いきなりそう言って、私に白い封筒を突き付けてきたの女の子は、私のソフトボール部の後輩で、名前は杉崎加奈って言う。真面目で何事にも一途に打ち込むいい子なんだけど……。
「あの、ね……加奈」
いつものように真剣な瞳でじっと私の目を見つめ続ける加奈に、私はたじろいで、大きく一歩後ずさった。
部活帰りの校門の前。加奈の向こうに真っ赤な夕焼けが広がっていた。
「あ、あのさぁ……」
周りから物珍しげに私たちの様子を伺う野次馬たちの視線を感じる。これはまた明日からしばらく、変な噂が流れそうだ。
キョロキョロと辺りを見回すと、視界の端っこに、里美先輩がお腹を押さえて、必死に笑いを堪えているのが見えた。
もう。助けてよ、先輩……。
「千晴先輩！」
「は、はいっ！」
加奈がさらに一歩踏み出し、私の目の前にその封筒を押し付けてきた。表に大きく「千晴先輩へ」って書いてある。真ん丸の女の子女の子した字だ。
「私じゃダメですか！？」
いや、ダメって言われても……。
「お、落ち着いて、加奈。だって私たち、女同士よ。ダメも何も……」
「そんなこと、関係ありません！」
感極まって、大きな声で加奈。
でも、おおありだって。
「恋は国境をも越えます」
ああもう、わけわかんないよ。とにかくこのままじゃ、この子のペースに乗せられちゃいそう。
私はそっとその封筒を押し返して、はっきりとこう言った。
「あのね、加奈。国境は越えても、性別は越えないの。生憎私にはそういう趣味はないから、他を当たってちょうだいね」
すると加奈は、しばらく呆然と私の目を見つめた後、力なく封筒を持った両手を下ろした。そして、
「先輩、私、ショックです……」
そう絶望的な呟きを洩らす。
「いや、ショックなのは私の方で……」
「う……うう……」
私の言うことを聞きもしないで、加奈は突然ボロボロと大粒の涙を零したかと思うと、
「さようなら、先輩……」
そう言って、夕陽に向かって走っていってしまった。
「あ、あの……」
残された私は、ただただ呆然と立ちすくむばかり。
やがて、
「あはははははははははははっ！ あーはっはっはっはっはっ！」
いきなり横から大きな笑い声がして、私はきっと声の主を睨み付けた。
「もう。何笑ってるんですか？ 里美先輩！」
先輩は、私が怒ってるのなんて（或いは困ってるのすらも）気にもしないで、笑いながら私のところにやって来ると、面白そうに私の頭をぽんぽんと叩いた。
「本っっっっっっっっ当にちいってもてるわね。羨ましいわ」
「うっ……」
私は思わずしゅんとなる。
先輩は「よしよし」なんて言いながら、私の髪の毛を撫でて、
「あーっはははははははははははははははははっ！」
また大きな声で吹き出した。
笑い事じゃない。これでも結構真剣に悩んでるつもりだ。
もう高校２年にもなるというのに、私に寄りついてくるのは同性ばかり。
曰く、
「カッコいい」
「ボーイッシュな感じがステキです」
「日に焼けた肌が逞しくて……」
そりゃ、スポーツ一筋で育ってきたから、筋肉だってそこらの男子より付いてるし、力もあるし、髪の毛も短いから、パッと見た目は男にだって見えるかも知れない。
胸もないし、言葉遣いも乱暴だし……。
ああ、言ってて自分で自信がなくなってきた。
でも、やっぱり私は女なんだから、その、もっと普通の恋がしたいし、男子の友達も欲しいし……。
「はぁ……」
私は溜め息を吐いて、先輩を見上げた。
「ねえ、先輩。私って、やっぱり女としての魅力、ないですか？」
「ん？ そうねぇ……」
先輩は笑うのをやめて、少し考える素振りをした。それから、
「そんなこと、ないんじゃない？」
そう、顔を綻ばせる。
「本当ですか？」
