出す」
エルメス「大人しくついていく」
GM「やがて、そんなに時間はかかってない。10分もすると現場につく。『ここじゃ』」
エルメス「どんなところ?」
GM「道幅はそれほど広くない。っていうか狭い。両側は背の高い家が建っていて、ここ自体は十字路でもT字路でもないけど、割とたくさん曲がり角とかがある」
エルメス「おじいさんが見たとき、どんな状況だったんですか?」
GM「『わしが見たのは、ヤツらの後ろ姿じゃよ。一人はひょろっとした背の高い男じゃったが、もう一人はまだ子供のようだった』」
エルメス「子供、か……」
GM「『娘は眠らされているのか気絶させられているのか、背の高い男に担がれたままぐったりしていた。子供が大きな布を持っていたから、恐らくあとからあれにでも入れるつもりだったんだろう』」
エルメス「結構適当なヤツらだなぁ。GMがいい加減だから」
GM「ドキッ」
エルメス「他には?」
GM「『あとは何もない。ヤツらは向こうへ走っていった』向こうというのは東だけど、そこからすぐ北に曲がっていったと、アルバリは教えてくれる」
エルメス「ありがとうございました」
GM「『いやいや。娘さんを助けてやってくれよ』そう言って、老人は帰っていく」
エルメス「はい。答えてから、現場を調べてみる。悲鳴があがったって言ってたから、スリープ・クラウドを抵抗した可能性がある。何かあるかも知れない」
GM「どうぞ。足跡追跡も含めて、レンジャー+知力。もうだいぶ前のことだから、相当きつくしよう。15あったら何か教えてあげる」
エルメス「15!? ダイス目が11以上」
GM「頑張ってね」
エルメス「うぅ。実は、今回のキャンペーンが始まってから、最初の能力値のときに1回だけ12が出た以外、11以上は一度も出てなかったり。(ころころ)ぐぅ。10が出た」
GM「14ね。じゃあ、1時間くらい延々と探し回った結果、壁にわずかに血の跡が見つかったことにしよう」
エルメス「う〜む。役に立つのか立たないのか。ユルは怪我をさせられたと考えるのが妥当かな?」
GM「ごくわずかだからね」
エルメス「はい」

 ちなみに、目標値15は、これでも甘過ぎです。エルメスのレンジャー技能が少ないから難しく見えるだけで、レベルが5もあれば、割と簡単に『4日前の足跡』を見つけることができてしまいます。

GM「じゃあ、シーフギルドの方」
エリック「おう」
GM「シーフギルド」
エリック「おう」
GM「…………」
エリック「??」
GM「いや、君から話を振ってほしい……」
エリック「あ、ああ。コツコツ。開けてくれ〜」
GM「ここのシーフギルドは、表向きは瓦版屋さん。自分たちの情報の、あまり価値のない速報を世間に流す人たち」
エリック「どうやって入れば良さそう?」
GM「ギルドの一員なら、何か持ってない?」
エリック「一応、ここのギルドの直下のメンバーだから、顔パス?」
GM「そうしよう。『エリックさん、お久しぶりです』受付嬢」
エリック「ああ。シドランさんは?」
GM「『誰ですか? それ』」
エリック「上官! 今決めたんだけど」
GM「冗談だよ。『少々お待ち下さい』それから、しばらくしてから案内される」
エリック「にゅ」
GM「シドラン参上。『よぉ』」
エリック「ちなみに、古い友人にして上官(笑)」
GM「はいはい。『レイドに戻ってたのか?』」
エリック「昨日着いたところだ」
GM「『ベナルは?』ベナルは、君が一番初めにこの街で見つけた仲間。例の、“気の合うヤツ”」
エリック「じゃあ、寂しそうな顔をしよう。あいつは……死んだ……」
GM「『そうか……』」
エリック「情報がベルダインより遅いみたいだね、GM」
GM「君のパーティーが全滅したのが、西部諸国だから」
エリック「なるほど。シドラン、そう暗い顔をしないでくれ。俺が困る」
GM「『ああ、悪かったな。それで、今日はどうした? まさか、帰ってきたことを知らせに来ただけじゃないだろう』」
エリック「まあな。ある仕事を受けた?」
GM「『仕事? はは〜ん。されは、アレだろ?』」
エリック「あれ?」
GM「『パルパンの村で、池が干涸らびる事件だろ?』」
エリック「何だそりゃー!?(笑)」
GM「『違うのか?』」
エリック「違う違う(苦笑)。この街で起きている誘拐事件の話だ」
GM「『誘拐事件? なんだそりゃ?』」
エリック「えっ? 知らないのか?」
GM「シドランは少し考えた感じで、『あ、ああ。メラードとかいう娘がさらわれたやつか?』」
エリック「そうだけど……」
GM「『その事件は、うちでは関与してないよ』」
エリック「いや、そうじゃなくて、何か知ってることはないかって話」
GM「『だから、関与してない。色んな意味でな』」
エリック「シドラン……」
GM「『残念ながら、今のところ警備のヤツらより情報は入ってきていない。そして、これからも調べない』」
エリック「何故だ?」
GM「『上からの命令だ』」
エリック「上から? じゃあ犯人は……」
GM「『滅多なことは言うな』そう言って、シドランは、君にスッと紙を差し出す」
エリック「何?」
GM「文字が書いてある。『何者かがギルドに金を貢いだ。うちは関与できない』だそうだ」
エリック「じゃあ、紙をしまいながら、そうか。それじゃあ、しょうがねぇ。そう言って立ち上がろう」
GM「『悪いな、エリック』」
エリック「いや、構わねぇよ。シドラン、今度一緒に酒でも呑もうな」
GM「『ああ、そういうことは喜んで』」
エリック「じゃあ、ギルドを出る」
GM「はいよ」

