■ Novels


ウィサン、悪夢の日
湖の街ウィサンの象徴とも言うべき魔法研究所の、突然の崩壊。平和なウィサンを襲ったこの事件が、人々の間に大きな悲しみと怒りを巻き起こす。多大な犠牲者を出したこの事件は、たった一人の魔法使いの少女によって引き起こされた。人々は少女を憎み、傷付ける。だが、図らずも自らの手で多くの仲間を殺した少女もまた、心に深い傷を負っていた。少女と少女を励ます仲間たち、そして少女を恨む人々の想いが交錯し、新たなる悲しみがウィサンの街を埋め尽くす……。

まえがき

 まえがきと書いたが、小説の簡単な補足である。これまであらすじやキャラクター紹介にわざわざ1ページ使ったことはなかったが、今回はこうしてページを設けた。というのは、この小説はあまりにも読むのに多くの予備知識を必要とするからである。
 シリーズものは得てしてそうだ。1巻も2巻も読んでいないのに、いきなり3巻を読む人はまずいない。なので、わざわざ3巻で1巻と2巻の説明をする必要はないし、かえって邪魔になるのだが、この小説に関しては、その「1巻と2巻の説明」的なものを作ることにした。
 もちろん、「だから3巻からでも読めます」というわけではない。これから下に挙げる、「1巻と2巻」に該当する小説たちはすべて読んで欲しいと思う。詳しい説明を書くのは、「下はすべて読んだが、もう忘れてしまった」という人に思い出してもらうためである。
 ルヴェルファスト大陸の1作目、『セリシス・ユークラット』を書いてから、6年半も経っている。作者以外にすべての作品の内容を覚えている人はまずいまい。もしもいてくれたら大変嬉しく思う。そういう人は、すぐにブラウザの「戻る」ボタンを押して、本編に行っていただきたい。

 この小説は、主人公はウィサンの魔法使いユウィルだが、リアスの貴族セリシスの完結編という色が強い。もちろん、ユウィルの物語もこの小説で一区切りついているので、これはユウィルの小説群とセリシスの小説群の両方の最終話だと思ってもらえればよいだろう。
 以下に、作中の時間系列に従って作品を紹介する。それぞれの作中において重要な役割を果たしていても、今回の小説に登場しないキャラクターに関しては、ほとんど言及していない。


■ルヴェルファスト歴505年春 『少女たちの剣』 主人公/シティア 舞台/マグダレイナ

 ウィサンの王女シティア(15)が、歴史ある武術都市マグダレイナを訪れ、毎年開かれる剣術大会に身分を隠して参加する。決勝まで勝ち進んだが、決勝戦の最中に事件が起き、戦いは中止に。シティアは事件を起こした男と対峙し、これを片付けると、正体が知られるのを恐れてマグダレイナを後にした。
 大会は、決勝で戦っていた少女ライフェが優勝者となり、シティアは謎に包まれたまま準優勝者としてその名を残した。マグダレイナの第2王子フィアンは、この大会でシティアの兄エデラスと親交を深め、シティアのことも後日知ることになる。


■ルヴェルファスト歴506年春 『小さな魔法使い』 主人公/ユウィル 舞台/ウィサン

 魔法使いの少女ユウィル(13)は、マグダレイナから湖の街ウィサンに引っ越してきたばかりだった。そこでミリムという女の子と友達になるが、誤って魔法で少女に怪我を負わせてしまう。ユウィルはひどく落ち込んだが、タクトに声をかけられ、励まされて元気を取り戻した。
 タクトはウィサンの魔法研究所の所長だった。ユウィルは魔法研究所に入りたかったが、15に満たない者は研究員にはなれなかった。ところがこの後、ユウィルは湖岸で湖から現れた怪物を一人で倒し、ユウィルが危険なほど膨大な魔力を持っていると知ったタクトが、魔術師見習いという肩書きで研究所に来ないかとユウィルを誘う。こうしてユウィルは、若干13で研究員になった。


■ルヴェルファスト歴506年夏 『湖の街の王女様』 主人公/ユウィル 舞台/ウィサン

 6年前、ウィサンの王女シティアは魔法使いの刺客に襲われ、大怪我を負わされる。彼女の父ヴォラードは、魔法使いに対抗するために魔法研究所を設立し、所長として魔法王国ヴェルクからタクト・プロザイカを迎えた。ところが、シティアは事件のせいで魔法を嫌っており、研究所を建てた両親や兄も嫌いになってしまった。そして誰も信じなくなり、独りで剣の腕を磨いてウィサン一の剣士になった。同時に、誰からも愛されない王女になってしまった。
 ある日、狩りに出かけるシティアの護衛をしてほしいと、国王から研究所に依頼があり、タクトはユウィルを護衛につけた。ところがシティアはユウィルを嫌い、一時はこの少女を殺そうとまで考える。けれど、シティアは森の中でユウィルに助けられ、それをきっかけに二人は大の仲良しになった。またユウィルがシティアを助けた後、二人の前に6年前にシティアを襲った魔法使いが現われ、再びシティアは命を狙われる。この危機はタクトが救い、魔法使いは再び身をくらませた。