「ええ。ちいって可愛いし、礼儀正しいし、最近の男の子は女の子を見る目がないのねぇ」
なら、いいんだけど。
後輩からの衝撃的な告白からまだ立ち直れない私に、先輩がちょっとだけ意地悪く聞いてきた。
「そいえば、ちい。例の男の子はどうなったの？ 和喜クンだっけ？」
「えっ？ あ、ああ……」
いきなり出てきた名前に、私は慌てふためく。
先輩の言う『和喜クン』っていうのは、私の同級生で、私が密かに憧れてる男の子。男子テニス部の期待の星で、頭も良くてスタイルもいい。そのくせ、ちょっとぼけっとしたところがあって、クラスの女子の中でも狙っている人が私の他にもたくさんいる。
もちろん、その中でも、私は望み薄な方だけど。
「どうなったも何も、どうもなってませんよ。だって、私なんか……」
私がそう自虐的に俯くと、先輩は、
「もう！」
と、ちょっと怒ったように言った。
「ちい、もっと自信持ちなさいよ。最近、ちょっと和喜クンと仲良くなったって言ってたじゃない。大丈夫。想いはいつか伝わるわ」
「そう……だといいんですけど……」
私は苦笑しながら、ちらりと先輩を見上げた。
里美先輩。ソフトボール部のレギュラーなのに、私と違ってすごく綺麗で、女らしい。
シチュエーション的には私が妬みそうな人なんだけど、全然そんなことはなくて、いつも私に優しくて、私の悩みを真剣に聞いてくれる先輩に、私は感謝している。
「ありがとう、先輩……」
そう言おうと思って口を開いた瞬間、
「ねえ、ちい」
先輩が先にそう言って、私はタイミングを逸して先輩を見た。
先輩は真面目な顔から一転、またあの意地悪な笑みを浮かべて私の肩に手を乗せた。
「どう？ そんなに自信がないなら、いっそ女の子に走ってみるってのは」
「せ、先輩！」
な、なんてことを！
私が怒るより早く、先輩は「あはは」と笑って、
「冗談冗談。とにかく頑張んなさいよ、ちい」
言うが早いか、家の方に駆けていってしまった。
「あっ、先輩！」
呼びかけたときはもう遅い。
「むぅ……」
何だか納得がいかなかったけれど、私と先輩はいつもこんな感じ。実はからかわれてるのかな？
いや、実は、じゃなくて、そのままかも。
「あ〜あ。一度でいいから男の子に告白されてみたい」
私はほとんどヤケになってそう言ってから、もうすっかり暗くなった道を歩き始めた。
「ちょっとぉ〜！ 何よ、これは！？」
翌朝、教室に入った私を待っていたのは、黒板にでかでかと書かれた文字だった。
『千晴、１７人斬り達成。おめでとう！』
「誰よ、これ書いたの？ 出てきなさい！」
赤や黄色のチョークでしっかりと飾り付けられたその文字を指差しながら、私が教壇の前で怒鳴ると、みんなはひるむどころかむしろ面白がって私の周りに集まり、
「おめでとう、千晴」
「良かったね。４年前のあの伝説の北上裕子先輩の記録を早くも抜いたのよ」
「すごいぜ、芳岡！」
男子も女子も、よってたかって、もう！
「全然良くないわよ！ 書いた人、消しておいてね」
私はぷんとそっぽを向いて、自分の席に行った。
あっ、ちなみに、いじめられてるわけじゃないからご心配なく。それが証拠に、それを消しに行ったのは同性の仲のいい三人組だった。
ちなみに、その三人組も、みんな昔私に告白した経験あり。
「おはよう」
席に着いた私に、隣の席から男の子の声。実は、本当に偶然なんだけど、隣はあの和喜クンだったりする。
「あっ、おはよう」
私は緊張しながらそう答えて、頬を赤らめた。
だって、大好きな男の子の前であんなこと。
しかし、私の不安は的中してしまって、俯いている私に和喜クンが、
「なあ、芳岡」
と、興味津々に聞いてきた。
「な、何？」
「その、芳岡って、本当に女の子が好きなのか？」
「そ、そんなわけないでしょ！」