 とりあえずエリックはギルドを出たが、ここでGM、一つ誤算に気がつく。
 ここでエリックに与えるべきある情報を与え忘れたのだ。
 もちろん、GMのそんな胸中とはお構いなしに話は進んでいく。

◆ 仲間……のつもりが、、、 ◆

 エルメスはアルバリの話を聞いた後、リザンザの家に行ったが、特に情報は得られなかった。ただ、「娘を助けて下さい」と頼まれるばかり。
 エリックもまた、ママルの家に行くが、こちらも大した情報が得られずに終わった。
 二人は2時頃、ログラムの家に戻る。

エルメス「……そうですか。こっちも大した手がかりは……」
エリック「う〜ん。困ったなぁ」

 かなり悩む二人。
 もちろん、GMが肝心な情報を与え忘れたためなのだが。

エリック「とりあえず、誰かがギルドに圧力をかけたのと、敵は少なくとも2人いて、一人は子供。その子供か、或いはもう一人のヤツかは知らないけど、一人がソーサラー」
エルメス「GM、昨日の人影は子供でしたか?」
GM「うんにゃ。違ったね」
エリック「じゃあ、訂正。少なくとも3人。一人は子供。一人はソーサラー」
エルメス「わかりませんよ、それは。ソーサラーが二人いるかも知れません」
エリック「どっちにしろ、相当うまくやらないと、真っ向から戦ったら負けるな」
エルメス「そうですね」
エリック「とりあえずは、もう少し情報を集めないと」
エルメス「あとは、ミンフがさらわれた場所の現場検証と、冒険者ギルドなり、酒場に行って、依頼を受けている他のパーティーに話を聞くくらいしか」
エリック「教えてくれるわけないだろ? せっかくの情報を」
エルメス「そうですね」
エリック「(GMに)じゃあ、ミンフがいなくなった場所に行きます」
GM「特定できない」
エルメス「ミンフがいつも通う道を辿ってみる」
GM「いいよ」
エリック「どれくらいある?」
GM「700m弱。そのうち、2ヶ所細くて人影の少ない道がある」
エリック「じゃあ、とりあえず一つ目に行こう」
GM「道だ。暗い。人影も少ない」
エルメス「まんまじゃん(笑)」
GM「そうとも言う」
エリック「レンジャーで振るよ」
GM「おう」
エリック「(ころころ)あっと、6ゾロ〜♪」
エルメス「おおっ。初めて見た」

 思えば、この6ゾロが始まりだった……。
 いや、その内わかります(泣)。

GM「(どうしよう……。まあいっか。)何も見つからなかった」
エルメス「ええっ!?」
GM「ここではないということが完璧にわかった」
エリック「GM、ひどい」

 だって……。
 くすん。

エルメス「じゃあ、もう一方に行く」
エリック「もういい目、出ないぞ」
GM「くすん」
エルメス「振る。(ころころ)10」
エリック「9」
GM「じゃあ、何も見つからないけど……」
エリック「やっぱりね」
エルメス「けど?」
GM「君たちがそうやっていると、誰かが声をかける。『おい、お前たち』」
エリック「エルメスをかばうようにして身構える」
エルメス「私の方が強いのに〜(爆)」
エリック「いいの!」
GM「大丈夫だ、襲ってはこない。声をかけたのは、30ちょっと前くらいの男。冒険者だ」
エリック「何だ?」
GM「『お前たち、ここで何をしている?』」
エルメス「相手、どんな表情? 敵意とかは?」
GM「そうだねぇ。敵意は感じられない。表情は読み取れない。無表情に近い」
エリック「探しものだ!」
GM「『コンタクトレンズか?』」
エルメス「違うわ!」
エリック「もっと大事なものだ!」
GM「『金の斧か? 銀の斧か? 錆びた鉄の斧か?』」
エリック「この人は悪い人じゃなさそうだ(笑)」
エルメス「(爆笑)」
エリック「話そう。冒険者なら知っているだろう? 誘拐事件のことは」
GM「そう言うと、途端に相手の顔が曇る。『やはりな……』」
エルメス「やはり?」
GM「『ああ。ここでさらわれた女のことを調べていたんだろう』」
エルメス「ピンポンピンポーン」
エリック「何か知っているのか?」
GM「『あ、ああ……』」

 それから男は、自分がメリウスという名前のシャーマンであると名乗り、ミンフが誘拐されたとき、現場にいたと言う。

エリック「ここにいた!?」
GM「『そうだ』悔しそうに言う」
エルメス「そ、それで……?」
エリック「どんな感じだった? 話してくれ」
GM「『黒ずくめの男二人だった。女は眠らされていたようだったので、俺は即座にその内の一人はソーサラーだと判断した』」
エリック「賢明だな」
GM「『いきなり飛び出すのも能がないと思い、俺は待ち伏せしていた。そして、ヤツらが来た瞬間、スネアをかけた』」
エルメス「賢明ね(笑)」
GM「『一人が転倒した。女を抱いていない方だ。もう一人のヤツが、すぐさま俺に魔法を放ってきた。スリープ・クラウドだったが、俺はこれに抵抗した』」
エリック「じゃあ、そいつがソーサラーか」
GM「『俺が抵抗すると、相手がわずかにひるんだのがわかった。しかし、攻撃しようとした俺に、背後からもう一人のヤツがしがみついてきて、叫んだ。『逃げて下さい、イェルザムさん!』と……』」
エルメス「イェルザム。さん付けされてたってことは、親玉と」
エリック「大したヤツじゃなさそうなんだけど……」
GM「『親玉は逃がしてしまったが、俺はもう一人のヤツと戦った。だが……ちっ。負けてしまったのだ』」
エリック「相手はファイターだったのか?」
GM「『そうだ。ヤツはある程度俺をいたぶると、さっさと逃げていきやがった。俺は追いかけたが、間に合わなかった。途中でまかれちまったんだ』」
エルメス「殺されなかっただけ良かったと思いましょう」
エリック「そうだな。犠牲者は少ない方がいい」
GM「『あ、ああ、すまない』」
エリック「ヤツら、どっちに逃げていったんだ?」
GM「『北だ。北の廃墟街』」
エリック「廃墟街って?」
GM「『この街の北の方の一角だ』そう言ってから、メリウスは、前にレイドの街で連続殺人事件があったことと、大火事があったことを話してくれる。それがその“廃墟街”で起きたことで、より正確には、それがあったから廃墟になった」