■ルヴェルファスト歴506年夏 『クレープ』 主人公/ユウィル 舞台/ウィサン

 ユウィルは本来は研究員になれない13という歳で研究所に入り、また王女とも仲が良かったために、他の魔法使いからひどく妬まれていた。いつものようにいじめられていたユウィルを、研究所の人気者であるシェラン(16)が慰める。ユウィルはシェランの言葉に自分を振り返り、シェランもユウィルに言われて、嫌っていた王女への考え方を改める。
 作品自体は起伏のないサイドストーリーだが、この『ウィサン、悪夢の日』の事件の発端に繋がる内容。


■ルヴェルファスト歴506年秋 『怨望の死闘』 主人公/シティア 舞台/エルクレンツ

 マグダレイナの剣術大会で出会ったフラウスという青年から、シティアに手紙が届く。6年前にシティアを襲った魔法使いの情報を教えると言うのだ。手紙に従いエルクレンツを訪れたシティアに、フラウスは修道院で働いていた魔法使いの少女リア(15)が盗賊団に捕まったので、これを助けて欲しいと言う。シティアを襲った魔法使いガルティスも、この盗賊団にいるのだ。
 盗賊の居城で、シティアは連れてきたユウィルと離れ離れになる。そしてガルティスと対峙してこれを討つと、ユウィルが助け出したリアがそれを見て逆上する。リアはガルティスの娘だったのだ。シティアはリアを殺そうとし、リアもシティアを恨んだが、ユウィルが止めて、シティアはフラウスやリアを置いてウィサンに帰った。
 後日、リアがフラウスの手紙を持ってウィサンを訪れる。盗賊の居城で辛い目に遭ったリアはエルクレンツを離れたがり、フラウスがウィサンの研究所を勧めたのだ。リアは父親のことをフラウスに聞かされ、シティアへの恨みを捨て、彼女の傷跡を消すために魔法を使う。シティアはユウィルに説得されたときからリアを恨んではおらず、傷跡を消してくれたリアに感謝した。こうして二人はわだかまりを捨て、リアは研究所の一員となった。


■ルヴェルファスト歴506年冬 『セリシス・ユークラット』 主人公/セリシス 舞台/リアス

 リアスは七家の貴族が治める街で、セリシス(16)はその貴族の娘だった。リアスの街壁の外にはスラムがあり、市民権のないスラムの人々は、リアスの街の中に入ることを許されていなかった。セリシスはこのスラムの子供たちと友達で、時々こっそり魔法を使って家を抜け出しては、子供たちのところに遊びに行った。セリシスは自分が魔法を使えることを、子供たちの他には誰にも話していなかった。
 その冬、セリシスは毎年のようにたくさんのプレゼントを持ってスラムを訪れた。ところがそれを知ったスラムの男たちがセリシスを捕まえて乱暴し、プレゼントをすべて奪い取ってしまった。セリシスは身も心も傷付けられたが、子供たちに会いに行く。そしてプレゼントがなくなってしまったことを打ち明けるが、子供たちは会いに来てくれただけで嬉しいと言ってセリシスを励ました。


☆ルヴェルファスト歴507年夏 『ウィサン、悪夢の日』 主人公/ユウィル 舞台/ウィサン

 魔法使いの少女ユウィル(14)が、後に『悪夢の日』と呼ばれる事件を起こす。詳しくは本編で。


■ルヴェルファスト歴507年夏 『リアス、雨中の争乱』 主人公/セリシス 舞台/リアス

 その夏、雨が降り続いたことで、リアスは農作物に大打撃を受けた。生活が苦しくなったスラムの人々は、ついにリアスの街に攻め入ることを決意する。そして子供たちに、セリシスを騙して街の中に潜入し、街門を開けるよう言う。子供たちは猛反発したが、結局は生活のためにその案に従うことにした。
 燃え上がる街を見て、自分が子供たちに裏切られたことを知ったセリシスは、ひどく傷付いた。けれど、最後には子供たちの気持ちを理解する。内乱は失敗に終わり、父親に裏切り者の烙印を押されたセリシスは、子供たちを伴ってリアスの街を後にした。


■ルヴェルファスト歴507年夏 『再び巡るその日に向かって』 主人公/セリシス 舞台/マグダレイナ

 リアスを出たセリシス(17)は、子供たちを連れてマグダレイナを訪れ、そこで第2王子フィアンと再会した。セリシスとフィアンは4年前に出会っており、フィアンはその時からセリシスのことが好きだった。フィアンはセリシスに求婚したが、セリシスは自分がもはや貴族ではないことを理由にそれを断った。フィアンは宛てのない旅に出るというセリシスにウィサンの魔法研究所を紹介し、ウィサンの王子エデラスに宛てた手紙を持たせた。
 一方で、セリシスは街で出会ったシィス(16)という少女と親しくなる。シィスはラウェナの商人の娘だったが、周囲の反対を押し切って薬師になり、両親から勘当された身だった。セリシスはしばらくシィスが薬師として店を出す手伝いをした。セリシスが旅立つ日、リアスから一緒だったクリス(14)がシィスのもとに残ると言い、セリシスはその意思を尊重した。シィスはクリスを歓迎し、二人で薬の店を開いた。


☆ルヴェルファスト歴507年夏 『ウィサン、悪夢の日』 主人公/ユウィル 舞台/ウィサン

 王女シティア(17)が、リア(16)を伴ってマグダレイナに旅立つ。詳しくは本編で。
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