そして、12月24日になった。
何故だかわからないけど、日本人のカップルは、クリスマス当日よりも、クリスマスイブの方を大事にしている気がする。
……俺の気のせいだろうか。
でも、もしそうでないとしたら、きっとそれは、イブの夜が聖夜であるため。クリスマスの朝を、恋人同士で迎えるため。
だから、俺も今日を選んだ。
もう互いに気持ちはわかってるけど、今日、ちゃんと乃絵美に伝えよう。
その後のことはわからない。不安はある。むしろ、不安の方が多いけど、この気持ちだけは変えられない。
乃絵美が好きだ。誰よりも愛してる。
だから、そこから始めよう。
そう決意したら、心が随分落ち着いた。そして、少しだけ悲しかった。
凍えるような寒さだった。天気もあまり良くなかったが、今日だけは皆、それを喜んだ。
北の方から雪の匂いのする風が吹き抜ける。
人気の少ない公園のベンチにもたれて、俺は乃絵美を待っていた。
一緒に住んでいるのだから、二人で一緒に出掛けようと思ったのだが、せっかくだからムードを出そうと、別々に家を出ることにした。
初めは乃絵美が、どうしても先に家を出て俺を待つと言って聞かなかったのだが、俺が「待つのは男の役目、待たせるのは女の特権だ」と、自分でも良くわからないことを言ったら、乃絵美もそれで納得してくれた。
きっと、この件に関して、俺にまったく退く気がないことを悟ったのだろう。
そんな経緯があり、かれこれもう20分ほど待っている。
まあ、家からここまでかなりの距離があるから、それも仕方ない。
『海の見える丘公園』
派手なことが嫌いで、人混みが苦手な乃絵美が選んだ、今日のデートの起点にして、目的地でもある場所。
その名の通り、ここから紺色の海が見える。やや南西に桜美港。名物の氷山丸が小さく見えた。
周囲はただ緑が広がっており、散歩道が南から北へと延びている。
時々見かける若いカップルたちは、恐らく俺たちと同じで人集りが苦手なのだろう。たまにそいつらに指を差されて笑われたが、俺は無視して放っておいた。
どうやら俺を、女にフラれた哀れな男だと誤解しているらしい。
「乃絵美、遅いなぁ……」
広場の時計の長針が、俺がここに来てからすでに半周近く回っている。
さすがにちょっと心配になってきた。
身体の弱い妹のことだ。どこかで倒れていやしないだろうか。
俺はそう心配したが、しかし、それも杞憂に終わった。
ぼーっと海を眺めていた俺の目を、ふわっと小さな手で塞いで、
「だ〜れだ?」
と、もはや聞き間違えようもないほど昔から聞き続けている、可愛い声がした。
「一昨年死んじまった婆ちゃん」
つまらなさそうに俺が言うと、声の主が俺の前に回って、小さく唇を尖らせた。
「そのネタ、前にも使ったよ、お兄ちゃん」
「そうだっけか?」
言いながら、俺は妹を見上げる。
白のセーターにロングスカート、そして丈の長いベージュのコートを羽織った乃絵美が、穏やかな笑顔で俺を見下ろしていた。
「お待たせ、お兄ちゃん」
「ああ」
ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「それじゃ、行くか」
そう言いながら乃絵美を見ると、乃絵美はベンチに座って、驚いた顔で俺を見上げていた。
「……何してんだ? お前」
「何って。ずっと歩いてきて、疲れちゃったから休もうと思って……」
「いや、俺、待ちくたびれたから、早速散歩に出ようかと……」
それから無言で見つめ合って、
「あははははははははっ」
二人で笑った。
「かみ合わないね」
「まったくだ」
ひとしきり笑い終えてから、乃絵美が俺を見上げて言った。
「じゃあお兄ちゃん。私、何かあったかい飲み物が欲しいな。買ってきて」
「ああ。コーヒーでいいか?」
「うん……。甘いやつ」
「……紅茶にするか?」
「何でもいいよ」
「わかった」
いつも通りの、かみ合っていない会話。でも、これが俺と乃絵美だから、何も気にすることはない。心はちゃんとかみ合っている。
俺は散歩道をのんびり歩きながら、近くの自販機で熱い紅茶を2本買って、乃絵美の許に戻った。
