── リアルタイム乃絵美小説 ──

第7作 : 二人の鼓動、二つの心






「暑い! 暑い! 暑い!」

 夏だ……夏がやってきた。心燃え盛る夏!

「暑い! 暑い! 暑いぞっ!」

 この暑さ。流れる汗。汗もしたたるいい男。まさに青春の1ページ!

「暑い……暑いぞっ! 俺は今……」

「ああもう、うるさいなぁ」

「ぐっ……」

 素晴らしき青春の1ページを汚されて、俺はキッと声の主を睨め付けた。

 声の主は俺と同じように、喫茶店のテーブルに突っ伏して、暑そうにパタパタと団扇を仰ぎながら俺を睨み付けていた。

「うるさいとは何だ、乃絵美」

「だってうるさいんだもん。暑い暑いって。こっちまで暑くなるじゃない」

 声の主──乃絵美は、声を出すのも気だるそうな顔をして、疲れたようにそう言った。

 う〜む。いつもは素直ないい子なのだが、さすがの乃絵美もこの暑さに苛ついているらしい。

「そんなに暑いなら、冷房入れればいいじゃない」

 だめ押しの一言を放って、乃絵美は再びやる気なさそうにテーブルに顔を埋めた。実に珍しい、怠惰な妹の姿だ。いつもの殊勝な妹は、この暑さに溶けて蒸発してしまったらしい。

 俺はそんな乃絵美の長い髪の毛を横目に、ふと立ち上がり、喫茶店の温度計を見た。

 36度。酷暑だ。

 だが、

「違うぞ、乃絵美」

 俺は少しだけ演技しながら、偉そうに言い放った。

「俺はこの暑さが嫌なわけじゃない。いや、むしろ男が輝く季節だと喜んでいる。見ろ、乃絵美。この輝く汗の光を!」

 俺の空元気も虚しく、しかし乃絵美は顔だけ上げて俺に目を向けると、

「汚いだけだよ、お兄ちゃん」

 と、呆れたように溜め息を吐いた。

「お兄ちゃん、気が違ったみたいに、暑い暑いって言ってたよ。どう見ても喜んでるようには見えなかったけど……」

「いや、それは気のせいだ。声に出してたのがその部分なだけで、心の中ではもっと多くのことを考えていたんだ。物語はそうして、声と心を行き来しながら進行していたんだぞ、乃絵美」

 俺の力説に、乃絵美は困ったように眉をゆがめた。

「そ、そんなこと言ったって、私には声の部分しか聞こえなかったから、仕方ないよ……」

「心の声は届かなかったか?」

「届かなかった」

「本当に?」

「残念だけど」

「そうか……」

 俺は無念そうに首を左右に振って、乃絵美の隣に腰かけた。

「乃絵美、良かったな。36度だ」

 俺が突然そう言うと、乃絵美はその数字を聞くのも嫌そうにして、

「全然良くない……」

 と、団扇でパタパタと俺を仰いだ。

「いや、喜ぶべきことのはずだ。人間と同じ体温だからな。ほら、熱は暑いところから冷たいところに、冷たいところから暑いところに行くだろ? だから、たとえばずっと20度のところにいると、やがて体温も20度になって、人間は死んでしまうんだ」

