ただ、そこには何か不快な空気が充満しており、それを吸っていたらいつの間にか眠っていたのだ。
気が付くと、シティアは両手を頭の後ろで縛られた状態で、ベッドの上に寝かされていた。腹筋を使って起き上がろうとしたが、胸の下辺りで、ベッドに固定されている。足は開かれ、それぞれの足首をベッドの脚に縛られていた。
「気が付いたか？ シティア王女」
見るとそこに、下卑な笑みを浮かべたウォードが立っていた。
「ユウィルは！？」
シティアがなんとか首を上げてドアの方を見ると、ドアの前にはテーブルが置かれて、外側からは開かないようになっていた。ユウィルの姿はない。
「さあな。あの魔法使いなら、お前が落ちたと同時に外に逃げて行ったよ」
「そう……」
シティアはほっと息をついた。ユウィルが一番賢明な行動を選んだのが嬉しかったのだ。
「お前は、自分のことよりもあの小娘を心配するんだな。変な女だ」
シティアはその挑発には乗らなかった。
「ウォード・リードイン、あんた、何者なの？ ユルクの貴族だって聞いたけど、どうして私やガルティスのことを知ってるの？」
ウォードはベッドに腰かけると、無造作にシティアの胸の上に手を乗せた。そして服の上からねっとりと撫で回す。
シティアは身をよじったが、それでどうなるものでもなかった。
「簡単なことだよ。６年前、俺がお前を殺すようにあいつに依頼したんだ」
「や、やっぱり……」
シティアはいきなり怒りが込み上げてきたが、この状況ではどうすることもできなかった。
ウォードは両手で服の裾を掴むと、紐で縛ったところまで捲り上げた。
「や、やめて！」
シティアは思わず悲鳴を上げたが、ウォードは卑猥な笑みを浮かべただけだった。
「本当に傷だらけだな」
そう言いながら、シティアの腹部に手を置き、その醜い傷跡を指でなぞる。
ユウィルに同じことをされた時はくすぐったいだけだったのに、この男にされるとなんと気持ち悪いことか。
「汚い手で触れるな！」
シティアは精一杯虚勢を張って見せたが、ウォードの余裕は崩れなかった。崩す理由もない。
左手の指で紐を少しだけ持ち上げると、右手でさらに服を引っ張り上げた。そしてそのまま頭も通し、縛り上げた手のところまで捲り上げる。
「形のいい胸だが、ここにも傷があるな」
そう言うと、ウォードはシティアの胸に顔を埋め、傷跡に舌を這わせた。
「や、やめろ！ やめないか！」
シティアは大声を上げたが、それはウォードを悦ばせるだけだった。
ウォードはシティアの乳首を口に含み、しばらくそれを舌で転がした後、顔を上げていびつな笑みを浮かべた。
「俺がどうしてお前を殺そうとしたか、聞きたいか？」
シティアは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたが、ウォードの話はシティアが何年もの間ずっと疑問に思ってきたことなので、頷かずにはいられなかった。
「よし。だったら、声を出すなよ。声を出したら話すのをやめる」
ウォードはそう言うと、シティアのズボンのベルトを解いた。
シティアは何か言いかけたが、すぐに口を噤んだ。
「俺はお前の言うとおり、ユルクの貴族だった。リードイン家はユルクで一番金持ちで、歴史ある貴族だったんだよ。俺はリードイン家の次男だった」
話しながら、ウォードはシティアのズボンと下着を一気に膝上まで下ろした。
「い、いやっ！」
シティアは思わず声を出したが、それはウォードにとって嫌なものではなかった。むしろ、シティアの悲鳴は望むところである。
「当時俺は１３だった。１３だったが、家柄が家柄だからな。もう結婚の話が出ていたんだ」
ウォードは指先をシティアの股の間に這わせた。まだ男を知らないシティアのそこは、ぴったりと合わせ目を閉じ、ウォードが無理矢理こじ開けると、ちくりと走った痛みにシティアは小さく呻いた。
「親父が選んだ俺の結婚相手が、お前だったんだよ、シティア」
「そ、そんな……」
シティアは初耳だった。いや、ひょっとしたら、多少は聞いたことがあったのかも知れない。フラウスからウォードの名前を聞かされたとき、かすかに聞き覚えはあったのだ。ただ、その頃のシティアはまだ幼く、難しいことは何一つ理解していなかった。
ウォードは無抵抗な白い太ももを撫で回しながら、一度まじまじとシティアの裸体に目を遣った。確かに全身傷だらけだが、引き締まった身体には無駄な肉がなく、かといって痩せすぎてもおらず、女性特有のなだらかな曲線を描いていた。
「綺麗な身体をしているな。もうあの魔法使いも戻っては来まい。ゆっくり楽しもうじゃないか」
「ユ、ユウィルは戻ってくるわ」
「誰が喋っていいと言った！」
