『 Guilty 』 |
あとがき なんとか完結まで漕ぎ着けました。3ヶ月に渡る連載にお付き合いくださった方も、一気にお読みくださった方も、ありがとうございました。 あとがきということで、『魔法少女リリカルなのは』の話や、この小説の話をだらだら書いてみようかなと思います。小説の余韻に浸りたい方は、一旦閉じて、後からお読みいただくと良いかもしれません。 『魔法少女リリカルなのは』という作品は、TVアニメが始まった当初から存在は知っていたのですが、敢えて見ることはしませんでした。自分は『とらいあんぐるハート』を『1』からずっとプレイしていた人間であり、ファンだったので、その派生作品である──その派生作品でしかないアニメを、本編を知らない人たちが見て、知った顔で語るのが嫌でしょうがなかったのです。 結局そのまま5年、この作品群に一切触れることなく、自分もゲームやアニメ、同人から遠ざかり、一切交わるはずのない生活を送っていたのですが、2010年2月、何かをきっかけに映画の存在を知り、これに観るに至りました。その頃にはもう、当時の葛藤もなく、素直な気持ちで鑑賞した結果、とてもはまってこの作品を書こうと思ったのであります。 小説を書くにあたり、まえがきに書いた通り、『とらいあんぐるハート3』を知っている自分だからこそ書ける作品にしようと思いました。ところが、ぶっちゃけ『とらいあんぐるハート3』の内容をまったく覚えておらず、これはプレイするしかないと思って、なんとか捨てずに取ってあった『とらいあんぐるハート1・2・3 DVD EDITION』をインストール。『3』をプレイし始めると同時に、遥か昔に手放した『ビジュアルファンブック』をヤフオクで買い直すなど、資料を集めました。 レン、那美、晶、美由希をプレイ。本当は忍もプレイして小説にも登場させ、すずかと絡ませたい思いもあったのですが、とにかく熱意が冷める前に小説を書き始めたく、忍とフィアッセは絡ませるのを断念して、執筆を開始しました。 執筆は難航しました。208枚を書き切るのに3ヶ月。オリジナルの『魔法師ミラン』はひと月弱で3作品計400枚、『少女たちの剣』もひと月ちょっとで254枚書いていますから、この3ヶ月という月日は自分でも驚くほど長いです。 もちろん、『魔法師ミラン』を書いていた頃と比べて、執筆にかけられる時間が大幅に減少していることは否めませんが、一番の理由はスラスラ書けるほどキャラクターを自分の中で消化し切れていなかったことだと思います。 二次創作で大切なことは、いかにキャラクターを原作に近い形で描くか──例えば言動であったり、仕種であったり、信念であったり、そういうものをしっかり自分の中に落とし込むことで、読者が違和感なく、あたかも本物の『魔法少女リリカルなのは』の世界の作品なのだと思えるような小説が書けます。 その時間が明らかに不足していました。初めて映画でなのはやフェイトを知ってから10日後には小説を書き始めていたので、消化し切れませんでした。もちろん最後にはそれなりに落とし込むことができましたが、結果それが3ヶ月という長丁場になったのだと思います。 それにしても、こういう一気に火がついた作品は、瞬時に冷めることも往々にしてあるのですが、よくぞ3ヶ月も熱意が持続したと思います。ひとえに、キャラクターの魅力でしょう。またそれに加えて、今回最後まで書き切れたのは、事前にしっかりとプロットを立てて書いたおかげもあります。 ここ何年と、小説はノンプロット──少なくとも頭の中でしか構成せず、プロットを文章にしたり、事前に辻褄を考えるようなことをせずに書いていたのですが、今回はTwitterを使ってプロットを書く(思い付いたネタをその場でどんどん記録する)という、新しい試みを行いました。このつぶやきプロットはこのあとがきの次のページに載せます。 そんなこんなで書き上がった小説『Guilty』。実に5年半ぶりに200枚を超える作品となったこの小説を、自分の覚え書きも兼ねて振り返ってみたいと思います。 ★第1章 ユーノ・スクライア 先ほども書きましたが、二次創作小説で大切なのは、なるべく原作の雰囲気を大切にし、読者が違和感なく楽しめることだと思います。