思わずいつもの調子で怒鳴ってしまってから、後悔する。
「あっ、そうだよな。ごめんごめん」
ほら。和喜クン、謝ってるし。
もう！ なんでこうなっちゃうのよ〜。
「……ってことがあったんですけど……」
今日もまた部活が終わって、部室で里美先輩に今朝の話をすると、先輩は私が最後まで言うのを聞きもしないで、
「あはははははははははっ！」
と、大声で笑った。
「もう！ だから笑い事じゃないんですってば。ユカなんてあの後、『このままじゃ、誰かに千晴をとられちゃうから、私も早く告白しないと』なんて言ってからかうし。男子は男子でその気もないくせに、『あ〜あ。せっかく芳岡のこと狙ってたのに、レ……じゃなぁ』なんて……」
ごにょごにょと私が口ごもると、先輩はもう一度笑ってから、
「ちいにそんなこと言うなんて、その男の子も、命知らずねぇ」
なんて言いながら、ユニフォームを脱いだ。
「で、その後その子、どうなった」
「ええ。頬を押さえて泣いてました」
私が制服の袖に腕を通しながら答える。
先輩はスカートを穿きながら、呆れたように言った。
「そこですぐ手を出すからいけないのよ。『私、レズじゃないもん！』って、こう媚び媚びっとすればいいんじゃない？」
「だってぇ」
私は口を尖らせる。
「私には無理ですよ〜。それに、今更そんなことをしたら、みんなに不気味がられるのが目に見えてます」
「それもそうね」
うんうんと先輩。
いや、納得されても……。
「でもさ、考えてみるとちい、和喜クン、ひょっとしたらちいに気があるかも知れないわよ」
「えっ？」
突拍子もない先輩の言葉に、私は思わず唖然となる。
「ど、どうしてですか？」
妙にドキドキしながら私は聞き返した。
だって、もしそうなら嬉しいし。
先輩はにっこりと微笑んで、
「ほら、だって和喜クン、たまにうちの部の練習、のぞきに来るし、そうやって自分からちいと話したがったり、ちいのこと知りたがるっていうことは、可能性大じゃない？」
「う〜ん」
そうなのかなぁ。自分ではよくわからない。
それから私と先輩は、お互い何も言わずに部室を出た。
今日は昨日より少し遅くて、もう太陽の姿が見えない。残光が西の空をほのかに照らし出す程度で、東の方はすでに星が瞬いていた。
「ねえ、ちい」
不意に先輩が言って、私は先輩の方を振り返った。
先輩はいつも以上に真面目な顔で私をじっと見つめていたけど、その内、その薄い唇を開いてこう言った。
「ちい、和喜クンに告白してみたら」
「えっ？」
今、何て？
「告白……？ 私が、和喜クンにですか？」
「そう」
私の動揺を余所に、先輩は何事もなく頷いた。
「いいと思うわよ。もしダメでも、ちい、さっぱりした性格してるから、そんなに引きずらないでしょう」
「で、でも……」
私は気まずそうに俯いた。
私の悪い癖。癖っていうか、性格なんだと思うけど、勇気がない。ここぞというときに力が出ない。だから、
「無理です、やっぱり」
そう、言おうとした。けれど、いつものように、先輩が先に口を開いた。
「高校生のうちよ、無茶できるのも」
「えっ？」
先輩は、じっと私の顔を見つめている。
「先輩……」
私はそう呟いてから、そっと先輩に聞いてみた。
「先輩は、恋をしたことありますか？」
うわ〜。恥ずかしい台詞。でも、そういうムードだったのかな？ 先輩は真面目に答えてくれた。
「ええ」
「本当！？」
「失礼ね。当たり前でしょ？」
「あっ、そうですね。ごめんなさい」
慌てて謝る私。
そうだよね。先輩は私と違って、別に女の子にもてるわけでもないし（多少はあるらしいけど）、男の子と恋愛沙汰があってもおかしくない。
失礼なことを言ってしまった。
でも先輩は特に気にするふうもなく、言葉を続ける。
