そしてそれが、社の壁に覆い被さるように広がる、枯れかけた茶色の木の葉に透き通るように消えてから、パンパンと二度、手を打ち合わせる音がした。
地元民の俺ですら、名前を覚えてないような小さな神社の境内。他に参拝客の一人としていないこの静まり返った空間で、一人の小柄な少女が、奥の社に向かって手を合わせ、深く目を閉じ、頭を垂れて願いを捧げている。
俺は一度社の向こうに広がる蒼天に目を遣ってから、彼女の隣に立ち、同じように5円玉を1枚、賽銭箱へと放り投げた。
コツ……カラカラカラ……。
今年、こうしてここに来るようになってから、二人合わせて425円目の硬貨が軽やかな金属音を立て、やがて静まった。
パン、パン……。
神様なんて信じているわけではなかったけれど、それでも、何かにすがりついてでも叶えたい願いがあった。
前屈みになりながら、片目を開けてそっと隣を見ると、彼女はまだ両目を閉じて、一心に願い続けていた。肩の上で切り揃えられた髪が、冷たさを帯びてきた冬の風になびいて、くすぐるように彼女の白い頬をなでていたけれど、それをまったく気にすることなく、ただ深く目を閉じたまま、彼女は微動だにしなかった。
それは、ひたむきというよりも、むしろ痛々しい感じがした。まるで、心の中に渦巻くあきらめを無理矢理払拭しようと、自分の気持ちと戦い続ける戦士のように。
……いや、そう見えるのは、俺が事情を知っているからだろうか。
それはわからないけれど、とにかく、知っているからこそ、俺は信じてないものにすらすがりたかったのだ。なりふり構わず、ただ祈りたかった。
(どうか妹の……ミエの願いを叶えてください。今度こそ、今度こそ……)
ふと風が途切れて、俺はゆっくりと目を開けた。先程までサラサラと音を立てていた落ち葉も、今はうずくまるように静かに地面に積もっている。
しばらくじっと社を見つめていたが、思い出したように自分の肩に目を向けると、いつからそうしているのか、妹のミエが、澄んだ大きな瞳で俺の顔を見上げていた。
どうやら、俺の方が長くお祈りしていたらしい。思わず頬を緩めると、ミエも同じことを考えたのか、嬉しそうに微笑んでから、薄い唇を開いた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
俺は小さく苦笑してから、左手をミエの頭に置いて、髪の毛を梳かすようになでてやった。ミエは恥ずかしそうに目を伏せて、誰もいないことを確認するように、キョロキョロと辺りを見回していた。
「そろそろ帰るか」
頭から手を下ろし、神社の参道に向き直る。
すっと下ろした手の平に、ミエが指を絡めてきた。その指は冬の風に凍え、ひんやりと冷たかったけれど、ほっそりしていて、柔らかかった。
「うん。家に帰ったら、また勉強しなくっちゃ」
俺は妹の手をきゅっと握り返して、そのまま寄り添い合うようにして歩き始めた。
木枯らしが落ち葉を捲いて吹き抜けていったその先に、羊雲がぷかぷかと浮かぶ抜けるような青空が、俺たちの住む町を包み込むように広がっていた。
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