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夜明けの刻
この小説は、グループSNEのソード・ワールドRPGを舞台にした小説です。セッションとして捉えるなら、一応シティーアドベンチャーに属する内容でしょうか。ソード・ワールドRPGを知らなくても読むのに支障はありません。魔法名はほとんど英語のため、ニュアンスで読んでいただいて大丈夫です。
最後はハッピーエンドですが、途中は陰惨な描写がたくさんあります。苦手な人はご注意ください。

 ついに、落ちるところまで落ちたようだ。
 一攫千金の大望を抱いて町を飛び出したのが17歳の春。
 それから5年、いくつもの依頼を片付け、危機を乗り越えてきた俺だったが、気が付けば仲間もなく、路銀は底を尽き、明日の食糧さえない有り様だった。
「人間、落ちるときはこんなもんか……」
 5年も冒険者をやっているのだから、それなりに腕は立つ。精霊使いとしての修行も随分積んだし、少しだが盗賊としての技術だってある。
 冒険者としてはそこそこの実力を持っていると自負しているが、それでも運に見放されたらこんなものだ。
 持っているのは3年前に手に入れた魔法の剣ただ一本で、鎧さえ売ってしまった。もちろん、この剣を売ればそれなりの金になるのはわかっているが、剣は戦士の命だ。これだけは本当に生命の危機にさらされるまで手放す気はなかった。たとえ悪の道に走ったとしてもだ。
 ロマールからファンドリアへと続く街道は、レムリアの手前で緑に覆われた山を越える。俺はその中で、通りがかる旅人を待ち伏せしていた。
 朝からずっと見張っている中で、すでに二組の旅人がここを通り過ぎている。一組は冒険者のパーティーであり、もう一組はしっかりと護衛をつけた行商の一行だった。
 さすがに無傷で勝つ自信がなかったのでやり過ごした。俺には傷を治す魔法が使えないので、なるべく危険は避けなければならない。
 陽が随分西に傾いた頃、麓の方から一人の女性が歩いてくるのが見えた。女性と言うより、まだ少女と言った方がいいかも知れない。長い金髪を揺らし、気の強そうな眉をしているが、幼い顔立ちをしている。18歳くらいだろうか。
 背はそれほど高くないが、革鎧を着込み、小剣を腰に佩いた姿は歳以上に凛々しく写った。鎧の肩当てには紋章が刻まれており、由緒正しき貴族の人間であるのがわかる。何故貴族の少女が一人でいるのかという疑問は湧いたが、恐らくそれなりの事情があるのだろう。それに、彼女が歳以上に強いのも確実だ。
 よく見ると、彼女の足元に白猫が寄り添い合うようにして歩いていた。
「使い魔か……?」
 恐らくそうに違いない。だとすれば、彼女はそれなりに高位の魔術師ということになる。
 それでも、相手が二人以上いるより、一人の方が標的として適当なのは間違いない。俺は気付かれないように道の先へ急ぐと、そこに罠を張った。罠と言っても簡単なものである。道に“トンネル”の魔法で浅い穴を空け、落とし穴を作ったのだ。
 また、ロープの一端を樹に結び、それを落とし穴の前に配置して土をかぶせた。もう片方を引けば足首ほどの高さに張られるようになっている。
 よく見ればすぐにわかるようなものだが、周囲は薄暗いし、外敵には警戒していても、まさか街道の途中にいきなり落とし穴があるとは思っていまい。
 なるべく殺気を押さえて息を殺して待ち伏せしていると、やがて女性が早足で歩いてきた。その表情は険しく、どこか怯えているようにも見える。恐らく、このままでは山の中で野宿になるからだろう。ただ、急げば夜までには山を越えられる。
 女性の注意が他に向いていたのは好都合だった。厚手のズボンに覆われた脚が今まさに落とし穴に突っ込もうとした瞬間、俺はグイッとロープを引いた。
「きゃあ!」
 ロープに手応えを感じたと同時に、ズサッという大きな音がした。女性が穴に落ちたのだ。俺は道に踊り出ると、使い魔と思われる猫を蹴り飛ばした。殺す気はないが、痛い思いをするくらいは勘弁してもらおう。
 猫は鋭い鳴き声を上げると、樹に叩き付けられて動かなくなった。
「あ、あなたは!」
 女性が驚いた表情で俺を睨み付ける。そしてすぐに穴の中から魔法を放とうとした。
 恐らく、事前に彼女が魔術師であると知らなければ、俺は対応できなかっただろう。だが、俺は彼女が当然魔法を使うだろうと予想していたので、すぐにその手を掴むと、彼女を穴の中から引きずり出した。
「何をするの! は、放して!」
「大人しくしろ! 大人しくすれば危害は加えない!」
 俺は掴んでいる女性の手に、指輪が填められているのに気が付いた。恐らくこれが魔法の発動体だろう。俺は無理矢理それを引ったくると、ポケットに押し込んだ。
