■ 偶然の出会い

 シエナからフィレンツェは距離が短いこともあり、あまり覚えていない。寝ていたかもしれない。
 フィレンツェでは、このツアーで唯一の夕食があるのだが、到着からそれまでの1、2時間は自由行動となる。その際、興味がある人は是非ドゥオモに登っておいた方がいいとコンダクターのIsabellaさん。何故かというと、翌日は日曜日で恐らく午前中は入ることができず、夜はピサへ行った後になるから恐らくもう閉まっているだろうとのこと。つまり、入るなら今日今からしかないというわけである。
 さらに、ツアー客情報で、確か17時45分だかに閉まるという話を聞き、何組かはホテルに到着するや否や町へ繰り出した。もちろん自分もそうした。少し道に迷いながら(地下に潜ってしまったために道を見失った)、なんとか到着。これがドゥオモ。


 いやー、これが出てきたときも、シエナ同様に興奮した。それにしてもこのドゥオモ、広々とした場所に建っているわけではないので、全景を写真に収めるのがひどく難しい。
 で、本題だが、ドゥオモ到着が確か17時くらい。しかし、間に合わなかった。恐らく、ガイドブックに載っていたのは通常の時間であり、サマータイムのせいで1時間早く閉まってしまったのではなかろうか。実際には1時間早く開いているから、開いている時間は同じなのだが、とにかく間に合わなかった。翌日の話になるが、結局このドゥオモにはこの旅行では入ることができなかった。今回のイタリア旅行で一番の無念はこれ。しかし、逆に言うと一番の無念がこの程度なので、いい旅だったと言える。土砂降りだったとか、怪我をしたとか、スリに遭ったとか、斜塔が倒れていたとか、そういうことはなかったのだから。
 とにかく高いところからフィレンツェを見るべく、事前にIsabellaさんから聞いていた、すぐ隣のジョットの鐘楼に入る。階段をひたすら登り、ようやく辿り着いた展望台(?)から撮影したのがこの写真。


 他にも360度様々な角度からたくさんの写真を撮ったが、とりあえず割愛。今回の旅行で登ったありとあらゆる建物からの景色の中で、ここが一番良かった。次がベニス。
 そして、ここでJさん(仮名・日本人・男性)に遭ったのだが、これは本当にお導きとしか思えない偶然だった。
 実はここで、景色を背景に写真を撮りたいと思い、私は後からやってきた他のツアー客の人に写真をお願いした。で、撮ってもらったのだが、まずそれをその場で確認したのが、今回の旅行では珍しい行為だった。というのは、充電器を持っていかなかったので、バッテリーの消費を考えて、撮影した写真は旅行中は撮影後の1秒の確認画面以外ではほとんど見ていなかった。誰かにお願いした写真にしても、失敗していても撮り直してもらうのも面倒だと考え、出来にはこだわっていなかった。
 それを何故か確認し、しかも人物が大きすぎていまいちだと感じた。この後ベニスで撮ってもらった写真もいまいちだったのだが、それは撮り直しを考えなかった。しかしここでは何故かもう一枚欲しくなった。と、顔を上げると、観光客と思われるアジア系の人が恐らく他人と思われる人の写真を頼まれて撮っていた。私はこの人に写真をお願いしようと思った。
 通常、海外旅行では知らない人に写真をお願いしない。というのは、そのままカメラを持って行かれたりするからだ。だから、この「知らない人にお願いする」というのはかなりのイレギュラーなことだった。「Excuse me, would you please take my picture?」だかなんだか言ってお願いしたら、この人が日本人だった。日に焼けていたのでわからなかったのだが、「日本人ですよね?」と言われて安心した。
 で、話していたらJさん、もうイタリアを3ヶ月も旅行しているらしい。脱サラして、日本に戻ったら自分の店を開くのだそうだ。そのための旅行らしい。そんな話をしていたら、セレブな二人の内の一人がやってきて、会話に加わった。これもまたその後に繋がる大きなファクターだった。
 そこでJさんと長々と話をし、最後にmixiのアカウントを交換して塔を後にした。本当に偶然が重なった出会いだった。


■ 奇跡の再会

 さて夕食だが、パスタは美味しかった。


 それで期待したのだが、次の牛肉は味は良かったが、骨や筋や脂が多くて今ひとつ。ティラミスもでかいだけであまり洗練された味ではなかった。まあ、日本人の舌に合うか合わないかの問題だけだと思うが、ほとんどの人が牛肉とティラミスを残していた。
 そして店を出た時、奇跡が起こった。通りの向こう側で、なんとJさんが手を振っているではないか!
 そんなに人通りの多い場所に建っていた店でもないし、時間だってあれからかなり経っている。しかも店から出て歩き始めるまでのそのわずかなタイミングに、Jさんもそこを通りがかったというのは、本当に奇跡としか思えない。
 再会した後、せっかくだからどこかに入りましょうと提案をしたのは、ジョットの鐘楼で一緒に話をしていたセレブな二人の内のお一人。基本的に人付き合いが苦手な上、かなり疲れ切っていた自分一人だったら、間違いなくこの提案はしていなかった。そして、鐘楼での出会いは奇跡的だったが、日本に帰ってから付き合いが継続するほどの仲にはなっていなかったと思う。
 Jさんの案内で、3人で適当なPizzeriaに入り、結局23時くらいまで話をしたり、ドゥオモの外観を見たりしていた。仲も深まった。
 翌日私はかなり長いことフィレンツェの市街を歩いていたが、ついぞJさんとは再会しなかった。この再会がいかに奇跡的だったかを思う。


 ホテルに戻ったらもう24時近くて、風呂に入って足をほぐしてすぐに寝た。
 この夜の出会いは素敵なものだったが、旅行はまだまだ前半なのである。その日の疲れはその日の内にとらなければ。