ウォードはそう怒鳴りつけると、シティアの頬を平手で殴った。シティアは頬の痛みを我慢してキッと睨み付けたが、口は開かなかった。
「いい目だ。最後まで嫌がってくれた方が犯し甲斐がある。話を続けるか」
ウォードはシティアの上に跨ると、真っ正面からシティアの顔を見ながら両手で胸を揉みしだいだ。
（この男は、絶対に殺してやる……絶対に……）
シティアは生まれて初めての屈辱に堪えながら、何度も心の中でそう繰り返した。
ウォードは嬉々として続けた。
「俺の親がお前の家に申し込んだ縁談は、あっさりと断られたよ。俺はウィサンの王女なんかには興味がなかったが、断られたと知ったら急に腹が立ってきてな。それで、あの男に暗殺を依頼したんだ」
ところが、ガルティスは暗殺に失敗した。ウォードはその報告を受けたが、それ以上はシティアに攻撃をしなかった。
「何故だと思う？」
いたずらっぽい目でウォードが聞いてきたが、シティアには答える気はなかった。もっとも、ウォードも答えを求めていなかった。
「あっさり死ぬよりも、全身傷だらけで生きる方が、より罰にふさわしいと思ったからだ。実際、それからのウィサンの王女の評判と言ったらなかったな。どんどんすさんでいくのを聞いて、俺は嬉しかったよ」
「生憎ね。そのせいであんたはここで死ぬのよ」
シティアはそう皮肉ったが、今度はウォードは怒鳴らなかった。
「無理だな。俺は今からお前を犯して、そしてやはり解放する。もうこの盗賊団も終わりだ。俺はまたどこかに姿を隠す。お前は俺を探せない」
ウォードはシティアに覆い被さると、胸を掴んでその先端を口に含んだ。そして、それをしばらく舐めてから、舌をシティアの首に這わせる。
「どうだ？ 自分を殺そうとしていた男に犯されるのは？」
シティアは何も言わなかった。ただ、ねっとりと這いずり回る舌の感触に堪えるのが精一杯だったのだ。
ウォードは片手でシティアの頭を押さえ付けると、耳に舌を入れ、それから頬を舐めた。
「や、やめて……」
「いい声だ。もっと嫌がれ」
ウォードはシティアの身体に体重を預けながら、唾を付けた指先をシティアの股間に忍ばせた。そして、顔中を舐め回しながら、無理矢理指をこじ入れる。
「い、痛い！ やめて！」
「どうするんだ？ 王女。こんなところで犯されたら、もう誰にももらってもらえんぞ？」
ウォードはそう言いながら、シティアの唇を吸い上げた。
するとシティアは、先ほどまで強張らせていた身体の力を抜き、くたっと身を投げ出した。
「ん？ なんだ？ キスに弱いのか？」
ウォードは怪訝そうに聞いたが、シティアは上気した顔で喘ぐだけで、何も答えなかった。
ウォードはにやりと笑った。
「女っぽい顔もできるんじゃないか」
もう一度顔を近付けると、少し斜めからシティアの唇に顔を押し当て、その口の中に舌を押し入れた。
「ん……あぁ……」
シティアは小さく喘ぐと、その舌に自分の舌を絡め、それからウォードが少し痛いと思うくらい強くその舌を吸った。
そして、一切の容赦もなく、まるで分厚いステーキを噛み切るように、思い切りその舌を噛んだ。
ゴリッとした生肉を噛み切る感触がすると同時に、とても人間のものとは思えない絶叫が轟いた。
シティアは口の中に溜まったウォードの血と肉片吐き出した。あまりの気持ち悪さに吐き気がしたが、それはぐっと堪える。
「ウ、ウォードは……」
苦しそうに息をしながら顔を上げ、ウォードの姿を探す。本当に一度きりのチャンスだった。もしも殺せなければ、たちどころに自分が殺されるだろう。
だが、シティアの心配は杞憂に終わった。舌を引き抜かれたウォードは、床に倒れて絶命していたのだ。
シティアは安堵の息をつくと、何度も腕を動かして紐を解いた。手首は擦り傷だらけになり、ところどころから血が出ていたが、動かすのに支障はなかった。
自由になった手で腰と足を解放すると、衣服を正してから、水差しの水で口をゆすいだ。ウォードの舌を噛み切る感触が生々しく残っていたが、もう吐き気はしなかった。
取られていたレイピアを腰に佩くと、蔑む眼差しでウォードの死体を見下ろした。
「ね？ 大抵、誰かを生かすと、そいつに殺されるのよ」
この男に唇を奪われたのは癪に障ったが、幸いにもそれはシティアの初めての口づけではなかった。
シティアはウィサンを出てきた夜のことを思い出し、少し頬を赤らめると同時に、小さく安堵の息を漏らした。それから気を引き締め直して、レイピアを強く握った。
「さ、これで後一人。まだ逃げてないといいけど」
シティアはドアの前のテーブルをどかすと、注意深くドアを開けて通路に出た。
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