 これがシーフギルドで言い漏らした情報です。この情報と、『北』という文字をPCに与える予定だったのだが……。

エルメス「連続殺人事件、か……。今回の事件と何か関わりがあるかも知れませんね……」
GM「『いや、それはない』と、メリウス。実はこの事件はすでに済んだ事件で、犯人もとうの昔に捕まっている。ただの異常者の仕業。大火事の原因となった放火も然り」
エリック「ふむ。まあつまり、何かこそこそやる連中には、もってこいの場所だと」
GM「『そういうことだ』」
エリック「わかった。感謝する」
エルメス「ありがとうございました」
GM「帰る?」
エリック「もう用はない」
GM「じゃあ、そうすると、メリウスが呼び止めてくる。『お前たち、あいつらのところに行くのか?』」
エリック「そうだが」
GM「『だったら、俺にも手伝わせてほしい』」
エリック「何のために?」
GM「『もちろん、借りを返すためだ。負けっ放しでは悔しくてたまらない』」
エリック「どうする?」
エルメス「う〜ん。実は昨日のあれに失敗したから、口止めのために、うまいこと乗せられてる可能性もある」
エリック「行ったら、挟み撃ちとか?」
エルメス「そうそう」
エリック「じゃあ、メリウスに、悪いが、連れていくことはできない」
GM「『何故? 俺を疑っているのか?』」
エリック「まずは疑ってかかるのが冒険者の基本だ。それは誰でも同じだろう」
GM「『あれだけの情報を与えたのにも関わらずか?』」
エリック「情報には感謝する」
エルメス「ごめんなさい」
GM「『そうか……。わかった……』仕方なさそうにメリウスは帰っていく」
エリック「少し悪いことをしてしまったが、あまり人を信用しすぎてはいけない」
エルメス「前のエルフのこともあるし」
エリック「人間って、そんなに信じられないの?(カツ)」

 う〜む、やばい……。
 前にエルフに騙されたことで、ちょっと疑心暗鬼にかかっているようだ。
 二人で戦って勝てる相手ではないのだが……。
 さっき、「真っ向から戦ったら負けるな」とか言っていたくせに(泣)。

◆ 北へ(行こう、ランララン♪) ◆

エリック「さてと。とりあえず廃墟街に行ってみないことには何ともできんな」
エルメス「でも、二人だけでは、少し怖くないですか? 相手は3人以上はいるんですよ」

 だから、メリウス……。

エリック「しょーがないよ。二人パーティーなんだから」

 ( ̄□ ̄;;

エリック「何か作戦を練ろう」
エルメス「とりあえず相手は、何か急いでいるみたいですね。放っておいても勝手に自滅しそうな感じがします。もちろん、放っておくというわけではないですけれど」
エリック「急いでるというか、何か妙だよなぁ。まあ、今のところ毎日のように街に出ているみたいだから、放っておけば今夜もまた被害が出るだろう」
エルメス「一体何のために女性をさらっているのでしょうね」
エリック「趣味じゃないのか?」
エルメス「趣味ですか?」
エリック「GMの」
エルメス「(笑)」
GM「誤解だ〜〜」
エルメス「……ミンフさん、無事でしょうか……」
エリック「無事に決まっている」
エルメス「そうですね」
エリック「他のパーティーの様子を見ながら、できれば連携を取りたいところだが、そうはいかないだろうな」
エルメス「やはり二人で行くしかないですか?」
エリック「敵は何人いるのかわかんないし、女を人質にとられたら負けだ」
エルメス「こっそり」
エリック「とりあえず、敵を分断したい。敵が常に二人で行動しているのを利用して……」
エルメス「囮ですか?」
エリック「危険だけどな」
エルメス「わかりました。私は貴方を信じています」
エリック「ありがとう。一応、ゲマはつける」
エルメス「はい」