「そんなの嘘だよ……」

 俺の素晴らしい理論をあっさりと否定して、乃絵美は俺を見つめた。

「何? 乃絵美は熱力学の第二法則と戦おうと言うのか?」

「ううん」

「じゃあ、俺の理論に何か間違いがあったか?」

「正しいところが見つからなかった……」

 うっ……。

 言うだけ言って、乃絵美は再び目を閉じた。

 目を閉じたといっても、別にキスして欲しいわけじゃないぞ……たぶん。否定するだけ否定して、説明する気はありませんという意思表示だ……と思う。

「乃絵美。せっかくだから、読者の皆様にもわかるように説明してくれ」

「読者って?」

「俺」

「はぁ……」

 乃絵美はくたびれたような溜め息を吐いてから、可愛い顔を少しだけ俺に近付けて言った。

「お兄ちゃんの言いたいのは、第二法則じゃなくて、ただの熱量の保存則」

「あれ? そうだっけ? じゃあ第二法則って」

「熱効率は常に1より小さいっていうのだったと思うよ。永久機関は作れませんって、物理の中西先生が言ってた気がする」

「お前、妙に詳しいな」

「誰でも知ってるよ」

「俺は知らなかった」

「……大学、大丈夫なの? もう夏だよ」

 突然心配そうに顔をゆがめる乃絵美。大きなお世話だ。

 俺は話を逸らした……というか、元に戻した。

「で、乃絵美は熱量の保存則に戦いを挑むのだな。頑張れ。もし勝ったら、お兄ちゃんが乃絵美に勇者の称号を与えてやる」

「そんなのいらないよ……」

 おどけながら乃絵美が笑った。

「そうか。じゃあ何が欲しい? 金か? 名誉か?」

 俺はふざけながらそう言ったが、乃絵美はじっと俺の目を見つめて、しばらく考えてから、ぽつりと一言呟いた。

「……お兄ちゃん」

「ん? 何だ?」

「…………」

 黙ったまま、乃絵美が俺を見つめる。俺は笑顔のまま聞き返した。

「ひょっとして、俺が欲しいのか?」

 乃絵美は何も言わずに、俺から視線を逸らせて、わずかにむくれたように唇を尖らせた。

 可愛いっ!

 俺は思わずそんな乃絵美の頭を、拳で軽くぐりぐりしながら、

「そうかそうか。じゃあ今日は特別にお兄ちゃんが乃絵美のお兄さんになってやるぞ。何でも言ってくれ」

 と、何か非常にそのままの気もしたが、とりあえずそう言った。

 すると、乃絵美は一瞬とても寂しそうに視線を落としてから、すぐに顔を上げて、にっこりと微笑んだ。

「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ私、プールに行きたい。一緒に行こっ」

「プールか……」

 俺は初めからOKするくせに、わざと腕を組んで考える振りをしてから、

「よしっ。じゃあつれていってやる」

 と、大袈裟に両手を広げた。

 さあ乃絵美、お兄ちゃんの胸の中に飛び込んでおいで……と思ったが、乃絵美は、

「うん! ありがとう、お兄ちゃん」

 と、嬉しそうに笑っただけで、そのまま「用意してくる」と、店の奥、自分の部屋の方へ行ってしまった。

 俺は誰もいなくなった店内で、虚しく両手を下げると、乃絵美と同じくプールの準備をするために部屋に戻った。

 先程の、乃絵美の寂しそうな顔を思い出しながら。



 外は……暑かった。シャレになってない。

「暑いよ……お兄ちゃん……」

 蝉の鳴き声が、木という木からする。暑さは倍のさらに倍。

 俺の後ろを、乃絵美がおぼつかない足取りでついてくる。少しふらふらしている気がするのは気のせいだろうか。元々身体の弱い乃絵美のことだ。少し心配である。

「大丈夫か? 乃絵美」

 俺が不安になって尋ねると、乃絵美は、

「うん。大丈夫だよ」

 と、元気良く笑って見せた。

 俺はすぐに乃絵美が無理しているのに気が付いたが、敢えて何も言わなかった。代わりに、

(それにしても……)

 と、心の中で呟きながら、隣に並んできた乃絵美の横顔を無言で盗み見た。

 乃絵美はそれに気付かずに、嬉しそうに微笑んでいる。俺はそんな乃絵美を見ながら思った。

(乃絵美のこんな笑顔を見るのは、一体いつ以来だろう)