よって、なるべくオリジナルキャラは出さないようにし、せいぜい出しても敵キャラにとどめ、主役にはしません。『To Heart Fantasy』くらい思い切った冒険をした小説なら別ですが、この『Guilty』はあくまで原作の延長上に、後日談もしくはサイドストーリーとして位置付けた小説のため、できる限りオリジナルキャラは出さないようにしました。その結果、本作品唯一のオリジナルキャラであるファルオンは、このプロローグ的な章に名前と声だけ登場して終わりました。 ★第2章 鳳蓮飛 1節 レンが一緒に寝ようとなのはを誘っているシーン、『とらいあんぐるハート3』を知らない人には、なんとなくご都合主義的な印象があると思いますが、実際にゲーム中でなのはがレンの部屋にお泊まりしているシーンがあって、その設定を使っています。 ゲームを知らない人への説明と言うと、章の始めの恭也と美由希の稲神山での特訓の話ですが、そもそも『とらいあんぐるハート3』というゲームはその特訓シーンから始まります。レンと晶のケンカとか、基本的にはすべてゲームの設定や雰囲気を踏襲していますから、この小説の『とらいあんぐるハート3』の部分や雰囲気が気に入った人は、ゲームをプレイしてみることをお勧めします。手に入ればですが。 ★第2章 鳳蓮飛 2節 今回の小説は、実は自分にしては珍しく主体をころころ変えています。例えば一番最近書いた小説『夜明けの刻2』は、文体は三人称ですが、視点はエリアという少女に固定されています。自分の小説は大半がそうなっているし、視点を変えたとしても、章や節を変えるか、空行を挟んでいます。 今回、節の途中で一切空行を使わないという縛りを設けた上で、主体を変えるということをしています。しかもできるだけ違和感なく、読んでいていつの間にか視点が変わっているようなものを目指しました。例えばこの節も、なのはとレンの視点が入り交じって構成されています。 ★第3章 神咲那美 1節 この小説でミスったなと思ったことの一つが、章のタイトルの付け方です。ほとんどの場合、小説を書き終えてからアップするのですが、この小説は執筆と同時に連載を進めました。その結果、なんとなく暫定的に人の名前を付けてみた章のタイトルが、案外その人物に関する話でなくなったりするも、後から変えることもできず、この章も那美と言う割には那美の出番の少ない、微妙な感じになってしまいました。 ★第3章 神咲那美 2節 この小説で一番短い節。本当はこの次の3節とセットだったのですが、先ほど書いた「空行を入れない縛り」があり、どうしても上手く繋がらなかったので節を分けました。 空行の縛りと、マルチアングルの挑戦を行うため、今回いつもは意識している「節の分量を整える」という縛りは捨てました。例えば『ウィサン、悪夢の日』は、すべての節が100行〜120行になっています。『Prisoners』はもっときっちりと、ほぼ100行に統一してあります。ここ10年弱の小説はほとんどすべてそうなっています。 色々自分の中に制約を設けたり挑戦したりすることで、文章力が上がっていけばと思います。 ★第3章 神咲那美 3節 なのはがあっさり負けるというシーンを入れたかったので、ありがちながらマホカンタを使用してなのはにやられてもらいました。ユーノだけでなく、恐らく読者の皆さんもなのはが出てきたからもう安心、と思われたでしょうから、その期待を裏切るとともに、晶と那美、久遠ら『とらいあんぐるハート3』メンバーの活躍の場を作りました。 ちなみに最後の「蝉は鳴き続けていた」の一行は、さだまさしの『広島の空』より拝借。 ★第4章 フェイト・テスタロッサ 1節 キャラをいかにそのキャラらしく描くか、ということを何度か書いています。『A's』でフェイトが自分のことを「使い魔でも人間でもない擬似生命」だと考えている、あるいは自覚していることがわかるシーンがあり、それをこの小説のフェイトの根幹に据えています。もっとも、アニメでは「そう思っている」ということがわかるだけで、それを気にしていたり、嫌がっているかは不明ですが、とりあえず自分の特殊な生い立ちを気にしているという裏付けが取れただけでも、自分の考えていたフェイトと食い違わなくて良かったと思ったものです。 