 ふむ。ちと敵の数が多くて、二人では厳しいから、ここは敢えて分断作戦に乗るのも手かも知れない。
 二人、夕方近くに北へ向かう。

エリック「本当は下見とかしたかったけどしょうがない」
エルメス「廃墟街はどんな感じですか?」
GM「暗く静まり返っている。人影はない。廃墟はだいたい、150m四方。まだ健在な家もたくさんあるが、中心部に、20軒ほど焼け崩れた家がある」
エリック「なるほど」
エルメス「健在な家の数は?」
GM「たくさん」
エリック「なるほど(汗)」
GM「そっちは?」
エリック「エルメスをふらふら歩かせつつ、俺はそれをこそこそと追う。常に周りや背後は警戒する」
GM「いいよ。じゃあ、2時間時を進める」
エルメス「寂しい……」
エリック「怖い(爆)」
エルメス「なんて頼りにならない人(笑)」
GM「辺りは真っ暗で、もう足下も見えないけど、どうする?」
エルメス「松明に火を点ける。ボッ」
エリック「月明かり、星明かりで我慢我慢」
GM「じゃあ、いつまでもそうしていても何だから……レンジャー+知力で振って」
エルメス「6は10」
エリック「7は11」
GM「エリックはすぐ近くで物音が聞こえた。エルメスは聞こえない」
エリック「ゲマを使って確認。『エルメス。今の聞こえたゲマか?』」
エルメス「いえ、何も……」
エリック「近くに敵がいる。気を付けろ……」
エルメス「?? エリックは、私には感じない何かを感じている」
GM「そういう台詞が、君の口から出るようになると、お兄ちゃん(GM)は嬉しいよ」
エルメス「いや、何となく……」
GM「じゃあ、スリープ・クラウド。エルメスだけ抵抗して。+2で」
エルメス「+2ね? んじゃ、18(笑)」
GM「そんなのかかんねぇよ」
エルメス「じゃ、寝た振り。パタッ。あとはよろしくね、エリック」
エリック「了解」
GM「もう一発飛んでくる(笑)。念には念を入れて」
エリック「マジーっ!?」
GM「こんなところに、冒険者が一人でウロウロしてたら怪しいでしょうが。ちなみにこのスリープ・クラウド、君(エリック)は気付かない。エルメス、振って」
エルメス「ドキドキ。6は11」
GM「(ころころ)8は13ね」
エルメス「かはっ……」
エリック「ふ〜ん。敵のソーサラー。魔力は5なんだね」
GM「あっ、バレた」
エリック「レベル3で、知力ボーナスが2と見た」
GM「ギクギク」
エリック「まあ、プレイヤーだけわかったということで(笑)」
GM「わらわらっと、エルメスに人が駆け寄ります。わらわらっていっても、二人ね」
エリック「エルメスとタイミングをとる。『エルメス。そっちがよければ、声をかけるゲマ』」
エルメス「すやすや。返事がない」
エリック「??」
GM「そうこうしている間にも、エルメスは男によって担がれてしまう」
エリック「なんか、ものすごくヤバイ……(爆)」
GM「どうする?」
エリック「どうもしない。泣く。しくしく」
GM「じゃあ、泣いてろ」
エリック「ああ、嘘うそ。こっそりと後を追うよ」
エルメス「じゃあ私、館に着くまでに、抵抗ロールさせてね」
GM「いいよ。じゃあ、5回くらい」
エルメス「うぃ。11……9……13……は?」
GM「プレイヤー優位。起きたことにしよう」
エルメス「じゃあ、さらに寝た振り。このままアジトまで運んでもらおう」
エリック「追いかける」
GM「そうか。じゃあ、こっちはそんなエリックに気がついたかどうか……(ころころ)」
エリック「ビクビク」
GM「エリック。“忍び足”でダイス振って」
エリック「シーフ+敏捷度ね? 一応、12」
GM「ふ〜ん」
エリック「ビクビク」
エルメス「わくわく」
GM「じゃあ、そのままそいつらは、エルメスを抱きかかえたまま館に入ります」
エリック「了解」

 こいつら、戦闘になると途端に面白くなる(笑)。
 ちなみに、こっちの出目は4。エリックには気が付かなかった。

◆ アジトにて ◆

GM「アジトに入ると、玄関を開けたすぐ手前にまたドアがあって、それを開けます。するとそこは居間みたいになっていて、ソファーがあります。真ん中には大きなテーブル。左手には本棚」
エリック「GM」
GM「なに?」
エリック「地図……頑張って作ったんだよね?」
GM「うぅ……。わかってくれるんだな?」
エリック「わかるわかる」
GM「君たちのプレイが、俺の下準備を、全部無駄にしてくれたよ(笑)」
エルメス「よしよし」
GM「くすん」
エリック「妹に励まされてる……」
GM「彼らは一旦エルメスをソファーに寝かせると、ソファーの上の隠し扉を開いて……」
エリック「(苦笑)」
エルメス「(爆笑)」
GM「お前ら、笑うな!」
エリック「だって、『隠し扉を開いて……』」
エルメス「あはははははははははははははっ!」
エリック「隠し扉になってない。くくく……っはははははははっ!」
GM「お前ら……お前ら……」

 くそぅ。いじめてやる……。

fig.1 無駄になった図


GM「隠し扉の向こうに、階段がある。どうする?」
エルメス「まだ動かない」
エリック「まだ飛び出さない。ゲマを使うと気付かれるから、こっから先は、自分のカンを信じるしかない。『俺は今、シャアと言ったのか?』」
GM「じゃあ、階段を下りていく。すると、その家の地下貯蔵庫みたいな、狭い空間があって、そこから細い通路が伸びている」
エルメス「女の子たちが人質にされると怖いから動かない」
エリック「動けない」
GM「まあ、通路を抜けた。でこぼこだけど、まあ大体正方形の空間。四方10mくらい。中心付近に祭壇があって、魔法陣が描いてある。奥にはまた細い通路。左手に扉」
エルメス「人は?」
GM「『おい、戻ったぞ』君を抱いていた男が言う。奥からわらわらと、3人の人が出てくる」
エルメス「もうちょっと詳しく」
GM「君を連れてきたのは男が2人。出てきたのは、少年が一人と、男が一人、エルフの娘が一人」
エリック「エルフの娘?」
GM「そうだよ。一人が君を地面に寝かせて、抑え付ける」
エルメス「…………」
エリック「…………」
GM「どうしたの?」
エリック「いや、その……」
エルメス「なんか、気がつくと絶体絶命じゃない? 私」
GM「さぁ(笑)」
エルメス「ここで行くしかないじゃん。3人は?」
GM「部屋を出てきたところ。イェルザムは祭壇の方に歩き出し、もう一人の男が君を抑えて、鎧の紐を解こうとしている」
エリック「俺は?」
GM「階段を下りて、通路の手前」
エリック「どれくらいかかる?」
GM「2ラウンド」
エルメス「ダメだ……」
GM「♪」
エリック「どうする? どうすればいい?」
エルメス「困ったよぉ。一人じゃ何もできない」
GM「大人しく縛られる?」
エルメス「やるしかないね。イェルザムに襲いかかれる?」
GM「それくらいは許可しよう」
エルメス「う、うん。頑張る……」
GM「元気ないね」
エルメス「女の子たちを人質にとられなかったのは良かったとしても、結局最悪の展開になってしまった……」