 そんなことを考えることさえ不思議だった。俺たちは昔からずっと仲が良かったし、乃絵美は俺の前で笑顔でいるのが普通だった。

 それがあの日、あの誕生日の夜を境に、乃絵美は俺の前であまり笑わなくなった。たまに笑顔を見せても、それは昔のような笑顔とはどこかが違った。

 そんな日々がふた月ほど続いて、ある日俺は突然菜織に告白された。俺は色々と思案したが、結局これを承諾し、その夜それを乃絵美に告げた。

 それからまた、乃絵美はこうして昔のような笑顔を見せるようになった。

 菜織の告白と関連があるかどうかはわからない。乃絵美の心もわからない。けれど、それは聞いてはいけないことのような気がした。聞いても、どうせ乃絵美はとぼけるだろうし、それに、そのことを俺が意識しているということを、乃絵美に知られたくなかった。

 とにかく乃絵美は笑ってくれるようになった。それだけで、今は十分だった。

「……どうしたの? お兄ちゃん」

 ふと気が付くと、乃絵美が不思議そうな表情で、俺の顔を見上げていた。どうやら深く考え込んでいたようだ。

 俺は内心慌てながら、しかし平静を装って、そっと乃絵美の髪を撫でた。

「いや、あんまり可愛いもんだから、つい見とれてしまった」

「お、お兄ちゃん……」

 乃絵美は困ったような声をあげて、すぐに俺の手から逃れた。嫌がっているというよりはむしろ、恥ずかしがっている感じだったので、俺は笑いながら手を引っ込めた。

「いや、ホントだぞ、乃絵美。お兄ちゃんは可愛い妹を持って幸せだよ」

 冗談めかして言ったが、乃絵美は何も答えなかった。



 日曜日のプールは満員で、洗われた芋の子がそこら中にぷかぷかと浮かんでいた。

 男の俺は早く着替えを終えて、プールサイドで乃絵美を待っていた。水に浸した足と、若いギャル(死語)の水着姿に輝く瞳が夏の熱気に気持ち良かった。

 そんなふうにぼ〜っとしていると、不意に俺の視界が真っ暗になって、

「だ〜れだ?」

 と、今時そんなこと誰もしねぇって言いたくなるような古いことをする、若い可愛い女の子の声がした。

「一昨年死んじまった婆ちゃん。うう……、こんなところまで俺に会いに来てくれたんだな……」

 俺がそう言って、おいおいと泣くフリをすると、若い可愛いその女の子は、俺の顔から手をどけて、拗ねた口調で言った。

「私、そんなに年老いてないよ。ひどいよ、お兄ちゃん」

「なんだ、乃絵美か」

 俺はそう言いながら、笑顔で振り向いた。

 座っている俺の視界に、まず入ってきたのが、乃絵美のほっそりとした両脚。それから、わずかにふっくらとした膨らみを帯びた股間!

 萌える!