乃絵美はベンチに座って、何やら落ち着かない様子で、あっちを見たりこっちを見たりしていた。恐らく、緊張しているのだろう。
「ほれ、乃絵美」
俺が手に持っていた内の1本を差し出すと、乃絵美は嬉しそうにそれを両手で取った。
「ありがとう」
俺は自分の分をベンチに置いて、缶を持っている乃絵美の両手をギュッと握った。
「お兄ちゃん?」
乃絵美は訝しげに俺を見上げたが、すぐに、
「熱っ!」
大きな声でそう叫ぶと、思い切り俺の手を振り切った。
その拍子に、缶が地面に落ちる。
「ははは。悪い悪い」
俺はその缶を拾い上げると、タブを起こして蓋を開けた。
それから、ベンチに置いた方を取り、手の平をふーふーしながら俺を睨んでいる乃絵美に渡す。
「いや、あんまり乃絵美が緊張してるようだったから、ついからかってみたくなってな」
「だって……」
乃絵美は缶を取ると、同じように蓋を開けて、一口飲んだ。
「お兄ちゃんとデートなんだもん。緊張するよ」
「初めてじゃないだろ?」
「ううん、初めてだよ。デートは……」
はにかむように微笑んで、少しだけ俯き加減にそう言う乃絵美が可愛くて、俺はそっと乃絵美の頭を撫でてやった。乃絵美も俺と同じように、今日という日を特別な日だと考えていてくれてたことが、何よりも嬉しかった。
俺は紅茶をごくごくと三口ほど飲むと、乃絵美の隣に腰を降ろした。
そんな俺の肩にもたれて、乃絵美が口を開く。
「デートだけど、これでいいよ……。お兄ちゃんとこうしてる時間が、私には、何よりも幸せだから……」
「そうか……」
俺がそっと乃絵美の肩を抱き寄せると、乃絵美はそんな俺の手を握り、気持ち良さそうに目を閉じた。
黒に近い濃い紺色の海を、灰色がかった分厚い雲が覆っていた。その雲がこの公園の、俺たちの頭上まで続き、さらに東へ広がっている。
風は依然として冷たく、公園の草を揺らして吹いていた。
俺はそっと乃絵美を抱く腕に力を込める。
「ん……」
首だけで横を見ると、すぐそこに幸せそうな乃絵美の顔があった。
小さな鼻息が顎の先にかかって、くすぐったい。
目を閉じてそっと額に唇を付けると、乃絵美が「はぁ……」と息を洩らした。
「乃絵美……。今日はどうしたい?」
呟くようにそう尋ねると、乃絵美はその姿勢のまま答えた。
「しばらくこうしていたい……。それから、一緒にお弁当食べよ。ちょっと寒いけど、今日はずっと公園にいたい。商店街も駅前も、すごい人だから」
「何かしたいこととかないのか? 今日は何でも聞いてやるぞ」
あまりにも乃絵美に欲がなかったから、思わずそう聞いてしまって後悔した。
でも、乃絵美は特に気にしてないようで、嬉しそうに「ありがとう」と呟くと、すぐそこにある俺の顔を見つめて、もう一度繰り返した。
「今日はずっとお兄ちゃんとこうしていたいです。お兄ちゃんにこうやって抱き締められてる時間が、私には何よりも幸せだから……」
「そう……だな……」
俺は乃絵美の身体をグッと自分の胸元へ引き寄せた。
乃絵美はしがみつくように、俺の胸に手を当てた。
もう片方の腕を乃絵美の背中に回すと、俺は両腕でしっかりと乃絵美の身体を抱き締めた。
周囲の目が気にならないでもなかったが、しばらく頬で乃絵美の髪の感触を楽しんでいたら、次第にそれも気にならなくなっていた。
乃絵美が俺の胸から手を離して、やや体勢を傾けると、そっと俺の身体に腕を絡めてきた。
「お兄ちゃん……」
俺たちはそれからしばらく、時を忘れてそうして二人で抱き合っていた。
乃絵美の胸と、俺の胸と腕の間に出来た小さな三角の空間。そこに、二人の息がこもる。
それがすごく熱くて、周りの冷気さえも気にならなくなるほど俺と乃絵美を温めてくれたから、それだけで俺たちは満足だった。
それだけで俺たちは幸せだった。
ゆったりとした、何事もない時間が過ぎていった。
いつの間にか時計の針は5時を回り、辺りは闇に包まれて、公園に設置された電灯の明かりが仄白く光っていた。
俺と乃絵美は一日中公園内をグルグル回り、何を話すでもなく、有り触れた、でも特別な時間を過ごし、今はまた歩き疲れて一番初めのベンチに座っていた。
