(ふん。無防備な女だ)
カルレスは自分の部屋に戻ると、そこで1時間ほど時間を潰した。そしておもむろに立ち上がり、音を立てないよう静かに部屋を出た。
すでに夜も更け、外からも物音一つしない。
カルレスはそっとエルフィレムの部屋に入った。
窓からの月光に照らされたエルフィレムの寝顔は穏やかで、愛らしく微笑んでいた。
部屋に入ってすぐ、死んだように眠りについた彼女は布団もかけておらず、膨らみを帯びた胸が規則正しく上下に揺れていた。
(そういえば、妻に先立たれてからこれまで、女を抱いたことはなかったっけか)
カルレスはそんなことを妙に感慨深げに思いながら服を脱ぎ、彼女の足下で全裸になった。
(ふっ。俺も禁欲になっちまったもんだ)
心の中でカルレスは自分を嘲笑い、何かを吹っ切ったようにそっとエルフィレムの上に四つん這いになった。
彼女の顔が影に隠れた。よほど疲れていたのか、熟睡しているらしい。小さな鼻息が聞こえる。
カルレスは顔を沈め、彼女の頬を舐めた。二度三度と、頬が汚らしい唾液でべたべたになるまで舐めたが、彼女は少し顔を斜めに傾けただけで、目を覚ます気配はなかった。
「…………」
カルレスはふと舐めるのをやめ、エルフィレムの顔を見つめた。
彼女は見ず知らずの男に裸でのしかかられ、今にも汚されようとしているにも関わらず、幸せそうに微笑んで眠っていた。
(そいやあ、娘も生きていたら、丁度この娘くらいの歳になってるなぁ。あいつも、こんな可愛い娘になってたんだろうか……)
カルレスは悲しげに眉を歪めた。そしてしばらく何もせずに、そうしてエルフィレムの上に跨っていたが、やがて、
「くそっ!」
小さくそう毒突くと、再び表情を固くした。
まるで親の敵を前にしたような目で彼女を睨み、おもむろに右手を彼女のはだけた胸元に入れると、そのまま彼女の胸の隆起を五指で包み込んだ。弾力性に富んだ、いい感触が手から伝わってきて、カルレスの性欲をそそった。
彼は理性を失い、餌を前にした獣のように彼女の胸を強く揉みしだき、左手を彼女の太股に這わせた。
「んん……」
エルフィレムが小さく身をよじる。額にはうっすらと汗が滲んでいた。
カルレスは感極まって、彼女の服を左右に剥いだ。
日に焼けた、形の良い胸が露わになって、唐突に彼女が目を見開いた。
そして彼と目が合って、彼女は、絶叫した。
「いやあぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
エルフィレムは困惑しながら、本能のままに身をよじり、手足をバタつかせた。
「や、やめて! いやっ!」
「くっ! 大人しくしろ!」
カルレスの大きな手の平が、彼女の小さな口を塞ぐ。
しかし、大人しくしろと言われて大人しくするような義理は彼女にはなかった。
「やめてっ!」
右手で彼の手を払いのけ、彼女は半身を起こした。
「くそっ!」
カルレスは憤った形相で再び彼女をベッドに押しつけると、強引に彼女の胸に指を埋めた。
「い、いやっ! どうして! どうしてこんなひどいことするの!?」
彼女は泣きながら体をひねった。
しかし、大の男にがっちりと固められた体はまったく動かなかった。
「どうしてだと?」
息を荒立てて、カルレスが顔を近付けてくる。
「いやっ!」
エルフィレムは片手でその顔を押しやった。
「どうしてだと? 何をくだらんことを。男なら誰でもこうするさ」
「嘘よっ! 村の人たちはこんなことしなかった!」
「こんなことしなかった!?」
カルレスは泣いて訴えかけるエルフィレムを鼻で笑い飛ばし、彼女の股をまさぐった。
「い、いやぁっ!」
「そりゃあ、そいつらが人間じゃないんじゃねぇのか? 普通の男なら、若い娘を見たらこうしたくなるものさ」
知った口振りでそう言って、カルレスは下品に笑った。
その言葉に、エルフィレムは大きく目を見開いた。
(そうなの?)
「ん?」
急に大人しくなったエルフィレムを見て、カルレスが勝ち誇ったようにうすら笑った。
「ふん。とうとう諦めたのか……」
しかしそんな言葉も、彼女の耳には届かない。
(そうなんだ……。自分の欲のために人を殺して、女を犯す。それが、人間なんだ……)
彼女は呆然として唇を震わせた。
「ふっ。ではいただくとするか」
カルレスのその一言に、エルフィレムははっとなった。
気が付くと彼のごつごつした指が、自分の下腹部に突き入ろうとしていた。
「い、いやあぁぁっっ!」
エルフィレムは渾身の力を込めて、彼の身体を突き飛ばした。
「ぐっ!」
「うう……」
エルフィレムは泣きながらベッドから転がり落ちた。服は左右に大きく開き、上半身はすでに何も着けていない格好になっている。
「無駄だ。逃げられん」
カルレスがそう言いながら、再び彼女の細い身体を後ろから抱き締めた。
「うっ!」
彼女はあまりのおぞましさに、激しい吐き気を覚えた。
「いやっ! いやぁっ!」
狂ったように何度も何度もそう叫び、彼女は無意識の内に棚から短剣を取り出していた。
「無駄だ無駄だ」
カルレスは気付かない。彼は背後から彼女の首筋に唇を這わせ、胸を手の平で覆った。
「いやぁぁっ!」
エルフィレムは絶叫し、抜き放った短剣をがむしゃらに振り回した。
「ぐっ!」
それは彼の顔と手を傷つけ、彼は怒りに満ちた瞳を彼女に向けた。けれどそれ以上、彼は何もすることが出来なかった。
「な……なに……?」
胸部に走った焼け付くような熱い痛みに、彼は大きく目を見開いた。
彼女の持った短剣が、彼の心臓を貫いていた。
「えっ?」
彼女もまた、気が付いたように目を見開いた。
自分の指先が、生暖かいものに包まれていく。
「あ……ああ……」
彼女は愕然とし、慌てて短剣を引き抜いた。
「ごふっ!」
彼の口から血が溢れ、真っ赤な鮮血が彼の胸から吹き出して、彼女の身体を紅に染め上げた。
ゆっくりと彼の身体が彼女の方に崩れ落ちてきて……。
「いやあぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
再び彼女は絶叫した。
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