 まったくです。
 後は野となれ花となれ。敵さん、元々あまり強く設定してないけれど、メリウスを入れて、3対5で戦うことを前提に作ってあるから……。

◆ 絶体絶命の戦闘……?? ◆

fig.2 戦闘配置図


<1ラウンド目>

GM「戦闘順、教えます。1.男B、2.エルフ、3.メリウスはいないから、エルメス」
エリック「…………」
エルメス「しくしく」
GM「4.エリック、5.男A、6.少年、7.イェルザム。最初のターンは君たちにあげる。不意打ち扱いでイェルザムを攻撃させてあげよう」
エルメス「うぃ。これで1ゾロったり、打撃レートで3とか4とか出たら、この命、覚悟します」
GM「はいよ」
エルメス「起き上がる」
GM「『うわっ!』男Aが驚いたように飛び退く」
エリック「走り出す、明るい未来に向かって!」
エルメス「行きます! 攻撃、(ころころ)6は12」
GM「いいよ」
エルメス「戦闘始まったばかりだけど、これが最初で最後のチャンス。うりゃあぁぁあああぁぁぁぁ。(ころころ)回らない。でも、出目は9!」
GM「何点?」
エルメス「13点!」
GM「ふむ」
エルメス「どれくらい?」
GM「こっちも出目が良かった。半分くらいかな?」
エルメス「今ので……半分か……」
エリック「1ターン、くれたんだから、強打でいかなくちゃ、ほずえちゃん(エルメス)」
エルメス「はうぅ」
エリック「そしたら回ってた」
エルメス「うぐっ」
エリック「うぃ。ゲマ、スリープ・クラウド。向こうの3人」
GM「おっ。やるねぇ」
エリック「(反応なし。かなり真剣)7、期待値は13になって眠らせる」
GM「男B……おやすみ〜、少年……おやすみ〜、エルフ……げふっ!」
エリック「おっけ〜〜」

 実はこいつら、全員、レベルが1とか2とかです。
 つまり、精神力ボーナスが+3でも、せいぜい抵抗値は4か5。13を抵抗しようと思うと、結構大変なのよ……。

<2ラウンド目>

GM「B……寝てる。エルフ……起きた!」
エルメス「了解。イェルザムを殴る。8は13」
GM「どうぞ」
エルメス「いけぇぇぇいっ! 今日は出目がいい! 8は12点」
GM「こっちも9とか出てるよ。ソフト・レザー、7レートの9は4点減の……と」
エリック「走る(泣)。ゲマは気絶中」
GM「男Aは当然エルメスに攻撃。出目がいい! 13」
エルメス「(ころころ)10! 16で回避♪」
GM「今日のエルメスはひと味違う!」
エルメス「ふふふ♪」
GM「少年……起きた。イェルザムはかなりお怒りの模様。『死ね……』本気でエルメスにライトニング」
エルメス「本気って?」
GM「いや、俺が(爆)。ライトニングの2倍がけ。精神力を10も消費して……13」
エルメス「うわ〜、マジだ。でも、今日は出目がいいから……(ころころ)6ゾロ♪」
GM「…………」
エリック「くくく……」
エルメス「6ゾロです、GM」
GM「…………」
エリック「6ゾロだってさ(笑)」
GM「しくしく。10レートで振ります。8は4の9点」
エルメス「6点ね〜♪ 余裕です」

 こんなにPCを殺したいと思ったのは、GMを始めてから初めてだ(笑)。

<3ラウンド目>

GM「男Bは……起きた。エルフ、シェイドの3倍がけをエルメス」
エルメス「GM、怖い……」
GM「(無視)出目11は16」
エルメス「そんなの無理です……と思ったら、ごめん。マジで6ゾロ振った」
エリック「あははははははははははっ!」
GM「俺、もう帰る!」
エルメス「まあまあ」
GM「『ああ、これが俺たちの結末なんだ! みんな死んでしまえ!』イェルザム、ティルトウェイト!」
エリック「ないない。そんな魔法」
エルメス「(笑)」
GM「マジで悲しいっす。ああ、出目が4とかになった……。エルメスにシェイドは4点」
エルメス「ぐふっ。精神に1のダメージ!(笑)」
GM「(プレイヤーに)いつか犯してやる」
エリック「妹だろ、あんたの」
エルメス「♪ 私の番ね。じゃあ、イェルザムにとどめ」
GM「あっ、それ無理。男Aが邪魔する」
エリック「くくく……。GM、拗ねてる」
エルメス「やれやれ」
GM「…………」

 マジ悲しいっす……。

エルメス「じゃあ、男Aに攻撃……13」
GM「どうぞ」
エルメス「11点」
GM「(ころころ)…………」
エリック「どうしたの?」
エルメス「にゅ?」
GM「(無言でマスタースクリーンを上げる)」
エリック「…………」
エルメス「目の錯覚? 1を上にしているダイスが、2つあるように見える……」
エリック「いや、これは何かの間違いよ」
GM「…………」
エリック「…………」
エルメス「…………」
GM「あと4点ちかないにゅ〜〜」
エルメス「あはははははははははははっ!」

