光り輝く大きな月を見上げながら、眩しく少女は皮肉めいた呟きを洩らした。
十二の月。
大陸北東部に存在する数々の街や国の例に洩れず、ここリアスの街も、今が一年で最も寒い季節である。しかし、元々年中温暖な気候に恵まれているために、寒いと言っても北方のセイラスやハイデル、デックヴォルト王国より遥かに温かく、ましてや雪など、ここ10年ほどの間に、一度も降ったことがなかった。
今夜もまた、風は確かに冬の匂いをはらんでいたが、星が散りばめられた美しい夜空は、雪の気配を微塵も感じさせない。
少女は一度地面に視線を落とし、深く溜め息を吐いてから、再び大きく空を仰いだ。
「わたしのような掟破りにも、まだ奇跡が起こせますように」
白い息が、ふわりと宙に浮かんだ。
まだ幼さの残った顔をわずかに強張らせ、歳に不釣り合いな大人びた眼差しで、少女は静かに手を組み合わせた。そして、スッと目を細めた瞬間、ぼんやりと少女の身体が金色の光に包み込まれた。
「どうか、この地に雪をお恵みください。あの、可哀想な子供たちのために……」
少女は一心に願い続けた。
光は少しずつ、少しずつその輝きを増し、やがて柱のように一筋の線を描いて、大空を貫いた。
ほんの微かな白い光が、膜のように夜空を覆う。オーロラと見まごうばかりの神秘的な光景だった。
けれど少女は、ただじっと目を閉じて、微動だにせずに祈り続けていた。
ただ一心に……。
空の光が、夜の闇に飲まれて消えた……。
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