この時間になると、さすがに人影は少なく、いるのは俺たちと同じようにベンチに座ったカップルばかり。とはいえ、それは互いにいないに等しい存在だった。
すべてのカップルが熱く抱擁し、唇を重ね合い、誰も周りなど気にしていない。
だから、俺も乃絵美も周りを気にしはしなかった。
「今日は疲れたね、お兄ちゃん」
「ああ。何をしたわけでもないけどな……」
「うん……」
吐く息が真っ白だった。
かなり冷え込んでいる。
ふと空を見上げると、真っ黒な雲を背景にして、小さな白い粉が一つ、二つ……。
「雪……」
乃絵美が呟いた。
「ああ。雪だな……」
乃絵美がベンチから立ち上がり、嬉しそうに両腕を横に広げて空を見上げた。
少しずつ、少しずつ、雪の量が多くなってくる。
粉雪が、街灯の光に淡く輝いた。
「綺麗……」
俺は立ち上がり、そっと乃絵美の肩を抱く。
「帰ろうか、そろそろ。雪が強くなる前に……」
「うん」
乃絵美は小さく頷き、それから、
「でも……」
すっと俺の背中に両腕を回して、俺の胸に顔を埋めた。
「もう少し、こうしていたい……」
「……ああ……」
俺も乃絵美の小さな身体を抱き締めた。
二人の鼓動が響き合う。
乃絵美がそっと顔を上げて、目を閉じる。
雪の中、外灯の明かりに照らされて、俺と乃絵美は抱き合ったまま、唇を交わした。
「んん……」
雪の中で、乃絵美の唇はすっかり冷え切っていた。きっと、俺の唇も。
だから、俺と乃絵美は、貪るように互いの唇を舐め合った。
「あっ……」
舌と舌が絡まるたびに、乃絵美が気持ち良さそうに小さな声を洩らした。
それから二人の唾の音。
乃絵美の息。
乃絵美の温もり。
乃絵美の感触。
乃絵美の鼓動。
俺のすべてを乃絵美が埋め尽くし、俺と乃絵美はやがて唇を離して、もう一度強く抱き締め合った。
「好きだよ、乃絵美……」
たぶん、今まで一度も言ったことがなかった言葉。
乃絵美が俺の胸の中で、嬉しそうに頷いた。
「私も、ずっとお兄ちゃんのこと、好きでした。ずっと、ずっと昔から……」
わずかに声が震えている。
喜びと、その涙のために。
「随分、遠回りしてきたな、俺たち……」
「うん。でも、無駄じゃなかったよ」
「ああ……」
少しだけ力を緩めて、二人で空を見上げる。
だいぶ強くなってきた雪。
白い妖精とは良く言ったものだが、確かにそうにも見えた。きっと、心の問題だろう。
「そろそろ帰ろう。これ以上雪が強くなったら、本当に風邪を引くぞ」
「うん!」
乃絵美が元気に頷いた。
それから俺たちは手を握って歩き始めた。
緩やかな、長い長い丘を下って。
白く雪に埋もれる俺たちの町に。
俺と乃絵美の生まれた家に……。
夜。
部屋の窓から外を見ると、もうすっかり雪に埋もれた町がそこにあった。
夕方発令された大雪警報は、少なくとも明日の朝まで解除される見込みがないらしい。
明日はホワイトクリスマスどころの騒ぎではなさそうだ。
TVはこんな雪の中でも、熱いクリスマスイブの模様を伝えている。恋人たちはこれから町へと繰り出していく模様。
どこかの局のニュースが10時を告げて、俺はTVを切った。
「そろそろ乃絵美、くつろいでるかな……」
呟きながら、俺は立ち上がる。
乃絵美へのクリスマスプレゼント。これもやはりイブに渡すものだろう。
綺麗に包装された小さな白い箱を取り、廊下に出る。真っ暗な廊下はしんと静まり返り、乃絵美の部屋のドアの隙間から、わずかに明かりが洩れているだけだった。
コンコン……。
ドアを二度ノックすると、中から乃絵美の「はい」という小さな声がした。
「俺。入るぞ」
返事も聞かずにドアを開ける。
相変わらず飾り気のない、シンプルな部屋。TVとベッドと洋服ダンス、そして鏡台と机、それだけしか置いてない。
乃絵美は鏡台の前に座って、髪を研いでいた。
「なぁに? お兄ちゃん」
鏡に写った俺を見つめて、乃絵美が笑顔でそう聞いてくる。
俺はドアを閉め、ベッドに腰かけるとそっと乃絵美を手招きした。
櫛を置き、乃絵美が俺の隣に来て座る。
「何?」
無邪気に俺を見上げる乃絵美。好奇心に満ちたその瞳が、妙に俺をドキドキさせた。