「私も好きな人いるわよ。片思いだけど」
「先輩……」
あっ、ちょっと感動的なシーンっぽい。
ん？
ああ、もう。こんな時に私、何考えてるの！
ぽかぽかぽかと、心の中で自分の頭を叩いていると、先輩はそんな私の心を読んだのか、くすりと笑ってこう言った。
「ちいを見てると、私も頑張らなくちゃって思うわ」
「先輩……」
「だからちい、頑張ってね」
最後はいつもの決まり文句。私も元気に答える。
「はいっ！」
よし。ちょっとだけ勇気が湧いてきた。
私は先輩に感謝しながら、いつもより晴れた心で家に帰った。
ところが翌日、驚くことに、重大な決意を秘めて登校した私に、和喜クンの方から先に声をかけてきた。
「なあ、芳岡」
「な、なぁに？」
ドキドキしながら答える私。いつもよりも和喜クンの顔が眩しく見える。
和喜クンはそんな私の心など知らずに、わずかに裏返った声で言った。
「その、ちょっと話があるんだ。で、昼休みに校舎の裏に来てくれないか？」
「えっ？」
あまりにも唐突な一言。
そ、それってもしかして、つまり、そういうこと？
……かな？
「えっ、あ、うん。もちろん。わ、わかったわ」
しどろもどろになりながら私が答えると、和喜クンは、
「良かった。ありがとう」
とそれだけ言って、私の許から離れていった。
和喜クンが私と話……。
私は嬉しさのあまり、色々と深読みしながら、その日の午前の授業はまったく身に入らなかった。
そして昼休み……。
事は、あまりにも呆気なくすぎた。
今思えば当たり前だし、よく考えればわかったのに……。
「なあ、芳岡」
「はいっ！」
校舎裏で会うや否や、和喜クンは、私に衝撃的な一言を発した。
「加島さんって、好きな人いるか知らないか？」
「えっ……？」
加島さんとは、一応里美先輩の名字と同じだ。
私は呆然としながら、それを確認してみた。
「加島さんって……里美先輩のこと？」
和喜クンは、真面目な顔で頷いた。
「そう。里美……さん」
名前を言って、赤くなる和喜クン。
そ、そんな……。
「えっ？ ど、どうして……？」
私は目にうっすらと涙を浮かべてそう言ったが、和喜クンは自分のことで精一杯らしく、そんな私の様子には（ついでに気持ちにも）、まったく気付いてくれなかった。
「俺、実は前から加島さんが好きだったんだ。それで、芳岡、加島さんと仲がいいから……」
えっ？
「な、何それ……」
「えっ？」
「じゃ、じゃあ、何？ 和喜クン、初めから里美先輩に取り合ってもらうために私と仲良くしてたってわけ？」
無茶苦茶なこと言ってるってわかってた。そんなこと、あるはずがない。だから和喜クンも、
「そ、それは違う。別にそんなつもりじゃ……」
って、必死に否定してたけど、もう私の耳には聞こえなかった。
『そこですぐ手を出すからいけないのよ』
そんな先輩の言葉を思い出したとき、すでに私の右手は和喜クンの左の頬をとらえていた。
パンッ！
短く痛々しい音。そして、
「最低っ！ バカ、アホ！ 和喜クンなんてもう知らない！」
言うだけ言って、私は走り出していた。
「あっ、芳岡！」
和喜クンの声がしたけど、私は足を止めなかった。
涙が溢れて止まらなかった。
初めてちょっとだけ先輩に嫉妬して、でも別に先輩のせいじゃないってすぐに思い直して、それで、初めて私も女の子らしいことできたって、そう思った。
何だか悲しくて、悲しすぎて、もう笑うしかなかった。
夕焼けの中を、私と里美先輩は歩いていた。
もうすべてを知ってるらしく、先輩は黙って私と一緒に歩いてくれた。
そして、何かこう、本当に微妙に私の心が話し始めようって決意した瞬間、やっぱりいつもみたいに先輩が先に口を開いた。
「今日ね、和喜クンから告白されちゃった」