そういえばアニメの中で、フェイトが自分のことを「アリシア」と呼ばれて違和感を覚えるシーンがありますが、たぶん本当は最初に「フェイト」と呼ばれた時に違和感があったのだと思います。いつの間にか虎である自分を普通だと思うようになった李徴のように、呼ばれる内に「アリシア」の方に違和感が出てきたのでしょう。という親切解釈。 ★第4章 フェイト・テスタロッサ 2節 こういう極端な世界は『キノの旅』っぽくて好きです。 この節に登場する老婆の思想は、自分の価値観そのものです。人生を満喫し、死にたいタイミングで楽に死にたい。小説に書いた薬が早く開発されて、市販されないかと思うのですが、せめて自分にしか効かないようにならないと、市販はされないと思います。 ★第4章 フェイト・テスタロッサ 3節 『A's』の中で、フェイトが強い意志で自分を固めると周りの言葉が入ってこないということを言っています。基本的にフェイトという女の子は、素直で一途ないい子なのですが、知識が極端に少なく偏っているから、周囲の言葉一つで善にも悪にも突っ走ってしまう危なっかしさがあります。劇場版のパンフレットで、水樹奈々さんもそんなようなことを言っていますが、良くも悪くも真っ直ぐなのがフェイトの特徴だと思います。 この小説では、そんなフェイトの真っ直ぐな性質を敢えて極端に描き、妙な論理武装とともに間違った方向に暴走させています。ちょうどアニメを見ながら、視聴者がフェイトに「頼むからそっち方向に頑張るのはやめてくれ」と思ったように、この小説も「そっちに行くな」と思いながら読んでもらえればいいなと思って書きました。 ★第5章 高町家の人々 1節 この章から(正確には1つ前の章から)、この小説はなのはとフェイトの二人の物語になっていきます。『魔法少女リリカルなのは』というアニメは、例えば劇場版の公式サイトでキャラクターのページを見ても、なのはとフェイトの二人しか載っていないような作品なので、『リリカルなのは』の二次創作としてはそれで悪くないのですが、コンセプトにあった『とらいあんぐるハート3』と融合するという観点では失敗だったと思います。これがこの小説でミスったと思う2つ目。 結局『二人、友情をかざして』を書いた9年前ならともかく、今となってはそこまで『とらハ3』のキャラに愛情を注げなかった──あくまで書きたかったのはなのはとフェイトだったということです。 ★第5章 高町家の人々 2節 章タイトルは苦し紛れに「高町家の人々」などと付けましたが、完全にフェイトとアルフ、なのはとユーノの物語です。小説を書く時、あまりこの時この人はどう考えて行動しているだろうと考えないのですが(←考えるべきです)、この小説では常にフェイトは、なのはは、アルフは、ユーノは何を思っているかを意識して書きました。 ★第5章 高町家の人々 3節 4章でもそうだったのですが、フェイトとアルフの考えがことごとく食い違っているのが、個人的に好きです。この節の終わり方(最後の1行)は、この小説のすべての節の終わり方の中で一番好きです。小説全体の締め方もそうですが、各章・節の終わり方も気を遣います。この節と、4−3、6−1の終わり方が気に入っています。 たくさんの料理が出てきますが、作者は料理はまったくダメです。Yahoo!グルメのレシピから適当に持ってきました。レンと晶はゲームの中でも料理の腕を競い合っており、その雰囲気を出してみました。 そういえばゲームの設定というと、なのはがDVDを編集しておりますが、なのはがAV機器に強いというのは、『とらいあんぐるハート3』内の基本設定です。確かアニメではそんなシーンや言及はなかったと記憶しているので、アニメしか知らない人には違和感があったかもしれませんが、作中で「おや?」と思う設定は、ほとんどすべてゲーム上の設定です。二次創作では、自分のオリジナル設定は極力入れないポリシーです。 ★第5章 高町家の人々 4節 お風呂の描写は、レンのエッチシーンの画像を参考に書いております。まあ、それはともかく、この節はただひたすらなのはとフェイトがベタベタする内容です。 