「ああ。その、これ、クリスマスプレゼント……」
俺は照れながら乃絵美から視線を逸らせ、箱を手渡す。
「えっ? プレゼント?」
乃絵美がびっくりしたようにそう言って、しばらく俺の方をじっと見つめてから嬉しそうに箱を取った。
「ありがとう、お兄ちゃん。私、デートだけで満足だったから、びっくりしちゃったよ」
「そ、そうか……」
「うん。開けてもいい?」
「あ、ああ……」
俺が意味もなく頬を掻きながら頷くと、乃絵美は楽しそうにリボンをほどき、手の平サイズのその箱を開けた。
「えっ……?」
途端に、乃絵美が箱の中身を見たまま息を止める。
そう。俺の贈ったものは指輪だった。
「お、お兄ちゃん、こ、こんなのダメだよ!」
ケースも開けずに乃絵美が慌てて俺に言う。
「いいから、開けて見ろよ」
「だって、高かったでしょ? わ、私そんなつもりじゃ……」
「乃絵美!」
俺はピシャリと乃絵美に言って、そっと指輪のケースを開けた。
銀色に輝くリングの先端に、淡く輝く翠の石。
エメラルド。乃絵美の生まれた5月の誕生石だ。
「お、お兄ちゃん……」
怯えたように、乃絵美が俺を見上げる。
俺は指輪を取り、それをそっと乃絵美の右手の薬指に填めてやった。
「あ……あぁ……」
嬉しかったのか、それとも驚いてるのか、乃絵美はじっとその指輪を見つめたまま、震えている。
俺はそんな乃絵美の肩を抱き、なるべく優しく言った。
「乃絵美。この際、お金のことはいいから、お兄ちゃんの気持ちだと思って受け取ってくれ。もので愛を語ったりはしないけど、俺、本気で乃絵美のことが好きだから。だから、もしも喜んでくれるなら、『ありがとう』って言ってくれればそれでいい」
乃絵美はまだ気が動転しているらしく、ただ大きく目を見開いて、じっとその指輪の翠に見入っている。
それでも何か言おうと、口をパクパクさせていたが、やっぱりその口から言葉は出ずに、やがて乃絵美はその綺麗な瞳から、ボロボロと大粒の涙を零した。
「あ……ありがとう……」
ようやく言えた一言。
それだけで、俺は満足だった。
「愛してる、乃絵美……」
俺は乃絵美を抱き締めて、そっとベッドに横たわらせた。
それから、乃絵美のその小さな身体に跨って、優しく涙の跡に唇を這わせる。
「お兄ちゃん……」
乃絵美は静かに目を閉じた。
「乃絵美……」
今日2回目のキス。
今度はほのかに温かかった。
乃絵美の胸が、公園で抱き締めたときよりずっと速く打っていた。
「乃絵美。もう少し落ち着きな」
俺が唇を離してそう言うと、乃絵美が怖々に頷いた。
「はい……」
そっとパジャマのボタンを外す。
一つずつ、一つずつ。
最後のボタンを外し終えると、乃絵美の白いブラジャーが目に飛び込んできた。
「は、恥ずかしいよ、お兄ちゃん……」
「乃絵美……」
もう一度キスをする。
片腕で乃絵美の身体を少し持ち上げると、もう片方の手でブラジャーのホックを外した。
「あっ……」
慌てて乃絵美が声を上げるが、俺は構わずに右手を乃絵美の胸に這わせた。
「んっ……」
乃絵美の薄い隆起が、右手の平に柔らかな感触を与える。
指先で頂を摘むと、気持ち良いのか、乃絵美が熱い吐息を洩らした。
「大丈夫だからな、乃絵美……」
完全に乃絵美の上に跨って、ブラジャーをたくし上げ、両手で乃絵美の胸を揉みしだく。
吸い付くような、とはいかなかったが、それでも柔らかい胸はそれなりに揉み応えがあった。
「あっ……お兄ちゃん……」
少しだけ膨らんできだ乃絵美の胸を、脇の方から肉を押し上げ、片方の頂をそっと口に含む。
そしてそれを舌先でチロチロと舐め回すと、乃絵美は「ああっ!」と小さく喘ぎ声を洩らして、慌てて恥ずかしそうに目を伏せた。
「恥ずかしがらなくてもいいぞ、乃絵美」
少し意地悪にそう言ってやり、乳首を攻める。
「はぁ、はぁ……お、お兄ちゃん……あっ! ああっ……」
5分くらいそうしていただろうか。
俺は体勢を変え、指先を乃絵美のお腹や背中に這わせながら、ゆっくりとパジャマのズボンの中に差し込んだ。
「はぁ……お兄ちゃん……」
乃絵美は俺の首に手を回したまま、抵抗しようとはしなかった。
