その街道を四、五十歳くらいだろうか、一組の壮年の男女が歩いていた。
やがて道の傍らに、ぼろぼろになった木の立て札が見えてきた。
『精霊の国ミナスレイア』
立て札にはそう書かれていた。
遙か彼方に険しい山々を望み、やや離れたところには、川がその清流を湛えて流れている。草原の草は涼やかな自然の風にさやさやと揺れ、日の光を反射して、波のように白く光っていた。
二人は一度立ち止まり、彼方の山に目をやると、再び道を続けた。
街道は少しずつ荒れ果てていき、しまいには草だらけで、道と草原の区別が付かないほどになっていた。
その頃になって、初めてミナスレイアの街の街壁が見えてきた。
二人は草を踏みながら、街門をくぐった。
精霊の国ミナスレイア。
しかしそこには、すでに人の姿はなかった。
草は伸び放題に伸び、家々は崩れ落ち、廃墟と化した街がそこにはあった。
二人はその場に立ち尽くし、感慨深げにその様子を眺めていた。
しばらくそうしていて、不意に女の目から涙が零れた。
男はそれを見て、優しく涙を拭ってやると、そっと女の頬に口づけをした。
それから二人はミナスレイアを後にした。
そして、二度とこの国を訪れる者はなかった。
Fin
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