 ルール注釈:防御ロールでの1ゾロは、ダメージ素通りです。
 マジ寂しいっす……。

エリック「では、気を取り直して……」
GM「それは俺の台詞」
エリック「固まってる3人に、ライトニング……は、6ゾロって(笑)」
エルメス「あははははは。もうダメ、マジで笑いがとまらん……あははははははははははははっ!」
GM「今日のこれは何……?」
エリック「男Bに9発。少年に11発。エルフの娘に……ごめん。1回回って16発」
エルメス「このキャンペーン始めてから、始めて回ったね」
エリック「こっちはね。GMが1回回してる」
GM「その、GM、今日は出目が悪すぎ」
エルメス「いや、こっちが良すぎるだけ」
エリック「あのレッドダイスがいけなかったのよ。グリーンダイス、大好き」

 注:GM、6面体は青、緑、赤、紫、それぞれ4個ずつの、計16個持ってます。他にも4面体、8面体、10面体、12面体、20面体と、10の位ダイスがある。
 ちなみに雪島嬢は、その倍くらい持ってる挙げ句、1,200円の100面体も持っている。

GM「エルフの少女……3+出目-3が7以上だから……」
エルメス「何?」
エリック「生死判定……じゃない?」
エルメス「…………」
GM「今日は無理かな? (ころころ)ああ、やっぱり6とか出るか。エルフの少女、逝きました」
エリック「…………」
エルメス「…………」
GM「『あぐっ!』少女はライトニングの衝撃に激しく壁に身体を打ち付けて、そのままずるずると壁に背中をこすりながら崩れ落ちた。壁にべっとりと血痕が残る。『ウェレン!』それが少女の名前だったのか、しかし、もう彼女の耳には届かなかった……。『ごめんなさい……』呟いた口元から、悲しいまでに美しい鮮血が飛び散った。『ごふっ……』声とも音とも取れないものが、彼女の喉から鳴る……」
エリック「GM……」
エルメス「お兄ちゃん……」
GM「ああ、壮絶な最期はやらなくていいのね?」
エリック「相当拗ねてるでしょ?」
エルメス「なんか、すごい罪悪感を感じるよ」
GM「くくく……。男Aはエルメスに攻撃。(ころころ)…………」
エルメス「いくつ?」
GM「…………」
エルメス「…………」
GM「……もういい……」
エリック「……また……なの?」
エルメス「マジ……?」
GM「もう帰る……」
エリック「GM〜(必死に笑いを堪えてるらしい)」
GM「『やはり俺たちはダメなんだ! ここは一旦退くぞ!』イェルザム、ロクトフェイト!」
エリック「だから、ないって、そんな魔法(苦笑)」
エルメス「私、GMが可哀想になってきたよ」
エリック「まあ、そういう日もあるのよ」
GM「そうそう。ほずえ(エルメス)もGMをすれば、いつかわかる」
エルメス「にゅ」
GM「少年は捨て身でエリックに斬りかかる。『ウェレンの仇!』12ね」
エリック「俺も死ぬわけにはいかない……が、当たってやろう(笑)」
GM「(ころころ)とりあえず1クリ……」
エリック「マジ?」
GM「それはマジ。8以上で回るから。ただし、武器がショートソード」
エリック「ふむ」
GM「2クリはならず。11点」
エリック「4点もらった」
GM「イェルザム、もう一発ライトニングをエルメス。『今度こそ殺してやる。ウェレンの仇!』おっ、出目が変わってきた。14ね」
エルメス「どうぞ」
GM「『殺す!』……しゃん(3)とか振っちゃった。てへへ。6点」
エルメス「にゅ」

<4ラウンド目>

 初めの男Bの攻撃が、エリックに2点与えるが……。

エリック「ミンフをさらった敵に情け容赦は一切無用。この二人にライトニング……12ね」
GM「男Bは……二人ともダメ」
エリック「Bに……クリって、20点」
エルメス「(笑)」
エリック「少年も……クリって(笑)、22発」
GM「考えるまでもなく、二人とも死にました」
エリック「チーン」
GM「いや、マジで今日の出目、すごいぞ」
エリック「こんなに調子がいいの、久しぶりっす」
GM「まあ、TRPG自体、久しぶりだしね」
エルメス「ちなみに、順番抜かされたけど、男Aに攻撃……10とか出て16」
GM「無理です」
エルメス「打撃は9とか出て13点」
GM「8点受けて、-4は爆死」
エリック「すごい……みんな死んでいく……」
エルメス「…………」
GM「もういいよ。このラウンドで、イェルザム、自殺します」
エルメス「えっ?」
GM「『すいません、クリーナ様。私が死んでも、どうか……どうかシルファ様をお助けください……』」
エルメス「あっ、ちょっと!」
エリック「…………」
GM「ザシュッ! ダガーで喉を刺して死にました」
エルメス「…………」
エリック「やったな、エルメス。肩をポンと叩く」
エルメス「エリックさん……うっ……ううぅ……」
エリック「泣くな、エルメス。仕方なかったんだ。出目が良かったんだから(笑)」
エルメス「うわーーーーっ!」
エリック「よしよし。ミンフのことは気になるが、しばらく、抱きしめていよう」
GM「はいよ」

 しかし、やられた。戦闘前の心配はどこへやら。
 まあ、長いことTRPGやってると、こういうことも稀にあります。
 GMとしては、密かに捕虜とか残らなくて嬉しかったりね(笑)。