ショーツの中に手を入れると、乃絵美の柔らかい茂みが、指先に絡みついた。
「乃絵美……」
もう片方の手で胸を触りながら、そっと中指を亀裂に這わす。
「あっ!」
乃絵美の身体がビクッと震えた。
同時に指先にヌルッとした感触。
乃絵美のそこは、もう生暖かい液体で満たされていた。
もう少し奥まで手を差し込み、中指でそこをかき回すと、乃絵美が固く目を閉じたまま声を上げた。
「あっ……ああっ!」
ネチョネチョと音がする。
俺は乃絵美の腕をほどくと、ショーツごとズボンを下げた。
「あっ……」
さすがに恥ずかしがって、乃絵美が慌てて手で隠す。
「いいから、乃絵美。ほら」
そう言いながらその手をどけると、乃絵美は、
「恥ずかしいよ……」
と、言いながらも、もう隠そうとはしなかった。
「よし、いい子だぞ、乃絵美」
俺は両手で乃絵美の膝を開いた。
乃絵美のそこはまだほとんど未発達で、ピッタリと閉じた合わせ目を両手の親指でそっと開くと、
「ああっ!」
乃絵美が声を上げて身をよじった。
合わせ目を開いた瞬間、すでにお尻の方までべっとりと濡らしていた透明の液体が零れ落ち、俺の指を濡らした。花弁は小さく、綺麗なピンク色をしていた。
「綺麗だよ、乃絵美」
そう呟きながら、右手の中指でその周囲をかき回す。
「あふっ! あんっ……お、お兄ちゃん……あぁっ! ああぁっ!」
乃絵美はグッとシーツをつかんで喘いだ。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……はぁ、はぁ……」
俺はもう一度乃絵美の横に寝転がり、自分の首に乃絵美の腕を絡めさす。
乃絵美はうっすらと目を開いて、嬉しそうに俺を見つめた。
グチャグチャと水音が鳴る。
「あっ……お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
ギュッと俺に抱きついて、乃絵美が口元にいっぱい唾液を溜めて俺の名を呼んだ。
「あっ、あっ……んっ! はぁ……あぁ……うっ!」
「乃絵美、気持ちいいか?」
意地悪くそう聞きながら、指の動きを早める。
チャプチャプチャプチャプ。
少しだけ乃絵美の中に指を入れて、激しく上下に振ると、乃絵美がますます大きな声を上げた。
「ああっ! ダメ、ダメ、お兄ちゃん。わ、私……私! ああっ!」
「乃絵美、乃絵美っ!」
「あっ、ああっ! も、もうダメ! ダメ! あ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
日頃からでは考えられないほど大きな声で叫んで、乃絵美はぐったりとベッドに身体を横たえた。
「はぁ……はぁ……」
俺が身体を起こして見ると、乃絵美の股間の下、ベッドのシーツに乃絵美の蜜がさながら水たまりのように溜まっていた。
「気持ち良かったか? 乃絵美」
俺が聞くと、乃絵美はしばらく恍惚とした顔でいたが、やがて小さく頷いて半身を起こした。
その時だった。
「っ!」
不意に乃絵美が息を呑み、目を大きく見開いて、ピタリとその動き止めた。
「乃絵美!?」
乃絵美の額から一気に吹き出した汗と、ガクガク震える小さな身体。
俺は一瞬病気か何かかと思ったが、すぐにはっとなってドアの方を振り返る。
そこに──
「お前たち、何をしてるんだ……?」
怒りに震える父親の声と、ただ言葉もなく立ち尽くす母親。
次の瞬間、俺は、頬に激痛を感じると同時に、ベッドから鏡台近くまで吹っ飛んで、TVやラジオを薙ぎ倒して床の上に伏していた。
「お兄ちゃん!」
そう叫んだ妹の頬が、
パンッ!
と、大きな音を立てる。
「うっ!」
ドサッと床に崩れ落ちる妹。
「乃絵美!」
立ち上がった俺の顔面に、さらに父親の拳がめり込んで、
「お前ら、自分のしてることがわかってるのか!?」
激怒する父親の怒鳴り声が、だんだん遠くなる。
「お兄ちゃん……」
意識の遠くで乃絵美の声がした。
乃絵美の泣き声。
悲しそうな、妹の泣き声。
そこで、俺の意識は途切れた。
眩しく輝いていた夢とともに……。
ようやく動き始めたばかりの、俺たちの未来とともに……。
─── 完 ───