 そして、キュッと引き締まったウエスト(ビキニじゃないのが残念)。

 小振りながらも、ちゃんと女の子らしく膨らんだ胸。

『シャブリツケ……』

 神からの啓示が下りた。

「乃絵美! お兄ちゃんは辛抱たまらんぞ!」

 そんなことを心の中で絶叫しながら、俺はいきなり乃絵美を抱きしめた。

「きゃっ!」

 俺の腕の中で小さく悲鳴を上げる乃絵美。その声が意外に大きかったので、周囲の目が一同に集まるのを感じて、俺は啓示を下らせた神を恨んだ。

 しかし時すでに遅し。こうなったらこのままのノリで突っ走るしかない。

「乃絵美、いざプールへ!」

 無茶苦茶なことを言いながら、俺は乃絵美をしっかりと抱きしめたまま、プールの中に飛び込んだ。

 ザブン、という音とともに、水しぶきが上がる。

 良い子は決して真似をしないように。プールに入る前には準備運動をしましょう。それから、飛び込みは危険ですので、絶対にやめましょう。

「もう、お兄ちゃん。いきなりどうしたの?」

 さすがに怒ったようで、眉を釣り上げて俺を睨み付ける乃絵美。でも、そんな中にどこか照れている表情も混ざっていて、俺はからからと笑った。

「いや、悪い悪い。あんまり乃絵美が可愛いもんだから、お兄ちゃん、あんまり他人に乃絵美を見せたくなかったんだ。独占欲、独占欲」

「もう。兄妹なんだから、あんまりバカなことばかり言わないでね」

 乃絵美は恥ずかしそうにそう言いながら、しかし俺の腕の中から逃れようとはしなかった。それどころか、そっと俺の肩に顔を埋めて、軽く両腕を俺の背中に回した。

 俺もまた、乃絵美を抱きしめる腕に力を加えた。

 プールに入ってしまえば、こうしているカップルは少なくない。俺たちも、そんなカップルの一組に見えるのだろうか。

 そう思った瞬間、俺の胸に、諦めたはずの感情が再び湧き上がってきた。

「乃絵美……」

 そっと、乃絵美の髪に唇を当てる。

 菜織に告白された。そして俺は、それを承諾した。

 けれど、ダメだ。やっぱり……やっぱり俺は乃絵美が好きだ。

 妹だけど、誰よりも、他のどんな女の子よりも愛している。乃絵美が愛おしい。

「……ねえ、お兄ちゃん」

 小さな声で、乃絵美が呟いた。

「何だ?」

 冷静に答える。

 今、俺と乃絵美を隔てているものは、乃絵美の着ている薄い水着一枚。二人の胸の鼓動が、互いの身体の中で響き合った。

「あったかいね……」

「ああ、あったかいな……」

 ドク、ドク、ドクと、今にも胸が破裂しそうなのは、俺だけではないようだ。それが何によるものかはわからないが、とにかく乃絵美もドキドキしてくれている。

 俺は嬉しくなって、もっと乃絵美を胸の中に引き寄せようとした。その時──

『私たちは兄妹だよ! loveなわけないじゃない。気持ち悪いこと言わないで!』

 いつかの乃絵美の涙が、頬の痛みとともに蘇って、俺は咄嗟に手の力を緩めた。

 そうだ。乃絵美を愛してはいけない。

 けれど、俺が力を緩めた瞬間、乃絵美がきつく俺の身体を抱きしめた。

 まるで、放さないでと言わんばかりに……。

「あったかいね、お兄ちゃん」

 乃絵美は俺の肩に顔を埋めたまま、もう一度小さくそう呟いた。

「ああ……」

 乃絵美の小さな身体は、寒い冬の夜に、足下から温めてくれる湯たんぽのように温かかった。

 ……ちょっとヤな喩え。

「お兄ちゃん。私の身体、あったかい?」

 唐突な質問。

「おう。あったかいぞ」

「そっか……」

 呟いて、乃絵美がそっと顔を動かす。

 乃絵美の柔らかい唇が、俺の鎖骨の上の辺りをすっとよぎった。

「私も、お兄ちゃんあったかい。不思議だよね。どっちかがあったかければ、どっちかは冷たく感じるはずなのに」

「…………」

「どうしてだと思う? お兄ちゃん」

 乃絵美の質問に、俺は答えられなかった。

 単に知らなかったということもあったが、それよりも、乃絵美の欲しいる答えが、単なる物理学的な解答ではない気がしてならなかった。

 だから俺は、曖昧な、思い付いたままのことを口走った。

「生きてるから……で、どうだ?」

 賢い乃絵美が気に入ってくれるかどうか不安だったが、乃絵美は俺の答えに満足してくれたらしい。

 俺の肩に顔を埋めたまま、嬉しそうな声でこう言った。

「うん。きっとそうだね……。さっきのお兄ちゃんの質問の答えも、そんな感じでいいんじゃないかなぁ……」

 さっきの質問?