『リリカルなのは』の二次創作をするにあたり、書きたいシーンが2つあって、1つが二人がいちゃいちゃしているシーン。もう1つが二人の戦闘シーンです。これはその前者。そしていちゃいちゃシーンが濃厚であればあるほど、後の戦闘シーンが生きるかなと思い、趣味全開で濃密に仕上げました。 フェイトがなのはにキスをしていますが、アニメを見ている最中、今にも二人がキスをしそうなシーンが何度もあり、そのたびに決してキスをしない二人にもどかしい思いをしていたので、自己満足のためにキスをしてもらいました。 この節は全体的に好みが分かれるところだと思いますが、まあ作者の趣味ということでお許しください。 ちなみに髪の毛を洗う話は、サウンドステージから持ってきたものです。聴いていて妙に萌えたので、小説でも使ってみました。 ★第6章 高町なのは 1節 小田和正の『風の坂道』という曲に、「こうしてこの時が続けばと願ってから、人生はやがてたしかに終わると感じた」という歌詞があるのですが、最後の方に少しそんなような文を入れてみました。 この章も主体をころころ変えています。かなり苦労して書いたのですが、いかがだったでしょうか。違和感なく読んでいただけたならと思います。 二人が事ある毎に抱きしめ合っていますが、この一点だけは原作にはない作者の趣味です。原作のアニメでは、そんなシーンは別れのシーンと『A's』での再会シーンくらいでしか見ていません。 ★第6章 高町なのは 2節 戦闘シーンを書くのが好きです。特に『とらいあんぐるハート3』というゲームは、登場人物の大半がなんらかの武道をしており、戦いが作品の根底にあります。『魔法少女リリカルなのは』もベースは戦闘なので、彼ら皆が自分たちの得意分野でどんぱち戦うシーンを描くのは、二次創作作家の至福ですね。 ★第6章 高町なのは 3節 フェイト大暴走の節。本当は次の4節と続けるつもりだったのですが、長くなったので分けました。 ★第6章 高町なのは 4節 そしてなのはとフェイトの戦闘シーン。この『Guilty』という小説は、たぶんこのシーンが書きたかったのだと思います。書いていてとにかく楽しかったです。 自分の部屋に現存する数少ない同人誌に、G.G.G.ファクトリーさんの『GALS EVOLUTION』という公道バトル本があるのですが、バトルの中で前と後ろがころころ入れ替わります。抜いたり抜かれたり、優位に立ったり劣勢になったりするわけです。 自分の書く戦闘シーンは割と一方的なことが多いので、今回は『GALS EVOLUTION』のバトルを意識しながら、なのはとフェイトの優勢・劣勢をがんがん入れ替えました。ちょうど『FIRE EMBLEM』で、殴った後殴り返されるみたいな感覚。 戦いの最中に交わしている言葉も、全体的に気合いを入れています。特に、「わたしは、1回ケンカしたくらいで壊れるような、そんな薄っぺらい友達になったつもりはないんだけど」という台詞は、2月21日、まだこの小説を書き始める前から使うことを決めていた台詞で、この小説のテーマの一つでもあります。 どうこの台詞に持っていくか。ここまでのすべてのシーンは、この戦闘・この台詞のためにあったと言っても過言ではありません。 ★エピローグ どうまとめるか、ということをさんざん悩んだ末、結局フェイトで完結させました。第4章以降、『とらハ3』メンバーの影が薄いので、最後はなのはも含めた『とらハ3』組で締めたかったのですが、出来ませんでした。最後まで『とらハ3』の色を出せなかったのは残念ですが、書きたかったのはあくまでフェイトなので、まあいいかなと。 ということで、だらだら書いてきましたあとがきもこれでおしまいにします。最後にプロットを掲載しますので、暇な人は見てみてください。削ったシーンや、小説には出て来ない背景、プロットのままの部分や、プロットと微妙に違う部分など、人によっては楽しめるかもしれません。 最後までお付き合いありがとうございました。 2010年6月15日 水原渉 |
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