『 Guilty 』 |
第5章 高町家の人々 1 第14管理外世界の調査を終え、フェイトがリンディになのはに会いたい希望を熱心に訴えている頃、高町家では対処のし難い問題が発生していた。皆がいつも通り明るく振る舞っているのだが、敢えて核心には触れずに、見て見ぬ振りをしている白々しさと、いつか誰かがそれに触れてしまうのではないかという緊迫感が家中の人間から漂っている。 そもそもの問題は、晶の何気ない一言から始まった。 「ジュエルシードって、すごい魔力があるんだろ? それを使って、ユーノの魔法でレンの病気を治せないのか?」 八束神社での戦闘の後、ユーノが皆の怪我を魔法で治療した。晶はそれに素直に感心すると同時に、神社への道すがらなのはから聞いたジュエルシードの話を思い出して、ひょっとしたらレンの病気を治せやしないかと思い付きで言っただけだった。 それに、意識を取り戻してすっかり元気になったなのはが同調した。 「あっ、それいいね。ユーノ君、出来ないかな?」 なのはは先の事件で、ジュエルシードの悪用は罪になると知っていたが、人助けのために使用するのは罪にならないと思っていた。それに、自分のせいでレンの病気を重くしてしまった罪悪感から、もしも魔法でレンを治せるならと、心から晶の思い付きに喜んだ。 那美を含む3人の期待の眼差しに、ユーノは困った顔になった。正確に言うと、ロストロギアは悪用に限らず、個人的な使用全般を禁じられている。そもそも悪用と善用など主観的なものでしかなく、あのプレシアとてジュエルシードを悪用しているとは考えていなかっただろう。 出来るか否かは別にして、レンの治療に使用するのも、やはり御法度だった。ロストロギアは未知の部分が多く、使用によってどういう影響が出るかわからないからだ。 しかし、レンの病気が悪化したのは本を正せばスクライア一族の失態によるものだし、この期待の眼差しの前にはっきり拒否できるほどユーノは気が強くなかった。 試すだけ試して、まあ失敗に終わればなのはも納得してくれるだろう。 ユーノはそう思いながら、ジュエルシードを使ってレンの治療をしてみた。そして、これが中途半端に成功してしまった。 レンの病気は完治しなかった。しかし、ずっとジュエルシードを身に付けている状態であれば、そこから流れる魔力によって発作を抑えられることがわかった。 話は一気にややこしくなった。 まずなのはが、このジュエルシードをくれないかと切り出した。その時にはユーノからロストロギアの個人的な利用は禁止されていることは聞いていたが、このジュエルシードは時空管理局も存在を把握していないし、今のところ他に影響も与えていない。1つくらいレンが持っていても問題はないのではないかと訴えた。 これにユーノは驚いた。ユーノは、なのはという女の子は正義感が強く、いくらそれによって自分が得をしようとも、間違ったことは決してしないと思っていた。そう指摘すると、なのはは「別にそんなことないよ」と言って、後ろめたそうに視線を逸らせた。なのはが相手の目を見ずに、言い訳めいたことを口走った。ユーノは愕然となって次の言葉が繋げられなかった。 ユーノはユーノで、そう言われてなお、なのはを説得しようと思うほどの主義も信念もなかった。それに、体を動かして本当に嬉しそうにしているレンを見ていたら、これでいいのだとも思い始めた。 けれど、手ぶらで帰るわけにはいかない。どうしたものかと高町家で悩んでいると、アースラのクロノから「何をしているんだ」と連絡が来た。クロノがユーノの行動を不審に思い、高町家に意識を向けたら、間違いなくジュエルシードのことを知られる。そうなったら、自分もなのはも牢の中だと思った瞬間、ユーノはその時隣にいたなのはを抱きしめ、思い付きで叫んだ。 「僕はなのはが好きだから帰りたくないんだ!」 なのははひどく驚いたが、すぐに意味があるのだと考え、否定せずにおいた。クロノは釈然としない顔をしながらも、「そういうことなら……」と言って通信を切った。 ユーノは慌ててなのはに弁明した。なのはとしても、ユーノが自分のことを好きだとは微塵も思っていなかったので、すぐに意図は理解できたものの、先ほどのユーノの発言がアースラ中に広がるのは明白だし、かと言って本当のことも言えないしで、頭を抱えた。 ユーノはしばらく高町家に滞在することになった。フェレットだと思っていたのが、実は普通の男の子だったという事実に、桃子を始め高町家の女性陣は難しい顔をしたが、何が問題かは敢えて語らず、フェレットの姿でいる限り、今まで通りなのはの部屋で寝起きして良いことになった。 しかし、なのはを女の子だと認識しているユーノは、桃子の話の意味を理解して、これまで通りなるべくなのはの着替えなどは見ないようにしていたが、そもそも異性というものをまったく意識していないなのはは、楽しそうにフェレット姿のユーノをベッドに入れて、抱きながら寝る始末だった。ユーノはいつか知られて焼き殺されるのではないかとハラハラする毎日だった。 レンはなのはとフェイトのジュエルシードの話は聞いたものの、それと現状は別の話だと思っていたし、悪いことをしているという意識はなかったので、素直に体が動くことを喜んでいた。晶も同様に、自分の思い付きでレンが元気になったことに喜び、レンに「感謝しろよ」と言ってはケンカをしていた。レンと全力でケンカが出来ることが、晶には何より嬉しかった。 桃子は具体的なことは何も知らなかったが、ただ娘が後ろめたい気持ちでいることは察していた。けれど、口を出すことには慎重になっていた。なのはが毎晩出歩くようになった時も、リンディを連れて来た時も、質問も反対もしなかった。ぎりぎりまで子供の自主性に任せ、どうしても必要な時にだけ手を貸す。これまで一貫してそうしてきた。 今回は、そのぎりぎりのラインがよくわからずに困っていた。もうじき夏休みが終わる。ユーノのこともこのままというわけにはいかない。新学期が始まるまでには、どこかに落着させたい。 ひとまず、明後日恭也と美由希が帰ってくるので、それを待って二人に任せてみようと考えた。それまでは、なのはに大きな問題が発生しないよう目を光らせて見張り、見守る。フィアッセとも相談して、そうすることにした。 そうして、誰もがジュエルシードのことにもユーノのことにも口を出さなくなり、気まずい空気が漂い始めた。 リンディから許可をもらい、2泊3日の休みをもらったフェイトがアルフとともに高町家を訪れたのは、ちょうどそんな時だった。 |
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