 言われて、ふと思い出した。

 そういえば、家でくだらないことを聞いた気がする。

 俺は苦笑を禁じ得なかった。

 乃絵美はあの質問の答えよりも、その答えを俺が初めから知っていることをよく知っていたのだ。

 熱量の保存則。これに、エネルギーの保存則をプラスすれば、問題は解決する。俺だって受験生だからそれくらいは知っている。

 けれど、そんなことは知っていても、受験にしか役に立たない。問題は、そのエネルギーが体内で作られているということ。すなわちそれが、生きているということ。

 何かに悩むこと、こうして温もりを感じ合うこと、それらはすべて生の賜物なのだ。

 俺はそれ以上何も言わず、ただ静かに乃絵美の身体を抱きしめた。

 髪の匂い、柔らかい肌、押し付けられた小さな胸、規則正しく上下するお腹、ふっくらとした下腹部、すべすべした水着の肌触り。

 幸せ〜。

 俺がそんなふうに悦に浸りながら、乃絵美の背中をすべすべと触っていると、突然乃絵美が、

「きゃっ!」

 と声をあげて俺の身体から離れた。

「えっ? ど、どうしたんだ? 乃絵美」

 俺が慌ててそう聞くと、乃絵美は上目遣いに俺を睨み付けて、声を裏返して言った。

「ど、どうしたじゃないよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんのエッチ!」

「えっ? えっ?」

 俺は真っ赤になって俯く乃絵美の顔と、水面の波に揺れる自分の身体を交互に見ながら、ようやく乃絵美の感じたものを理解した。

 いや、その、お兄ちゃん、感じちゃって……。

「ご、ごめん、乃絵美……」

 俺はすぐさま謝ったが、乃絵美は恐らく恥ずかしがっていたのだろう。じっと水面を見つめたまま、しばらく顔を上げてくれなかった。



 それから俺たちは、終了時間まで目一杯遊んでからプールを後にした。



 帰り道、何となくぼ〜っとしている乃絵美の横顔が、ひどく憔悴して見えた。

「大丈夫か? 乃絵美」

 昼の質問を繰り返すと、乃絵美はさすがに辛かったのだろう。今度は強がらずに、

「ちょっとだけ苦しい」

 と、弱々しく微笑んだ。

「しょうがないなぁ」

 俺はやれやれと溜め息を吐いてから、すっと乃絵美の前に腰を降ろした。

「ほれ、乗れ。おぶってやる」

 乃絵美のことだから恥ずかしがって断ってくるだろうと内心思っていたが、乃絵美は意外にも、

「うん。ありがとう」

 と呟くように答えて、俺の首に両腕を回した。

 俺は荷物を肩にかけてから、乃絵美の小さな軽い体を背負い上げた。

 それから無言で数百メートル。

 その内、てっきり眠ってしまったと思っていた乃絵美が、小さな声で言った。

「ねえ、お兄ちゃん……」

「ん? なんだ、起きてたのか?」

「うん……」

「どうしたんだ?」

「…………」

 乃絵美はしばらく黙っていて、それから数秒後、ほとんど聞き取れないようなかすれる声でこう言った。

「今日はありがとう。また、どこかにつれていって下さい」

「……ああ」

 少し間を置いてから、俺は答えた。

 ……つれていって下さい。

 最後だけ丁寧な口調で言った乃絵美の心。たぶん、何らかの意味を持っているのだと思う。けれど、俺にはどうしてもそれが、一体何を意味しているのかわからなかった。

 もっとも、逆にわかったこともあった。それは、乃絵美が本当に俺に言いたかったことは、決してそんなことではないということ。

 乃絵美は恐らく俺に何かを聞こうとした。それも、とても重大な決意を秘めて。

 最後に勇気が足りなかったのだと思う。

 何を聞こうとしたのかは、非常に気にはなったが、聞いても教えてくれないと思ったので、俺も聞き返すことはしなかった。



 結局この日はこうして、何事もなく終わりを告げた。



─── 完 ───  





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