「あっ……」
私はようやく上げた顔を、再び下ろして地面を見つめた。
先輩の声はどこまでも優しい。
「安心して……って、今のちいに言ってもしょうがないけど、断ったわよ。私、好きな人がいますからって」
「そう……ですか……」
私は自虐的に微笑む。
恋って、上手くいかないものだなって。
「和喜クン、私のこと、何か言ってましたか？」
「ええ」
先輩が、ちょっとだけ意地悪な顔をして頷いた。
何だろう？
先輩は、楽しそうにこう言った。
「ひどいこと言ってたわよ。ちい、どうして和喜クン、突然私に告白したと思う？」
「えっ？ さ、さあ……。誰かに何か言われたんじゃないですか？ 私が先輩に言われたみたいに……」
先輩は、小さく首を横に振った。
「和喜クン、真面目な顔して何を言い出すのかと思ったら、『加島さんを、芳岡に取られそうだったから』って」
「へっ？」
間抜けな声を出して、私は聞き返した。
先輩を私に取られる？
「じゃ、じゃあ、和喜クン、私のこと……」
「ええ。そういう目で見てたんじゃない？」
「そ、そんな……」
な、なんかもう、情けなくて……。
私は立ち止まって、肩を震わせた。
「私……私……」
「ちい……」
先輩の腕が、優しく私の身体を包み込んだ。
「うっ……」
堰を切ったように溢れ出す涙。
「うう……。先輩っ！ 先輩〜……」
先輩の胸にすがって、私は泣いた。もう、悲しさとか、怒りとか、何もかもを通り越して、ただ女として情けなくて……。
「和喜クンがね、『加島さんの好きな人って、芳岡ですか？』だって。ふふふ。面白いこと言うわね、彼」
「…………」
私は、「ごめんなさい」と小さく呟いて、また声をあげて泣いた。
先輩は優しく私の髪を撫でている。そして、
「別に謝ることじゃないわよ、ちい」
って。私はこくりと頷いた。
「……はい」
「ねえ、ちい……」
甘くて優しい先輩の声と胸……。
「はい……」
「いっそここは開き直って、女の子に走ってみたら？ 男の子とは大学デビューってことで、高校の内はもう、これも人生経験だとか」
そう言って楽しそうに笑う先輩。
私もつられて微笑んだ。
「そうですね。それもいいかも……」
「ふふふ。ちいったら……」
私も小さく笑い声をあげて、そっと顔を上げた。
その時──
「えっ？」
私の唇に、すごく柔らかくて、温かい感触。
えっ？
先輩の……唇……。
「ん……」
最後に小さく私の唇を舐めて、先輩は唇と、そして私の身体を放した。
「えっ……？」
えっ？ えっ？
先輩は、夕陽のように頬を染めながら、
「じゃあ、そういうことで、ちい。ありがとう」
そう言って嬉しそうに微笑んだ。
「えっ？」
呆然とする私をその場に残して、先輩は大きく手を振りながら走っていってしまった。
「えっ？」
もう一度呟いて、私は冷静になってみる。
「えっと、つまり……」
つまりまとめると、先輩が好きなのは私で、和喜クンは私と先輩が付き合ってるって誤解したままで、私は先輩にファーストキスを奪われた挙げ句、結果的に先輩の気持ちを受け入れたことになってるってこと？
「そんな……」
……だ、騙された。
「ダメよダメ！ 絶対にダメ。私は普通の恋をするんだもん。大学デビューなんて嫌っ！」
しかし、時すでに遅し。このままもし、このことがみんなに知れ渡ったら、男子には変な目で見られ、今までフッてきた女子には恨まれ……。
ダメ！ 絶対にダメ！
「こんなの、イヤあぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！」
私の心の叫び声を、西風がさらって吹いた。
短い髪がふわりと揺れて、私の初恋を散らして吹いた風の行く先に、星が煌々と輝いていた。
Fin