 そしてロープで手を縛ろうとしたが、いきなり女性に蹴り付けられて地面に転がった。
「盗賊風情が! 成敗してやる!」
 女性は感情を剥き出しにして、怒鳴りながら剣を抜いた。その声は高く、また間近で見ると思っていたよりまだ若いことを知った。少女と改めよう。
 だが、剣の腕前は一流だった。俺はものすごい速度で振り下ろされた剣を何とか躱すと、素早く獲物を抜き放った。こうなったら、どちらかの負傷は免れまい。
「ええい、くそぅ!」
 俺は斬りかかってくる少女の剣を真っ向から受け止めると、それを弾き返して斬り付けた。少女はそれを綺麗な型で避けて、正面から突きに来る。
 それから数合打ち合うと、俺はあることに気が付いた。それは、少女が教科書のような剣さばきをしていることだ。厳しい鍛錬を受けた者の動きではあるが、実戦の経験はほとんどなさそうだった。
「なら、これでどうだ!」
 俺は少女が突っ込んでくるのを転がるようにして避けると、足払いを食らわせた。
「きゃあ!」
 案の定少女は突然の攻撃に対応できず、小さな悲鳴を上げて地面に倒れた。俺は少女の手を蹴って、剣を遠くに弾き飛ばした。
「大人しくすれば危害は加えないと言ってるだろう! 暴れるな!」
「そんなこと信じれるはずないでしょ!?」
 少女は俺の剣を持つ腕をつかむと、もう片方の手を素早く宙に巡らせた。発動体なしで魔法を使おうというのだ。
「やめろって言ってるだろ!」
 思い切り強く少女の身体を前蹴りにしたが、少女は吹っ飛ばされた先にあった剣を拾い、すぐに向かってきた。
「せあぁっ!」
 唸るような太刀筋は先程より鋭い。俺は舌打ちをして後ろに飛び退いた。
 だが、避けた先がまずかった。そこにはさっき自分で掘った穴があったのだ。
「しまった!」
 すでにほとんど元通りになっており、落ちることはなかったが、俺はバランスを崩して地面に倒れた。その隙を見逃す少女ではない。まったく容赦する気のない一撃が俺目がけて突き下ろされた。
「ちくしょう!」
 危害を加える気はなかったが、こういう状態では止むを得ない。俺は半身を起こすと、少女の剣が突き刺さるより先に、その太股を斬り裂いた。
「うぐぁっ!」
 少女は苦しげな呻き声を漏らすと、土の上で身体を折り曲げて脚を押さえた。ズボンに少しずつ赤い染みが広がり、やがて彼女の革手袋にも伝わっていった。
 額に汗が浮かべ、熱い息を漏らして喘ぐ少女を見ていたら、俺は改めて自分が落ちたのだと実感した。それでも、考えても仕方ない。もう遅いのだ。
「だから、抵抗するなって言っただろう……」
 俺は喉の奥から搾り出すようにそう言うと、苦悶の表情のまま身体を震わせている少女の腰から金入れを取った。中を開けてみると、金貨と銀貨とがぎっしり詰まっていた。
 俺がそれを腰に着けていると、少女が震える手で俺の足首をつかんだ。
「か、返して……」
「うるさい!」
 俺は上擦った声でその手を蹴り飛ばすと、少女の腰からベルトを抜き取った。ベルト自体に価値はなさそうだが、剣の鞘には立派な意匠が施されている。
「他に金目のものはないか?」
 少女の革袋を開けると、そこには保存食やロープ、松明と言った冒険に必要なものが入っていた。中を引っ掻き回したが、物珍しいものは見つからなかった。
 ふと見ると、少女は這うようにして剣を取り、無理矢理立ち上がろうとしていた。
「おい、よせ! 傷口が広がるぞ!」
 斬り付けた本人が何を言っているのかと自分でも思ったのだから、少女が思わないはずがない。
「うるさい!」
 いきなり振り向き様に少女は剣を振るった。しかも、故意にかそれとも手に力が入らなかったのか、その剣を投げ付けたのだ。
「何っ!?」
 俺は体勢を崩しながらも、なんとかそれを躱し切った。切っ先が服をかすめ、ぞっとしてから頭に血が上る。
「大人しくしていろ!」
 俺は少女の肩をつかむと、怒りに任せて傷口を靴の踵で蹴り付けた。
 少女は身を仰け反らせ、見ていて哀れなほど顔をしかめると、そのまま崩れ落ちて両手で脚を押さえた。
 俺は肩で息をしながら少女をうつ伏せに押さえ付け、鎧の紐をほどいた。時間をかけて鎧を脱がすと、少女の首に宝石のついたペンダントがかかっているのが目に入った。
「まだ持っていたか」
 ペンダントに手をかけると、少女は涙を浮かべた目を大きく見開き、震える声で叫んだ。
「やめて! それは盗らないで!」
「黙れ!」
「お母さんの形見なの! お願い!」
 俺は「お母さん」という言葉の響きに、思わず手を止めた。5年前、最後に見た泣いている母親の顔が脳裏をよぎる。
 俺は両親の反対を押し切って町を出た。もう帰ることなどできないと、こんな身になっても頑なに帰郷を拒絶しているが、元気にしているだろうか。
 俺は大きく頭を振って思い出を追い払った。