◆ 心はどこへ? ◆

GM「状況は?」
エルメス「まだ放心状態。あまりにも多くの血を見すぎた」
エリック「じゃあ、とりあえずエルメスを置いて、扉を開ける」
GM「そうすると、中は特に何もない空間が広がっていて、3人の女性が横たわっている」
エリック「様子は?」
GM「行ってみて」
エリック「ミンフに近付く。ミンフ、俺だ。覚えてるか? エリックだ」
GM「するとミンフは、顔を上げて君を見るが、その目には生気が感じられない。小さく呟く。『エリック……』」
エリック「身体の状態は? 乱暴された跡があるとか」
GM「ないね。潔癖だよ」
エリック「3人とも同じ状況?」
GM「そうだね」
エリック「とりあえず、話せるみたいだから話そう。ミンフ、ここで何があった? 何をされた?」
GM「『エリック……私……。ああ……エリックなんだね……?』」
エリック「ミンフ……」
GM「『エリック……エリック……ログラムは……?』」
エリック「ログラムは変わっていない。お前の帰りを待ってるぞ」
GM「『ログラム……ログラム……』」
エリック「GM、どういうことかわかりそう?」
GM「ソーサラー+知力で振って」
エリック「無難に12」
GM「12という数字は、それほど高い数字じゃないよ。現にダイス目も期待値割ってるだろ?」
エリック「まあ」
GM「じゃあ、魔力は感じなかった。ただ、この“感じなかった”は、失敗じゃなくて、魔力がかかっていないことを察したという“感じなかった”だ」
エリック「どういうことだろう」
GM「自分で考えて」
エリック「エルメス……は、いないか」
エルメス「エリック……。ぼんやりした表情で立ち尽くしている」
エリック「エルメス? ミンフの手を取ったまま、訝しげに見上げる」
エルメス「なんでこんなことに……」
エリック「……さぁな」
エルメス「なんでこんなことするんだろうね……あの人たち……」
エリック「エルメス?」
エルメス「ひどいよね……。だから、死んじゃったんだよね……。私たちは、何も悪くないよね……」
エリック「…………。これはプレイヤー発言。う〜む。状況は最悪か……」
エルメス「プレイヤー発言。エルメス、かなりまいってるにゅ」
エリック「頑張るよ。エルメス。それは違う」
エルメス「どうして……? 私たちが悪いの?」
エリック「誰も悪くない」
エルメス「どうして? あの人たちは、ミンフさんたちを、こんな目に遭わせたんだよ」
エリック「うぅ。フィーリアと話してるみたいだ。『ものを壊すの、楽しいよね』とか言ってくれた方がよほどましだ」
GM「(苦笑)」
エリック「エルメス。みんな、自分の信念で生きてるんだ。だから、誰も悪くないんだ」
エルメス「自分の信念で生きれば、悪いことをしてもいいの?」
エリック「いや、そうじゃないけど……」
エルメス「エリックさんの言ってること、私、わからない」
エリック「俺にもわかんない」
エルメス「ごめんなさいっ! そう言って走り出す」
エリック「エルメス! 呼び止めるが、行けない。今は肉体的に元気なエルメスよりも、この3人だ。GM、さっきの魔法陣を調べたい」
GM「いいよ」
エリック「(ころころ)なんで4とか出る!? 10」
GM「全然わからん」
エリック「くそっ。他に何かない?」
GM「わけわからん儀式道具がたくさんあるけど、全部魔法陣に付随するものだから、君にはわからなかった」
エリック「しょうがない。とりあえずミンフたちを一人ずつ外に運んで、街の警備隊に連絡する。ゲマを飛ばす。もう起きただろう」
GM「わかったよ。じゃあ、時間飛ばすね」
エリック「頼みます」