「知るかよ、そんなこと。物を盗らない追い剥ぎなんて聞いたことないぜ」
 ペンダントをむしり取るようにして引ったくると、金入れの中に押し込んだ。少女はとうとう声を上げて泣き出した。
 俺はもう十分盗ったから、少女を置いて逃げようと思った。けれど、あられもない格好で転がっている若い女を見ていたら、不意に男としての欲求が芽生え、抑えられなくなった。
(どうせ落ちたんだ。もうとことん落ちてやろう)
 俺は少女の身体を縛り上げると、立ち上がって肩に担いだ。
「な、何をするの?」
 少女が怯えたように声を上げるが、俺は構わず荷物を持って森の中へ入っていく。下ばえを踏み付け、枝を折り、しばらく歩くと少女の身体を下ろして横にした。そして衣服に手をかける。
「や、やめて……。もうやめて……」
 ようやく俺の目的がわかったらしく、少女は涙を零しながら首を振った。俺は溜め息をつきながら言った。
「もう、終わったんだよ……」
 少女が持っていたハンカチをロープに巻きつけると、俺は服を脱がす前にハンカチをくわえさせてロープで口を縛った。
 それから衣服を剥ぎ取ると、少女の程好く膨らんだ胸が露になり、汗の匂いが俺の鼻腔を刺激する。
 手袋を取って胸に触れると、柔らかな感触がさらに俺を昂ぶらせた。少女は固く目を閉じたまま、ずっとくぐもった呻き声を上げている。
 靴も脱がせ、一糸まとわぬ姿にすると、少女の脚の傷が目に入った。思いの外傷は深いようで、剥き出しになった肉から真っ赤な血が透明な肉汁と一緒に流れていた。
 俺は眉をひそめると、先にそれを手当てしてやった。水で傷口を洗い、袋に入っていた薬を塗って布できつく縛ると、少女が苦痛の声を上げる。
「後は大人しくしていれば治る。全部済んだら道に転がしておいてやるから、誰かに助けてもらえよ」
 俺はズボンを下ろすと、仰向けに寝ている少女の膝を肩の方に押しやった。ふと見ると、少女は絶望的な表情で俺を見つめていた。
「くっ……」
 俺は思わず目を逸らせた。まだ罪悪感と言うものが残っているらしい。
 それを振り払うように、俺は腰を沈めて一気に少女の身体を貫いた。
「いやあぁっ!」
 少女は経験がなかったようで、絶叫して身を仰け反らせた。数度腰を振ってから見下ろすと、少女の股が血で真っ赤に染まっている。初めての女に、何の準備もせずにしたのだから仕方ないだろう。
 俺は少女の身体をつかむと、盛りのついた動物のように、闇雲に腰を振った。そのたびに少女が身をよじって声を漏らすが、途中から聞いていなかった。
 やがて俺は快感の頂点に達して、果てる直前に少女から一物を引き抜いた。それは最後の理性と言うより、単なる自己満足だった。
 自分と少女の汚れを拭き取ると、俺は息をつきながら少女の口からロープを外してやった。
 少女はただ悲しそうに泣くだけで何も言わない。もちろん、俺にも今さら言うことなど何もなかった。
 欲求を満たすと、猛烈な罪悪感に囚われ、俺は早く少女に服を着せてやろうと思った。そして、ふと剥ぎ取った服を取ったとき、内側にポケットがついていて、そこに丁寧に折り畳まれた書状が入っているのに気が付いた。
「これは?」
 手にとって中を開くと、俺は思わず蒼ざめて立ち尽くした。
 それは紹介状だった。少女はエリア・ミザルフと言い、ロマールの貴族の娘だった。だが、母はすでに亡く、最近父も亡くして身寄りは祖父一人になってしまった。
 エリアには兄弟がなく、祖父の財産はすべて長子の娘であるエリアが継ぐことになる。そのため、少女は叔父を始めとした親族に狙われるようになった。
 それを心配した祖父が、エリアをファンドリアにいる親友のもとにやることにした。エリアも安全を望み、目立たないように一人でファンドリアに行くことを決意する。この書状は、エリアの祖父がその親友に宛てたものだった。
 俺は紹介状を元に戻すと、エリアに服を着せてやった。エリアはすでに泣き止んでいたが、その表情は虚ろで、まるで人形のようだった。
 荷物をまとめて街道に戻ると、すでに辺りは真っ暗になっており、ひっそりと静まり返った森が冷たい風に不気味に揺れていた。俺はエリアを樹にもたれさせると、その手にペンダントと数枚の金貨を入れた袋を握らせた。
「これは返すからな。じゃあな」
 追われるように立ち上がり、数歩歩いて振り返った。エリアは袋を握り、俯いたまま小さな肩を震わせていた。頬から涙がキラキラと光って落ちる。
「くそっ!」
 再び前を向くと、全速力で走った。俺は落ちたのだ。どうしようもないほど深いところまで落ちたのだと思うと、涙が込み上げてきた。
 色々なものを振り切るように、俺は泣きながら走り続けた。

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