◆ 旅立ち ◆

GM「一晩明けた。街の魔術師ギルドの者達が調べた結果、あの魔法陣がなんらかの転送装置だということはわかった」
エリック「転送装置か」
GM「それから、ミンフたちは病院に運ばれたが、状況は変わっていない。ギルドの者によると、やはり魔法はかかっていないらしい。それよりも、“心”を失くした感じ」
エリック「それは俺も思った。ログラムは?」
GM「ミンフについている」
エリック「話そう。兄さん……」
GM「『エリック……』一応、ミンフが死んでなかっただけでも良かったと思っているらしい。寂しそうだけど、安堵の表情を浮かべている」
エリック「兄さん、ミンフは俺が必ず助ける。だから、兄さんはミンフの側にいてやってくれ」
GM「『エリック、いいのか?』」
エリック「言ったはずだ。ミンフは俺にとっても大切な友人だと。だから、兄さんはずっとミンフについていろ。いつ起きてもいいように。そして、気がついたら、まず最初に兄さんの顔を見られるように」
GM「『エリック……』っていうか、今の台詞、俺が泣けてきた」
エリック「私も……」
エルメス「にゅ……」
エリック「で、エルメスは?」
エルメス「ここにはいない。昨日も帰ってない」
エリック「心配だ……」
GM「他には?」
エリック「クリーナという名前と、シルファという名前を調べる」
GM「じゃあ、シーフギルドね」
エリック「シドラン」
GM「『エリックか。話は聞いている。旅立つのか?』」
エリック「ああ。その前に、クリーナという名前の者を知らないか? あと、シルファと」
GM「『クリーナとシルファか。どっちも多すぎるな』」
エリック「有名どこは?(笑)」
GM「『クリーナには二人覚えがある。一人はオランの騎士団の部隊長だった男だが、これはまだ健在で、今でも騎士団長をやっている。事件と関係しているとは思えない』」
エリック「まあ、そうだろうな」
GM「『もう一人は、アノスの女神だ』」
エリック「女神?」
GM「『そうだ。アノスの修道院にいた若い女性で、女神と慕われていた。まだ20前だったと思うが、こいつが1年前に失踪している』」
エリック「それかな……」
GM「『それくらいだ。生憎、シルファは知らない』」
エリック「いや、ありがとう。助かった」
GM「『エリック』」
エリック「なんだ?」
GM「『生きて戻れ。酒を呑む約束を忘れるなよ』」
エリック「当たり前だ」
GM「『よし、行ってこい!』」
エリック「おう。そしてギルドを出る」
GM「エルメスのことは?」
エリック「そっとしておくよ。まだ20歳前の女の子には、あれはきつすぎたんだろう……。これ以上、血を見せたくない」
GM「エルメスは?」
エルメス「エリックが旅立つところを捕まえる」
GM「じゃあ、エリックは荷造りをして、その日のうちに旅立とう」
エリック「一人、か……」
エルメス「エリック。街門を少し出たところで呼びかける」
エリック「エルメスか……。どこにいた?」
エルメス「それには答えない。昨日はごめんなさい、エリック」
エリック「いや、構わない」
エルメス「これからどうするの?」
エリック「俺はミンフの“心”を取り返すために旅に出る。当面はアノスという街が目標だ」
エルメス「アノス? どこですか?」
エリック「オランからさらに西に行ったところにある街らしい。俺も行ったことがない」
エルメス「……世界は広いですね」
エリック「ああ……」
エルメス「…………」
エリック「エルメス。君はどうする?」
エルメス「貴方はどうしてほしいですか?」
エリック「エルメス……」
エルメス「…………」
エリック「一緒に行こう」
エルメス「エリック……」
エリック「世界は広いぞ。悲しいことや苦しいこと、辛いこと、理不尽なこと、別れと死。嫌なこともたくさんあるけど、感謝されたり、歌ったり、笑ったり、綺麗な景色を見たり、誰かと出会ったり、心の温かみに触れたり。いいこともたくさんある。旅はそうして、プラスとマイナスに大きく揺れながら、人を大きくしてくれる」
エルメス「エリック……さん……」
エリック「来い、エルメス。俺はお前に側にいてほしい」
エルメス「はい! ついていきます。私も貴方の側にいたいです!」
エリック「今度こそキスするぞ! “危険感知”はいいな?」
GM「どうぞどうぞ」
エリック「エルメス……」
エルメス「エリックさん……」
エリック「そうして二人は、しばらく抱きしめ合ったまま、ずっと唇を交わしていた……」
GM「とさ」

◆ 反省 ◆

水原(GM)「今回は文句なしです。経験点、1,300点ね」
雪島(エリック)「うぃ」
ほずえ(エルメス)「にゅ」
水原「いや、すごいね。君たち、うますぎ」
雪島「女同士だから」
ほずえ「相手が男の人だったら、恥ずかしくてできないよ、きっと」
水原「なるほど」
雪島「今回、敵の強さは?」
水原「うぃ。イェルザム、ソーサラー3。ウェレン、シャーマン2。少年、シーフ2。男A、ファイター1はバッソ。男B、ファイター1はグレート・ソード」
雪島「出目が良すぎたね、こっちの」
水原「まあ、そんな日もある」
ほずえ「本当に悲しかったよ」
雪島「GMに同情はいらないよ」
水原「そうそう」
ほずえ「そっか……」
水原「いや、でも俺も本当に悲しかったぞ。ウェレンが死んだ後の、男Aの1ゾロ」
雪島「ライトニングがよく回った」
ほずえ「すごかったね。22点とか言ってたよ」
雪島「長いことTRPGやってると、50点台を見るから大丈夫。このキャンペーンでもあるかもね」
水原「俺、最高52点見たことがある。シーフがクリ値マイナス1の武器で、強打はクリ値マイナス1。7以上で回るのをグルグルグルグル」
ほずえ「気持ちよさそう」
雪島「気持ちいいよ」
水原「シナリオはどうだった?」
雪島「平凡だけど、なんか戦闘の手前が、私たち、いつも妙だよね」
ほずえ「今回もすごいことになってた」
水原「あんたら、面白すぎだよ」
雪島「情報収集は、いつもながらつまんないね。コンベンションとかでも、どんなシナリオやっても、まあ大体あんな感じ」
ほずえ「私は初めてだったから、それなりに楽しかったよ」
雪島「今回、ほずえちゃん、ものすごく上手に演じてたね」
ほずえ「うん。開始前にお兄ちゃんに言われたから」
雪島「何を?」
水原「それはリプレイを読んでくれ」
雪島「了解」
ほずえ「次はどこだにゅ?」
水原「ロマール。レムリアと並んで、俺の好きな街」
雪島「いつアノスに着くのかしら?」
水原「別にアノスに行くとは限らないよ。自分で行ったじゃん。当面の目的地だって」
雪島「まあ、途中で変更になる可能性はあるか」
水原「十分にね」
ほずえ「今回で、二人の仲がぐっと深まったね」
雪島「うん」
水原「単にラブラブじゃ、つまんないから、うまくやってね」
雪島「それはほずえちゃんに頼んでね。私は基本的にエルメスは守るべき、大切な人だから」
ほずえ「うまくやるにゅ。お兄ちゃんと相談してもいいんだよね? シナリオのこととか」
水原「いいよ。エルメスメインのシナリオ作るよ」
ほずえ「わ〜い」
雪島「うぃっす。じゃあ、今日はこれくらいで」
ほずえ「はい」
水原「じゃあ、お疲れさま」
雪島「お疲れ様です」
ほずえ「お疲れ〜」


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